1.9.1 リリアーナ・フィロ・クロスロード
さっそく、ファール様に婚約の報告に行った。
「カトレアから聞いてはいたが、信じられんな。仕事よりも結婚を選ぶとは。予想外だ」
おめでとうではなく、真顔で信じられないと言われた。
「ファール様、ご安心を。もちろんクロスロードで領主代行をすることが結婚の契約に記されてます。10年後にはご期待通りの結果をお見せします」
ファール様に期待通りの答えを伝えてみた。
「そうか、やはりお主は仕事と結婚したのか。そうだと思った。結婚祝いに物はいるまい。クロスロードに行きたい者がいれば、何人か連れていってもいいぞ」
さすがだ、結婚祝いが仕事をする文官をプレゼントしてくれるとは。
私の喜ぶポイントがよくわかっている。
私はファール様の案にのり、部下として慕ってくれた数名に声をかけた。
特に私を慕って入った若い女性が数名クロスロード行きを希望してくれた。そして移動する女性との婚約ラッシュが相次ぎ、夫婦ともにクロスロードに移動となった。
婚約から1年後、いろいろな準備を経て私とアナベルは結婚した。
土地持ちの領主嫡男の結婚式は、割と派手な式だった。
高位貴族ばかりが集まった披露宴は緊張の塊だった。
実家からは父と母に伯爵を継いだ兄だけが呼ばれて参加していた。
他の親戚は式にも披露宴にも身分違いで入ることもできなかった。
それもあり、結婚後の挨拶として実家へ報告に行くことになっていた。
実家は王都にあったが、王城からは少し離れていたこともあり、私が文官になった時に家を出た。
私は長らく王城近くに用意された女性官僚専用の寮に入ったのだ。
それ以来、実家に戻ったことが無かった。
実家には帰りづらいわけがあり、私の結婚報告もなるべく後回しにしていた。
そのためアナベルと実家を訪れたのは結婚式も終わり、領地に帰る前日になってしまった。
この家の爵位は兄が継いだが、兄が結婚した相手は平民だった。
商人の娘だ。確かにきれいな人ではあった。
そして実家の商家が貴族との関係を望んでいたので兄の一目ぼれは、多額の持参金と国への寄付金を払うことで結婚が許可されてしまった。
平民が貴族になる条件は幾つかあるが、一番重要な条件は一定以上の総魔力量があることだ。特に領地を守る貴族は大きな魔道具を動かす必要があり、規定値以上の魔力が無ければ動かせない魔道具がある。
そして両親の総魔力量は子供に影響すると言われているので貴族全体の魔力量が下がらないよう平民が貴族へと組み込まれる時には総魔力量の下限が決められている。
かくいう私も文官の能力だけではない。私は学力S,身体能力B,魔力B,属性Cと伯爵家の子ではあるが、領地持ちの夫人になれる最低限の魔力は有していた。
他にも学園を卒業している必要もあるが、これらは商人であれば平民用の学校を出ているはずなので条件は満たされる。
座学の習得と総魔力量がクリアすれば婚姻によって平民が貴族と結婚することは可能だ。その前に形式上、後ろ盾となる貴族の養女となり、婚姻をするのだ。
兄の妻は、学力B,身体能力B,魔力C,属性Cなのでギリギリ条件を満たしていた。貴族の後見人、つまり養女先となる家は商会からの借金を棒引きする代わりにあっさりと子爵家の養女となったようだ。