1.8.3 リリアーナ・フィロ・アインスロット
私はアナベルではなく、残念ながらその父親に一目ぼれしてしまった。
見合いの相手と違う相手を好きになる。
それも妻も子もいる男だ。
この見合いは失敗だ。
そうと思ったが、アナベルの母親、つまりカインの妻と話をするうちに可能性が見えてきた。
アナベルの母と話をすると、アナベルが髪も目の色も父親ではなく自分に似たことを恥じていることがわかった。
母親のレオノーラは、元はアンセルミロード大侯爵家の娘だ。
父親は左目が金眼。親戚一同含め、ふたりの子どもには片眼のどちらかが金であることが期待されていた。
レオノーラの兄の嫁はちゃんと金眼を生んだのに、レオノーラが金眼無しの子供を生んだことで責めたてられたことがあったらしい。
この話を聞いて、私は母親に交渉を持ちかけた。
ファール様仕込みの交渉術を、こんな場所でそれもこんな内容に使うのはちょっと心苦しかったが、今が人生の賭けどころ。
私はレオノーラを全力で説得してみた。
息子であるアナベルとは結婚するが、最初の3年はアナベルとの行為の時は避妊をし、父親であるカインの子供を作る。
うまくいって私から金眼の子が生まれれば血がきちんと受け継がれていることがわかり、昔レオノーラを責めた人たちのことも見返せるのではないかと。
その話を聞いたときのレオノーラはとても喜んだ。
この世界では、血の濃いほうの子を生むことはよくあることだ。
なので、妻が父親と行為を持つことは特別なことではない。
父親が金眼で子がノーマルなケースでは相手側から交渉があってもおかしくない状況であった。
恐らく母のレオノーラも、自分からその話をするためにアナベルの髪や眼の色の話をしてきたのだろう。
レオノーラは、私からの話を聞くとすぐに父カインを裏に連れていき今の話をしたようだ。
父カインは一瞬不機嫌そうな表情をしたものの、私がにっこりとほほ笑むと照れたあと難しい目付きで息子を見ていた。
そして、後日この交渉は息子には内緒で合意された。
息子のアナベルが私を気に入っており交渉が成立しなければ息子の望みは叶わない。断る選択肢は無かった。
私たちはすぐに婚約し1年後に結婚した。