1.8.2 リリアーナ・フィロ・アインスロット
夜会にはよく出ていたが、結婚に興味が無かったのでダンスにはあまり参加せず、情報収集のための会話が主だった。
得られる情報と引き換えに、舐め回すように見られる視線が不快な時が多かった。
特に美容に気をつけてはいないがやたらに良いスタイルのせいだ。
そんな男からは早々に離れるのだが、それでも帰り際に求婚を受けたことも何度もあった。
受けた求婚は即座にメリルディーナ公爵に断ってもらっていた。
そのせいか、私をメリルディーナの妾と言う人もいたが、もちろんそのような事実は無い。
私は渋めのダンディな年上のおじさまが好きだった。
年上でもファール様はどちらかと言えば温和な優男。
渋くないので対象外だ。
私は、メリルディーナ公爵の妻であるカトレア様との仲は良かった。
そこで妾説の払拭のため、夜会ではカトレア様の隣で過ごすようになった。
それでいつの間にか妾説は否定できた。
ただカトレア様と一緒に居るとカトレア様のお友達の話が増える。同じ貴族でも女性目線での情報はかわる。最初は面白かったが長くいると男女の話になり、すぐに私の見合い話に変わるので面倒ではあった。
しかし、いつまでも結婚から遠ざかっているわけにもいかず、私が25歳の時に私を気にいったという侯爵家長男と見合いをすることになった。
もちろんカトレア様からの紹介だ。
相手は年下の22歳。
身長も高く、とにかくかっこよいらしい。
身分も高く、カトレア様の友達である奥様方の中では一番のお勧めらしい。
彼は領主の嫡男だが、現在は王都の軍隊に所属し領地経営よりは戦い方の勉強を優先しているらしい。
兵法では優秀だったが、領地経営はどうにも苦手らしい。
領主の嫡男は学園入学の前後で婚約者を決める。
だが彼が15歳の時に急に親が空いた領地の領主を引き継いだ。
遠い親せき筋で唯一の継承者だったそうだ。
だから婚約者を決める時を逸してしまったらしい。
慌てて探したが同世代の身分の高い女性はすべて相手が決まっていた。
それに、彼は15歳で急に領地持ちの侯爵になったので、それまでに政治学を勉強していなかった。
彼は、その後の騎士学校で武官として騎士隊の戦術学を学びながら引き続き政治学を学んだが、領地運営に関しては不安が残る結果だったそうだ。
結局、その分野での才能の開花は無かった。
そこで白羽の矢が立ったのが私を含む文官として働く政治学を学んだ女性たちらしい。
どうやらアナベルは年上を好むらしく、対象者の中では私がダントツに好みだったそうだ。
逆に私は年下の男には全く興味が無かった。
なので、見合いの当初は全く乗り気ではなかった。
ところが、人生とは予想通りに進まないものだ。
お見合いの当日、一目ぼれで恋に落ちた。
残念ながら見合いの相手だったアナベル・クロスロードではない。
私が気に入ったのは、父親のカイン・ゼム・クロスロード(42)だ。
彼は右眼が金眼でゼムのミドルネームを持つ武の優秀者だ。