1.1.2 プロローグ
結局ふたりで並んで歩きながら帰ることになった。
「ところで、こんなに遅くなったのは、アルバイトのせいなのかな」
「ええ。バイト言えばバイトなのかな。私、大学の友達にも内緒にしてるんですけど、アイドルをやってるんです」
いきなりすごい告白だったので私はちょっとおどろいた。
だがこの子の容姿を見て納得もした。
「大学ではいつもダテ眼鏡をして、マスクで隠しているから仲の良い友達以外は知らないんですよ。アイドルをしているってこと」
「へー、そうか。アイドルか。大学ではそれを隠して、数学でも優をとるぐらいにきちんと勉強。そしてこんな遅くまで仕事か。すごく頑張りやさんだね」
「え、あ。先生にそう言ってもらえると嬉しいです。いつもそういう風には言われなくて」
「そうか」
「先生は、どうしてこんなに遅かったんですか? 授業はもう終わりましたよね。大学は春休みだし」
「やっと時間が空いたからね、ためていた論文を書いてたんだよ」
「へー、先生って、やっぱりまじめなんですね」
「まあね。よく言われるよ。皆からは言われる言葉は必ず頭に馬鹿がついてるけどね」
「あはは、先生はいつも真剣に聞いてくれて、一人一人ちゃんと答えてくれるから女子がたくさん質問に行きますからね。人気ありますよ」
「は? 人気?」
「先生はもてますよね?」
「はぁ? いやもてない、もてない。人生ずっと彼女なしだから。ははは」
「え、嘘。ホントに彼女さんいないんですか?」
「ああ、いないいない。たまに彼女って間違えられたのも従妹だしね」
「従妹さん?」
「そういえば、夏に従妹に会ったときにあいつもアイドル始めたみたいなことを言ってたな」
「そうなんですか。写真あります?」
「あるけど、スマホの写真は古いよ」
そういって、スマホの写真を見せる。
「あ、この子リリーだ。私と同じグループの子ですよ」
「え、そうなの、リリーって名前で活動してるのか。じゃあせっかくだから今度ふたりを見に行こうかな」
「ぜひ。リリーも喜びますよきっと」
「そうかな……」
会話の途中で後方から急に車の爆音が聞こえた。
後ろを振り返り見ると、車がものすごい勢いでこちらに向かって走ってきていた。
車は躊躇なく一直線にこちらに来る。逆にスピードが上がっているようだ。
車がぶつかる直前に車を運転している男の顔が街灯に照らし出された。
私は少女を思い切り突き飛ばし車との接触を避けさせた。
だが私はそのまま勢いよく車に弾き飛ばされた。
数メートルは吹き飛ばされた。体が動かない。
全身が痛い。だがまだ生きている。
道路に横たわったまま、唯一動く首を持ち上げ車を確認した。
車は少し進んだ所で急停止した。
と思ったが、信じられないことにそのまま躊躇なくバックしてきて車が体の上を移動した。
意識がボーとした。
その後もなにか体がぐちゃりとした感じ、音が聞こえた気がする。
体は痛みがありすぎると痛覚が麻痺するようだ。
だがぐちゃぐちゃと体の一部がつぶれていくのがわかった。
そして何回目かわからないがそのまま意識が無くなった。