3.5.6 アメリの婚約
婚約話はトントン拍子で進んでいった。
レイブリングさんは偽装のために右手にグローブをはめて、右足は大きめの鉄の靴を履いて王都に出かけていった。
重みで引きずっているので、怪我をしているようにも見える。
そして、シーズ先生から朗報があった。
催眠療法をやっている先生がいると教えてくれた。
治療院を開いている会報誌に催眠療法を行う女性医師の記事が掲載されていたらしい。
王都に行った時に先生の所へ行ってきた。
結果的には先生は転生者だった。
王都で治療をしている先生はレオナ・ミルドレイク。
なんと女医だ。
彼女は、メリーナの加護中を持つ転生者だった。
特別な精神系魔法スキル催眠魔法と診断のスキルを持っていた。
回復魔法も使えるがあまりレベルが高くなかった。
催眠魔法
攻撃:作り事を覚えさせる。先の防御魔法の使用が前提
防御:都合の悪い情報を思い出さないようにする
生活:眠らせる、情報の引き出し
貴族は医者を呼びつけるので、治療院は大きくない。
我々のような地方貴族は、宿泊所に呼ぶのが一般的だ。
「では、そろそろ催眠魔法を使って治療を始めます。
お付の方まで魔法にかかるといけませんので、外に出てくださいとは言えませんね。
ここに仕切のカーテンを引きますので、そちら側で待っていてください。
絶対に覗いてはいけませんよ。
治療対象者以外に催眠効果が出るとどのような影響があるかわかりませんから」
十分に注意を申し付けられ、僕とレイブリングさんはカーテンの外で待つことにした。
魔法のレベルも高かったので、見るだけで影響を受ける可能性があるのだろう。
相当に強い魔法のようだ。
先生は、アメリの過去の情報を引き出し、原因を特定しその情報を二度と思い出さないように記憶の封印を行う。
そして苦手なものを別のものに置き換えるようだ。
どうやら、苦手なものを全てなくすことはできないらしく、この場合若い男性を例えば蛇や蛙に変更することで一般生活への影響を無くすそうだ。
「領地は田舎なので、蛇や蛙は道端に沢山います。
それだと道を歩けなくなります」
「アメリ様、めったに見ない物で何か思い浮かぶ物がありませんか。見たことがある物でなければ記憶の変更ができません」
「では、熊はどうでしょうか。熊なら図鑑で見たことがあります」
「アメリ姉様、熊はミキシニア領のシンボルです」
「あ、そうか、3公爵家と14侯爵家は外しましょう。
あ、そうだ。ゴブリンジェネラルにしましょう。
先日の戦いで見ました。
覚えてます。普通のゴブリンでも良いのですが」
「わかりました。特に怖い物をゴブリンの上位種、怖い物をゴブリンとしましょう」
「それならば大丈夫だろう」
「では、治療を始めます。
あなたは、ゴブリンが怖い。
若い男性は怖くありません。
特に怖いのはゴブリンの上位種です。
大きくて、とても怖い顔です。
若い男性は苦手とする部分があるかもしれません。
でも怖くありません」
「私は、ゴブリンが怖い。若い男性は怖くない。怖い顔の大きなゴブリンが特に怖い」
「では、手を叩くと普通に戻ります。
ですがここでの治療はその後もずっと有効です。ずっと続きます。良いですね」
「はい、治療はずっと有効。手を叩くと普通に戻る」
パン
手を叩く音がする。
カーテンが開き女医から治療が終わったと告げられた。
「先生、ありがとうございます」
「一度の治療で治らないことが多いのです。
心理的な負担がまだ残るはず。
何度か訪れてください」
「はい、では次に来るときは醤油と米を持ってきます。
「期待してます。
はあ、米に醤油。
できればクロスロードに移りたいですね」
「シーズ先生が引退するらしいので治療院が空くらしいですよ。
移動可能だと思いますよ」
「え、ホントですか。
ちょっと真剣に考えようかな」