3.4.3 領地への帰還
レイブリング・クリュシュナーダ伯爵が到着した。
「先の戦いにて剣を握れぬようになってしまいました。
リリアーナ様との約束がありましたが、ジルベール殿の活躍も聞き、私の役割も無いかと。
今は、引退を考えております。
アメリ様から体が治るまで滞在するように勧められました、ご厚意に甘えさせていただければと思っております」
「剣王エイミー・ブラウニング。
ジルベール様に助けていただいたこの命、今後はジルベール様の役に立てる所存、よろしくお願いします」
2人が全く別の理由でリリアーナ母様に挨拶をしていた。
「剣王エイミーね。
手紙で内容は聞いているわ、契約書も準備できているから確認して大丈夫ならサインをして頂戴。
ジルベール、内容の確認に付き合いなさい」
「はい、ではエイミーはこっちに」
「え、サインでしょ。ちょちょいとするよ」
「いや、ダメでしょそれ、ダメ人間だよ。
契約書はしっかりと読んで確認。それからサイン」
「え、そう?」
「はい、繰り返して。
契約書はしっかりと読んで確認。それからサイン」
「契約書は読んで確認。それから…」
「契約書はしっかりと読んで確認。それからサイン」
「うん、契約書はしっかりと読んで確認。それからサイン」
「さあ、こちらへ」
契約内容は、トシアキの給与の2倍になっている。
近衛と比べても安いだろうし、護衛の時間も長い。
その代わり、領主館の1室に部屋が与えられる。
僕の部屋の両隣はバーニィとトシアキがいるので、エイミーはリリアーナ母様の隣になった。
その辺の位置関係も含めてきちんと説明をした。
「部屋はジルちゃんと一緒でも良いのに」
「だめです」
後ろからトシアキが注意した。
「僕、荷物少ないしさ、大丈夫だよ?」
「エイミー様は実家からドレスが大量に送られてきています。
部屋に入りきらないぐらいあります」
「えー、嘘。なんで」
「こちらから、きっちりと連絡済みです」
「そうなの?」
「王都にいる間に男が落とせなかったのだから、こっちでは頑張れと。
王都で流行っているドレスを着て歩けば、田舎ならすぐに男が釣れるだろうと」
「ははは、そんなの無理無理。だってドレスなんて着ないし」
「リリアーナ様から、夕食はドレスで参加するように言われています」
「えー」
「だから、契約書はちゃんと読まないと、書いてあるでしょここに」
「え、まさか」
「ほら、領主館で食事をする場合、夜はドレスにて着席する。
ただし、朝と昼は除外する。
また、公式行事に参加する場合、騎士服ではなくドレス着用で参加すること」
「うそー」
「リリアーナ母様を甘く見てはだめですよ。
エイミーの実家とはかなりの交渉が済んでるんだと思うよ」
「さすがファール様の妾と呼ばれるだけのことが」
「そこは、かつて片腕と呼ばれたって言わないと、怖いよ」
「怖いの?
リリアーナ様」
「かなり」
「どのくらい?」
「怒られている時じゃなくて、終わった後でとっても後悔することになる感じ」
「うわー、やば」
「まあ、そういうことで諦めて令嬢の訓練もしようね。
僕がパーティに行く時があれば、横に立たないといけないこともあるだろうし」
「そうなの?」
「まあ、可能性的にはあり得るかな」
「ありますね。私よりははるかに高い確率で」
「そりゃそうだろ、男と比べないでよ」
「ちゃんとわかっているのなら、訓練だとおもって諦めてください」
「はーい」