3.4.2 領地への帰還
「ただいま帰りました」
「良く帰ったわ、ジルベール。
アメリはどうしたの」
「先に手紙が届いてませんか」
「届いているわよ、だからどういうことなのと聞いてるのよ」
「平民たちの足だと遅いので、後で帰ってくるそうですよ。
危険は無いだろうからって、護衛は剣王のエイミーと女性騎士が付いてくれるそうです」
「そっちじゃないわ。
なぜクリュシュナーダ伯も一緒なのかということよ」
「え、そうなんですか?
僕、知りませんよ。
てっきり、ヤンロードで入院するのかと思ってました。
姉様と一緒なんですか」
「そうよ、そう書いてあるわ」
「クリュシュナーダ伯は、僕らの親戚にもなるのですよね」
「ええ、一応は継承権が貴方の次ね」
「では、怪我をした静養の地にここに来るのはおかしくないような」
「静養に来るのはおかしくないわ。
それなら、一緒に付き添うのは貴方ではなくて。
アメリは養女なのよ」
「あ、そう言えば。
血のつながりがあるのは僕の方」
「血のつながりが無い、結婚可能な男女を二人でおいて来たってことよ」
「ほう、なるほど」
「それに、侍女からの手紙にも不穏なことが書いてあるわ」
「不穏?」
「男女の仲に発展している可能性があると書いてあるのよ」
「ああ、確かにそんな雰囲気もありましたね」
「ありましたねって」
「でも、年が親子ほども離れているのに、エイミーもガキだと言われてるって言ってましたよ。
確かに鼻の下を伸ばしたニヤケ顔するって言ってましたけど。
大丈夫でしょう」
「はあ、もしあの子が私に似ていたら、ファザコンよ」
「は?」
「年上が好みなの」
「え、そうなんですか。リリアーナ母様も?」
「そうよ、アメリが私に似ていれば、若い男じゃなくて、40代の渋いのが好みのはずよ」
「じゃあ、クリュシュナーダ伯は」
「恋愛対象よ。アメリにとっては一番の」
「じゃあ、クリュシュナーダ伯の鼻の下が伸びてたってのは」
「まあ、そういう感じの接触から情がわいてきて、そのうち恋愛感情に発展する可能性があるわ」
「では、特に体が悪い今は」
「しっかりとアメリに看病されて、落とされた可能性が高いわ」
「あ、そういえばアメリ姉様に平民の魔力が無い人間の治療を断られたけど、魔力のあるクリュシュナーダ伯を治療するように言われなかった」
「治療したら、ここに来る用が無くなるでしょう」
「策略家ですね。アメリ姉様」
「貴方が心配になるわ。ほんとに」
「あはは、男ってバカですね」
「ほんとに。さあ、アメリの手のひらで転がされた男をどうするか検討しなきゃ。
到着したら回復魔法で動けるようにできるのでしょう?」
「すみません、なんとなく見ちゃいけない雰囲気があったので、クリュシュナーダ伯へは診断もしてません。
でも、回復魔法のレベルは8まであがったので、ちょっとした欠損でも治せます」
「手のひらに穴が空いているのと、右足の指の辺りが全損らしいわ」
「それなら大丈夫だと思いますよ」
「わかったわ、じゃあ動けるようになる前提で準備をしましょう。
でも私が許可するまで回復魔法で治したらダメよ」
「はい。
つまり、到着するまではアメリ姉様の手のひらで転がされ、到着したらリリアーナ母様が転がすわけですね」
「そこまで正直に言うのではありません」
「はい」
先に言ったのは母様なのに、怒られたよ。