3.1.1 竜の襲撃準備
9歳の夏
領地に緊急連絡が飛び交った。
緊急の応援派兵の要請だ。
マーリンワードに竜が出たらしい。
人里離れた場所に海側から上陸し、北上している。
放置すればヤンロードを通り抜けクロスロードへ到達する。
そういうルートで進んでいる。
クロスロードの領内にお触れが出され緊急招集が始まる。
今回組まれる領主軍は、なんとアメリ姉様が責任者となっているそうだ。
「アメリ姉様がなんで」
「今回の派兵は王命ですから成人済みの領主一族は誰か行かなければならないのです。
リリアーナ母様は出せません。
わたくしも領主候補として教育は一通り受けています。
後方支援の指示はできるのですよ」
「では、僕も」
「もちろんです。あなたは空間魔法の使い手。
急いで移動する必要がありますから、既に荷物運びの要員に入っています。
戦場では一緒に後方で待機です。
ジルちゃんは、わたくしを守ってくれるでしょう」
「え、はい、もちろんです」
3日で準備を済ませ、僕らはクロスロードの領主軍として移動を開始した。
領主軍は、領内の戦える貴族がおよそ100名集まった。
領主代行としてアメリ姉様が行くが、あくまでも代行。
さすがに現場を回すことは不可能だろうと、エインズワース伯爵が付いている。
そして、常備の平民の兵士は半分を残して組み入れ、斥候要員として平民を集い全部で300名になった。
その準備の間に転移門を使って2日で200名を移動させことができる魔力を用意してあると連絡してある。
僕らが移動して、途中のヤンロードの転移門があるところに向かうことになっている。
僕らは順調に移動を行い4日かけてヤンロードに到着した。
王都からは、この数日の間に王宮魔導師が転移門を稼働させていたので20名ほどが待機していた。
全体の隊長が、レイブリング・クリュシュナーダ伯爵。
将軍の地位にあり、今回の討伐隊を指揮する人だ。
到着と同時に、アメリ姉様が挨拶を受けた。
僕は、アメリ姉様の後ろに立っていた。
「レイブリング・クリュシュナーダです。このたびのクロスロードからの派兵に感謝します」
「アメリ・フィロ・クロスロードです。
こちらがアナベル様の忘れ形見、ジルベール・クロスロード」
「ジルベールです。
よろしくお願いします」
「ああ、君がそうか。
君の母であるリリアーナ様に私が戦う姿を見せると約束していたが、竜の討伐は危険だ。
君たちは後方支援として後ろに待機となる。
地形に恵まれない限り今回の討伐は直接見せることができないだろう。
だが、せっかくの良い機会だ。
討伐の途中で余裕があれば訓練を一緒にどうだろうか」
「ありがたい申し出です。
ジルベール、良かったわね」
「はい」
「では、転移門を起動できる魔力の用意があるということだったが、さっそくだが頼めるだろうか。
そちらの魔導師殿が用意した魔石を使うのかね」
魔石?
そうか、実験は人でやったけど魔石から魔力を供給することも可能だったのか。
「はあ、ジルベール様が空間魔法を使えますから一緒に行きます。
やり方は、クロスロードで研究した秘密事項ですので、作業は隠させてもらいます」
「ああ、わかった。
魔石を使うにしてもとんでもない魔力量だ。
なにか秘密があることは理解している。
では、頼む」