1.1.1 プロローグ
今日も最終電車にギリギリ。あわてて電車に乗りこむ。
そして順調に駅に到着。
疲れてはいたが寝すごすことなく駅で降りることができた。
駅を出ると週末の夜だからかタクシー待ちの行列が見える。
自分の家はここから歩いて30分の距離。
これが1日の唯一の運動なので歩いて帰ろうとタクシーの列の横を通り過ぎようとした。
その時、タクシー待ちの列の後ろにいる女の子から声をかけられた。
「先生!」
その子は手を振って私を呼んでいるようだ。
はて誰だ?
私のことを先生と呼ぶからにはあの子は生徒なのだろう。
近づいてよく顔を見ると、思い出した。
確かに教室で見た女子だった。
一度部屋に質問にも来た。
その時はもう少し大人しめの顔だったと記憶していたが、はっきりとしたメイクをした美少女の姿。
きっと大学ではひかえめの化粧をしているのだろう。
「えっと、1年生だったかな」
少女は静かにうなずく。
「はい、先日までの基礎コースの数学を。優を貰ったばかりです」
「そうか、がんばったね。これからタクシーで帰るところかな。まだ暫くは待ち時間がありそうだね」
「そうなんですよ。先生は今から自宅ですか。ご一緒しますか? どこまでですか?」
なんだろう、やけに積極的だな。もっと大人しい子だったような印象だったが。
「いや、通勤ぐらいが運動だからね。これから30分ほどかけて歩いて帰るところだよ」
「あ、そうなんですか。私も歩けば20分で着くので本当は歩いて帰ったほうが早く帰れるのですが、1人で歩くと危ないので」
「そうだね。女性の夜の一人歩きは危ないからね。20分か、家はどの辺りなの?」
「○○町の辺りです」
「ああ、私の家の途中だね」
「え、じゃあ先生一緒に帰ってもらえませんか」
私は女の子のお願いを断るのが下手な性格だった。
一緒に住んでいた妹や従妹に頼まれて断れたことがない。
屈託の無い笑顔でそう頼まれるとどうしても断れないのだ。
「うーん、3月とはいえ、まだ寒いしこれではあと1時間は待ちそうだね。
このままこんなところに立っていては風邪をひくかも知れないし、家まで送ろうか」
「やった!」
元気な返事をして私の隣に来た。