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妖精郷の迷い仔  作者: ながみゆきと
真珠の家《マルゴット》編
1/35

第0話 プロローグ

 空に、穴があいていた。

穴から、この世ならざる巨大な何かが落ちてこようとしている。

 巨大な何か――それはこの世とは別の、妖精郷と呼ばれる世界、丸ごと一つ。

 空を見上げ、それ(・・)を認識した者達は、世界が終わる、と感じた。

 実際には一都市――ロンドンが壊滅する程度だったが、住民にとっては同じ事である。

 一人の青年が、穴のあいた空を青ざめた顔で(にら)んでいる。彼を囲む人々も不安げな顔で、皆、世界の終わりに恐怖していた。だが彼は、精一杯虚勢を張って、空を(にら)んだ。そうしなければ、心が絶望に飲み込まれる。そうなれば、彼を頼っている数十人の子ども達は寄る辺を失う。恐怖と重圧で吐きそうになるのを、彼は必死に堪えていた。

「来ますよ」

 仲間が彼の肩に手を置いた。励ましているようだが、その手は震えている。

 空の穴から、無数の花びらのようなものが舞い落ちてくる。遠目にはよく見えないが、向こう側の世界の住人――妖精の大軍勢である事は分かっていた。

 妖精。邪気無く、悪戯心で人の世を惑わす、異界の生き物。本来統一された意志を持たない妖精達が、一糸乱れぬ隊列を組み、人の世を押し潰さんと行軍する。それはこの世ならざる世界に通じる彼ら魔術師にとっても、有り得ない光景であった。

 頼りとなる高位の魔術師達は、妖精の襲撃によってほとんどが昏睡状態である。

師である老魔女も、既にこの世にいない。姉弟子も行方をくらませたまま。

 ――やるしかない。僕がやるしか。

 青年は今にも気絶しそうになるのをこらえて、唇を噛んだ。口の中に血の味が広がる。両足で大地を踏みしめ、拳を握る。掌に爪が突き刺さる。

 周囲の子供達が不安そうな顔を向ける。自分の眉間に深い皺が寄っているのに気づき、彼は息を吐いた。全身の緊張をほぐすように、軽くステップしながら、振り向く。

「大丈夫」

 彼は春風のような笑顔を浮かべた。

「僕は勝てない勝負はしない主義なんだ」

 物語は、空に穴が開く数年前に遡る。

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