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村から出て

あれから数日が経過した


村の人たちは余所者の私たちにも優しくしてくれた


暖かい食事と寝床ですっかり体力も回復した


もうこの村を出ていく時期が来た


私たちはずっと相談をしていた


この村を通報するのかしないのか


この村に来たばかりなら絶対に通報していたと思う


けれどみんな通報なんかできないと言った


こんなに優しい人たちを優しい場所を壊したくないって


私もそうだと思った


この村はこのままで


この安息の地は残しておくべきだと全員が思っていた


「そろそろ準備はできた?」


リーダーの彼がそう伝えに来た


私は大丈夫だと伝えた


「じゃあ麓まで送るよ」


彼は瞳を隠すかのように目深に帽子を被り私たちを促した






何も無い雪道を淡々と歩く


道標もないのに彼は迷う様子もなく前を見つめて歩いていく


ぽつぽつと彼は言葉を紡いでいた





この道は自分たちしか覚えていないからもう一度来るのはやめておいた方がいい


迷子になっていても確実に見つけられる保証はないから


多くの人を使ってこの山を荒らすのもできればやめて欲しい


また移動しなければいけないから


前に言ったように、できれば僕達のことは忘れて欲しい


それがきっと君たちのためだから






彼の忠告を聞きながら長い長い時間を歩いた


目の前が少しずつ明るくなってきた


次第に吹雪が止んでくる


雪道だった場所が岩と土の道へと変わっていく


ぽつぽつと人影が見えてくる


戻ってきたんだ私たちの日常に


「ここまで来たらもう大丈夫でしょ?」


人がいる


家が見える


反逆者は風当たりが厳しいのにここまで送ってくれたのか


「ありがとう」


私の口からはそう言葉がこぼれ落ちていた


本心からの言葉だった


その言葉を聞いた彼の口が小さく弧を描いた


「じゃあね。また出会わないことを祈っているよ」


そうして彼はまた雪の中へと消えていった








あの村はこれからも続いていくのだろう


世間から外れてしまった彼らのために


世間から外れてしまう人々を守るために


私は彼らの手助けなんかできないけれど


彼らのような人たちに少しだけ優しくしようと思えた


きっと態度はほとんど変えれないだろう


周りの目が気になってしまうから


でも少しだけほんの少しだけでいい


彼らのような人たちの苦しみを和らげることができたらいいなと思ったのだ


例えば詰め寄られているところに行って少し相手の気を逸らして逃げる時間を作ってみたり


困っている彼らのような人たちにあの村のことを噂として伝えてみたり


自分たちから彼らのような人たちに突っかからないようにしてみたり


そんなちっぽけなことしか私たちにはできないけれど


それがあの村に行った私たちができる唯一のことだと思うから



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