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09、思わぬところで




       ○




「どうも油断がならねえヤツでしたね、あの鳥女は」


「鳥女って……カラスマのことか?」


 確かに、空飛ぶ鳥みたく俊敏で、洞穴の中でも目がきいてたな。

 まるで、そう……フクロウみたいに。


「そういえば……」


 ふと、思い出す。


 初めてドゥーエに来て、西区に行って。そんでもって、踊る子豚亭に言った時。

 僕って、はじめ誰にも相手にされなかったよな。


 法術士というと、社会的なアレは高めっぽいけど。

 冒険者からすると、いくらなんでもレベル1程度のやつじゃね。


 さすが冒険者の街だけあって、僕以上に多芸で経験豊富な法術士は大勢いた。


 いわゆる法術士崩れってやつで、剣士なのに治癒法術が使える奴。

 法術とか違うけど、独自の医療技術があるとか、薬学に秀でてるとか。

 あと、魔法使いで治癒の魔法が使えるってのもいるな。


 魔法使いは法術士とは違って、社会的地位はそう高くない。

 魔法は文字通り『魔』に通じる術として嫌う人も多いんだ。


 というか、法術みたいにその原理とか、仕組みが公になってるわけじゃない。

 それをせず、それぞれが独自の魔法を研究してることが多い。


 また性質もそれぞれで占い師だったり、学者だったり色々。

 だから、余計にわけのわからんものと認知されやすいんだろう。


 冒険者になろうなんてのは、炎を飛ばしたり、風を起こしたりと、いわゆるゲームみたいな魔法の得意な連中らしい。

 当然、パーティーにいたチェスタはそういうタイプ。


 ま、それはさておき……。


 相手にされない僕が入れてもらったのはウィンをリーダーとするへっぽこパーティーだったのだけど? 

 そういや、三人の中でカラスマは一人異様な雰囲気だった気がするな。


 他の二人が『普通人』って感じなのに、カラスマは、


「全部なんでも一人でできるんじゃないかな?」


 って、妙な万能感を匂わせる凄みがあった。


「あの鳥女も、多分あっしと似たようなもんですね」


 考えている僕に、サブが変なことを言った。


「似たようなもんって……」


「多分、本性は鳥のたぐいでしょうよ」


「あああ……」


 僕はサブがタヌキであることを思い出して、納得する。


と、すると。


 サブみたいな獣人というか、変身できる魔獣というか、そういうものがこの世界にはわりといる……と考えるべきなのかなあ?

 まあ、確かに人間でないとすればあの凄みも理解できるけど。


 考えてみれば、あのパーティーにしたってパッとしない剣士と魔法使い、レベル1の法術士である僕、でけっこうバランスは取れていたのかもしれない。

 そういう意味じゃ、カラスマの存在こそが場違いというか、ネズミの中に虎が混じっているような状態だったのかも。


 てなことを考えながら歩いていると、


「ちょっと、そこのあなた」


 いきなり女性の声。

 振り返ると、見廻り方とおぼしき服装の女の子が僕らを見ている。


 一見地味目だけど、ちゃんと見れば凛とした可愛らしいだった。


「……見たところ、法術士みたい。失礼ですけど、どちらにお住まいで?」


 少しブツブツ言った後、何かを探るような目つきで見廻り方の女の子は言った。

 前世の感覚で言うと、若くて可愛い婦人警官に職務質問されたようなもんだろうか。


「ええと……」


「浮き舟屋ってとこに厄介になる予定だけどよ」


 返事に迷っていた僕を押しのけるみたいに、サブが言った。


「浮き舟屋?」


 その名前を聞くなり、見廻り方は不審そうな目つきになる。


「そうですか……。じゃ、そちらまでお送りしましょう。最近物騒ですからね」


「へ?!」


 これに僕は驚いてしまう。

 何か誤解されているというか、変なことになってないか?


「そりゃ余計なお世話だい。あっしがいる限り旦那には毛ほどのケガだってさせるもんじゃあねえや。邪魔だ、邪魔だ」


 と、サブは見廻り方を追い払おうとする。


 ダメだ、こりゃ。


 タヌキだから、見廻り方がどういうもんかわかってないんだわ。



 結局。


 僕らは浮き舟屋まで連れていかれてしまった。


 サブがブーブー言っていたが、下手に逆らって面倒事は嫌だ。

 どうにか、なだめながら浮き舟屋まで到着。


 浮き舟屋につくなり、カエルメイドが顔を見せて開口一番、


「あれま? 見廻り方のお嬢さんでねえか?」


「その、お嬢さんはやめてください」


 見廻り方はハァと嘆息して、


「スー・イラムってちゃんとした名前があるんですから」


 そう名乗った。


「イラム?」


 僕は思わず、見廻り方の顔を見た。

 イラムというのは、僕の故郷の土地の名前でもある。


 そこは、イラム家という郷士が領主として治めている場所なのだが……。


 あれ。そういえば、このにもどことなーく記憶にあるような。


「イラムって、ひょっとして、あのイラム家のかたで?」


 僕が尋ねると、


「はあっ? なんで……」


 見廻り方は不思議そうな顔をしていたが、


「あっ! ひょっして、ニツカミクの……!?」


 ……何か、変なことになった気がするな。


 まさか、こんなところで地元の領主令嬢と会うなんて……。


 確か、この人はイラム家の末娘で名前は確か――


「スーお嬢様、でしたっけ?」


「そういう君は、ニツカミクのナムジくんだっけ? 何してんの、こんなとこで」


「いや、何をしてると言われましても……」


 僕からすると、彼女がドゥーエで見廻り方なんかしてる理由がよくわからない。


 てっきり地元でお嬢様してると思ったのだけどなー。


「なんだい、知り合いかい?」


 カエルメイドはその大きな瞳をさらに大きくして言う。


「まあ、確かにそうなんだけど……」


 僕は一人苦笑するばかりだった。





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