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06、一休み後




       ○




「おおう。さすがに、法術士様だね。何か肩が楽になったような感じだぁ」


「そら、よかったね……」


 カエルメイドは首をコキコキ鳴らして満足そうだが、僕はひどく疲れていた。

 彼女にかけたのは、何てことのない初期法術だ。


 だけど、言わばレベル1の僕にとっては、それだけでかなりの消耗を伴う。

 一日で使えるのはせいぜい二~三度である。


 全力でも五回が限界だろう。

 もしも一気に連続使用したら、ぶっ倒れてこっちが治癒法術の世話になるかも。


 動物相手に使った時は、何てことなかったのに……。

 この差はいったい何なんだろう。


 やっぱ、これが才能とか資質とかいうものなんだろうか。


「あの、大丈夫ですか? お顔の色が……」


 案の定、ミヤガさんが心配そうな顔になっている。


「い、いや。大丈夫ですよ。少し休めば」


 僕はできるだけ気を張りながら、笑顔で応える。


「さようですか……? 何かあったらご遠慮なく言ってくださいね?」


「じゃ、お客人。ごゆっくり」


 メイドさんたちが去った後、僕はため息をついてベッドに横になった。


「ともかく……これで確信は持てたわけだけど」


 自分の手のひらを見つめながら、僕はつぶやく。

 僕の法力は、動物相手……いや、人外にはチートレベルで効くらしい。


 でも、これってどうなんだろうな。

 取り柄ができたのはうれしいけど……。


 まさか、その辺の動物に片っ端から治癒法術をかけるわけにもいかないし。

 しばし悩んだ後、僕はサブのほうに目をやった。


 サブが僕と入れ替わるように、テーブルの椅子に腰かけている。

 そういえば、こいつもわけのわからん人外娘なんだよな……。


「なあ、そういえばお前はどうしてあんなケガしてたんだ?」


「それがバカらしい話でね」


 サブはひょいっと僕のほうを向くと、


「穴ぐらを進む途中で、大ムカデとやり合う羽目になりやしてね。おかげであんなザマでさ。いや、お恥ずかしいことで……」


 赤面するサブだけど……。


 大ムカデ?


 大型の虫モンスターってのは聞いたことがあるが、ムカデってのはあまり聞いたことがないけどなあ。

 でも、地下にはそんな気色の悪いモンスターもいるのかもしれない。


 僕は人間サイズの巨大ムカデを想像しながら、身震いするのだった。

 さっさとあの洞窟を脱出して正解だったかも。


 ああ、そういえば僕の扱いがどうなっているかわからないから、


「後で西区のほうにもいかないとなあ……」


 思わず、思っていたことが口からもれた。


「何ぞご用事でも?」


「まあね。あの洞窟でパーティーとはぐれたきりだし。色々確認しないと。それに預けといた荷物も取りに行かないと……」


「何だ。それなら、あっしがひとっ走り行ってきやしょうか?」


 簡単に言ってくれるサブだが。


「お前は、西区のほう行ったことあるのか?」


 僕はジト目で尋ねる。


「ないですけど」


「じゃ、ダメだよ」


 けっこう治安の良くないところだし……。

 物を知らない田舎娘がウロウロしていいとこじゃない。


 まあ、そういう僕自身が物を知らない田舎のガキではあるんだけど。

 何となく槌杖を取り出しながら、故郷にいた頃を思い出す。


 あの頃は、一向に上がらないレベルをどうにか補強しようと色々やったっけ。

 走り込みとか、筋トレとか。


 法術の基本をけっこうしっかりやってみたりもした。

 結果は全然振るわなかったけど。


 元々法術士なんて、僧侶とか神官に近いものだから、武術とか馬術……そんなものはあまり重要視されない。

 まあ、馬は基本的な移動手段だから普通に乗れるけどさ。


 こうやって、一応自分の取り柄は発見できたわけだけど、今ひとつ故郷に帰りたいっていう気持ちはわかないな。

 多分このサブを連れて行かなきゃいけないし。


 国じゃ、ほとんど兄貴たちのパシリだったし。



 そんなこんなで。



 しばらく横になっていると、コンコンとドアがノックされた。

 僕が動く前にサブのやつがひょいと動き、ドアを開ける。


 すると、さっきのカエルメイドとミヤガさんが食事の用意を持って入ってきた。

 食事と言っても、おやつに毛が生えたようなごく簡単な軽食だ。


「ささ、簡単なもんだけど、どンぞ」


「美味しくって、疲れが取れますよ。どうぞ」


 カエルメイドとミヤガさんがすすめてくれる。

 ちょっと小腹もすいていたし、ご馳走になろうとすると――


「旦那、旦那。こりゃ美味いですぜ、かなりのもんだ!」


 僕が手を付ける前に、サブのやつはガツガツと食い始めている。

 この野郎……。あ、女の子だから『野郎』はおかしいか……。


「あははは、はは」


「図々しいなあ、このあまっこはよ」


 ミヤガさんは引きつった顔で笑い、カエルメイドは真っ正直なご意見。 

 僕は軽くサブの頭をはたくと、サブはぴょいんと後ろにさがる。


 まったく、こいつは…………。


「あのう、実はこの後西区へと行こうと思ってるんです」


 軽食を食べながら、給仕をしてくれるミヤガさんたちに僕は言った。


「え? でも、しばらくご逗留とか……」


 意外そうというか、至極残念そうなミヤガさん。


「いえ。あっちのほうに荷物を預けているものですから」


「そ、そうですか。では、またすぐ戻っていらっしゃるんですね?」


 僕の返答に、ミヤガさんは安心したようにニコニコ顔になる。


「え、ええ。できれば、そうさせていただきたいなあっと……」


 何となく好意を持たれてるのは分かるけど、僕がここにいてそこまで嬉しいもんなのか?


「旦那、西に行くんならぜひにもあっしをお供に」


 顔を上げながら、サブが当然のような顔で言ってきた。


「来るなっていっても、ついてくるよな。お前は……」


「へっへっへっへ」


 僕の声に、サブはニコッと笑うと、ポリポリと頭をかいた。



 変なトラブル、起こさなきゃいいけどなあ……。





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