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01、始まりは穴の中




       ○




「いてえ……」


「いてえよお…………」



 地獄の底から響くような声を聞きながら、僕はボンヤリと思う。


 ああ、死んだのかなぁ、と。


 死ぬのは、これで二回目か。

 かすみがかかったような頭の中、今までのそう長くない人生を思い返す。



 最初の人生は、どうということのない平凡より下クラスの高校生。

 死因は、トラックにかれて……ということらしい。

 コンビニで立ち読みをしてたら、大型トラックが店内に突っ込んできたのだ。


 いきなり、である。


 運が良いというべきか、痛みを感じる間もなく即死。



 それから、後はよくわからない。


 気が付けば、大きな図書館のようなところにいた。

 そこには、白っぽい変な生き物がいて、


「ここにある本のうち、どれでも好きなものを一冊だけ持って行っていいよ」


 てなことを言った。


 よくわからないうちに、急いで選ばないといけない気がして適当なのを選んだ。


 思えばアレが運命の分かれ道だったのかも……。

 あの本はいわゆる『才能』とか、そういうものだったのかもしれない……。



 そして。


 気が付けば、僕は第2の人生を歩みだしていた。

 名もわからない異世界の、法術士の息子として。


 法術士。


 簡単に言うと、回復や解毒専門の魔法系ジョブみたいなものだ。

 ゲームだとヒーラーとかクレリックとかいわゆる、ああいうヤツ。


 実際聖職者に近いもので、この世界では事実上お医者さんである。

 僕は代々法術士を生業なりわいとする家の四男して生を受けた。


 第二の人生における僕の名前は、ナムジ・ニツカミク。

 しかし、転生したはいいけれど……今回もパッとしない人生なのである。


 別にゲームみたいなレベル制度はないのだが、どうも僕には法術の才能がない。

 他の兄弟がどんどん上達していく中、僕はずっとヘボのままだ。


 すり傷や小さな切り傷、疲労や痛みを和らげる基本法術は使えるのだが……。


 それだけなのだ。


 それより上の法術を使えないのである。

 骨折や重症などには、てんで歯が立たない。能無しだ。


 ああ、思い出すなあ。


「かわいそうだが、お前は一流にはなれんなあ……」


 二年前、父親の嘆息と共にそんな言葉を聴いたものである。



 わずか十三歳の未来ある少年に、言うセリフだろうか?


 前世は勉強のできない劣等生として、さんざんな人生だった。

 でも、ここにおいても何だかんだで似たようなことになっているのは――


 一体どういうわけ?


 人種は多分違う違うんだろうけど、前世とあまり変わり映えのしない容姿。

 ずんぐりと低い背に、むくんでるというのか痩せっぽちの割に大きな顔。


 ああ、終わってるなあ……。


 その終わってる人生も、もうすぐ本当に終わりそうなわけだけど。

 しかし、僕は今どうなってるんだっけ?


 あ、そっか。


 洞窟の中で足を滑らせて、深みに落っこちたんだっけ。

 でも、何で?


 あ、そっか。


 家にいても、家督は継げないし、冷や飯食いだからいっそ思い切って。

 と、王都のドゥーエに出てきて……。


 で、何をとち狂ったのか、冒険者になろうとした。

 前世の記憶と言うか、そういうのが影響したかもしれない。


 全然才能のない法術士もどきのガキなんかどこにも相手にされない。

 と、思いきや運良く……いや、運悪くあるパーティーに拾ってもらったんだよな。


 例えしょぼくても、回復職ってのは優遇されやすいもんらしいのか。

 ところが、最初の冒険である洞窟を調べるってミッションに参加した途端……。


 これである。


 けど、助けは期待できんだろうなー。

 パーティー内での立場微妙だったし。


 あああ。せっかく生まれ変わっても、この有様じゃ第三の転生を期待したほうが良いのかもしれないなあ……。


 僕は、憂鬱な気分でほう、と息をついた。



「いてえ……」


「いてえよお…………」



 うるさいなあ、何だよ。さっきから――


 ン……?


 近くから響いてくる声に、僕はハタと我に返った。

 幸い専用の槌杖は懐の中だ。これさえあれば魔法で灯りをともせる。


 が、しかし。


 周辺が明るくなったところで、事態があまり好転するわけでもなかった。

 何故なら、目の前に巨大な……熊のような獣が寝転がっていたからだ。


 熊と違うのは、長く太い尻尾があるというところか。


「いてえ……。いてえよお…………」


 驚いたことに、さっきから幻聴かと思っていたアレは、こいつの声だったらしい。

 人間の言葉を話すってことは高ランクのモンスターっぽいのか。


 しかし、こいつは全身血まみれ傷らだらけで、虫の息だった。

 なので多分僕が襲われる心配もないのだけど。


「いてえよおお…………」


 痛みに苦しみ、死にかけているその姿に、哀れを感じる。

 見上げれば、ここは明かりもほとんど指してこない地底の底。


 かすり傷程度だが、いずれ僕だって一人死んじまうのだろう。

 そう思うと目の前の巨大な獣にも同情というか共感のようなものが。


「傷を治すことはできないけど……」



 僕の低レベル法術でも、痛みの軽減くらいはできるぞ。

 昔はそういう術を利用して、難しい治療をやっていたと聞く。

 法術が発達した今は、その手のことは少なくなったそうだけど。


 などとボンヤリしながら法術を使っていた僕は、ギョッとなるものを見た。


 何と。


 法術をかけた獣が見る見るうちに元気になっていくではないか。

 見る間に傷がふさがり、ボロボロだった肉体は何事もなかったように……。


 傷が治ると、獣は驚いたように跳ね上がり、僕を睨んだ。


 おいおいおい。助けてやったのに、その態度はないだろう……。





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