てんさいのみるせかい―グルグルへん―
ねこふんじゃったー、ねこふんじゃったー、ねこふんずけちゃったらひっかいたー。
るんたるんたとスキップしながらぼくは歌うのです。あさごはんがケチャップたっぷりの目玉やきだったからたくさんごきげんです。それに黄身がぐりっぐりとしていて、とってもきれいだったのです。
スキップするとランドセルの中のたくさんのとかげさんのしっぽががっしゃがっしゃと音を立てます。がっきをえんそうしているみたいで、とってもたのしいのです。
ぱおおおんぱおおおんと地めんがぐらぐらしてびっくり。思わずうわーおって言っちゃいます。そしてぼくがひゃあってとびあがると、ハラハラくんのうちのむこうにゾウさんがいました。そのゾウさんは、おはながないのです。またもやびっくり。うわーお。
ゾウさんはぱおおおんぱおおおんとこうしんをはじめます。けど、それはなんだかとっても早いのです。なんというか、だだをこねているみたいなのです。
でも、すっごくたのしそうです。ぼくもマネしちゃいます! ずんずんずんずん!
するとランドセルの中のとかげさんのしっぽもいっしょにだだをこねます。がっしゃがっしゃがっしゃがっしゃ!
すると、がらがらがらとすぐよこのおうちのキーハーさんがはばたきながらでてきます。キーハーさんはいつもかおがまっかっかで、ほっぺの目がぎょろぎょろしているのです。まるであさたべた目玉やきみたいです。おいしそうだあ。
「あたしのこどもをかえしなさいよよよよよよ!」
キーハーさんはだだだだだだだーっと電ちゅうまで走ると、がっしりとそれにだきつきました。
「かえしなさいよよよよよよよよよよ」
キーハーさんはいつまでたっても電ちゅうにだきついているだけなので、ぼくは学校へむかいます。右へ左へくねくねとすすむのです。学校はまだつきません。
また右へ曲がると、しっぽのないネコがへいにかいてありました。そのネコたちはみんなちがうかおをしているのです。とけているかお、かたまったかお、ごおっとしたかお、ぐえっとしたかお、くにゃっとしたかお、まもおんとしているかお、わふぉじいとしているかお、ぜびゅっとしているかお、かんろんとしたかお。ぼくは一つずつじーっと見ていきます。まちがいさがしをしているようでとってもたのしいのです。
すると、ぷぽおんとしたかおのネコがにゃあんとなきました。それに合わせてほかのネコもなきはじめます。ネコの大合しょうです。
その中で、かつかつという音がむこうのほうから聞こえてきます。そっちを見ると、なんとたくさんの大きな木がずらーっとならんで歩いてくるのです。びっくりです。うわーお。
大きな木には魚さんのあたまがいっぱい生えていました。サケだったりマグロだったりカレイだったりシシャモだったりブリだったりいろいろです。それがみんなに生えているのです。みんな口をパクパクさせて、なにかを食べているようです。そしてぼくは、お魚さんたちがなにを食べているかしっています。プデングデンってやつです。どーだ、ものしりだろう! ぼくは大きな木にじまんするようにえっへんします。えっへん!
ぼくのことなど見ずにパレードはつづいていきます。プデングデンを食べるお魚さんたちにひっぱられるように大きな木がかつかつとあるいていきます。
ぽわぽわん、と音を立てて少し先の木からなにかがおちました。ぼくは気になって小走りでそこまで行きます。
するとそこにはクローバーのかたちをした電車がおちていました。行き先はてんぐ行きとなっています。しゅ色ときみどり色がまざり合ったもようになっていて、中のホネがまどガラスをつきやぶっています。
ぼくはむっとします。ぼくは電車がキライなのです。えいっとシマウマがかかれたクツのつま先の口を開けて電車をぱくぱく食べます。がしゃがしゃむしゃむしゃぺろり。シマウマくんのかおを見るととってもイヤそうなかおをしていました。シマウマくんもどうやら電車がキライなようです。それでもごはんを食べたらごちそうさまを言わないといけません。ぼくはイヤだけど手を合わせました。ごちそうさまでした。
すると、うしろのほうでどぶんと音がしました。ふりかえってみると、そこにはちょっとおっきな水たまりがどうろのまんなかにありました。そこに、木がしずんでいくのです。ぐじょぐじょぐじょとしずんでいくのです。それにつづいてうしろの木もかつかつとそこへ行ってしまいます。やはり、ぐじょぐじょぐじょとしずんでしまいます。みんなプデングデンにつられているのです。
かなしそうなパレードをよこ目にぼくは学校へむかいます。ちこくをするとうちのメリアンヌがおこるのです。おこられるとぼくの目のまえがビビットカラーになってきもちよくなっちゃうのです。
とつぜん、みちのわきにすてられていたノートパソコンがヴンと音を立てました。がめんの中では、じてんしゃの上にさかだちになってシカがのっています。しゃりんがまわりはじめ、じてんしゃがうごきます。じてんしゃはまっすぐな道を行きます。シカはさかだちのまま動かないし、じてんしゃはずっとまっすぐに走っているし、道もかわりません。なんだか目のびょういんへ行ったときのけんさみたいです。
そしてとつぜん、がしゃんと大きな音を立ててじてんしゃがかべにぶつかりました。もちろん、シカさんのさかだちもおしまいです。するとがめんに『ご注意を!』とき色いおっきな文字で出てきます。
ぴろぴろぴろーん、ぴろぴろぴろーん。きんきゅうはとそくほうです。ぴろぴろぴろーん、ぴろぴろぴろーん。とつぜんのはとにごちゅういください。
そらがいきなりピンクにそまり、かと思ったらき色にそまり、かと思ったらピンクにそまり、かと思ったらき色にそまります。チカチカとそれがなんどもつづきます。
「ヤマンバの! ナミダー!」
ばさばさばさとハネをうごかして、はとがそらからやってきます。
「ヤマンバの! ナミダー!」
はとはぼくのまえにやってきます。
「ヤマンバが! ヨンデル! ヤマンバが! ヨンデル!」
ぼくはヤマンバによばれるようなことをしていません。だからあっかんべーをします。あっかんべー! ……まちがえてアイーンをしていました。かっこわるーい。
「ウヲー! ヲマエ! トッテモヴァーリアス! ヴァーリアス!」
はとはそう言ってくびを思いっきりよこにぶんぶんとふります。
「ハレルヤ! ハレルヤ!」
はとはどこかへとんでいきます。ぼくは気になってそれをおいかけます。なんだかたのしそうだなと思ったのです。
またくねくねと右へ左へすすむのです。でもまがりかどは大好きなのですすむたびにうれしくなります。トンボのハネ二万こぶんすすむと、ちょこっと大きな広場がありました。
そこにだらしなく気をつけした男が立っていました。ニヤニヤとわらっています。なにがおかしいのでしょうか。
「ヤマンバ! ツレテキタヨ!」
「俺はよォ、やまんばっつーよりよォ、風雷坊だと思うんだよねェー」
そして、ぼくをちらっと見ます。
「よォ、天才ィ。今日も楽しく学校とは偉いじゃねーかァ」
天才、とはどうやらぼくのことらしいです。?マークをあたまの上に五つほど出すとその男の人がせつめいをしてくれました。
「天才っつのーのはさァ、普通の人とは違ってよォ、すげえやつのことなんだぜェ。わかったかァ?」
すこしわかった気がします。とりあえず?マークは二こ消えました。
「俺の名前はグルグルだァ。よろしくゥ」
グルグルはそう言ってうでをのばしたまま手をたたきました。シンバルをならすかのようでした。
「突然だがよォ、お前にとってこの世界はどんな風に見えるんだァ?」
それはそれはとってもたのしいです。色んな人や色んな物が見たこともないことをしているのです。まい日がルンルンです。
「そうなのかァ」ニヤニヤしたままグルグルが言います。
「お前は天才だからよォ、きっと今見てる景色は凡人には理解できないだろうぜェ」
グルグルがおなかから上を右に回しはじめます。ぐるぐると回しはじめます。
「凡人にはよォ、もっと平凡な世界が見えてるのさァ。お前が会ってきた象とか木とかもォ、あんなことはしていねえんだァ」
そうなんでしょうか。けど、ぼくにはそれがあたりまえなので、それがないせかいなどかんがえられないのです。
「寂しいかァ?」
これはさみしいというのでしょうか。よくわからないですが、色んな人がこのたのしいせかいを見られてないというのはとってもざんねんだなあと思いました。
「おうおうゥ、そういうと思ったぜェ。だから俺が出てきたんだァ」グルグルは気づけばいっしゅうしていました。あいかわらずニヤニヤしています。
「お前はこの見ている景色を絵にすればいいんだァ」
ぼくのあたまの上にまた?マークが出てきます。
「お前の世界ってのはよォ、シュルレアリスムみてーだよなァ」
シュルレアリスムとはとてもヘビさんのあしおとみたいです。シュルシュルシュルシュルシュルレアリスム。うーん、ごろがわるい!
「シュルレアリスムっつーのはよォ、絵のジャンルのことだァ。現実では存在しないような景色を描いているんだよォ。……まァー、詳しくはウィキで調べてくれやァ」
ウィキとはなんだかおさるさんのなきごえみたいです。ウィキウィキ、ウィッキー!
なんだか、とってもたのしくなってきました。ウィッキー!
「つまりなにが言いたいかって言うとよォ、お前はよォ、今まで画家が描いてきた世界を見ているわけなんだァ。つまりよォ、お前はこの世界を一旦自分の中に取り込んでェ、自分のものにしてそれから絵を描けるっつーわけだよォ」
気づけばまたグルグルはからだを一回てんさせています。もう二しゅうもしています。けどなんだかたのしいです。ウィッキー!
「普通はよォ、平凡な世界を取り込んでェ、それから絵を描くのさァ。だからつまりよォ、お前は今までの天才の一歩先を行ってるんだよォ」
なんというか、とてもほめられているような気がします。ぼくはてれくさくなってほっぺをちょっとかきます。たのしかったりほめられたり、今日はとってもいい日です。
「そしてよォ、そーいうのを凡人が目の前にするとよォ、これはなんだって考えちまうんだァ。――今の大体の人間にはよォ、考えるっつーことが出来ねえやつが多いんだよなァ。生活にしたって交流にしたってよォ、思考放棄してるやつが多いんだよォ。だからァ、それをお前が養ってやるんだよォ」
グルグルのからだはもう三しゅうもしていました。けどまだニヤニヤしています。ぜんぜんよゆうそうです。
「なんで象の鼻がないんだァ、なんで木と魚がくっついているんだァ、なんで空が黄色とピンク色に点滅するんだァ。そういうのをよォ、お前が考えさせるんだァ。それ単体に意味なんてなくたっていいのさァ。重要なのはァ、考えさせることなんだよォ」
きーんこーんかーんこーん。きーんこーんかーんこーん。
学校のチャイムがなります。そう言えばぼくは、学校にむかっていたのです。けど、学校に行くよりグルグルの話のほうがとてもたのしそうです。
「けどなァ、その絵に意味は込めなくちゃいけねえんだァ。ただ、この世界を自分の中に取り込んでそれで絵を描いてちゃァ、それはただの落書きだァ。絵が意味を持った時にィ、芸術になるんだよォ」
グルグルのからだがギリギリと音を出しはじめます。もうからだが四しゅうもしています。
「最後にもう一度言うけどよォ、お前は多くの凡人に考えさせることを思い出させなきゃいけねえんだァ。そのためにお前は生まれてきたしィ、それを自覚させるために俺が生まれてきたァ。――お前はよォ、その絵でたくさんの人を救わなきゃいけねえんだァ。ちゃんと考えることが出来ればァ、きっと世界は平和になるだろうぜェ」
グルグルはニヤニヤとわらっています。けど、そのかおにはあせがびっしりとながれています。
「じゃあなァ、『天才』」
ぱーん。
グルグルはそう言うとはれつして、じぶんの足元をまっ青にそめました。そして、はれつしたグルグルから赤いハートのふうせんが生まれて、空へとんでいきました。
すると、それへむかう一つのすがたがありました。ハトさんです。
ハトさんがそのハートのふうせんとぶつかると、どこまでもどこまでもとどきそうなほど大きい音でふうせんがわれました。
ぱーん。その音にぼくはおどろきます。
うわーお。