表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

もしも世界が止まっても

時間が止まった世界に一人取り残された男の話。

もしも世界が止まっても



みんなは時間というものをどう考えているのだろうか?

時間とは誰にでも平等で、善も悪も無い・・・本来ならばそういったものなのだろう。


だが、私にとってそれは違った。





私の世界は止まっている。





…もう少し正確に言うと


『私という存在を取り巻く全てのものが止まった世界』


私はそんな世界にいる。



目覚めたときはすでにそうだった。


…こんな話から始めると、なんだか私が不幸な人間に聞こえているではないか不安である。


だが、ハッキリ言っておこう『私は今、幸せだ』


この世界は快適だ。

時間に追われることも無く、毎日(?)をのんびりと過ごしている。


時間が空いたときにいつかは行こうと思いつつも、ずっと行くことのできなかった海にも実に6年ぶりに行くこともできた。



就職してからのここ数年、自分の時間というものは無かった…。



毎日決められた時間に出社し、残業し、終電で帰る。

コンビニで弁当と少しの酒を買い、腹を満たす。

シャワーを浴びたら、ベッドに潜り込み、まるで一日の生命力を全て使い切ったように眠りに落ちる。


変わり映えのしない日々を送りながら徐々に年老い、いつかは…。


そんな想像をすると夜中に吐き気で目が覚める。


……

………


だがそんな心配ももう要らないだろう。

この世界で私は自由だった、この状況に慣れるまでは不便を感じることもあったが、人間というものは意外どうとでもなるもので、今ではこの世界に順応して快適に過ごしている、昔の人が「住めば都」と言ったものだがまさにそのとおりである。



私はこの世界に対して否定をしない。

どうしてこんな状況になったかはわからないが追求はしない。


「これはこういうものなのだ」


そう思うと不思議と不安に思う気持ちもスッと消えてしまう。



ただ、たまにどこから声がする、それが非常に懐かしい声のような気がして、なんだか不思議な気持ちになる。

私はその声を手繰り寄せようと手を伸ばすのだが、その手が何かをとらえることはなく、ただやきもきするばかりだった


きっと『それをつかむと何かが起こる気がする』(…実はこの世界が壊れるんじゃないのかと思っている)

いつもそれをつかめないのはそんな不安からなのかもしれない。



実はこの世界にいて、1つだけ困ったことがある。

というのも、この世界に来る前に私はある約束をしていた。


相手は…まぁ一般的にいうと……彼女?

というか、別にあいつとはたまたま長い付き合いの中で、いつの間にかそうなってしまっただけで、

成り行きというかいやほんとに変な意味じゃなくて…私は誰に弁解しているのだろうか…?


まぁともかく、彼女(この際そうしておく)と会う約束をしていたのに今のままではどうも約束を守るのは難しそうだ。

(あぁ~…怒るだろうなきっと…、どうしよっかなぁ~…)


ま、そういうわけで十分に休養もとったことだし約束もあるわけなので、そろそろこの世界からの脱出(?)方法を探してみようかとも思う。


映画や小説なんかだと、鏡をくぐるだとか、この世界でなにかを成し遂げるとか、ファンタジーなら魔王を倒すなんてのもあるかもしれない。


思いつくことは一応いろいろとしてはみたが実際なかなかうまくいかない。


魔王がいなかったことは幸いといっていいのかしれないが、妖精ぐらいは居てくれてもかまわないんじゃないのか?


『あなたは選ばれた勇者です、まずは北の街をめざしてください』なんつって、ゲーム慣れした現代っ子にはそれぐらい生ぬるい設定じゃなきゃ話が進みませんよ。


とまぁ、天の意思にツッコミを入れつつも、実際のところどうにも身動きがとれない状況には困っていた。


なにをしていいか分からないってのは結構きついよなぁ、ほんと攻略本がほしいよ、なんてな。

(何気ない思考や言動にゲームが関わってくるのは、私がゲーム好きなだけなので深く考えないように、実は私がゲームの主人公かなにかで誰かがこのゲームをプレイしているとか、そんなんだったら面白いのだが、残念なことにゲームは作り物でありこの状況は現実である)って私は誰に言っているのだ。


豆知識だが、人間というのは長い時間を一人で過ごすと、脳が心を守るためにまるで誰かがいるように振舞って見せたり、独り言が多くなったりするのだそうだ、そういった兆候が顕著に現れだしたこの状況を考えると、実はあんまりよい状態ではないのかもしれない。



「…で…、…よ」


声だ。


例の声が聞こえる、たぶんこの世界から脱出するための方法としては本命と考えていいだろう。


(…つかめるかな?)


不安はある。 この声を手繰り寄せれば何かが起きる。そんな確信がある。

しかし、もしかすると手を伸ばしつかんだものは死神の手で、そのまま地獄への片道切符を渡される可能性も無きにしも非ずだ。

(なぜ死神で行き先が地獄なのか?は、私は自分という人間よく理解しているからだ、まぁ悪人であったつもりは無いが善人であったかと聞かれると自信を持ってうなずくことはできないな。)


もし行き先が地獄だった場合はせめて地獄の門では並びたくないなぁ、あんまり人が多くなかったらいいんだけど。




…今気づいたが、もしかすると私は楽観主義者なのだろうか?




まぁいい、と言う訳でやってみなくては始まらない。

(自分が楽観主義者なのかもしれないと思うと、なんだかそんな気がしてきて変な勢いが出てきた)


「レッツトライ!」(アーハン)


思い切り手を伸ばしてみる。 伸ばす手は相変わらず空を切るばかりで何かに触れることはできない。

しかしここであきらめては話が進まないというもの、もう少し粘ってみる。



ん、一瞬なにかに触れた気がした。(やっぱり何かあるのか?)



おっ、もうチョイな気がする。(いや、何がかはわからないんだけどね)



てやっ、あは、これ難しいな、なんか楽しいぞ。(て、目的が変わってきた気がする)




……


………



あ、…これ、……手だ………あったかいな。















「…かしでね、このあいだなんか…な…だったのよ」



(あー、だるい)


やばい、こんなだるさは高校最後の夏休みに人間が連続でどれだけ眠れるか挑戦したとき以来だ。



「…ね、笑っちゃうでしょ」



なにが笑ってしまうんだろうか、もう少し手前から言い直してもらいたいものだ。



「…ぁ゛……」

(声がでない、のどの奥がひっついてるみたいだ)



「ん゛…あ゛、…なにが『笑っちゃう』のか、…もう少し手前から教えてよ゛…」



私の手をにぎっていた彼女の手に力が入ったように感じた。



「…起きてんなら…、…さっさと言いなさいよね…」



「ぉ゛こってる…?」



「…怒ってる」

(顔をうつむいたまま、そう言う姿が怖い)




(起きたての脳を最大限に働かせて、今この状況でもっとも彼女の神経を逆撫でないセリフ考える)

「あ゛ー、ん゛っ、んん。ご、ごめん、約束…すっぽかしたんだよね、たぶん…」




彼女は肩をわなわなと震わせてこっちを向きなおす。




「…ばか…どれだけ遅刻してんのよ」



(こいつの泣いてる顔なんて、何年ぶりだろ…。)



「…ごめん、………ただいま」


「おかえりなさい」




もしも世界が止まっても、その世界にとどまるか歩き出すかは自分しだいってことだ。


結局そういう運命っていうのか何なのか分からないけど、そんなもんは本当は無くて、自分しだいでどうにもなるってことだな。


そう考えると日々の生活も色鮮やかなものなのかもしれない、つまらなかったのは周りではなく自分の心の持ち方だったんだろうさ。


道を歩いていればもしかすると花を見つけるかもしれない、その花の名前は知らなくても、自分がそれをきれいと思ったならそれでいいじゃないか、何気ないところにそういう幸せってのはあるもんなんだよ。




……


………


「…で、退院から一週間だし記念にどこか行こうって約束に、すでに45分も遅刻している状況に対する言い訳はそれでよかったのかしら?」



(笑顔が怖いというのはこういうことを言うんだろうな…。)



「……はい、ごめんなさい。」



私が今いるこの世界では常に時間に追われ、日々同じことを繰り返している、だがハッキリと言っておこう





『 私は今、とても幸せだ 』





時間は平等といいますが、そんなことはない気がします。

大切な時間、苦しい時間、色々あります。

それでも時間は流れるのでできれば楽しい時間が多いとよいと思います。


感想、評価、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ