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第零章 プロローグ

とりあえず投稿しました

(・ω・)/

彼には魔法の才能も魔力もなかった。その事実は魔法至上主義の現在では許されないことであり、最早罪であるとされた。

魔力が無かったことで彼の両親は息子である彼を侮蔑し、兄や姉、妹も同様に軽蔑した。追い討ちをかけるように幼馴染みには見放された。今まで友人だった者には虐められ学校の先生はそれを止めるどころか混じって暴行を加える始末。彼には一切の救いがなかった。絶望に支配された彼は両親に騙され、見捨てられ、偶然空間に出来た罅に落ちた。

そして行き着いた先は“魔界”。弱肉強食こそが世の真理である世界。彼はそんな地獄のような場所で生きようと必死で足掻いた。

言語能力と大した知能はないが凶暴な魔物から身を隠し、食べられそうなものなら何でも食し、生きるためになんだってした。

だが十二歳の子供にすぎなかった彼では、やはり限界があった。魔物を力で支配する“魔王”の配下、“魔人”に見つかってしまったのだ。

彼は必死に逃げた。しかし所詮子供。彼の逃げ足では“魔人”から逃れることは出来なかった。殺される。そう覚悟した直後、彼……ルキフェルは“魔王”としての力に目覚めた。

それこそが後の『七大熾天使』(セラフィム)、『七善神』(アムシャ・スプンタ)、『七悪神』(ダエーワ)などの世界の頂点に君臨する者に並ぶ『七大罪の魔王』(セプティプル・ダークロード)の一人、傲慢の“魔王”ルキフェルの覚醒であった。















少年、ルキフェルの目の前には魔界に住む種族“魔人”の男性が腹部に風穴を開けて仰向けに倒れている。明らかに息絶えた“魔人”が死んだ理由は至って単純。ルキフェルが殺したのである。

彼が死ぬと覚悟し、あることを悟った瞬間に目覚めた力で“魔人”を殺したのだ。

無意識に発動した力が何なのかルキフェルが考えると、その答えはすぐに出てきた。

『黒淵閃光』(アビス・レーメン)、『魔導殺戮』(マジック・スロータ)『人外超越』(モンスター・ライズアバブ)。

頭の中に浮かんできた能力は今、自分が手に入れた能力の名称だ。

魔界、天界、地上界をそれぞれ創造した三人の神が選んだ者に一つだけ与える力。“神力具”。魔力を使わない特殊能力だが、その力は絶大である。

一つでも“神力具”を持っていれば、その者は一騎当千の実力者になる。ルキフェルはそれを三つも有していた。最早彼は特異中の特異な存在である。

神に選ばれた者、正にルキフェルのことである。破壊神ヴァラ、創造神クレイトス、地母神アルカナの三人から選ばれ、能力を与えられたのだ。

だがルキフェルに喜びはなかった。彼の今の感情を表すなら、困惑。何故、弱者の自分が生き、強者の“魔人”が倒れている? 何故、弱者の俺が強者を殺せる? 何故? 何故?彼の頭の中では様々な事がグルグルと駆け巡っていた。そして一つの結論に辿り着く。



「……そうか。俺は、もう弱者じゃないのか。なら強くなってやろうじゃねえか。この腐った世界で生き抜くためにな」



ルキフェルは倒れている魔人の男から使えそうな物を抜き取ると、踵を返して薄暗い森の中へと消えていった。















そこは三世界の創造主が住まう場所。傍観者であり、それ以下でもそれ以上でもない三人は一人の人間であった・・・・・のことについて話し合っていた。



「ようやく彼が目覚めたようですね。これでやっと世界が変わります」



「そうじゃな。科学も魔法も教えたまではよかったが、まさか人間がここまで自分勝手とは思いもしなかったしのう」



「馬鹿共には少しばかり、仕置きしてやらねえとな」



礼儀正しい口調の者が創造神クレイトス、尊大な口調の女性が地母神アルカナ、そして最後に荒い口調の男が破壊神ヴァラである。



「ったく、人間は何でここまで欲深くなっちまったんだ?

自分の世界に閉じこもってりゃいいものを魔界や天界にまで手を出しやがって」



「確かに魔界と天界への扉を開くとは思ってもいませんでしたね」



「それだけだったなら、まだ赦せる。だが奴らは魔界を攻め、蹂躙しおった。

自分達の住む世界だけでは足りないと行動で示したのじゃ」



三人は魔界、天界、地上界を別々に分けてそれぞれの世界に生まれた種族を見守ってきた。だが人間が亜人の住む場所を奪い、魔界に住む魔人を絶対悪とし、天界に住む天人を自らが讃える神、唯一神テラの使徒と勝手に称した。

人間全てが愚かではないと分かっていても三人は我慢の限界だったのだ。



「欲望に忠実な魔人でも、他の世界には手を出さなかったというのに。

やはり“テラ”はまだまだ未熟者だったということか」



「人間と違って俺達が創った種族は長寿だしな。そこんとこも考えると奴は何で人間なんて創ったんだろうな?」



「彼は実力もないのに自尊心だけは立派ですから。自分は私たち三人に劣ってないと思いこんでいたのでしょう」



ヴァラは魔人を、クレイトスは天人を、そしてアルカナは亜人を創った神である。だが人間は三人の神よりも、下位の神、テラが創った種族なのだ。

一部の人間はテラのことを唯一神として深く信仰しているようだが、三人と違って大した実力がないテラは信者に加護を与えることはできない。そのため魔人、天人、亜人は人間と比べて一人一人の実力が上なのである。

だが人間にも三人が創った種族よりも、優れているものが一つだけある。それは繁殖力だ。

地上界に住む人間の数は既に優に数十億は越えている。それに対して魔人や天人、亜人はそれの三分の一程度。魔人、天人、亜人の三種族を足した総数が現在の人間の数である。



「あの馬鹿は、これで懲りただろうな。後五千年は牢屋の中で過ごすんだから」



「そうじゃのう。さて、そろそろ本題に戻らんか?」



アルカナの真剣な声音に残りの二人も気を引き締める。



「本来なら天人に生まれ、魔界へと堕ち、魔王となる運命だった奴の人生をねじ曲げた、妾達の罪。忘れてはならぬぞ」



「わかってる。そのせいでルキフェルは魔力を無くしたんだ。俺達の罪だ」



「天人、魔人、人間の能力が混じった結果の不幸な出来事では片付けられません。ですから、少しでも罪滅ぼしになればと私達は“神力具”に与えましたしね」



そう、ルキフェルは本来天人の長、ミカエルの兄として生まれるはずの運命だった。だが三人は無理矢理ルキフェルを人間の子供として、生を受けさせた。その結果ルキフェルは魔力を無くした。



「今の愚かな人間共に変革を齎すには必要だったことでも、私達は赦されないことをしてしまいました」



「確かに。だが、謝ってばかりじゃあ、何もならねぇ。

だから俺は特別な加護を与えるぜ」



「ぬ、それはいい考えじゃな。よし、ならば妾もルキフェルに加護を与えよう」



「では、私も」



加護をルキフェルに与えるのは彼らにとって簡単なこと。だが魔人、天人、亜人にとって直接加護を与えられたとなれば、神の御子扱いになるほどだ。



「本当に済まねえな。俺達はここで詫びることしか出来ないが、強く生きてくれ」



「妾達は何時までも見守っておる。だが、それ以上のことは出来ん」



「私達を憎んでもらっても構いません。ですが、強く生きてください。私達の……大切な息子」















「……何なんだ。あの夢は」



早朝。眠りから目覚めたルキフェルは先程まで見ていた夢に疑問を抱いていた。

その夢は、夢にしては鮮明に記憶に残っている。魔人、天人、亜人のそれぞれの神から謝罪を受ける夢。現実味がないその夢にルキフェルは溜息を吐いた。



「変なもん見ちまったな……。まっ、気にしても仕方ねぇか」



のそりと掛け布団を退けて、ベッドから降りるとルキフェルは窓の外を見る。



「ここに来て、もう何年経ったんだろうな……」



ルキフェルはぽつりと呟くように言う。ルキフェルは既に何年この世界、“魔界”に留まっているのかを本当に覚えていない。

それも仕方のないことで、ルキフェルは“時の狭間”と呼ばれる空間の亀裂に落ち、過去に飛ばされてしまったみたいなのだ。



「……俺は、もう弱者じゃないんだな」



ルキフェルは自らの肉体を見て、昔を懐かしむように呟く。

ルキフェルの体は鍛え上げられているが、筋肉達磨のようにムキムキというわけではない。それは一つの完成された肉体を表している。



「……何、しみじみと呟いてんだ俺は。俺らしくもない」



自嘲気味にフッと笑うとルキフェルは今日すべきことを考える。



「よし。今日は久しぶりに森の外に行ってみるか」



即決で行く場所を決めたルキフェルは玄関を開けて外に出た。



これは“傲慢の魔王”の称号を持つ一人の男の物語。嘗ては弱者だった男が強者となり、新たに紡ぐ物語である。

誤字脱字が有りましたら御報告お願いします

m(_ _)m

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