第6話「石窯の宴と星降る夜の露天風呂」
ログハウスの周辺は、4人に増えた住人の活気で満ちている。
ドリスの要望に応え、私は猪肉から得た魔力を注ぎ込み、鋼のハンマー、各種のノコギリ、そして重厚な金床を具現化させた。
ドリスは真新しい道具を手にすると、すぐさま森から切り出した木材の加工に取り掛かっている。
しかし、拠点の規模に対して居住空間が手狭になりつつあるのは明白である。
4畳半のログハウスでは、4人が横になるだけで床が見えなくなる。
何より、連日のサバイバル生活と狩りによって、全員の体に汗と泥の汚れが蓄積している。
「今日は新しい設備を作る。風呂だ」
私がそう宣言すると、道具の手入れをしていたルミナの手が止まり、ミアの耳が興味深げに前を向く。
「風呂か。故郷の森には湧き水の池があったが、温かい湯に浸かれるならこんなに嬉しいことはない」
「私も賛成だ。大工仕事の後に汗を流せるなら、作業効率も格段に上がる」
ルミナとドリスが賛同し、私は計画を練り始める。
湯を張るための巨大な浴槽と、水を温めるための熱交換システム、さらにそれを囲う新しい居住空間の増築。
これまでの創造魔法とは比較にならない、膨大で緻密な設計図を脳内に描く必要がある。
当然、消費する魔力も莫大な量になるため、事前の食事は妥協できない。
「極上の食事を用意する。ルミナは鳥の肉を、ミアは森で食べられる果実とキノコを集めてきてくれ。ドリスは私と一緒にかまどを改良する」
それぞれの役割が決まり、全員がすぐに行動を開始する。
私はドリスの指示を仰ぎながら、手元にある石を組み合わせてドーム状の石窯を組み上げる。
隙間を粘土質の泥で埋め、内部で火を焚いて全体を完全に乾燥させる。
石窯が完成する頃には、ルミナが丸々とした野鳥を3羽仕留めて戻り、ミアも腕いっぱいに色鮮やかな果実と、肉厚のキノコを抱えて帰還する。
私は野鳥の羽をむしり、内臓を丁寧に取り除いて下処理を進める。
ミアが採ってきた果実は強い甘みとわずかな酸味を持っており、これをナイフで細かく刻んで猪の脂と混ぜ合わせ、特製のソースを作る。
野鳥の腹の中に香りの強い野草とキノコを詰め込み、表面に果実のソースをたっぷりと塗りたくる。
十分に熱を持った石窯の中に野鳥を並べ、入り口を石で塞いで蒸し焼きにする。
待つこと数十分、石窯の隙間から、果実の甘い香りと肉の焼ける匂いが混ざり合った、強烈に食欲を刺激する空気が漏れ出し始める。
周囲で待機している3人の喉が、期待に鳴る音が聞こえる。
石を取り除き、中から野鳥を取り出すと、表面は飴色に輝き、皮の裏で沸騰する脂が小さな気泡を作っている。
私はナイフで肉を4等分に切り分け、木の皿に乗せて3人に配る。
「冷めないうちに食べてくれ。これが終わったら、大仕事が待っている」
ミアが真っ先に肉にかぶりつき、熱さと美味しさに目を丸くして身悶えする。
果実のソースが野鳥の淡白な肉に濃厚なコクを与え、腹に詰めたキノコの旨味が内側から肉全体に浸透している。
皮の香ばしさと肉の柔らかさが絶妙な対比を生み出し、噛むたびに口の中が幸福感で満たされていく。
ルミナは目を閉じてじっくりと味わい、ドリスは骨の周りの肉まで綺麗にしゃぶり尽くしている。
私も夢中で肉を胃に流し込み、全身の細胞が急激に活性化していく感覚を味わう。
胃から発生した熱が魔力の奔流となり、体内の経路を激しい勢いで駆け巡る。
視界の端がかすかに発光して見えるほど、私の体は今までにない強大な力で満たされている。
「行くぞ。少し離れていてくれ」
私はログハウスの隣の開けた空間に立ち、両手を前に突き出す。
頭の中に描くのは、円形の広い石造りの浴槽。
底面には耐火性の高い石英を敷き詰め、外側にかまどと直結した熱伝導管を配置する。
近くの小川から水を引くための竹に似た管の経路、排水の仕組み、そして周囲からの視線を遮る背の高い竹垣の構造。
設計図の細部までを完全に固定し、体内で荒れ狂う魔力を一気に解放する。
空間が激しく歪み、鼓膜を圧迫するような重い空気の震えが周囲に広がる。
地面からまばゆい光の柱が立ち昇り、土を押し退けて巨大な石の塊が姿を現す。
光が交差するたびに石が削られ、滑らかな曲面を持つ浴槽が形成されていく。
管が地中を這い、水が流れ込む経路が一瞬にして構築される。
光が完全に霧散した時、そこには周囲の自然と完全に調和した、見事な露天風呂が完成していた。
すでに小川からの水が浴槽を満たし始めており、横に設置したかまどに火を入れるだけで湯が沸く仕組みである。
私は膝に手をつき、肩で荒く息をする。
体内の魔力はすっかり底をついているが、完成した風呂を見下ろす3人の輝くような笑顔を見ると、疲労感は不思議と消え去っていく。
◆ ◆ ◆
夜空には数え切れないほどの星が瞬き、虫の音が静かに森を包んでいる。
竹垣の向こう側から、ちゃぷちゃぷと水面を叩く音と、3人の楽しげな笑い声が聞こえてくる。
石窯の余熱を利用して湯を温めると、数時間で丁度良い温度の風呂が完成した。
私は拠点の入り口の段差に腰掛け、夜風に吹かれながら火の番をしている。
「タクト、お湯の温度は完璧だ。肌の汚れと一緒に、体の疲れまで全部溶けていくみたいだ」
ドリスの弾むような声が竹垣越しに響く。
「タクトも後で早く入るといい。この温かさは、あなたの食事と同じくらい心地よい」
ルミナの穏やかな声が続き、ミアが水の中ではしゃぐ音がそれに重なる。
私は手の中の木製のカップを傾け、沸かした白湯を口に含む。
胃の腑に落ちる温かい感覚と、背中越しに聞こえる平穏な日常の気配。
過労で命を落とした私が、この見知らぬ無人島で、誰かのために物を作り、共に美味しい食事を囲んでいる。
私は夜空に広がる天の川を見上げながら、この温かい生活を何としても守り抜こうと静かに決意を固めた。




