異世界ファンタジー小説【異世界コインランドリー開拓記】
~魔法の洗浄より、魔導の熱風。俺は「ふわふわ」で世界を救う~
「おい、リュウジ。またその鉄の箱をいじっているのか? 洗濯なんて『クリーン』の魔法一発で終わりだろうに」
呆れた声を出しながら、冒険者ギルドの受付嬢・ミリーが俺の背中に声をかける。俺はこの異世界に転移して半年。元・コインランドリー運営会社の社員としての知識を武器に、王都の一角に奇妙な店を構えていた。
だが、この異世界には決定的なものが欠けていた。電気、ガス、水道の配管。いわゆる現代インフラが一切存在しないのだ。
俺はまず、店舗の床下を掘り抜くことから始めた。水道配管の代わりに、一定の圧力を保つ「水流維持の魔法陣」を組み込んだ銅管を自作。
ガス管の代わりに、安定した熱量を供給する「炎素の魔石」を触媒とした熱風循環ダクトを設計した。動力は、回転運動を維持する「旋回魔法」を組み込んだ魔導コア。
こうして、異世界初の『魔導自律型インフラ内蔵コインランドリー店舗』が誕生したのだ。
「ミリー、魔法は確かに便利だ。だがな、魔法には『繊維を立ち上げる』という概念がない。ただ汚れを消すだけだ」
魔法『クリーン』は汚れを消すが、布の繊維を寝かせたままにする。俺は彼女から預かったカチカチの毛布を、魔導式大型洗濯乾燥機に放り込んだ。17kg対応の巨大なドラム洗濯乾燥機が、旋回魔法によって力強く回転し始める。
一時間の工程が終わり、乾燥機から毛布を取り出した。ミリーの目の前にそれを差し出す。
「......えっ? なにこれ、熱い!? それに、ええっ!?」
ミリーが毛布に顔を埋める。 「ふ、ふわっふわ......! それに、魔法でも消えなかったあの特有の鼻のムズムズが、まったくないわ!」
「だろうな。この乾燥処理はスギ花粉やダニのアレルゲンを100%近く除去する。魔法は『汚れ』は消すが、『微細な粉』までは分解しきれないことが多いんだ」
ある大雨の夜だった。
深夜2時。
店の扉を激しく叩く音がした。そこには、泥まみれでずぶ濡れの重装騎士たちが立っていた。
「明日、王命で遠征に出ねばならんのだ。だがこの大雨で予備のマントが乾かな
い。不潔な装備で戦えば全滅もありうる......頼む、魔法使いは皆眠っているんだ!」
俺は不敵に笑った。
「安心しろ。うちは24時間365日営業だ。隣人の就寝時間? そんなの関係ねえ。この
魔石式乾燥機なら、1時間でパリッと仕上げてやるよ」
「いつでも好きな時に、誰の魔力も借りずに洗濯ができる」
この価値は、インフラの概念がなかったこの異世界において、文字通りの『救済』となった。
商売が軌道に乗ると、俺は多店舗展開へと進んだ。空き地を持つ貴族たちは、今や俺を「不労所得を運ぶ聖者」と呼ぶ。
以下は王都1号店の収支モデルだ。
項目 コスト GLD (ゴルド)
魔導洗濯乾燥機(17kg) 3,960,000 GLD 2台(特注魔導回路)
2段式魔石乾燥機 1,040,000 GLD 2台(炎素魔石触媒)
魔導インフラ工事 3,000,000 GLD ( 魔法陣・配管敷設)
合計初期費用 9,998,700 GLD (約1,000万円相当)
月間売上予想は、商圏世帯数 10,234 に対し、集客率 4% を想定。
409(世帯) × 月2回 × 800(単価) = 654,400 GLD / 月
年間売上は約 7,852,800 GLD 。
表面利回りは 78.5% に達する。 つまり借金が1年半で返済可能だ。
そして、その後の売り上げは収入となる。
今、俺は5店舗目の立地を調査している。
ターゲットは、主婦の多い住宅地。駅から遠くても問題ない。むしろ、生活圏に密着している方がリピート率は高い。
空を見上げると、今日もどんよりとした曇り空。
絶好の「乾燥機日和」だ。
俺はそろばんを弾きながら、新しい看板のデザインを考えた。
「コインランドリー・ふわふわの王都店」
魔法で汚れを消すことはできても、心まで温かく「ふわふわ」にできるのは、俺のコインランドリーだけだ。
「さあ、洗濯に行こうぜ。この世界はまだ、乾燥機の熱を知らないんだから」
俺は鼻歌まじりに、洗剤の補充へと向かった。
異世界ファンタジー小説【異世界コインランドリー開拓記】 完結




