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第13話「接客練習で守るな暴走!? ママじゃんカフェ予行演習」



 文化祭まで、あと二週間。


 朝の教室に入った瞬間、

 黒板の端の張り紙が増えていた。


『本日放課後:

 ママじゃんカフェ・接客練習(強制参加)

 ※とくに接客係は逃げるな』


「“逃げるな”って書くなよ」


 思わずつぶやいたら、

 すぐ横から声がした。


「逃げないよ、ケンタくん」


 こはねが、いつもどおりの笑顔で席につく。


「むしろ全力で行くからね。

 守る笑顔100パーセントで」


「その笑顔、たまに筋肉とセットで来るから怖いんだよな」


 前の席でヒヨリが振り返る。


「わたしも……がんばって、“普通の笑顔”練習しとくね」


 その膝の横で、

 ――パサッ。

 ちび翼が、ちょっとだけひらいた。


「今の、“がんばるって言ってしまったパサッ”だ」


「ケンタくん、膝の実況やめよう……」


◆ ◆ ◆


■ 放課後、教室が突然カフェモード


 放課後。


 机を後ろに下げて、前のほうだけ四人掛けテーブルを二つ並べる。

 黒板の上には、でかでかと紙が貼られた。


『ママじゃんカフェ・接客練習会場』


「なんか、予行演習にしては本気じゃない?」


 タクトがトレーを持ちながらおどおどしている。

 背中は、いつでも出る準備万端みたいにモゾモゾしていた。


「だって、本番もここが店内だし」


 風間が、紙の位置を微調整しながら言う。


「まずはクラス内で接客練習して、

 “ヤバそうなポイント”洗い出そう」


「ヤバそうなポイント?」


「こはねの筋肉暴走、

 ヒヨリの膝パサッ、

 タクトくんの背中トーク、

 ケンタくんの変なツッコミ暴発」


「最後だけ雑に詰め込んだな」


 こはねは、すでにエプロンを装備済み。


「いらっしゃいませ顔も練習しないと」


 にこーっと笑う。

 守る気持ちが百パーセント顔に出てて、逆にちょっと怖い。


 ヒヨリも、ちょっと控えめなエプロン姿で立っていた。


「……いらっしゃいませ」


 小さく言った瞬間、


 ――パサッ。


 膝から、ちいさな翼が顔を出した。


「セット技みたいになってるな」


「“いらっしゃいませパサッ”出ちゃう……」


「かわいいから、そのままでいいんじゃない?」


 こはねは、完全に推していた。


◆ ◆ ◆


■ 模擬客、腹村先生(地獄)


「じゃ、最初の“お客さん”、入ってきてくださーい」


 風間が教室の扉に向かって声をかける。


 ガラッ。


 入ってきたのは――


「おいマジか」


 腹村先生だった。


 上着を脱いで、

 ネクタイをゆるめて、妙にくつろいだ顔をしている。


「いや~仕事のあとに一杯……じゃなくて、

 オムライスでも食いたくなる時間だなぁ~」


「演技が妙にリアルなんだよ」


「接客練習だからな。

 教師がいちばんめんどくさい客やってやる」


 宣言が物騒だった。


「ほら、接客係、スタンバイ」


 風間が目で合図してくる。


「……よし」


 こはねが一歩前へ。


「いらっしゃいませ! ママじゃんカフェへようこそ!」


 声がデカかった。


「ここは、あなたの心と胃袋を守る店です!」


「キャッチコピーが重い」


 腹村先生が、わざとらしく眉を上げる。


「お、元気だな。

 じゃあ、いちばん人気のメニューは?」


「“守るオムライス”です!」


 即答。


「ご注文は?」


「じゃ、それ」


「かしこまりました!

 守ってきます!!」


「持ってきます、だろ」


 ツッコミが追いつかない。


◆ ◆ ◆


■ 厨房もカオス


 教室の後ろ半分は、“なんちゃって厨房”になっていた。


「注文入りました! 守るオムライス一丁!!」


 こはねが元気よく叫ぶ。


「声が体育会」


 ヒヨリが、慌ててフライパンを温める。


「きょ、今日は試作用の冷凍ライスでいいんだよね?」


「うん。

 味はそこそこ、見た目全力で行こう」


「見た目全力……」


 ヒヨリの膝の横で、

 ――パサッ。


 ちび翼が、ちょっと緊張気味に震えた。


「ほら、パサッで油飛び散らないように気をつけろよ」


「そんな機能ついてないから!」


 俺は、ケチャップボトルを構えて待機。


「ケンタくん、

 “怖くない赤”でいこうね」


「もうその表現、定着させる気か」


 卵が焼けて、オムライスが皿に乗る。


 ケチャップ、

 深呼吸、

 全集中。


 きゅっ。


 ちいさなハート。


「よし、今日は安定してる」


「ケンタくん、いい感じ!」


 こはねが親指を立てる。


 そこへ、背中から声。


「ただいま、“ケチャップ事件克服度”、

 80パーセントで~す!」


「残り20パーセント、何が足りないんだよ」


「ロマンですねぇ」


「いらないな」


◆ ◆ ◆


■ 過保護接客、発動


「お待たせしました~!

 守るオムライスです!」


 こはねが、盆を持ってテーブルへ。


 その後ろから、なぜか俺もついていく形になった。


(なんで二人がかりなんだろ)


 腹村先生が、わざとらしく腕を組んで待っている。


「さて、お味はいかがかな~?」


 こはねが、オムライスをテーブルの上に置く。


「熱いので、気をつけてくださいね」


「お、親切だな」


「やけどしそうだったら、すぐ言ってください。

 フーフーしますので」


「サービスが近い」


「あと、スプーン落としそうになったら、

 わたしがキャッチしますので」


「反射神経まで担保するな」


「食べてる途中で泣きそうになったら、

 話も聞きますので」


「何があった前提なんだよ」


 過保護すぎて、

 もはやオムライスが主役じゃなくなってきた。


 腹村先生は、わざとらしくスプーンを持ち上げる。


「じゃ、一口――」


 その手が、わざとぶるっと震えた。


「おっと、落としそうだ」


「はいっ!」


 こはねが即座に反応。

 マジでスプーンを片手でキャッチした。


「……本当に取るんだ」


「守る係ですから!」


 胸を張るママじゃん。


 先生は苦笑いしながら、

 オムライスを一口。


「……普通にうまいな」


「“普通に”って言葉、最高の褒め言葉だぞ」


 風間が、後ろからニヤニヤしつつメモを取っていた。


◆ ◆ ◆


■ ちび翼、挙動不審


「次、ちび翼パンケーキいってみようか」


 風間が、今度は“客役”に回る。


「じゃ、僕が甘いもの注文するね」


 席についた風間のところへ、

 ヒヨリがオロオロしながら近づく。


「い、いらっしゃいませ……

 ご注文は……」


「おすすめは?」


「えっと……

 “ちび翼パンケーキ”です……」


 ――パサッ。


 膝の翼が、自己アピールのようにのぞく。


「宣伝入ったな」


「セットで出ないで……」


 厨房から運ばれてきたパンケーキは、

 粉砂糖の翼もしっかりきれいにできていた。


「おお。

 見た目、だいぶいいね」


 風間が、フォークを手に取る。


「じゃあ、いただきます」


 その瞬間。


「ま、ま、待ってください!」


 ヒヨリが、反射的に身を乗り出した。


「え?」


「その……

 最初の一口は、

 右側の翼から食べてほしい……です」


「こだわり強いな!?」


「ちゃんと見た目整えたから……

 バランスよく食べてくれたら、

 うれしいなって……」


 ――パサッ。


 膝から、めちゃくちゃわかりやすい“本音パサッ”。


 風間は、素直に右の翼のほうから切り取る。


「はい、右から」


 一口食べて、頷いた。


「うん。

 “きれいに作った人の味”がする」


「どんな味それ」


 ヒヨリの顔が、一気に赤くなる。


 膝の翼は、

 パタパタパタ……と小刻みに震え続けていた。


「……ひざ、挙動不審だぞ」


「ほっといて……!」


◆ ◆ ◆


■ 背中アナウンス、大暴走


 最後は、ドリンクと全体の流れの確認。


「じゃあ、タクトくんの“心ほぐれソーダ”お願いします」


 風間が、注文役を続投する。


「は、はい……」


 タクトが、おぼつかない手つきでグラスを運んでくる。


 炭酸とシロップと、

 ちょっとした柑橘の香り。


「見た目、けっこうオシャレじゃん」


「がんばりました……」


 その背中が、誇らしげにピクッと動く。


「はい、ただいま~!」


 おじさんの声が、

 なぜか教室のど真ん中に響き渡った。


「ママじゃんカフェ本日のおすすめは~

 “守るオムライス”と“ちび翼パンケーキ”、

 そして“心ほぐれソーダ”で~す!」


「急に店内アナウンス始まった」


「背中から放送やめて!?」


 タクトがあたふたしている。


 おじさんは調子に乗って続けた。


「なお、本日ソーダを頼んだ方には~

 “がんばりすぎ注意報”が発令されておりま~す!」


「なにそれ」


「“守りすぎて疲れないように、

 ちょっと肩の力抜きなさい”ってことですねぇ~!」


 こはねとヒヨリが、

 同時に「ドキッ」とした顔をしていた。


 膝から、

 ――パサッ。


 肩から、

 ムキッ……と筋肉がちょっとふくらみかけた。


「待て、筋肉は今いらないだろ」


「反射で……!」


 こはねがあわてて力を抜く。


 風間が、笑いながらメモを閉じた。


「うん。

 タクトくんの背中アナウンス、

 “1時間に1回まで”ってルールにしようか」


「回数制限ついた……」


「聞きすぎると、心が持たないからね」


◆ ◆ ◆


■ 終了後のダメ出し会(わりと本気)


 ひととおりの流れが終わって、

 教室の前で「反省会」。


「じゃ、よかった点と、やばかった点まとめよう」


 風間が、板書モードになる。


「まず、よかった点」


 チョークが走る。


『・守るオムライス、味は合格

 ・ちび翼パンケーキ、見た目も味も好評

 ・心ほぐれソーダ、名前以外は好評

 ・ママじゃんのキャッチは元気』


「“名前以外は好評”って地味にひどくない?」


「じゃあ、やばかった点」


 もう一列。


『・ママじゃん接客:守りすぎ

 ・ケンタくん:ツッコミ量が多い

 ・ヒヨリ:膝パサッの頻度が高い

 ・タクト:背中アナウンスがうるさい』


「全員なんかしら刺さってるな」


 こはねが、手を挙げる。


「守りすぎって、たとえば?」


「“スプーン落としたらキャッチします”とか

 “泣きそうだったら話聞きます”とか」


「いいサービスでしょ?」


「方向はいいけど、

 初対面のお客さんには、

 “距離感バグってる”って思われるかもね」


「距離感バグってる……」


 こはねが、ちょっとだけしゅんとする。


「じゃあ、“キャッチします”は、

 ケンタくん限定にする」


「俺限定でやるな」


「ケンタくんは、落としそうだもん」


「偏見だな」


 ヒヨリも、おそるおそる聞く。


「わたしの“膝パサッ頻度”は……?」


「かわいいけど、

 あんまり出すとこっちも慣れて麻痺するから、

 “ここぞのパサッ”まで抑えたほうがいいかも」


「ここぞのパサッ……」


 膝の翼が、

 ちょっとだけ“ここぞじゃないパサッ”をしてしまった。


「今のは練習だからノーカン」


「ノーカンほしい……」


 タクトは、背中をさすりながら反省中。


「アナウンス……

 そんなにうるさかったですか」


「最後、“本日のおすすめ”言ったあと、

 ちょっとした静寂が怖かった」


「恥ずかしくて黙りました……」


 背中のおじさんが、

 申し訳なさそうに顔を出す。


「じゃあ本番は、“開店五分前”と“閉店五分前”だけにしますね~」


「そう、それくらいがちょうどいい」


◆ ◆ ◆


■ ツッコミも守り方の一つ(たぶん)


 解散前。


 教室の片隅で、こはねと並んで座りながら、

 今日のことを思い返していた。


「ケンタくん、

 今日いっぱいツッコんでくれてありがとう」


「いや、ただうるさくしゃべってただけだぞ」


「それがいいんだよ」


 こはねは、机にほっぺを乗せて笑う。


「わたしさ、

 “やりすぎてるな”って自分で思ったときに、

 ケンタくんがツッコんでくれると、

 ちゃんとブレーキかかるんだよね」


「ブレーキ役か、俺」


「うん。

 “守りすぎないように守ってくれる人”って感じ」


「日本語むずかしいな」


 でも、

 そう言われるのは、わりと悪くなかった。


「じゃあ、本番も。

 ママじゃんが過保護になりすぎたら、

 全力でツッコむわ」


「約束ね」


 こはねが、笑って小指を出してきた。


「なにそれ」


「“ツッコミで守る契約”」


「契約書、軽いな」


 それでも、小指をからめる。


 いつの間にか、

 ヒヨリも、少し離れた机でひざを抱えて座っていた。


 膝の横で、

 ――パサッ。


 ちいさな翼が、

 今日いちばん、静かな形でひらいた。


「ヒヨリちゃんも」


 こはねが声をかける。


「“ここぞパサッ”、本番で見せてね」


「……うん」


 ヒヨリは、小さくうなずいて笑った。


「ケンタくんも、

 たまに、

 “ツッコミじゃなくて褒めるほう”も、

 ここぞでお願いします」


 膝パサッ。


「ハードル高い注文きたな」


「がんばって」


 タクトの背中からも、

 ひょこん、と顔が出る。


「はい~。

 ツッコミとパサッとこんにちはで、

 文化祭当日も、

 ちゃんと“守りすぎて笑える一日”にしていきましょ~!」


「まとめ方だけはうまいんだよな」


 鶏頭。

 ママじゃん。

 背中からこんにちはおじさん。

 膝パサッ翼。


 準備でバタバタしながらも、

 笑いながらツッコミ入れて、

 パサッと翼がひらいて、

 ときどき筋肉がムキッと出て。


 その全部ひっくるめて――


「まぁ、なんとかなるか」


 そう思えるくらいには、

 ママじゃんカフェの予行演習は、

 ちゃんと賑やかで、ちゃんとバカバカしくて、

 ちゃんと楽しかった。


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