第12話「ママじゃんカフェ爆誕!? 試作なのに本気出しすぎ問題」
文化祭まで、あと三週間。
朝、教室の後ろを見て、俺は二度見した。
『2年B組
出し物:守る/つなぐ展示付きカフェ
店名:ママじゃんカフェ(確定)』
「確定してるーーーー!?」
思わず叫んだ俺の横で、
こはねが、めちゃくちゃ誇らしそうな顔をしていた。
「やったねケンタくん。
学校公認ママじゃん」
「喜ぶの、お前ひとりだからな?」
前の席のヒヨリが、振り返る。
「“ママじゃんカフェ”って、
初見の人どういう気持ちで入るんだろうね……」
「“ママが出てくるの? マッチョ?”ってなるやつだな」
ヒヨリの膝の横で、
――パサッ。
ちび翼が、ちょっとだけひらいた。
「今の、“ちょっと面白いパサッ”だろ」
「読み上げないで……!」
◆ ◆ ◆
■ ホームルーム、すでにカフェ会議
「はい席つけー。
さっき貼った紙見たな?」
腹村先生が入ってきて、出席簿をバンッ。
「店名“ママじゃんカフェ”で職員会議通しておいたから」
「ほんとに通したの!?」
「“あのクラスならまぁいいだろ”って言われた」
ひどい理由だった。
「じゃ、今日はメニュー決めるぞ。
“守る/つなぐ”テーマ忘れんなよ」
風間がすっと前に出る。
「進行やるよ。
まずは主食系から」
「はい!」
こはねが一番に手を挙げた。
「“ママじゃん守るオムライス”やりたいです」
「早いなママじゃん」
「お皿の真ん中にハート描いて、
“ここから内側は安全”っていうゾーンにするの」
「結界オムライスかよ」
教室のあちこちから、「いいじゃん」「食べたい」の声。
タクトが、おそるおそる手を挙げる。
「その……ケチャップ量だけ、ほんとに気をつけてください……」
背中が、もぞっ。
「はいこんにちは~~~!
去年の“床一面ケチャップ事件”、
おじさん忘れてませんよぉ~!」
「忘れててほしかった記憶トップ3だよそれ!!」
笑いが一斉に起きる。
風間が黒板に書き込んだ。
『・ママじゃん守るオムライス(ケチャップ量要相談)』
「次、甘い系」
「はい!」
今度はヒヨリが手を挙げた。
「“ちび翼パンケーキ”はどうですか」
「名前の時点でかわいい」
「粉砂糖を、羽みたいな形にふりかけて……
たまに一枚だけ色つきクッキー乗せるの」
「当たり付き!?」
「当たり引いた人には、
ママじゃんの“守る一言メモ”つける」
こはねが、ここぞとばかりに乗ってくる。
「“ちゃんと寝ろ”とか、“水飲め”とか、“ケンタくんを大事にしろ”とか」
「最後の完全に余計だろ」
ヒヨリの膝のあたりで、
――パサッ。
またちび翼。
「今の、“採用されたらうれしいパサッ”だな」
「ケンタくん実況禁止!」
風間が、さらに書き足す。
『・ちび翼パンケーキ(粉砂糖羽・当たりクッキー付き)』
「飲み物は?」
タクトが、おそるおそる。
「“心ほぐれソーダ”とか……」
背中から即座に声。
「おすすめは“背中スカッとソーダ”で~す!」
「やめて、名前からして炭酸強そう!」
「“鶏頭ブレンドコーヒー”とかもいいんじゃない?」
風間がさらっと言う。
「うちのクラスの象徴として」
「俺の頭を象徴として使うな」
「カップに小さいトリの絵つけるだけだから。
本人は抽出されない」
「描くのはいい」
こうして、謎にキャラの濃いメニューたちが決まっていった。
◆ ◆ ◆
■ 試作会、なぜか会場は俺んち
問題は「どこで試作するか」だった。
「家庭科室、他のクラスも予約入れてるしなぁ」
「じゃあ、家じゃない?」
ここで風間の視線が、ゆっくりとこっちに向いた。
「鶏谷んち、前もお世話になったし」
「やめろ、“前も”を強調するな」
「ケンタくんち、コンロ3口あるし」
こはね、なぜキッチン情報まで把握してる。
「……いちおう、親に聞いてみる」
◆
帰宅して事情を話すと、
うちの母さんは、食い気味に即答した。
「いいじゃない! ママじゃんカフェ試作会!」
「正式名称に“ママじゃん”入れないで」
「またあの筋肉ちゃん来るんでしょ?
あと、背中から出てくる人と、
膝から羽生える子と、イケメンと、鶏頭の集まりでしょ?」
「ラスト一個おかしいだろ」
「ケチャップは買い足しておくから」
「トラウマ刺激しないで」
◆ ◆ ◆
■ 鶏谷家キッチン、ママじゃん VS 母
そして土曜日。
「おじゃましまーす」
玄関に並ぶ四人。
こはね、ヒヨリ、タクト、風間。
母さんは、テンション高く出迎えた。
「いらっしゃい!
ママじゃんカフェのみなさんね!」
「は、はい! ママじゃんです!」
こはね、即答。
「ひざ翼です……」
ヒヨリ、謎の自己紹介。
「背中からこんにちはおじさんです!」
タクトの背中から、おじさんが名乗る。
「名乗るな!」
風間は、いつもの余裕顔で頭を下げた。
「鶏谷くんの観察係です」
「職業みたいに言うな」
母さんは、目を輝かせていた。
「うちの子の交友関係、最高に楽しいわね……」
ヒヨリの膝の横で、
――パサッ。
「今の、“親ウケ良くて助かったパサッ”ですねぇ~」
「背中の人、翻訳しないでください!」
◆ ◆ ◆
■ 守るオムライス、ケチャップとの再戦
「じゃ、さっそくキッチン借ります!」
こはねが、エプロンを装備した。
例のハート柄ママじゃんエプロンである。
ヒヨリも、その横で控えめな花柄エプロン。
俺とタクトと風間は、サポート側。
「ケンタくんは、ケチャップ係ね」
「一番危ないポジション任せるなよ」
「リベンジのときだよ。
“マイルドケチャップ”を身につけるチャンス」
フライパンから、
じゅ~~っと卵が焼ける音。
こはねとヒヨリの連携で、
最初のオムライスが、きれいに皿の上に乗る。
「はい、ケンタくん」
ケチャップボトルが手渡される。
――思い出すのは、あの日の血の海。
いや、ケチャップの海。
「だいじょうぶ。
今日は、ケンタくんならできる」
こはねが、なぜかスポ根みたいな目をしていた。
「そこまでのハードルかこれ」
深呼吸して、
“事件にならない量”をイメージしながら、
そっと絞り出す。
きゅっ。
真ん中に、小さめのハート。
「……お」
「いい!」
こはねが、すぐ横でガッツポーズ。
「“かわいいけど怖くない赤”だよ!」
「怖くない赤ってカテゴリ初めて聞いたぞ」
風間が、メモしながら言う。
「“ケチャップ量:及第点”」
「評価の基準そこなの?」
タクトが、恐る恐るオムライスをひと口。
「おいしいです。
“守られてる気がする味”します」
背中から。
「はい~、“家庭の味+青春スパイス”入りました~!」
「言い方は好きだけど黙ってて」
◆ ◆ ◆
■ ちび翼パンケーキ、大量発生の危機
「次、ヒヨリちゃんの番」
こはねが、パンケーキミックスを持っていく。
「“ちび翼パンケーキ”だよ」
「名前決定してるんだね……」
ヒヨリは、エプロンの紐をきゅっと握って、
ボウルに卵と牛乳を入れる。
「混ぜるのは得意なんだ」
くるくると、生地がなめらかになっていく。
焼き上がったパンケーキを、
皿の上に二段重ね。
「ここに、粉砂糖……」
茶こしを通して、
ふわふわと白い粉が降りそそぐ。
左右に小さく羽の形。
「おー」
「うお、想像以上にちゃんと翼だ」
「ちょっと楽しい……」
――パサッ。
膝の横から、本物のちび翼。
「シンクロしてるな、おい」
「そういう仕様じゃないんだけど……!」
風間が、じっと観察しながらメモる。
「“粉砂糖を降らせると、きまって膝からもパサッと出る”」
「そこ、展示に書かなくていいから!」
タクトが、パンケーキを一口。
「ふわふわです。
“パサッ”って感じの味ですね」
「味の擬音おかしくない?」
背中から。
「ただいま、“満足パサッ”三回分くらい出てま~す!」
「おじさん、パサッを数で数えないで!」
◆ ◆ ◆
■ 鶏頭ブレンドと、母 VS ママじゃん
「飲み物も、ちょっと作ってみる?」
風間が、コーヒーの粉を取り出す。
「鶏頭ブレンド、軽めにね」
「だから誰の頭から抽出してる設定なんだよ」
「イメージだけだよ」
そこへ、母さんがリビングから顔を出した。
「様子見にきたけど……
なにそのかわいい光景」
キッチンに、エプロン二人、鶏頭一人、背中のおじさん。
「背中から出てる人もいるわね」
「見えてるんだ……」
おじさんが、笑顔で手を振る。
「どうも~。
息子さん、とてもいいツッコミしますよ~!」
「褒められてるのかこれ」
母さんは、こはねのエプロンを見て言った。
「二人口さん、
“ママじゃん”って呼ばれてるって聞いたんだけど」
「はい。ママじゃんです!」
「じゃあ、今日は“ママじゃん先輩”として一言いい?」
「先輩……?」
母さんは、にこにこと笑って、
こはねの肩にぽんと手を置いた。
「守るごはん、
自分が倒れないペースで作るんだよ」
「あ」
唐突に、現実的なアドバイス。
「ケンタの分守るのは大歓迎だけどね。
自分のこと守るママじゃんじゃないと、長続きしないから」
「……はい!」
こはね、なぜか体育会系の返事。
ヒヨリの膝の横で、
――パサッ。
「今の、“いいこと言われたパサッ”でしょうねぇ~」
「背中の人、ちょくちょくまとめ入れてくるのやめて」
◆ ◆ ◆
■ 片付けタイムもギャグ祭り
試作&試食が一通り終わって、片付けに突入。
「皿洗いわたしやる」
「スポンジはわたしが」
「床の粉砂糖、俺が」
自然と役割分担が決まる。
シンクで並ぶ、こはねとヒヨリ。
「本番、緊張するね」
「うん……
わたし、注文聞くときに膝パサッしそう」
「かわいいからいいよ」
「かわいいで済めばいいけど……」
――パサッ。
「はい出た。イメトレパサッ」
「ケンタくん、いちいち実況しないの!」
タクトは、グラスをふきながら背中をさする。
「ぼく、当日背中の人がしゃべりすぎたら止めないと……」
「やめて~、おじさんの存在意義~」
「ほどほどにしてくださいよ……」
風間はノートをまとめながら、全体を見て笑った。
「けっこう形見えてきたね。
“ママじゃんカフェ”、
予想以上に本格的かもしれない」
「店名とのギャップすごいけどな」
◆ ◆ ◆
■ 帰り道、“守る”もギャグにする
外はもう、すっかり夕方になっていた。
玄関で靴を履きながら、
ヒヨリが小さく言う。
「……楽しかった」
膝の横で、
――パサッ。
ちび翼が、今日いちばん自然にひらいた。
「今のは、“楽しかった”パサッだろ」
「うん、それは認める……」
タクトの背中から、おじさんが顔を出す。
「はい~、本日の“楽しいパサッ”、
合計12回でーす!」
「数えてたの!?」
「暇だからねぇ」
みんなと別れて、
こはねとふたりで歩く帰り道。
「ケンタくん」
「なに」
「今日のケンタくん、
“ケチャップ守る係”として優秀だったよ」
「そこ評価されてもなぁ」
「ケンタくんがほどよくしてくれないと、
わたし絶対やりすぎるからね」
「まぁ、そうだな」
「当日もさ。
わたしがテンション上がりすぎて、
筋肉とかケチャップとか翼とか、
いろいろ暴走しかけたら」
「最後の翼はヒヨリのだろ」
「まとめて“落ち着け”ってツッコんでね」
それは、
ものすごく俺っぽい役目だと思った。
「それくらいなら、余裕だな」
「よーし」
こはねが、ぐっと拳を握る。
「文化祭、
“守りすぎるママじゃん”と
“ツッコミで守るケンタくん”でいこ」
「守り方のジャンルが芸人寄りなんだよ」
そう言い合いながら笑っていると、
少し前を歩いていたヒヨリが、振り返って手を振った。
「月曜日、試作第2弾ねー!」
その膝の横で、
夕焼け色をまとったちび翼が、
――パサッ。
と、短くひらいた。
鶏頭。
ママじゃん。
背中からこんにちはおじさん。
膝パサッ翼。
文化祭準備の空気は、
不安より先に笑い声でいっぱいで。
「守る/つなぐ」なんて立派なテーマも、
このメンバーでやると、
どうしてもギャグ寄りになるんだろうな、と。
ちょっとだけおかしくて、
でも、悪くないと思った。




