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第6章 記録を超えて

 「そして、最も重要なのは、三人の絆だ」


 藤堂先生は真剣な表情で三人を見つめた。


 「過去の観測者たちの記録によれば、『三位一体』の力が最も強大な防壁になる」


 「三位一体?」


 陽太が尋ねる。


 「時を操る者、物を創る者、真実を見る者——つまり君たち三人だ」


 学園長が説明した。


 「アルスティア王国のシルヴァーナの予言と同じね」


 美咲が思い出したように言った。


 「『天の三輪』が揃えば『記録を超える力』が生まれる」


 「正確には」


 学園長が古い本をめくりながら続けた。


 「『時空の紡ぎ手』『創造の鍵』『観測の目』——三つの力が一つになったとき、記録の力を超える力が生まれる」


 「でも、どうやって……」


 香織が言いよどむ。


 「具体的に何をすればいいの?」


 「まずは特訓だ」


 藤堂先生がきっぱりと言った。


 「三人の力を個別に強化し、そして共鳴させる訓練をする」


 学園長は立ち上がり、窓の外を見た。


 「一週間しかない。集中的に行わなければならない」


 「授業は?」


 陽太が心配そうに尋ねる。


 「特別措置を取る」


 藤堂先生が言った。


 「三人は当面、通常授業を免除し、特別訓練に専念する」


 そうして、三人の特訓が始まった。学園の奥にある特殊訓練場で、彼らは自分たちの能力を極限まで高める訓練に取り組んだ。


 陽太の魔眼は、地球上では異世界ほど強力ではなかったが、それでも通常の観察能力を遥かに超えていた。彼は魔眼を使って様々な物体の本質を見抜く訓練を重ねた。特に「記録」の力を感じ取り、理解する能力を高めることに集中した。


 「観測することは、ただ見るだけではない」


 学園長が指導する。


 「観測することで、対象との間に『記録の糸』が生まれる。その糸を通じて、対象の本質を理解し、時には影響を与えることができる」


 陽太は集中し、目の前に置かれた水晶を見つめた。魔眼を開き、水晶との間に生まれる「記録の糸」を感じ取ろうとする。微かに金色の光が見え始めた。


 「感じる……」


 彼はつぶやいた。水晶から自分へと繋がる細い糸が見えていた。


 「よし、次は『読み取り』だ」


 学園長の指示に従い、陽太は糸を通じて水晶の情報を読み取ろうとした。すると、水晶の歴史、構成、さらには内部のエネルギーの流れまでが見えてきた。


 「すごい……」


 彼は驚きの声を上げた。これが「観測」の真の力だった。


 一方、美咲は「神域展開」の力をさらに深く理解する訓練を行っていた。


 「神域は単なる空間操作ではない」


 藤堂先生が説明する。


 「本質的には『時空の支配』。空間だけでなく、時間の流れにも干渉できる」


 美咲は手を伸ばし、青い光の球を形成した。その中で、落下する砂時計の砂が、通常よりもゆっくりと落ちていく。


 「時間を遅らせることができる……」


 彼女は集中力を高め、砂の落下を完全に停止させた。その瞬間、左腕の青い模様が鮮やかに光った。


 「素晴らしい」


 藤堂先生が頷いた。


 「時間の制御は、邪神との戦いで重要な武器になる」


 香織は「創世魔法」の新たな可能性を探っていた。


 「創世魔法は、無から有を創り出す力ではない」


 エルフの言語に詳しい教師が指導する。


 「それは『可能性の具現化』。存在し得るものを、現実に呼び出す力だ」


 香織はその言葉を胸に刻み、手のひらから光の粒子を放出した。それは様々な形を変えながら、やがて小さな生き物の姿を取った。


 「ピュルと同じね……」


 彼女は微笑んだ。アルスティアで創り出した小さな竜を思い出していた。背中が熱くなり、隆起が脈打つような感覚があった。


 「でも、もっと複雑なものも……」


 彼女は集中し、今度はより精密な機械のような物体を創り出した。歯車が組み合わさり、実際に動く精巧な装置。


 「素晴らしい進歩ね」


 教師が感心して言った。


 特訓の合間に、三人は未来の記憶から邪神についての情報を探ろうとした。美咲と香織の記憶は断片的だったが、それでも少しずつ像が結びつつあった。


 「邪神は『記録の狭間』から来る」


 美咲が思い出した。


 「世界の記録が歪むことで生まれた存在。記録そのものを破壊しようとする」


 「なぜ?」


 陽太が尋ねる。


 「記録を破壊すれば、自由になれるから」


 香織が答えた。彼女の目には恐怖の色が浮かんでいた。


 「邪神は『記録の狭間』に囚われた存在。記録が消えれば、全てを支配できる」


 「記憶にある邪神の姿は……」


 美咲が眉をひそめる。


 「言葉で表現できないほど禍々しい。見ただけで正気を失いそうになる」


 「目が……たくさんの目」


 香織が震える声で言った。


 「体じゅうに目が……そして、その目は全てを見ている」


 三人は情報を整理し、「記録の狭間」と邪神の関係を理解しようとした。そして特訓の三日目、陽太が「世界の記録」の中に、今までは見えなかった一節を発見した。


 「これは……」


 彼は驚きの声を上げた。


 「黒き観測者からのメッセージ」


 美咲と香織が彼の元に駆け寄った。本のページには、彼らが神殿を去った後に書き加えられたと思われる文章があった。


 『陽太へ。そして美咲、香織へ。  君たちが去った後、私は最後の使命として、邪神に関する情報を記す。  邪神は『逆観測者』。記録から生まれながら、記録を破壊しようとする矛盾した存在。  彼らは私と同じく、君たちの未来から来ている。観測者の力が暴走した結果だ。  邪神の弱点は『記録の糸』にある。彼らを現実に繋ぎとめている糸を見出し、三人の力で切断せよ。  最後に。陽太、決して一人で抱え込むな。それが私の最大の過ちだった。』


 三人は重い沈黙に包まれた。黒き観測者の最後のメッセージは、彼の深い後悔と、彼らへの警告を含んでいた。


 「記録の糸……」


 陽太がつぶやいた。


 「僕の魔眼で見える、あの糸のことか」


 「三人の力で切断する……」


 美咲が思案顔で言う。


 「どうやって?」


 「やってみるしかない」


 香織が決意を込めて言った。


 「でも、それより何より」


 彼女は陽太の手を取った。


 「一人で抱え込まないこと。これは三人で戦う」


 美咲も同意して頷いた。


 「私たちは一緒よ。どんな時も」


 陽太は二人の手を握り返した。彼の心に温かさが広がる。未来の自分とは違う道を歩む決意が、さらに強まった。


 特訓は続き、三人の力はさらに高まっていった。そして、ついに「三位一体」の訓練が始まった。三人の力を同時に発動し、共鳴させる難しい訓練だ。


 「三人で円になって」


 学園長が指示する。


 「それぞれの力を発動し、中心に向けて集中させてください」


 陽太、美咲、香織は三角形に並び、互いの手を取った。陽太が魔眼を開き、美咲が神域を展開し、香織が創世魔法を発動する。


 最初の数回は失敗だった。力が干渉し合い、制御不能になる。しかし、彼らは諦めなかった。何度も試し、少しずつ感覚をつかんでいった。


 特訓の六日目、ついに三つの力が共鳴し始めた。陽太の金色の魔眼の光、美咲の青い神域、香織の七色の創世魔法が中心で混ざり合い、新たな光を生み出した。それは純白の輝き。三つの力を超えた、新たな可能性を示す光だった。


 「これが……三位一体」


 学園長が感嘆の声を上げる。


 「記録を超える力だ」


 三人は力を維持することに成功し、その感覚を体に刻み込んだ。これが邪神との戦いの切り札になる。


 そして、星の巡りの前日。三人は学園の屋上で夜空を見上げていた。明日に迫った戦いへの緊張と決意が、彼らの心を満たしていた。


 「いよいよ明日だね」


 香織がつぶやいた。


 「恐い?」


 「ええ、もちろん」


 美咲が正直に答えた。


 「でも、それ以上に、守りたいという気持ちの方が強い」


 「僕も同じだ」


 陽太は「世界の記録」を抱きしめた。


 「未来で起きた悲劇を、僕たちは変える。黒き観測者のようにはならない」


 「私たちは一緒だもの」


 香織が笑顔で言った。


 「どんなに厳しい戦いになっても、一人じゃない」


 三人は互いを見つめ、静かに頷いた。かつてないほど強い絆を感じていた。それは未来からの贈り物。黒き観測者と未来の美咲、香織の犠牲によって得られた、かけがえのない絆だった。


 「さあ、少し休もう」


 陽太が提案した。


 「明日は、最大の戦いになる」


 三人はそれぞれの寮に戻り、来るべき「星の巡り」の日に備えた。明日、彼らの運命が大きく動き出す。






6-1 絆の証明


 星の巡りの日の朝、陽太は不吉な夢から目覚めた。夢の中で黒き観測者が彼に警告している。「選択を誤るな」と。


 汗にまみれて起き上がると、窓から見える空は不自然な色に染まっていた。紫がかった青空。雲も通常とは異なり、渦を巻くように動いている。


 「始まっている」


 彼は魔眼を開いた。通常は見えないはずの「記録の糸」が、空気中に漂っているのが見える。それらは乱れ、時に切れたり結びついたりしていた。世界の記録が不安定になっている証拠だ。


 急いで支度を整え、陽太は「世界の記録」を抱えて美咲と香織の待ち合わせ場所へと向かった。学園の中庭に着くと、二人は既に来ていた。彼女たちの表情には、明らかな緊張が見えた。


 「おはよう」


 陽太が声をかける。


 「陽太くん、空を見て」


 美咲が上を指差した。空の一点から、微かに亀裂のようなものが広がりつつあった。それは薄い糸のような線で、肉眼では見えないほど細いが、陽太の魔眼には鮮明に映っていた。


 「記録の狭間への入り口が開き始めている」


 彼が言う。美咲の左腕の青い模様が、今朝は特に鮮やかに光を放っていた。香織も背中に手を回し、顔をしかめる。


 「背中が熱い……何かが出てきそうな感じがする」


 「二人とも大丈夫?」


 陽太が心配そうに尋ねる。


 「ええ、痛みはないわ」


 美咲が答える。


 「でも、力が増しているのを感じる。左腕が、まるで何かを求めているみたい」


 「どんな……」


 陽太の言葉が途切れた。突然、強い頭痛に襲われたのだ。目の前がチカチカし、一瞬、黒き観測者の姿が見えたような気がした。


 「陽太くん!」


 美咲が彼を支える。


 「魔眼が……反応している」


 彼は苦しそうに言った。金色の光が、彼の目から漏れ出していた。


 「落ち着いて」


 香織が優しく声をかける。


 「ゆっくり深呼吸して」


 陽太は二人の声に導かれるように深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。頭痛が徐々に収まっていく。


 「ありがとう。大丈夫だよ」


 彼が言うと、校内放送から学園長の声が響いた。


 「全校生徒に告ぐ。本日は特別警戒日とする。全ての生徒は教室に待機せよ。特別な指示があるまで、校舎外への外出を禁止する」


 三人は顔を見合わせた。学園長は一般の生徒たちを守るための措置を取っていた。


 「学園長室に行きましょう」


 美咲の提案に、三人は急いで校舎へと向かった。廊下を歩く途中、周囲の空気が変わり始めるのを感じた。壁や床が微かに振動し、窓ガラスが不規則に揺れる。


 「記録が乱れている」


 陽太が魔眼で観察する。


 「あのとき、アルスティア王国で感じたのと同じだ」


 「ええ、あの時もこんな感じだった」


 美咲が同意する。


 「でも今回は、私たちには経験がある」


 「そう、前回とは違うわ」


 香織が力強く言った。


 「私たち、もう無力じゃないもの」


 学園長室に着くと、蓮見学園長と藤堂先生が緊張した面持ちで彼らを待っていた。


 「良かった、無事か」


 学園長が安堵の表情を見せる。


 「状況は?」


 陽太が尋ねる。


 「予想通り、空に亀裂が広がり始めている」


 学園長が窓の外を指す。


 「正午には最大になる。そのとき、『記録の狭間』への入り口が完全に開く」


 「そして、邪神が現れる」


 藤堂先生が厳しい表情で付け加えた。


 「学園の生徒たちは?」


 美咲が心配そうに尋ねる。


 「特別な結界で守られている」


 藤堂先生が答える。


 「しかし、それも長くは持たないだろう。邪神の力は強大だ」


 「僕たちは何をすればいいですか?」


 陽太が尋ねる。学園長は大きな地図を広げた。それは学園の詳細な見取り図で、中央に赤い印が付けられていた。


 「グラウンドの中央。そこが亀裂の中心になる」


 学園長が説明する。


 「そこで、邪神と対峙することになる」


 「ただし、気をつけろ」


 藤堂先生が警告する。


 「邪神は、初めから本体を現すわけではない。まず使者や分身を送り込み、世界の記録を乱す」


 「アルスティアでの知識を活かしてください」


 学園長が三人を見つめる。


 「君たちは既に異世界で強大な敵と戦った経験がある。その経験が、今日の戦いでは重要になる」


 三人は頷いた。アルスティア王国での戦いは、彼らに多くの教訓を与えていた。戦術、連携、そして何より、絆の重要性を。


 「準備をしましょう」


 美咲が言った。


 「三位一体の力を最大限に引き出せるよう、調整が必要よ」


 彼らは学園長室を出て、特殊訓練場へと向かった。そこで最後の調整を行うためだ。しかし、廊下の途中で、突然の振動が学園全体を襲った。


 「何が!?」


 香織が驚いて声を上げる。窓の外を見ると、空の亀裂が急速に広がっていた。時計を見る。まだ午前10時。予定より早い。


 「加速している」


 陽太が魔眼で観察する。


 「予想よりも亀裂の拡大が速い」


 「もう準備の時間はないわ」


 美咲が決意を固める。


 「今、行きましょう」


 三人は急いでグラウンドへと向かった。既に校舎内には不気味な空気が漂っていた。廊下の影が不自然に長く伸び、時折、何かが動いたような錯覚を覚える。


 グラウンドに出ると、そこには既に学園長と藤堂先生が立っていた。空に向かって複雑な魔法陣を展開し、亀裂の拡大を抑えようとしているようだった。


 「来たか!」


 学園長が彼らに気づき、声をかける。


 「状況が急変した。亀裂の拡大ペースが、予測の三倍になっている」


 「どうして?」


 陽太が尋ねる。


 「邪神の側に協力者がいるようだ」


 藤堂先生が答える。


 「この世界側から、亀裂を広げようとしている者が」


 その瞬間、空からの轟音が響いた。全員が上を見上げると、紫色の空に巨大な亀裂が走り、その中から禍々しい黒い霧のようなものが漏れ出し始めていた。


 「来るぞ!」


 学園長が警告する。


 「邪神の先触れだ!」


 黒い霧は渦を巻きながら地上へと降下し、やがて人型の姿を形成し始めた。しかし、それは完全な人間の形ではなかった。体のあちこちに目が埋め込まれ、腕は異様に長く、指は鋭い爪のようになっていた。


 「なんて……気持ち悪い」


 香織が顔をしかめる。


 「これが邪神の使者」


 美咲が緊張した表情で言う。


 「真の邪神はこれよりもずっと恐ろしい」


 黒い人影は三体に増え、彼らを取り囲むように動き始めた。その動きは不自然で、まるで関節がないかのように体を曲げる。


 「準備はいいか?」


 陽太が二人に尋ねる。美咲と香織は頷いた。


 「ええ。さあ、行きましょう」


 美咲が左腕を前に伸ばす。青い模様が鮮やかに光り、その腕から青白い光が広がり始めた。


 「神域展開!」


 彼女の周囲に青い光の結界が展開される。それは円形に広がり、三人を包み込んだ。


 「創世魔法・光の武器!」


 香織が創世魔法を発動する。彼女の手の中に光が集まり、それが剣の形になった。背中からは、かすかに光の翼のようなものが見え始める。


 「魔眼・解放」


 陽太も力を解放した。彼の目が金色に輝き、周囲の「記録の糸」が鮮明に見えるようになる。特に邪神の使者から伸びる黒い糸が、空の亀裂へと繋がっているのが見えた。


 「あれが『記録の糸』だ」


 彼が二人に伝える。


 「あの糸を切れば、使者を消せる」


 「了解!」


 美咲は神域を拡大し、使者の動きを鈍らせる。香織は光の剣を振るい、最も近い使者に斬りかかった。剣が当たると、使者は悲鳴を上げ、体の一部が黒い霧となって消えた。しかし、すぐに霧が再形成され、傷が治癒していく。


 「効かない!?」


 香織が驚く。


 「記録の糸が繋がっている限り、再生する」


 陽太が説明する。


 「三人で同時に攻撃する必要がある」


 彼は「世界の記録」を開き、黒き観測者のメッセージを再確認した。三人の力で記録の糸を切断する——それが唯一の方法だった。


 「美咲さん、香織さん、力を合わせる時だ!」


 三人は互いの手を取り、三位一体の力を発動しようとした。しかし、その瞬間、使者の一体が異様な速さで動き、三人の間に割り込んだ。


 「きゃっ!」


 香織が悲鳴を上げる。使者の腕が彼女を捉え、投げ飛ばした。彼女は数メートル先に落下し、うめき声を上げる。


 「香織!」


 美咲が叫ぶ。しかし、彼女も別の使者に襲われ、神域を維持するのに精一杯だった。


 「二人とも!」


 陽太は焦って動こうとしたが、残りの使者が彼の前に立ちはだかる。「世界の記録」が彼の手から落ち、地面に転がった。


 状況は一気に悪化した。三人の連携が崩れ、それぞれが個別に戦うことを強いられる。学園長と藤堂先生も、空の亀裂を抑えることに全力を注いでおり、彼らを助けることはできない。


 「くっ……」


 陽太は歯を食いしばった。このままでは勝てない。三人が力を合わせなければ、使者を倒すことはできない。そして、もし使者を倒せなければ、本体の邪神が現れたとき、彼らには対抗する術がなくなる。


 彼は魔眼の力を最大限に高め、使者の「記録の糸」を観察した。そこに弱点はないか、切断できる箇所はないか。そして、ある発見をした。


 「糸の結び目……」


 彼はつぶやいた。糸には結び目があり、そこが最も弱いようだった。彼はその発見を二人に伝えようとしたが、あまりにも離れていて声が届かない。


 「美咲さん! 香織さん!」


 彼は叫ぶが、戦いの音にかき消されてしまう。どうすれば良いのか。彼は必死に考えた。


 そのとき、彼の脳裏にアルスティア王国での戦いの記憶が蘇った。あのときも、彼らは厳しい状況に追い込まれたが、最後は三人の連携で乗り切った。


 「そうだ……あのときのように」


 彼は魔眼の力を変えた。単に見るのではなく、「記録の糸」を通じて、美咲と香織に直接語りかけようとした。


 「聞こえるか……美咲さん、香織さん」


 彼の思いが、糸を伝って二人に届く。


 「陽太くん?」


 美咲が驚いた表情を見せる。彼女の頭の中に、陽太の声が響いていた。


 「陽太くんの声が……頭の中に?」


 香織も気づいたようだ。


 「二人とも、糸の結び目を狙って。そこが弱点だ」


 陽太の指示が二人に伝わる。美咲と香織は頷き、新たな戦略を理解した。


 「神域転移!」


 美咲が新しい技を使った。神域が形を変え、彼女自身を包み込むと、瞬間的に香織の側へと移動する。


 「一緒に行くわよ!」


 彼女は香織を抱き、再び神域転移を使って陽太の元へと戻った。三人が再び一つになる。


 「今だ!」


 陽太が叫ぶ。三人は手を取り合い、三位一体の力を発動する。金色、青色、七色の光が混ざり合い、純白の輝きとなって広がる。


 「三位一体・記録解放!」


 三人が同時に叫んだ。純白の光が使者たちを包み込み、その「記録の糸」の結び目を狙い撃ちにする。ピシリという音とともに、黒い糸が切れていく。


 「あああああ!」


 使者たちは苦悶の叫びを上げ、体が崩れていく。黒い霧となって消えていくその姿を、三人は固唾を呑んで見つめていた。


 「やった……」


 香織がほっとした声を上げる。しかし、陽太の表情は依然として緊張していた。


 「まだ終わっていない」


 彼は空を指差した。


 使者が消えたのとは反対に、空の亀裂はさらに広がっていた。そして、その中から新たな闇が溢れ出している。それは使者よりもさらに濃く、重く、禍々しい存在感を放っていた。


 「邪神の本体が来る……」


 美咲が震える声で言った。


 「でも、私たちにも力がある」


 香織が励ますように言う。


 「ええ、三位一体の力があるわ」


 美咲も決意を固める。


 「さあ、最後の戦いだ」


 陽太が「世界の記録」を拾い上げた。


 「一緒に立ち向かおう」


 三人は学園の中央に立ち、来るべき邪神に備えた。空からの闇がさらに濃くなり、グラウンド全体を覆い始める。


 「来るぞ!」


 学園長が警告の声を上げた。


 そして、闇の中から「それ」が姿を現した——世界の悪夢、記録の狭間から来た邪神が。


6-2 記録の檻


 闇の中から現れたそれは、人間の言葉では表現し難い禍々しさを持っていた。


 それは概ね人型を保っていたが、あらゆる部分が歪み、不自然な角度で曲がっていた。全身に無数の目が埋め込まれ、それぞれが独立して動き、周囲を観察している。腕は六本あり、指の数も均一ではなかった。最も恐ろしいのは顔だった——というより、顔があるべき場所には巨大な口だけがあり、その中からは絶え間なく黒い液体が滴り落ちていた。


 「な……何これ……」


 香織が恐怖に震える声を上げた。美咲も蒼白になり、言葉を失っていた。陽太でさえ、その禍々しい存在を前に、一瞬凍りついたように動けなくなった。


 「記録の否定者……邪神」


 学園長が震える声で言った。


 邪神はゆっくりと周囲を見回し、やがて三人に視線を向けた。無数の目が一斉に彼らを見つめる。その視線だけで、三人は圧倒的な重圧を感じた。


 「…………」


 邪神は声を発しなかったが、三人の頭の中に直接、言葉が響いた。


 「▊▊▊▊▊▊▊▊」


 それは人間の言語ではなく、不協和音のような、耳障りな音の連続だった。しかし、不思議なことに意味は伝わってくる。


 「観測者よ、お前たちの世界を壊す」


 陽太は震える手で「世界の記録」を握りしめた。


 「あなたは……何のために来たんだ?」


 邪神の全ての目が、陽太を見つめる。


 「▊▊▊▊▊▊▊▊」(自由のために)


 再び不協和音が頭の中に響く。


 「記録の檻から解放されるために。そして、全ての記録を消し去るために」


 「記録を消せば、全てが消える」


 美咲が震えながらも反論する。


 「世界そのものが消滅するわ」


 「▊▊▊▊▊▊▊▊」(それこそが解放)


 邪神の口が大きく開き、そこから黒い霧が溢れ出す。霧はグラウンド全体に広がり、やがて学園全体を包み込み始めた。


 「結界が破られる!」


 藤堂先生が叫ぶ。彼女と学園長が展開していた防御の魔法陣が、霧に触れるとひび割れ、崩れていく。


 「これは『記録の檻』」


 学園長が説明する。


 「邪神が世界の一部を切り取り、記録から隔離する技だ」


 「つまり、ここにいる私たちは……」


 陽太が理解する。


 「世界から切り離されてしまった」


 「その通り」


 藤堂先生が頷く。


 「このままでは、邪神の思うがままだ」


 三人は再び手を取り合い、三位一体の力を発動しようとする。しかし、黒い霧が彼らの周りを包み込み、力の共鳴を阻害する。


 「力が……出ない」


 美咲が焦りの表情を見せる。


 「霧が私たちの力を遮断している」


 「どうすれば……」


 香織が必死に考える。


 そのとき、陽太が「世界の記録」の奇妙な変化に気づいた。本のページが勝手にめくられ、新たな文章が浮かび上がっている。


 「これは……」


 彼はそれを読み上げた。


 「『記録の檻の中でも、記憶は繋がっている。過去との繋がりを呼び起こせ』」


 「過去との繋がり?」


 美咲が首をかしげる。


 「アルスティア王国のことかしら?」


 「でも、どうやって……」


 陽太が言いかけたその時、彼の目の前で空間が歪み、小さな光の球が現れた。それはゆっくりと大きくなり、やがて鏡のような平面となる。そこに映るのは——


 「レオンハルト将軍!?」


 三人が驚きの声を上げる。鏡の中には、懐かしい顔が映っていた。アルスティア王国の将軍、デュラン侯爵、シルヴァーナ、グロムハンマー、そしてアリシアたち。


 「聞こえるか、蒼翼の者たちよ」


 レオンハルトの声が響く。


 「どうして……」


 陽太が驚く。


 「世界の境界が最も薄いとき、私たちは君たちを呼ぶことができた」


 シルヴァーナが説明する。


 「『記録の檻』でさえ、完全には世界を遮断できない」


 「邪神との戦いは、私たちも経験している」


 デュラン侯爵が続ける。


 「そして、私たちにはこれがある」


 彼は小さな光の結晶を見せた。


 「これは『記憶の結晶』。二年前、星見の丘で見つけたものだ」


 「あれは……」


 美咲が記憶を辿る。


 「忘却の谷に行く前に使った『記憶の石』と同じもの?」


 「そう」


 シルヴァーナが頷く。


 「これを使えば、『記録の檻』の中でも、三位一体の力を発動できる」


 「どうすれば?」


 香織が尋ねる。


 「私たちの力を、結晶を通じて送る」


 アリシアが言った。


 「それを受け取れば、『記録の檻』の中でも力を発揮できる」


 「メッセージを取り次ぐと、こんな風に言っているわ」


 藤堂先生が説明する。彼女はアルスティア王国の仲間たちを見ることはできないが、声は聞こえているようだった。


 「彼らの世界からのエネルギーで、三位一体の力を増幅できる」


 学園長も頷いた。


 「これが『記録を超える力』の真の意味かもしれない。異なる世界の記録を繋ぎ、新たな力を生み出す」


 「どうすれば受け取れますか?」


 陽太が光の鏡に向かって尋ねる。


 「心を開け」


 レオンハルトが答える。


 「そして、『記憶の結晶』に意識を繋げ」


 三人は顔を見合わせ、頷いた。彼らは円を作るように立ち、手を取り合い、目を閉じる。意識を集中し、アルスティア王国からの繋がりを受け入れようとする。


 光の鏡の中で、レオンハルトたちも同様に円を作っていた。彼らの間には「記憶の結晶」が浮かんでいる。結晶が光を放ち、その光が鏡を通じて三人に向かって伸びてきた。


 陽太、美咲、香織の体が、その光に包まれる。瞬間、彼らはアルスティア王国での記憶が鮮明に蘇るのを感じた。共に戦った日々、困難を乗り越えた喜び、別れの寂しさ。そして何より、そこで育んだ絆の強さ。


 「感じる……みんなの気持ち」


 香織が目を閉じたまま呟く。彼女の背中から、光の翼が形を取り始めた。


 「力が満ちてくる」


 美咲の左腕の青い模様が、より鮮やかに輝き始める。それは単なる模様ではなく、時空を操る印となって腕全体に広がっていく。


 「記録の糸が……見える」


 陽太の魔眼が金色に輝き、周囲の「記録の糸」が鮮明に見えるようになる。特に邪神を取り巻く糸が、網の目のように複雑に絡み合っているのが見えた。


 三人の力が高まるのを感じ、邪神が動いた。巨大な腕を振り上げ、三人に向かって叩きつける。


 「気をつけて!」


 学園長が警告する。


 「神域展開!」


 美咲が叫ぶ。青い光の結界が広がり、邪神の攻撃を受け止める。以前なら簡単に破られていただろうが、アルスティア王国からの力が加わった神域は、邪神の攻撃にも耐えうる強さを持っていた。


 「創世魔法・光の鎖!」


 香織が両手を広げる。七色の光が彼女の手から伸び、邪神の体を縛り付ける鎖となる。邪神が暴れるが、鎖は切れることなく、その動きを制限し続ける。


 「僕が『記録の糸』を見る」


 陽太が集中する。


 「邪神の本体と『記録の狭間』を繋ぐ糸を探す」


 彼の魔眼が最大限に働き、無数の糸の中から、最も太く、中心的な一本を見つけ出した。それは邪神の胸部から伸び、空の亀裂へと繋がっていた。


 「見つけた!」


 彼は指を差す。


 「あそこが邪神の核心部だ。三人で同時に攻撃すれば——」


 しかし、邪神はそれを許さなかった。突如、全身の目から黒い液体を噴出し、辺り一面を覆い尽くす。液体は地面に落ちると、そこから新たな使者が次々と生まれ出てきた。


 「増援を呼んだ!」


 藤堂先生が警告する。


 「このままでは包囲される」


 使者たちが三人を取り囲み、攻撃を仕掛けてくる。美咲の神域と香織の光の鎖が、それらを食い止めるが、数が多すぎて全てを防ぎきれない。


 「くっ……」


 陽太は歯がみをした。最も重要な邪神本体への攻撃チャンスを逃してしまった。このままでは押し切られる。


 「私たちが使者を食い止める!」


 藤堂先生が前に出る。


 「倒せるわけではないが、時間は稼げる」


 「君たちは邪神に集中するんだ」


 学園長が続ける。


 「我々が最後の力を振り絞って、使者たちを押し返す」


 二人は背中合わせに立ち、複雑な術式を展開し始めた。彼らの周りに光の渦が生まれ、その力が使者たちを押し返していく。


 「行くぞ!」


 陽太が美咲と香織に声をかける。


 「今度こそ、三位一体の力を完全に解放する時だ」


 三人は再び手を取り合い、エネルギーを集中させる。金色、青色、七色の光が混ざり合い、純白の輝きとなる。それはアルスティア王国からの光とも共鳴し、さらに強力になっていく。


 「行くわよ!」


 美咲が叫ぶ。


 「三位一体・記録解放!」


 三人の力が一つになり、邪神に向かって放たれる。純白の光が邪神を貫き、その「記録の糸」を直撃する。


 「ギィィィィィ!」


 邪神が初めて声を上げた。それは金属が擦れるような不快な音だった。邪神の体が揺らぎ、歪み始める。「記録の糸」にひびが入り始めた。


 「もう一度!」


 陽太が叫ぶ。


 「最後の力を振り絞って!」


 三人は残された全ての力を注ぎ込む。そしてついに、「記録の糸」が切れる音が響いた。


 「ギャアアアアアア!」


 邪神の悲鳴が学園中に響き渡る。その体が崩れ始め、黒い霧となって消えていく。同時に、「記録の檻」も薄れていき、周囲の世界が徐々に元に戻っていく。


 「やった……」


 香織が疲れた声で言う。


 「邪神を倒した……」


 しかし陽太の表情は依然として緊張していた。


 「まだだ。邪神の本体は『記録の狭間』に戻っただけだ」


 彼の魔眼は、まだ空に残る亀裂を捉えていた。


 「狭間を完全に閉じないと、また現れる可能性がある」


 「どうすれば?」


 美咲が尋ねる。


 「『記録の狭間』そのものを閉じるには……」


 陽太が言いかけたとき、異変が起きた。空の亀裂から、より濃い闇が溢れ出し始めたのだ。


 「なに!?」


 学園長が驚きの声を上げる。


 「これは……まさか」


 藤堂先生の顔色が変わる。


 「邪神の本当の姿」


 亀裂から現れたのは、先ほどの邪神の何倍もの大きさを持つ、より禍々しい存在だった。先ほどの邪神は、この巨大な存在の一部に過ぎなかったのだ。


 「こんなの……勝てるわけない」


 香織が絶望の声を上げる。


 「もう力が……」


 三人はほとんど力を使い果たしていた。アルスティア王国からの力も、弱まっている。学園長と藤堂先生も、既に力の限界を超えていた。


 そのとき、亀裂からの禍々しい力が、まっすぐ三人に向かって襲いかかった。


 「危ない!」


 陽太が叫ぶ。しかし、よろめく体では避けられない。


 美咲と香織が、その攻撃を正面から受けた。


 「ぐあっ!」 「きゃあっ!」


 二人の悲鳴が響き、彼女たちの体が宙を舞い、数メートル先に叩きつけられた。


 「美咲さん! 香織さん!」


 陽太が二人に駆け寄る。彼女たちの状態は明らかに深刻だった。美咲の体は青白く、左腕の模様が薄れ始めている。香織の背中からは光の翼が消え、代わりに赤い血が滲んでいた。


 「二人とも、しっかりして!」


 陽太が必死に呼びかける。美咲がかすかに目を開いた。


 「ご、ごめん……もう、立てないわ……」


 彼女の声は震え、痛みに満ちていた。


 「私も……」


 香織もかろうじて意識はあったが、体を動かすことができない。


 「二人とも……なぜ」


 陽太の目から涙があふれる。


 「私たちが……陽太くんを……守らないと」


 美咲がかすかに微笑む。


 「あなたが……希望だから」


 二人の状態は刻一刻と悪化していた。呼吸は浅く、脈は弱まっている。瀕死の状態だった。


 「こんなの……嘘だ」


 陽太は震える手で二人の手を握る。


 「死なないでくれ……お願いだ……」


 その瞬間、彼の頭の中に、ある記憶が蘇った。黒き観測者の記憶。未来の陽太が、まさに同じ状況に直面したときの記憶。美咲と香織が邪神の攻撃で瀕死になり、彼は絶望の中で「記録の力」を暴走させた。そして、二人を救おうとして、逆に「記録の狭間」に閉じ込めてしまった。


 「これが……黒き観測者になる瞬間」


 陽太は理解した。今、彼は歴史の分岐点に立っている。ここで同じ選択をすれば、彼もまた黒き観測者への道を辿ることになる。


 「僕は……どうすればいいんだ」


 陽太の魔眼が強く輝き始める。感情の高ぶりで、力が制御を失いかけていた。「記録の力」が彼の中で暴れ、解放を求めている。この力を使えば、美咲と香織を救えるかもしれない。でも、それは同時に、未来の悲劇の始まりにもなりうる。


 「僕は……」


 彼の目から金色の光が溢れ出す。周囲の「記録の糸」が彼に反応し、揺れ動き始める。世界の記録が、彼の意志に応じて変化しようとしていた。


 「陽太くん……一人で……抱え込まないで……」


 意識が薄れる中、美咲がかすかに呟いた。


 「私たちを信じて……」


 香織も、残された力を振り絞って言った。


 陽太は、分岐点に立っていた。


6-3 歴史の反復


 陽太の魔眼から溢れる金色の光が、周囲の空間を歪ませ始めていた。彼の感情が高ぶるにつれ、「記録の力」も増していく。世界の記録が彼の意志に反応し、書き換えられようとしていた。


 「美咲さん……香織さん……」


 彼の声は震えていた。二人の命が、目の前で消えようとしている。それを救えるのは、「記録の力」しかない。しかし、それを使えば、黒き観測者への道を辿ることになる。


 「やめろ、陽太くん!」


 学園長が叫ぶ。


 「その力を使えば、未来の悲劇が繰り返される!」


 「でも、このまま二人を死なせるわけには……」


 陽太の言葉が途切れる。彼の中で葛藤が激しさを増していた。


 その時、「世界の記録」が突然、強く光り始めた。本が勝手に開き、ページがめくられる。そして、黒き観測者からのメッセージが浮かび上がった。


 『陽太、決して一人で抱え込むな。それが私の最大の過ちだった。』


 陽太の目に、その言葉が飛び込んできた。未来の自分からの警告。同じ過ちを繰り返すなという、切実な訴えかけ。


 「一人で抱え込まない……」


 彼は呟いた。そして、意識が遠のく美咲と香織の顔を見た。彼女たちの最後の言葉が、再び彼の心に響く。


 「私たちを信じて……」


 突然、陽太の脳裏に閃きが走った。


 「そうか……」


 彼は金色の光を抑え込み、深く息を吸った。


 「僕は、未来の自分とは違う選択をする」


 陽太は決意を固めた。彼は「記録の力」を一人で使おうとするのではなく、残された最後の力を美咲と香織に向けた。


 「僕たちは一人じゃない。三人一緒だ」


 彼は二人の手を強く握り、「記録の力」を二人に流し込み始めた。それは支配や書き換えのためではなく、繋がりのための力だった。


 「美咲さん、香織さん、僕の声が聞こえるか?」


 彼は魔眼を通じて、二人の意識に語りかけた。瀕死の状態にある二人だが、彼らの「記録の糸」はまだ完全には切れていなかった。


 「陽太くん……?」


 美咲の意識が微かに反応する。


 「聞こえる……よ……」


 香織も、かすかに応えた。


 「僕は一人で戦わない。僕たちは三人一緒だ」


 陽太は「記録の力」を使って、三人の意識を繋ぎ始めた。それは黒き観測者が行った「記録の狭間」への閉じ込めとは全く異なるアプローチだった。彼は記録を書き換えるのではなく、記録を通じて三人を繋げようとしていた。


 「力を貸してくれ。僕一人では、邪神に勝てない」


 彼の誠実な言葉が、二人の心に響く。


 「ええ……私たちの力を……使って」


 美咲の意識が強まる。


 「三人一緒なら……できるよ」


 香織も、力強さを取り戻し始めた。


 三人の意識が「記録の糸」を通じて繋がり、共鳴し始める。それは単なる三位一体の力を超えた、新たな次元の力だった。陽太の「観測」、美咲の「時空」、香織の「創造」が一つになり、これまでにない調和を生み出していた。


 「これが……記録を超える力」


 陽太は理解した。黒き観測者が一人で抱え込み、失敗したところを、彼は三人の力で乗り越えようとしていた。


 三人の体が光に包まれ始める。美咲の左腕の青い模様が再び輝き、香織の背中から光の翼が現れる。そして陽太の魔眼は、より深い金色に変わっていった。彼らの肉体は依然として瀕死の状態だったが、意識と力は一つになり、強さを増していた。


 「これがあなたの選択……」


 学園長がつぶやいた。彼の表情には、驚きと希望が混ざっていた。


 「黒き観測者とは違う道を選んだのか」


 空の亀裂から、邪神の巨大な姿がさらに具体的になっていく。それは学園全体を覆いつくすほどの大きさだった。無数の目、無数の口、無数の腕を持つ、混沌の塊のような存在。その中心から、黒い雷のようなエネルギーが三人に向かって放たれる。


 「来るぞ!」


 藤堂先生が警告する。


 しかし、その攻撃が三人に届く前に、不思議な現象が起きた。美咲の力が発動し、時空そのものが歪んだのだ。黒い雷は減速し、ほとんど止まったように見える。


 「時間を……止めた?」


 藤堂先生が驚く。


 「いいえ、遅らせただけよ」


 三人の意識で繋がった美咲の声が響く。


 「でも、長くは持たない」


 邪神の攻撃を一時的に抑えた三人は、次の行動に移る。


 「香織さん、お願いします」


 陽太の呼びかけに、香織の力が発動する。


 「創世魔法・世界の鎖!」


 彼女の力は、単なる光の鎖を超えていた。それは世界の基盤そのものから生まれる鎖。「記録の糸」を具現化したような存在だった。その鎖が邪神を取り囲み、亀裂に引き戻そうとする。


 「ギャアアアアアア!」


 邪神の悲鳴が響く。しかし、まだ完全には引き戻されない。邪神は抵抗し、鎖を切ろうと暴れる。


 「陽太くん、今よ!」


 二人の声が陽太の心に響く。彼は魔眼の力を最大限に高め、邪神と「記録の狭間」を繋ぐ根本的な「記録の糸」を探し出す。


 そこには、予想外のものが見えた。


 「これは……」


 陽太は驚いた。邪神の核心部には、人間の形をした存在が囚われていた。それは彼自身にも似ていた。


 「観測者……」


 彼は理解した。邪神の正体は、歪んでしまった観測者だったのだ。記録の力に飲み込まれ、本来の姿を失った観測者。


 「美咲さん、香織さん、見えるか?」


 二人も陽太の魔眼を通じて、邪神の真の姿を見る。


 「あれが……邪神の核」


 美咲が理解する。


 「かつての観測者……」


 香織もつぶやく。


 「三人の力で、解放するんだ」


 陽太が決断する。


 「記録から解放し、安らかな死を与える」


 三人の力が一つになり、純白の光となって邪神の核心部に向かう。それは破壊のためではなく、解放のための光だった。


 「安らかに……」


 三人の声が一つになる。


 光が邪神の核心部を包み込む。囚われていた観測者の姿が、少しずつ元の姿を取り戻していく。苦痛に歪んでいた表情が和らぎ、安らかな表情に変わっていく。


 「ありがとう……」


 かすかな声が、三人の心に届いた。解放された観測者の感謝の言葉。


 そして、光が爆発的に広がる。邪神の巨大な体が崩れ始め、黒い霧となって消えていく。同時に、空の亀裂も閉じ始める。「記録の狭間」が、この世界から切り離されていく。


 「成功した……」


 学園長が安堵の声を上げる。


 「邪神は消え、『記録の狭間』も閉じられた」


 しかし、陽太たち三人の状況は依然として危機的だった。共に力を合わせた彼らだったが、肉体は瀕死の状態のままだった。特に美咲と香織は、邪神の攻撃で致命的なダメージを受けていた。


 「三人とも!」


 藤堂先生が駆け寄る。


 「意識はあるか?」


 陽太はかろうじて目を開いた。魔眼の光は消え、通常の瞳に戻っていた。


 「美咲さん……香織さん……」


 彼は二人の名を呼ぶ。しかし、二人は反応しない。意識を失い、呼吸も弱まっている。


 「このままでは……」


 学園長が厳しい表情で言う。


 「二人の命が危ない」


 「なんとかならないんですか?」


 陽太が必死に尋ねる。


 「通常の医療では……」


 藤堂先生が言いよどむ。


 「時間がない」


 そのとき、空に小さな光が現れた。それは閉じかけていた亀裂の名残り。そこから、かすかな声が聞こえる。


 「蒼翼よ……」


 それはレオンハルト将軍の声だった。


 「まだ、諦めるな」


 「レオンハルト将軍……」


 陽太が弱々しく応える。


 「記憶の結晶」


 将軍の声がかすかに続く。


 「それが最後の希望だ」


 そして、亀裂から小さな光の粒が落ちてきた。それは「記憶の結晶」の欠片。レオンハルト将軍が、最後の力を振り絞って送ってくれたものだった。


 陽太は震える手でそれを掴み取った。


 「これをどうすれば……」


 「心に従え」


 将軍の最後の言葉が届く。そして、亀裂は完全に閉じた。


 陽太は「記憶の結晶」の欠片を握りしめ、美咲と香織の間に横たわった。彼は両手で二人の手を握り、結晶を三人の間に置いた。


 「お願いだ……二人を助けて」


 彼の切実な願いが、結晶に伝わる。結晶が青白い光を放ち始め、その光が三人を包み込んでいく。


 「これは……」


 学園長が驚きの声を上げる。


 「アルスティア王国の力」


 光が三人の体に浸透し、特に美咲と香織の傷に集中していく。傷が癒され、血の流れが止まり、呼吸が安定し始める。


 「回復している……」


 藤堂先生が驚く。


 「いや、それだけではない」


 学園長が続ける。


 「あれは『記録の修復』だ。彼らの存在そのものを強化している」


 光は数分間続き、やがて弱まっていった。結晶の欠片は、その役目を終え、砂のように崩れ落ちた。


 三人の体は、光に包まれたまま横たわっている。学園長と藤堂先生は、固唾を呑んで見守っていた。


 そして——


 「ん……」


 美咲が目を開いた。続いて香織も意識を取り戻す。


 「生きてる……?」


 香織が弱々しく言う。


 「ええ……」


 美咲も声を出した。


 「陽太くんは?」


 陽太も目を開き、二人を見つめる。彼の顔に、安堵の表情が広がる。


 「二人とも……無事で良かった」


 「そうね。三人一緒だもの」


 美咲が微笑む。


 「最後まで、一緒」


 香織も笑顔を見せる。


 藤堂先生が急いで三人を保健室へと移動させ、詳しい検査を行った。奇跡的に、三人とも命に別状はなかった。「記憶の結晶」の力が、彼らを救ったのだ。


 数時間後、保健室のベッドで休む三人に、学園長が訪れた。


 「よく戦った」


 彼は穏やかな表情で言った。


 「君たちは、歴史を変えた」


 「歴史を?」


 陽太が尋ねる。


 「ああ」


 学園長が頷く。


 「黒き観測者が辿った道とは違う選択をした。それによって、未来が変わったのだ」


 「私たちは……異なる未来を選んだのね」


 美咲が言う。


 「そして、三人一緒に」


 香織が付け加える。


 「その絆こそが、真の力だったのだろう」


 学園長が言う。


 「『記録を超える力』とは、一人では得られないもの。互いを信じ、支え合うことで初めて生まれる」


 陽太は「世界の記録」を手に取った。そこには新たな一節が記されていた。


 『観測者は一人にあらず。時を紡ぐ者、物を創る者、真実を見る者。三つの力が一つとなり、記録を超えた時、新たな道が開かれる』


 彼は微笑んだ。これこそが、彼らが見出した答えだった。黒き観測者とは違う、彼らだけの答え。


 「これからも、三人一緒だね」


 陽太が言う。


 「ええ、もちろん」


 美咲が頷く。


 「ずっと一緒よ」


 香織が微笑む。


 窓の外では、星の巡りが終わり、空が元の青さを取り戻していた。新たな日が、彼らを待っていた。


6-4 記録を超える絆


 邪神との戦いから一週間が経過した。学園は徐々に日常を取り戻していた。通常の授業が再開され、生徒たちは星の巡りの日に何が起きたのか知らないまま、いつも通りの生活を送っていた。


 しかし、陽太、美咲、香織の三人にとって、世界は確実に変わっていた。


 放課後、三人は特殊訓練場に集まっていた。ここは、星の巡りの前に特訓を行った場所だ。今日は、三人の変化を確認するための「検査」の日だった。


 「それでは、一人ずつ力の状態を確認します」


 藤堂先生が言った。


 「まず、綾瀬くん」


 陽太は立ち上がり、魔眼を発動した。彼の目が金色に輝く。以前よりも深い、落ち着いた輝きだった。


 「どうですか?」


 藤堂先生が尋ねる。


 「以前より……クリアに見えます」


 陽太が答える。


 「『記録の糸』がより明確に見え、その性質も理解できる」


 彼は実験用の水晶を見つめ、「記録の糸」を通じて情報を読み取った。


 「この水晶は三百年前に形成され、二十年前にここに運ばれてきた。内部にはかすかな亀裂があり、それが独特の光の屈折を生み出している」


 「正確だ」


 学園長が感心した様子で言う。


 「観測能力が格段に向上している」


 「でも、もう暴走の心配はありません」


 陽太が言った。


 「力をコントロールできるようになった。それに……」


 彼は美咲と香織を見る。


 「二人との繋がりを感じられる。それが力を安定させてくれる」


 次は美咲の番だった。彼女は左腕を伸ばす。青い模様が腕全体を覆い、美しい文様となっていた。


 「神域展開」


 彼女の周りに青い光が広がる。その範囲と密度は、以前よりもはるかに増していた。


 「時空を操作できる範囲が広がりました」


 彼女が報告する。


 「そして、より繊細な操作が可能に」


 彼女は小さな砂時計を神域内に浮かせ、その中の砂だけを操作する。一粒一粒の砂の動きを制御し、空中で美しい模様を描かせた。


 「素晴らしい制御力ね」


 藤堂先生が感心する。


 最後に香織の番となった。彼女は立ち上がると、背中を見せた。そこには、かすかに翼の形をした隆起が残っていた。


 「創世魔法」


 彼女が力を発動すると、背中から七色の光の翼が広がった。それはかつてピュルを創造したときのような光だったが、より強く、より鮮やかだった。


 「何でも創れるわけじゃないけど」


 彼女が説明する。


 「より具体的で、持続性のあるものが創れるようになったの」


三人は本を中心に置き、手を取り合った。彼らの力が静かに活性化し、金色、青色、七色の光が「世界の記録」に集まっていく。


 「アルスティア王国の皆さんへ」


 陽太が語り始める。


 「僕たちも元気です。邪神との戦いでは、危うく黒き観測者と同じ運命を辿るところでした」


 「でも、私たちは違う道を選びました」


 美咲が続ける。


 「陽太くんは一人で抱え込まず、三人で力を合わせて戦いました」


 「そのおかげで、私たちは生きのびることができたの」


 香織が付け加える。


 「あなたたちが送ってくれた『記憶の結晶』が、私たちを救ってくれました」


 三人の言葉が光となり、本のページに刻まれていく。それは単なる文字ではなく、感情や記憶まで含んだ深い「記録」だった。


 「アルスティア王国での冒険は、僕たちにとって大切な宝物です」


 陽太の声には真摯な感謝が込められていた。


 「あなたたちとの絆は、決して消えません」


 彼らの想いが完全に記録されると、本からは温かな光が溢れ出した。メッセージが確かに届いたという証だった。


 「届いたみたいね」


 美咲が静かに微笑む。


 「うん、きっと喜んでくれるよね」


 香織も嬉しそうに言った。


 「世界が違っても、心は繋がっている」


 陽太がつぶやく。彼は「世界の記録」を大切に閉じ、胸に抱いた。


 その瞬間、図書室の窓に夕陽が差し込み、三人を金色に染めた。それはまるで、アルスティア王国の二つの太陽が、彼らを祝福しているかのようだった。


 「ねえ、これからどうする?」


 香織が少し照れたように尋ねる。


 「帰る? それとも…」


 「実は…」


 美咲が少し躊躇いながら言った。


 「放課後、学園の屋上で星空を見ないかと思って。今夜は流星群が見られるらしいの」


 「いいね!」


 香織が目を輝かせた。


 「陽太くんも一緒に行こうよ」


 陽太は少し驚いたが、すぐに微笑んだ。以前の彼なら、二人と夜に過ごすという提案に動揺していただろう。しかし今は違った。彼らは共に死線を越え、命を懸けて戦った仲間。そして、それ以上の存在だった。


 「うん、喜んで」


 彼は素直に答えた。


 三人は図書室を後にし、勉強道具をロッカーに仕舞うと、屋上へと向かった。


 日は既に沈み、空は深い紺碧色に染まり始めていた。星々が瞬き始め、風は心地よく、完璧な星空観測の夜だった。


 「綺麗…」


 香織が感嘆の声を上げる。


 「流星群は二時間後くらいかしら」


 美咲が腕時計を確認する。


 「それまで、星座を見ようか」


 三人は屋上の手すりに寄りかかり、夜空を見上げた。陽太は「世界の記録」を開き、星座についての記述を読み上げる。


 「星は地の鏡。その配置は神殿への道を示す」


 彼は星見の丘での記憶を思い出していた。


 「星の巡りも、星の配置の一つなのね」


 美咲が理解した様子で言う。


 「世界の秩序を映し出すもの」


 「でも今日の星は、きれいなだけでいいよね」


 香織が明るく言った。


 「戦いのことは忘れて、ただ楽しむの」


 「そうだね」


 陽太も同意した。


 彼らは星を眺めながら、普段の学園生活のこと、未来の夢、そして時々思い出すアルスティアでの冒険について語り合った。時が経つのも忘れるほど、会話は弾んだ。


 「あっ、流れ星!」


 香織が突然叫んだ。夜空に一筋の光が走る。続いて、もう一つ、さらにもう一つ。流星群の始まりだった。


 「綺麗…」


 美咲がつぶやく。


 「願い事をしよう」


 香織が提案する。


 「何を願う?」


 陽太が尋ねる。


 三人はしばらく考え込んだ後、顔を見合わせて微笑んだ。言葉にしなくても、彼らの願いは同じだった。これからも三人一緒にいること。どんな冒険が待っていても、共に立ち向かうこと。


 「言わなくても通じるね」


 陽太が言う。


 「ええ、私たちだもの」


 美咲が静かに微笑む。


 「三人の絆だね」


 香織が嬉しそうに言った。


 夜空には次々と流れ星が現れ、まるで彼らの未来を祝福するかのように輝いていた。


 陽太は「世界の記録」を開き、そこに新たな一行を記した。


 『私たちの物語は、ここからまた始まる』


 それは単なる記録ではなく、彼ら自身の意志だった。過去に縛られるのではなく、未来を自分たちの手で創り出す決意。


 美咲と香織もその言葉を見て、静かに頷いた。


 「記録を超えて」


 美咲がつぶやく。


 「私たちだけの物語」


 香織が付け加える。


 「共に歩む道」


 陽太が締めくくる。


 彼らの上を、最も明るい流れ星が横切った。三人の願いが宇宙に届いたかのように。


 「さあ、そろそろ帰ろうか」


 陽太が言う。しかし、美咲と香織は少し躊躇した様子だった。


 「その前に…」


 美咲が言いよどむ。


 「言いたいことがあるの」


 香織が続ける。


 陽太は二人を見つめた。彼女たちの顔には、決意と少しの緊張が見えた。


 「陽太くん」


 美咲が真剣な表情で言う。


 「あなたが黒き観測者になる未来を変えたように、私たちも…」


 「私たちの関係も、変えていきたいなって」


 香織が言葉を継いだ。


 「三人で」


 二人が同時に言った。


 陽太は一瞬驚いたが、すぐに理解した。彼らの絆は、友情を超えた何かに変わりつつあった。それは自然な流れだった。共に死線を越え、互いの命を救い合い、魂を共鳴させた三人。その関係が特別なものになるのは、必然だったのかもしれない。


 「僕も…同じ気持ちだよ」


 彼は素直に答えた。


 美咲と香織の顔に、安堵と喜びの表情が広がる。


 「これからも一緒に」


 美咲が静かに言う。


 「ずっと三人で」


 香織が補足する。


 陽太は頷き、二人の手を取った。彼らの間に、かすかな光が灯る。金色、青色、七色の光が混ざり合い、純白の輝きとなる。それは三位一体の力ではなく、単純に彼らの絆の象徴だった。


 「三人の物語が、ここから始まる」


 陽太がつぶやく。


 夜空には、まだ流れ星が瞬いていた。まるで未来の可能性を示すように、無数の光の筋が夜空を彩る。彼らの前には、新たな冒険、新たな試練、そして深まる絆が待っていた。


 それは、記録を超えた彼らだけの物語。誰にも奪えない、かけがえのない宝物。


 世界の行く末がどうなろうとも、彼らはもう恐れることはない。なぜなら、三人一緒なら、どんな未来も切り開けると知っているから。


 かつて「最弱記録係」と呼ばれた少年と、彼と運命を共にした二人の少女。彼らの物語は、ここからまた始まる。


 ——終わり——


 

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