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第2章 王国の軍師として

前作 最弱記録係は今日も天才美少女たちの戦いを見守るだけの主人公達が異世界転移!?

最弱記録係はどうやって活躍するのか?


主要人物紹介


綾瀬陽太(あやせ ようた

- 本作の主人公。蒼城学園で「記録係」を務める普通の高校生

- 能力者ではないが、観察力と記録力に長けている

- 控えめで真面目な性格だが、仲間思いで責任感が強い

- 異世界で「魔眼」の力に覚醒し、世界の真実を見抜く能力を得る


倉田美咲くらた みさき

- メインヒロインの一人。「絶対領域」を操る能力者

- クールで真面目、責任感が強い。成績優秀で品行方正

- 異世界では「神域展開」として時空を操る力に進化

- 陽太に対して特別な感情を抱いている


若林香織わかばやし かおり

- もう一人のメインヒロイン。「千変万化」の能力を持つ

- 明るく天真爛漫、感情表現が豊かで積極的な性格

- 異世界では「創世魔法」として物質創造能力に進化

陽太と美咲を大切に思う親友


2-1 新たな任務


 四天王二名を撃退してから三日後、アルスティア城の謁見の間には厳かな空気が流れていた。国王アルスティア三世は玉座に座り、レオンハルト将軍やマーリン魔導師長ら側近たちが控えている。


 そして間の席に立っているのは、陽太、美咲、香織の三人だった。


「綾瀬陽太、倉田美咲、若林香織。そなたたちの働きにより、我が王都は破滅の危機から救われた」


 国王の声が厳かに響く。星霜の鍵を奪還し、四天王二名を撃退したことで、三人の評価は一気に高まった。


「そのような大げさな…我々は当然のことをしただけです」


 美咲が丁寧に頭を下げる。香織も頷いた。


「うん、みんなで力を合わせたからできたことだよ」


 国王は微笑み、立ち上がった。


「謙虚さも美徳だ。しかし、功績は正当に評価されねばならない」


 国王は三人に近づくと、一人ずつの肩に手を置いた。


「今日より、そなたたちを王国特別軍師団『蒼翼』として任命する」


 会場がざわめいた。特別軍師団は、戦時にのみ結成される超法規的な組織。正規の軍隊や騎士団と同等、あるいはそれ以上の権限を持つ。


「陛下、それは……」


 デュラン侯爵が進み出る。彼は前回の軍議でも三人に反発していた貴族だ。


「彼らはまだ若く、経験も浅い。そのような重職を任せるのは時期尚早かと」


 デュランの意見に同調する貴族たちもいる。しかし、レオンハルト将軍が一歩前に出た。


「陛下の判断は正しい。今我々に必要なのは、前例に囚われない新しい戦力だ。彼らはすでに四天王二名を撃退した。それが何よりの証だろう」


 国王は頷き、再び三人に向き直った。


「さて、『蒼翼』の任務は二つ。一つは前線での作戦立案と実行。もう一つは、魔王軍の真の目的の解明だ」


 陽太は表情を引き締めた。魔王軍の幹部ザイオンが言っていた「計画」のことを思い出す。


「必ずや、その期待に応えてみせます」


 陽太が強い決意を込めて応える。国王は満足そうに頷いた。


「そして『蒼翼』の指揮官には、綾瀬陽太を任命する」


「え?」


 陽太が思わず声を上げた。美咲や香織よりも実力が劣る自分が指揮官?


「陛下、私よりも美咲さんや香織さんの方が……」


「いいえ、あなたが適任だわ」


 美咲が微笑んだ。


「そうだよ、陽太くんの目があるからこそ、私たちは戦えるんだから」


 香織も肩をポンと叩く。彼女の肩に止まったピュルが「キュルル」と鳴いた。


 レオンハルトが前に進み出た。


「さっそくだが、初めての任務だ。北部の要衝、ネヴァリス村を奪還してほしい」


 地図を広げ、ネヴァリス村を指し示す。


「ここは主要街道の分岐点で、戦略的に重要だ。奪還できれば、北部への橋頭堡となる」


「分かりました。手持ちの戦力は?」


 陽太が質問する。レオンハルトは地図に駒を並べた。


「第三騎士団200名と、志願兵300名。合計500の兵が与えられる」


「敵は?」


「魔物部隊約300と、傭兵約200。四天王は現在のところ確認されていない」


 陽太は魔眼で地図を観察し、兵の配置や地形の特徴を記憶していく。


「作戦は、明日の軍議で発表します」


「期待しているぞ、『蒼翼』の諸君」


 これで謁見は終了した。三人は退出し、自分たちの新しい執務室へと向かう。


2-2 作戦会議


 「蒼翼」の専用執務室は、城の東塔にあった。円形の部屋には大きな円卓が置かれ、壁には各地の地図が貼られている。窓からは王都全体を見渡せた。


「すごい……こんな立派な部屋を用意してくれるなんて」


 香織が部屋を見回す。美咲は窓辺に立ち、遠くを眺めていた。


「責任重大ね。でも、私たちにできることをするだけよ」


 陽太は地図の前に立ち、魔眼でそれを見つめていた。周囲の地形、村の構造、魔力の流れが立体的に浮かび上がって見える。


「何か見えた?」


 美咲が近づいてくる。陽太は地図を指さした。


「ネヴァリス村は三方を森に囲まれ、北側だけが開けています。敵はその開けた場所に本陣を構え、森の中に斥候を配置していると思われます」


「正面からの攻撃は難しそうね」


「ええ。でも、この西側の森にある小川が気になります。地図には記載されていませんが、魔眼で見ると魔力の流れが集中している」


 その時、ノックの音がして、アリシアが入ってきた。


「失礼します。明日の軍議の準備は整いましたか?」


「まだ少し時間が欲しいところです」


 陽太が地図を見つめながら答える。アリシアは微笑んだ。


「分かりました。無理せず、確実な作戦を立ててください」


「ありがとうございます。ところで、ネヴァリス村の地下水脈について何か情報はありませんか?」


「地下水脈?」


 アリシアは首を傾げる。陽太は頷いた。


「この地域の小川は地下に潜っているように見えるんです」


「そういえば……」


 アリシアが記憶を辿る。


「ネヴァリス村は古くから水の村と呼ばれていました。村の中央に大きな泉があり、そこから湧き出る水が村の生命線だったと」


「それだ!」


 陽太の目が輝いた。水脈を利用した作戦が浮かんだのだ。


 その夜、三人は作戦を煮詰めていった。陽太の魔眼が捉えた情報と、アリシアから得た地理的な情報を組み合わせ、奇襲作戦が完成した。


 翌日の軍議。王国の将軍たちと貴族たちの前で、陽太は作戦を発表した。


「ネヴァリス村奪還作戦『水龍の咆哮』について説明します」


 広げられた地図を指しながら、陽太は淡々と作戦を説明した。


「最大の特徴は、村を囲む三方の森を利用した同時奇襲と、村中央の泉を使った内部撹乱です」


 具体的には、兵力を三分割し、森の中から同時に襲いかかる。そして美咲と香織は地下水脈を通って村の中央泉へ潜入。内部から敵の陣形を崩す。


「無茶な作戦ではないか?」


 デュラン侯爵が疑問を呈する。


「兵を分散させれば各個撃破される危険がある。それに地下水脈の存在も定かではない」


「私の魔眼で確認しています」


 陽太は冷静に返答した。


「魔眼? そんなもので軍の作戦が決められるとでも?」


 デュランが嘲るように言う。陽太は動じなかった。


「疑問があるのは当然です。ですが、これまでの常識的な戦い方では、魔王軍に太刀打ちできていません。新しい戦術、新しい視点が必要なのです」


 レオンハルト将軍が頷いた。


「陛下の命により、作戦の最終決定権は『蒼翼』にある。我々は従うのみだ」


 デュランは不満そうな表情を浮かべたが、それ以上の反論はなかった。


「明日の夜明けと同時に出発する。各自、準備を整えよ」


 こうして、「蒼翼」初の作戦が始動した。


2-3 水龍の咆哮


 夜明け前、ネヴァリス村から5キロ手前の森で、兵士たちが最終準備を整えていた。静かに行動し、敵に気づかれないよう細心の注意を払っている。


 陽太は作戦本部となるテントで、最後の確認を行っていた。


「各中隊長、配置は完了しましたか?」


「東部森林隊、配置完了」 「西部渓谷隊、準備万端です」 「南部丘陵隊、いつでも行けます」


 中隊長たちが次々と報告する。陽太は頷き、美咲と香織を見た。


「二人とも準備はいい?」


「ええ、問題ないわ」


 美咲は軽装の戦闘服に着替えていた。青い光を纏った彼女の姿は、まるで異世界の戦士のよう。


「バッチリ! ピュルも準備できてるよ」


 香織の肩に止まったピュルが翼を広げた。今では成長して猫ほどの大きさになっている。


「では、作戦開始。各隊、合図があるまで動かないでください」


 陽太は魔眼を開き、村の様子を観測した。敵兵の配置、魔物の位置、全てが見える。


「美咲さん、香織さん、行きましょう」


 三人は西の森を進み、小川のある場所へと向かった。そこには、地下へと続く洞窟の入口があった。


「ここからです。美咲さん、神域で周囲の水を押しのけてください」


「分かったわ」


 美咲は神域を展開し、水の流れを制御する。三人は水中を歩くように洞窟へと入っていく。


「すごい……水の中なのに、全然濡れないわ」


 香織が驚く。美咲の神域が完全に水を遮断しているのだ。


 彼らは地下水脈を辿って進んでいった。時折、洞窟は狭くなり、這うように進むこともあった。


「あと500メートルで泉に到着します」


 陽太の魔眼が地形を正確に把握している。


「敵の気配は?」


「泉の周りに見張りが3人。他の兵は村の外周部に集中しています」


 やがて、上方に光が見えてきた。ネヴァリス村の中央泉だ。


「香織さん、見張りを引き付ける囮を」


「任せて。創世魔法・幻影の舞」


 香織の力で、泉の反対側に光の幻影が浮かび上がる。見張りたちが警戒して駆けつけた。


「今です!」


 三人は泉から飛び出し、見張りたちを一瞬で制圧する。気絶させただけで、命までは奪わなかった。


「よし、いよいよ本番だね」


 香織がピュルを空に放った。小竜は高く舞い上がり、合図となる炎を吐く。


 その瞬間、森の三方から王国軍が一斉に攻め込んだ。


「敵襲だ!」 「森から来るぞ!」 「中央からも敵が!」


 敵兵たちが混乱する中、美咲と香織が本領を発揮した。


「神域展開・重力の檻!」


 美咲の神域が村全体を覆い、敵兵の動きを鈍らせる。


「創世魔法・水龍召喚!」


 香織の力で、泉から巨大な水龍が立ち上がった。半透明の体を持つ水龍は、轟音と共に敵陣に突っ込んでいく。


 村の外からは王国軍が、中央からは水龍が、敵を挟み撃ちにする。


「くっ、陣形が崩れる! 各隊、態勢を立て直せ!」


 敵の指揮官が叫ぶが、もはや手遅れだった。美咲の神域によって敵の連携は完全に寸断され、香織の水龍が次々と敵兵を薙ぎ倒していく。


 陽太は高台から戦況を観察し、各隊に指示を出していた。


「第二中隊、西側を包囲せよ! 第三中隊、逃げる敵を追わず、村の制圧を優先せよ!」


 太陽が昇りきる頃には、戦いは終わっていた。


「勝ちました……敵はほとんど逃走し、村は完全に制圧できました!」


 第三騎士団の中隊長が報告する。陽太は頷いた。


「負傷者は?」


「驚くべきことに、死者ゼロ。負傷者も30名程度で、いずれも軽傷です」


 ほぼ無傷で要衝を奪還した。これほどの成功は、誰も予想していなかった。


「すごいよ、陽太くん! 作戦が完璧だった!」


 香織が飛びついてきた。疲れた様子はなく、むしろ生き生きとしている。


「水龍、見事だったわ」


 美咲も微笑む。彼女の神域は、今や村全体を包み込むほどの広がりを見せていた。


「二人の力があったからこそです」


 陽太は素直に言った。彼の魔眼も冴え渡り、戦場の全てを把握していた。


 こうして「蒼翼」初の作戦は、圧倒的な勝利に終わった。この奇跡的な勝利は、すぐに王都へと伝えられることになる。


2-4 新たな力の発見


 ネヴァリス村の解放から二日後、村は再建の途についていた。「蒼翼」は村に残り、次の作戦を計画している。


 村の宿屋に確保した一室で、三人は休息を取っていた。


「この調子でいけば、北部の他の村々も解放できそうよね」


 美咲が窓辺で、外の景色を眺めながら言う。香織はベッドに横たわり、天井を見つめていた。


「うん、でも油断はできないよ。敵だって次は対策してくるだろうし」


 陽太は机に向かい、作戦記録を書き留めていた。元の世界での「記録係」の仕事は、この世界でも役立っている。


「ところで、陽太くん」


 香織が起き上がって尋ねた。


「創世魔法で出来ることが増えてるの。前は単純な形しか作れなかったけど、今は水龍みたいな複雑なものも」


「私も感じるわ」


 美咲も振り返る。


「神域の範囲が広がるだけでなく、時間の流れにも多少干渉できるようになった。これって、この世界の魔力に適応してるってこと?」


 陽太は魔眼で二人を観察した。


「そうですね。二人の魔力回路が、この世界のエネルギーと共鳴しているように見えます。まるで……進化しているようです」


「でも、魔眼の陽太くんは大丈夫? いつも使った後、疲れてるみたいだけど」


 香織が心配そうに尋ねる。陽太は苦笑した。


「確かに負担はあります。でも、少しずつ慣れてきました。魔眼を閉じて休憩すれば回復しますから」


 その時、ドアをノックする音がした。


「どうぞ」


 入ってきたのは、アリシアだった。


「お疲れ様です。王都から連絡が来ました」


 アリシアは書状を差し出す。陽太がそれを開くと、レオンハルト将軍からの手紙だった。


「なんだって?」


 香織が覗き込む。陽太は手紙の内容を読み上げた。


「『ネヴァリス村奪還の功績は大きい。しかし、魔王軍の動きが活発化している。北東部のドラゴンテール山脈付近で、大規模な部隊の集結が確認された。そちらの調査を至急頼む』」


「ドラゴンテール山脈か……」


 美咲が思案顔で地図を見る。


「荒れた地形で、魔物の巣窟として知られています」


 アリシアが補足する。


「しかも、魔力の流れが乱れているため、通常の偵察では正確な情報が得られないのです」


「だから僕の魔眼が必要なんですね」


 陽太が理解した。アリシアは頷く。


「明日にでも出発できますか?」


「はい、準備します」


 アリシアが退室した後、陽太は考え込んだ。


「山脈での偵察か……リスクが高そうだ」


「でも、魔王軍の次の動きを掴むチャンスでもあるわね」


 美咲が言う。香織はピュルを撫でながら提案した。


「ねえ、その前に、私たちの新しい力を試してみない?」


「新しい力?」


「うん、さっき言った通り、私たちの能力は進化してると思うの。だから、何ができるか試してみたいな」


 美咲も興味を示した。


「それはいいわね。私も神域の限界を知っておきたいわ」


 三人は村の外れにある空き地へと移動した。そこなら、万が一暴走しても被害が少ない。


「まずは私から」


 美咲が中央に立つ。


「神域展開・時間減速」


 青い光が周囲を包み込む。すると、風の動きが遅くなり、落ちていた葉が空中で静止した。


「すごい……時間が本当に遅くなってる」


 陽太が驚く。魔眼で見ると、時空そのものが歪んでいるのが分かった。


「でも、私たちには効いてないみたいね」


 香織が言う。三人だけは通常通り動けた。


「恐らく、美咲さんが『例外』として認識しているからでしょう」


 美咲は試しに、もう一段階能力を高めてみた。


「神域展開・時間停止」


 青い光が濃くなり、周囲の全てが完全に静止した。空気中の塵さえ、動きを止めていた。


「これが……時間停止」


 美咲自身も驚いているようだった。彼女は集中を解き、神域を消した。


「次は私!」


 香織が前に出る。


「創世魔法・獣化融合!」


 香織の体が光に包まれ、ピュルと一体化していく。光が消えると、そこには半人半竜の姿があった。


「わ、私の体が……」


 香織の背中から翼が生え、手は鋭い爪に変わっていた。ピュルの特徴を取り入れつつ、人間の姿も残している。


「香織さん、大丈夫ですか?」


 陽太が心配そうに駆け寄る。香織は驚きながらも、笑顔を見せた。


「うん、大丈夫……むしろすごいよ。ピュルの感覚がある。空を飛べる気がする!」


 彼女は試しに翼を広げ、軽く飛び上がった。するとふわりと宙に浮かび、そのまま数メートル上昇した。


「やったあ! 飛べる!」


 香織が空中で歓声を上げる。彼女はしばらく空を舞った後、ゆっくりと地上に降り立った。光に包まれると、元の姿に戻った。ピュルも彼女の側に現れた。


「すごい体験だった……ピュルの感覚を全部分かち合えたよ」


 陽太は二人の能力の進化に感嘆していた。


「では、僕も試してみます」


 陽太は魔眼を最大限に開き、集中した。


「魔眼解放・千里眼」


 陽太の目が強く輝き、瞳孔が金色に染まる。彼の視界は急激に拡大し、村を越え、森を越え、遠くの山々まで見えるようになった。


「すごい……ドラゴンテール山脈が見える。そこには……」


 陽太の表情が凍りついた。


「どうしたの?」


「大変です。山脈の向こうに、巨大な魔力反応が。魔王軍は、何かの準備をしています。それも、規模が尋常じゃない」


 三人は顔を見合わせた。新たな危機が迫っていることは明らかだった。


 急いでアリシアに報告し、翌日の出発準備を整える。三人の能力は確実に進化していたが、それに見合う強敵も待ち受けているようだった。


2-5 貴族たちの反発


 「蒼翼」の活躍が王国中に広まるにつれ、彼らに対する視線も変わってきた。特に王城内では、彼らを一目見ようと、多くの貴族や兵士たちが集まるようになった。


「本当に気まずいわね」


 美咲が小声で呟く。三人は王城の廊下を歩いていたが、すれ違う人々は皆、好奇の目で彼らを見ていた。


「噂の『蒼翼』だ」 「あの娘たちが四天王を倒したって? 信じられないわ」 「指揮官の少年の目は、全てを見通すという……」


 ひそひそと交わされる声が聞こえてくる。


「まるで見世物みたいだね」


 香織が苦笑する。陽太は無言で前を見つめたまま歩いていた。


 彼らの目的地は、会議室だった。レオンハルト将軍からの急な召集を受けたのだ。


 会議室に入ると、そこには予想以上に多くの人々が集まっていた。レオンハルト将軍、マーリン魔導師長だけでなく、デュラン侯爵を筆頭とする貴族たちも並んでいる。


「お召しいただきありがとうございます」


 陽太が丁寧に挨拶すると、レオンハルトが頷いた。


「ネヴァリス村での勝利、そしてドラゴンテール山脈の偵察、共に立派な働きだった」


「ありがとうございます」


「しかし」


 レオンハルトの表情が険しくなる。


「問題が発生している。貴族会議から、『蒼翼』の権限縮小を求める声が上がっているのだ」


「なぜです?」


 美咲が驚いて尋ねる。デュラン侯爵が前に出た。


「我が国の軍事は古来より、正規の軍隊と貴族の私兵によって担われてきた。突如現れた『蒼翼』に大きな権限を与えることは、秩序を乱すと言わざるを得ない」


「それに」


 別の貴族が声を上げる。


「ネヴァリス村で捕らえた敵兵を、勝手に解放したという報告もあった。これは王国の方針に反する行為だ」


 三人は顔を見合わせる。確かに、負傷した敵兵は治療した後、武器を取り上げて解放していた。


「彼らは傭兵であり、魔王軍の思想に染まっていませんでした。むしろ、解放して評判を広めた方が、他の傭兵たちの離反を促せると判断したのです」


 陽太が冷静に説明する。


「それは貴様の勝手な判断だ!」


 デュランが声を荒げる。


「前線の指揮官とは言え、捕虜の処遇は軍法に従うべきだ。このような独断専行は、我々貴族の権威を損なう」


「貴族の権威?」


 香織が思わず声を上げた。


「今は魔王軍と戦っているんだよ! そんな古い考えにこだわってる場合じゃないでしょ?」


「若造が!」


 デュランの怒りが爆発する。


「お前たちは何も分かっていない。この国は千年の歴史と伝統によって成り立っている。秩序なくして国家なし。闇雲に戦うだけが戦争ではないのだ」


 場の空気が凍り付いた。レオンハルトが間に入る。


「落ち着け、デュラン。彼らにも言い分はある」


「それに」


 マーリンが口を開いた。


「『蒼翼』がいなければ、我々はとうに敗退していたかもしれん。彼らの功績は認めるべきだ」


 デュランは歯を食いしばり、一歩引いた。


「功績は認めよう。だが、今後は軍法と王国の伝統に従ってもらいたい」


 陽太は一礼した。


「ご指摘ありがとうございます。今後は王国の伝統も尊重しつつ、最善の策を取るよう心がけます」


 レオンハルトが頷いた。


「では、本題に入ろう。貴族会議からの要請で、次の作戦は共同指揮となる」


「共同指揮?」


「そう。『蒼翼』とデュラン侯爵の率いる貴族連合軍で、エルムヴァレー(楡の谷)を奪還する」


 陽太はすぐに地理を思い浮かべた。エルムヴァレーは要衝であり、そこを制することで北部の平原地帯を一気に奪回できる。


「分かりました。デュラン侯爵、どうぞよろしくお願いします」


 陽太が丁寧に頭を下げる。デュランは渋々と頷いた。


「私の部隊は800。『蒼翼』には500を割り当てる。作戦は私が立てる」


「いえ」


 陽太は穏やかに、しかし確固とした口調で言った。


「作戦は共同で立案しましょう。僕の魔眼で見える情報も、きっと役立つはずです」


 デュランは反論しようとしたが、レオンハルトの視線を受け、黙った。


「では、明日の作戦会議で詳細を詰めよう」


 会議は終了した。三人は静かに部屋を後にする。


「大丈夫かしら、あんな人と一緒に戦うなんて」


 美咲が心配そうに言う。


「うん、絶対に揉めるよ。あの人、私たちのこと、全然認めてないもん」


 香織も頬を膨らませる。


 陽太は沈思していたが、ふと顔を上げた。


「でも、これは信頼を勝ち取るチャンスでもあります。デュラン侯爵は古い考えの持ち主ですが、王国を守りたい気持ちは本物です」


「その通りだ」


 声に振り返ると、レオンハルトが立っていた。


「デュランは頑固だが、誠実な男だ。彼の目から鱗が落ちれば、最も強力な味方となるだろう」


「将軍……」


「頼むぞ、『蒼翼』。この戦いに勝つためには、国の総力を結集せねばならん。古い体制と新しい力が手を取り合う必要がある」


 レオンハルトは三人の肩を叩き、立ち去った。


「さて、明日の作戦会議、どうしようかしら」


 美咲が憂いた表情で言う。


「心配ないよ」


 陽太が穏やかな笑みを浮かべた。


「魔眼で敵情を分析し、デュラン侯爵も納得せざるを得ない作戦を立案します。共に戦い、成果を出すことが、最も早い信頼構築への道です」


 香織は明るく笑った。


「さすが陽太くん! それなら大丈夫だね」


 そうして、彼らは次の試練へと向かっていった。デュラン侯爵との確執を乗り越え、貴族たちの信頼を勝ち取れるか。大きな山場が迫っていた。


2-6 魂の戦場、エルムヴァレー


 早朝の霧が立ち込めるエルムヴァレー。楡の木々が並ぶ谷間を挟んで、王国軍と魔王軍が対峙していた。


 戦いの前夜、陽太とデュラン侯爵は、激しい議論の末にようやく作戦で合意に達していた。


「前衛中央にデュラン侯爵率いる重騎士団。両翼に軽装歩兵。後方に魔導師部隊と、『蒼翼』部隊。これが基本陣形です」


 陽太が作戦会議で説明する。デュランは不満そうな顔をしていた。


「ならば、『蒼翼』は後方支援に徹するということか」


「いいえ。敵が前進してきた時点で、美咲さんと香織さんは僕の指示で敵を撹乱します。そして、デュラン侯爵の騎士団が一気に突撃する」


「撹乱とは?」


「神域展開による敵の足止めと、創世魔法による側面からの攻撃です」


 デュランは腕を組んで考え込んだ。


「分かった。お前たちの力が本物なら、それで勝てるだろう」


「ありがとうございます。そして、魔眼で見た敵陣の弱点を伝えます」


 こうして決定された作戦は、『楡の騎行』と名付けられた。


 ──そして、戦いの時が訪れた。


 朝霧の中、魔王軍の部隊が動き始める。中央には人型の魔物、スカルウォリアーの集団。右翼には強力な魔道士たち。左翼には四本腕の異形、デスアームの部隊。


「敵の総数、約2000」


 陽太が報告する。デュランは驚愕の表情を浮かべた。


「2000だと? 我々は合わせても1300しかいないぞ」


「数の不利は承知しています。しかし、敵の統率は取れていません。バラバラに襲いかかってくるでしょう」


 陽太の予測通り、魔王軍は統一された指揮なく、雑然と進撃してきた。


「侯爵、いいですか?」


 陽太が尋ねる。デュランは渋々と頷いた。


「お前の作戦を信じよう」


「美咲さん、神域展開!」


 美咲が前に進み出ると、青い光が戦場を覆った。


「神域展開・時間差異!」


 新たな詠唱と共に、驚くべき現象が起きた。敵軍の一部は著しく減速し、別の一部は加速して隊列を乱した。時間の流れ自体に差異が生じたのだ。


「次は私! 創世魔法・幻獣軍団!」


 香織の力で、谷の両側に無数の光の獣が現れた。フェニックス、グリフォン、巨大な銀狼など、様々な幻獣が敵を側面から攻撃し始める。


「なんて力だ……」


 デュランが呟く。彼の目に、畏怖の色が浮かんだ。


「いつでも行けます、侯爵」


 陽太が告げる。デュランは我に返り、剣を抜いた。


「全軍、突撃!」


 号令と共に、王国軍が一斉に動き出す。重騎士団が雷のように疾走し、混乱した敵陣に突っ込んでいった。


 陽太は魔眼で戦場全体を観察し、指示を飛ばす。


「左翼の歩兵隊、前進を! 敵の魔導師が詠唱を始めています!」 「右翼第三中隊、態勢を立て直せ! 後方から敵の増援!」


 リアルタイムの情報によって、王国軍は常に最適な行動が取れた。


 戦況は徐々に王国軍に傾いていった。デュランの騎士団は敵の中央部隊を蹴散らし、徐々に突破口を広げていく。


 その時、陽太の魔眼が危険を察知した。


「侯爵、危険です! 後方から強力な魔力反応!」


 デュランは振り向く間もなく、彼の後方で巨大な影が立ち上がった。それは、四天王の一人「雷帝ライゼン」だった。


「愚かな人間ども」


 ライゼンが手を掲げ、雷を集め始める。


「逃げて!」


 陽太が叫ぶが、デュラン隊は既に包囲されていた。


「魔眼解放・時空把握!」


 陽太の目が強く輝く。ライゼンの攻撃パターンから、「天雷」の詠唱速度、落雷の位置、全てが見えた。


「美咲さん、座標35-72に神域を! 香織さん、光柱を!」


 二人は迷わず従う。美咲の神域がデュラン隊を覆い、香織の創った光の柱が雷を誘導する。


 轟音と共に雷が落ちたが、被害は最小限に抑えられた。


「ほう、なかなかやるな」


 ライゼンが嘲笑する。


「雷帝、前回の戦いから学んだわね」


 美咲が前に出る。香織も続いた。


「でも、私たちも進化してるんだよ!」


 二人は陽太の側に立つ。三人で四天王に立ち向かう構えだ。


「三匹の子ネズミか。潰してやろう」


 ライゼンが両手に巨大な雷球を形成する。しかし、その時——


「蒼翼、下がれ!」


 デュラン侯爵が、重騎士団を率いて駆けつけた。


「我々も共に戦う!」


「侯爵……」


 陽太が驚く。デュランは剣を構えた。


「お前たちの力は認めよう。だが、戦いはまだ終わっていない!」


 陽太は頷いた。


「ライゼンの雷は、彼の生体電流の延長です。彼自身の動きに合わせて雷は放たれる」


「ならば、先手を取ればいいのだな!」


 デュランは躊躇なく突進した。彼の剣が青く輝く。それは雷を封じる古代魔法が込められた「霹靂封じ」の剣だった。


「神域展開・速度増幅!」


 美咲の力でデュランの動きが加速する。


「創世魔法・風の加護!」


 香織の魔法でデュランの体が風に包まれ、さらに俊敏になる。


「魔眼解放・弱点標的!」


 陽太の魔眼がライゼンの急所を捉え、デュランに伝える。


「左胸の青い光、それが弱点です!」


 この完璧な連携に、ライゼンは動揺した。


「なにっ!?」


 デュランの剣がライゼンの弱点を貫く。雷帝が苦悶の表情を浮かべた。


「今です! 三人で一気に!」


「神域展開・時空崩壊!」 「創世魔法・光の審判!」 「魔眼解放・真実の顕現!」


 三つの力が合わさり、ライゼンを包み込む。


「ぐああああ!!」


 雷鳴と共に、雷帝の体が光の粒子と化して消滅した。


 戦場に静寂が訪れる。敵軍は指揮官を失い、勢いを失った。


「撤退だ!」 「雷帝様が倒された!」


 魔王軍は総崩れとなり、谷を離れていった。


 王国軍から歓声が上がる。デュランは剣を鞘に収め、陽太たちに歩み寄った。


「負けを認めよう。お前たちの力は本物だ」


 デュランは深く頭を下げた。


「『蒼翼』殿。我が騎士団の命を救ってくれたこと、そして共に戦ってくれたこと、心より感謝する」


 陽太は微笑んだ。


「いえ、侯爵のご英断がなければ、勝利はなかったでしょう」


 デュランは陽太の肩を叩いた。


「若いな。だが、その若さの中に、深い洞察力がある。これからも、王国のために力を貸してほしい」


「はい、喜んで」


 美咲と香織は安堵の表情を浮かべた。貴族との確執は、この戦いで一つの転機を迎えたのだ。


 しかし、陽太の魔眼は、遠くに新たな危険を感じ取っていた。


(勝利したが……魔王軍は何か、もっと大きな動きをしている)


 王国軍が歓声を上げる中、陽太だけが静かに北を見つめていた。真の戦いは、これからだということを、彼は知っていた。


2-7 戦勝と密議


 エルムヴァレーの勝利から三日後、王城では盛大な戦勝祝賀会が開かれていた。華やかな衣装に身を包んだ貴族たちが大広間に集い、勝利の美酒を酌み交わしている。


 三人もこの場に招かれていた。美咲は深い青のドレス、香織は鮮やかな赤のドレスを纏い、普段とは違う優雅な姿だ。陽太もアルスティア風の正装に身を包み、少し落ち着かない様子だった。


「緊張する……」


 陽太が小声で呟く。美咲が微笑んだ。


「そうね。でも、この場では私たちは英雄なのよ」


「それにしても、美咲も香織も別人みたいだな」


 陽太の素直な感想に、二人が少し頬を赤らめた。


「そんなこと言わないでよ」


 香織が軽く陽太の腕を叩く。その時、デュラン侯爵が近づいてきた。


「『蒼翼』殿。今宵はご機嫌いかがかな?」


「侯爵、こんばんは」


 三人が挨拶する。デュランはグラスを掲げた。


「我らの勝利に乾杯しよう。そして……私の誤解を詫びたい」


「いえ、そんな」


「いや、言わせてくれ。私は古い考えに囚われすぎていた。この国を守るには、伝統と革新、両方が必要だ」


 デュランは真摯な表情で言った。


「お前たちが異国から来たのは、神の導きかもしれん。魔王の脅威と対峙するため、新しい力が必要だったのだ」


 三人は感謝の言葉を述べた。その時、レオンハルト将軍が近づいてきた。


「蒼翼、デュラン。陛下がお呼びだ」


 四人は人目を避けるように、大広間の奥にある小部屋へと案内された。そこには国王と宮廷魔導師長マーリンが待っていた。


「陛下」


 全員が深く一礼する。国王は手で座るよう促した。


「よく来てくれた。実は重要な話がある」


 国王の表情は祝宴の雰囲気からは程遠い、深刻なものだった。


「魔王軍の真の目的について、新たな情報が入った」


 マーリンが前に出て、古い羊皮紙を広げる。


「これは古代の予言書の一部。『混沌の門』と呼ばれる儀式に関するものだ」


 羊皮紙には、奇妙な魔法陣と古代文字が描かれていた。


「混沌の門?」


 陽太が尋ねる。マーリンは頷いた。


「世界の壁を破り、異なる次元から力を呼び寄せる儀式だ。どうやら魔王は、この儀式を執り行おうとしている」


「そのためには、特殊な力を持つ者が必要という……」


 国王が言葉を続ける。


「時空を操る者、物質を創造する者、そして……全てを見通す目を持つ者」


 三人は息を呑んだ。それは明らかに、美咲、香織、そして陽太のことだ。


「僕たちが……狙われているのですか?」


 陽太が尋ねる。マーリンは重々しく頷いた。


「その可能性が高い。魔王軍が四天王を次々と送り出すのも、お前たちを試しているのかもしれない」


「そして、力を測っている……」


 美咲が理解した。


「最初からアルスティア王国を滅ぼすことが目的ではなかったのね。私たちのような力を持つ者を見つけ出し、捕らえることが」


「ちょっと待って」


 香織が疑問を呈する。


「じゃあ私たちがこの世界に来たのも、魔王の計画だったの?」


 沈黙が部屋を支配する。そして、マーリンがゆっくりと口を開いた。


「実は……そういう可能性も考えている。魔王が『混沌の門』の準備として、他の世界から特殊な力を持つ者を召喚した可能性は否定できない」


「それって……」


 陽太の表情が凍りつく。彼らの異世界転移は偶然ではなく、魔王の計画だったというのか。


「まだ確証はない」


 国王が言った。


「しかし、今や魔王軍は本格的な侵攻を準備している。我々の諜報によれば、残る四天王『虚無のニヒル』を先頭に、一万の軍勢が集結しているという」


「一万……」


 デュランが驚きの声を上げる。これまでの戦力からすれば、桁違いの数だ。


「彼らの目標は明らかだ。王都を制圧し、お前たち『蒼翼』を捕らえることだ」


 国王が宣言する。


「だからこそ、準備を整えねばならない。デュラン、北方の諸侯に連絡を。全ての戦力を結集するのだ」


「かしこまりました」


「『蒼翼』、お前たちは自らの力をさらに高めよ。そして、異世界からの知識を生かし、魔王の計画を阻止する方法を探してほしい」


「承知しました」


 三人は決意を新たにした。この世界に来た理由が何であれ、今は目の前の危機に立ち向かうしかない。


 会議が終わり、三人は夜の回廊を歩いていた。祝宴の音楽が遠くから聞こえるが、もはや心は晴れない。


「私たちが来たのも、魔王の計画……」


 香織が呟く。


「だとしたら、私たちはずっと手の平で転がされていたってこと?」


「まだ分からないわ」


 美咲が冷静に言う。


「でも、一つだけ確かなのは、私たちがこの世界で出会った人々は本物だってこと。彼らの平和のために戦う価値はある」


 陽太は窓から夜空を見上げた。二つの月が沈みかけている。


「そうですね。それに、元の世界に戻る方法を見つけるためにも、まずは魔王の計画を阻止しなければ」


 陽太は二人を見つめた。


「次の戦いは、これまでとは比較にならない規模になります。でも、僕は信じています。僕たちの力が、この世界を救えると」


 美咲と香織は頷いた。三人の手が自然と重なる。


「私たちなら、きっとできる」


 そして夜が明けると、王都は本格的な戦時体制に入った。城壁の強化、兵の召集、物資の備蓄。戦争の足音が、確実に近づいていた。


 魔王軍の本格侵攻は、もはや避けられない。陽太たちは、まさに運命の分かれ道に立っていた。


2-8 侵攻の始まり


 エルムヴァレーでの勝利から一週間後、王国の最北端に位置する国境線。ここにはアルスティア一の要塞、「銀嶺城」がそびえ立っていた。


 銀嶺城の最上階、監視塔に立つ見張りが、突然叫び声を上げた。


「敵襲だ! 魔王軍が来る!」


 地平線の向こうから、黒い波のような軍勢が押し寄せてくる。兵士たちは急いで警鐘を鳴らし、全ての将兵に警戒態勢を取らせた。


 銀嶺城の城主、オルバン伯爵は、すぐさま伝令を王都へ飛ばした。


「魔王軍本隊、国境に到達。数は一万以上と推定。虚無のニヒルと思われる存在を確認。緊急支援を要請する」


 伝令は最大速度で王都へと向かった。しかし、その途上、空から黒い影が襲いかかる。巨大な飛竜だ。


「うわああ!」


 伝令の叫び声と共に、メッセージは途絶えた。


 同じ頃、城内に残った兵士たちは必死の抵抗を続けていた。


「正門が突破された!」 「東の壁が崩れる!」 「撤退準備を!」


 オルバン伯爵は悲痛な表情で命令を下した。


「城は放棄する。生き残った者は南へ撤退し、王都に警報を」


 数時間後、銀嶺城は炎に包まれていた。城壁は崩れ落ち、魔王軍の旗が高く掲げられる。


 魔王軍の指揮官、虚無のニヒルは、静かに城の残骸を見下ろした。全身を黒いローブで覆い、顔も見えない。しかし、その存在感は圧倒的だった。


「前進を続けよ。王都まで休みなく進軍する」


 ニヒルの命令に、軍勢が動き出す。魔王軍の本格侵攻が、いよいよ始まったのだ。


 ──王都、アルスティア城。


 「蒼翼」の執務室に、緊急の報告が届いた。


「銀嶺城が陥落。生存者からの報告によれば、魔王軍は一日とたたずに城を制圧したとのこと」


 アリシアの声は震えていた。陽太は地図を広げ、状況を把握しようとする。


「どのルートで進軍しています?」


「北街道を一直線に南下しています。このまま進めば、三日後には王都近郊に到達するでしょう」


 美咲が眉をひそめる。


「三日しかないの? 防衛の準備が間に合わないわ」


「エルムヴァレーで勝利した部隊も、まだ完全には戻っていない」


 香織が心配そうに言う。陽太は黙って考え込んでいた。そして、決断を下した。


「アリシア、レオンハルト将軍に緊急会議の召集をお願いします」


「分かりました」


 一時間後、戦争会議室には王国の主だった将軍や貴族が集まっていた。国王も出席し、重い表情で地図を見つめている。


「銀嶺城陥落は深刻な事態だ」


 レオンハルトが口火を切る。


「現在、王都に集結している軍勢は6000。魔王軍の半分にも満たない」


「北方諸侯の援軍は?」


 デュラン侯爵が尋ねる。


「まだ応答なし。恐らく、魔王軍に通信路を断たれたのだろう」


 重苦しい空気が流れる。その時、陽太が立ち上がった。


「一つ提案があります」


 皆の視線が陽太に集まる。


「このまま王都で籠城戦に臨むのは危険です。敵は数で勝り、四天王の一人『虚無のニヒル』も同行しています」


「では、どうすれば?」


 国王が尋ねる。陽太は地図を指さした。


「北街道と王都の間にある『影の谷』。ここで敵を足止めし、時間を稼ぐべきです」


「影の谷? あそこは狭隘な地形だが、わずかな兵力では持ちこたえられまい」


 レオンハルトが懸念を示す。陽太は頷いた。


「そのため、『蒼翼』が行きます。美咲さんの神域と香織さんの創世魔法なら、地形を最大限に利用して敵を足止めできるはずです」


「しかし、危険すぎる」


 デュランが声を上げる。


「お前たちは王国にとって重要な戦力だ。失うわけにはいかん」


「それに」


 マーリンが口を開いた。


「魔王の目的がお前たちを捕らえることなら、それは向こうの思うつぼではないか?」


 美咲が前に出た。


「でも、このまま王都で戦えば、被害は甚大です。民間人も巻き込まれる」


「それに」


 香織も続く。


「私たちだけなら機動力があるから、最悪の場合は撤退もできる」


 会議室は議論で沸騰した。最終的に、国王が手を上げて沈黙を求めた。


「『蒼翼』の献身に感謝する。しかし、無謀な犠牲は望まない」


 国王はしばらく考えた後、決断を下した。


「『蒼翼』は影の谷へ向かい、敵の足止めを図れ。しかし、アリシア・フォン・ローゼンハイムと精鋭騎士100名を随行させる。そして、敵の本隊が現れたら即座に撤退せよ」


「承知しました」


 三人は一礼した。


「準備は?」


「二時間以内に出発できます」


 会議は終了し、全員が準備に取り掛かった。


 執務室に戻った三人は、必要な装備を整えていた。


「本当にいいの?」


 香織が心配そうに尋ねる。


「ニヒルって、魔法を無効化する能力の持ち主でしょう? 私たちの能力も…」


「完全に無効化できるわけではないと思う」


 陽太が魔眼で分析した結果を伝える。


「四天王の記録と、前回の戦いでザイオンが見せた反応から判断すると、ニヒルの能力には限度があるはずです」


「そう……なら、少しは安心ね」


 美咲が言う。しかし、その表情には不安が残っていた。


「とにかく、王都までの時間を稼ぐことが重要です」


 陽太が強調する。


「王都の防衛が整うまで、少なくとも二日は必要です」


 三人は静かに頷き合った。そして、アリシアがノックして入ってきた。


「準備は整いました。いつでも出発できます」


「ありがとう」


 出発の時が来た。城の中庭には、精鋭騎士100名が整列していた。三人も馬に乗り、隊列の先頭に立つ。


 レオンハルト将軍が見送りに来ていた。


「必ず戻ってこい。王国は、お前たちを必要としている」


「はい、必ず」


 そして「蒼翼」を先頭に、小部隊は王都を出発した。目指すは北40キロの影の谷。そこで、魔王軍の本隊と対峙することになる。


 陽太は馬上から振り返り、王都を見た。守るべき人々がいる。そして、元の世界に戻る手がかりもきっとある。


「行くぞ」


 彼らの運命を決する戦いが、今始まろうとしていた。


 第2章「王国の軍師として」は、こうして幕を閉じる。陽太、美咲、香織の三人は、貴族たちの信頼を勝ち取り、王国の中核として認められた。しかし同時に、彼らが魔王の目的であることも判明した。


 これから始まる影の谷での戦い。三人は無事生き延び、王国を守ることができるのか。そして、彼らの異世界転移の真相とは何なのか。


 物語は次なる章へと続いていく。



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