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7話

side凜々


う……ん……。

ここは……?

気がつくと私は真っ暗闇の空間にうつ伏せになっていた。

何も無い空間、でも自分の姿はよく見える。

「あだだだだだだだ!」

聞き覚えのある声の悲鳴が背後から聞こえた。

「健人ちゃん!」

振り向くと健人ちゃんに見知らぬ女性がアイアンクローをしていた。

蒼白色の髪に、同じ色合いの大きな翼、そして黒いワンピースを身にまとっている。

明らかに人間じゃない。

「言ったじゃあありませんか。天野冬子に気をつけてくださいと」

「あの時はよく聞こえなかったんですよ!」

「あら?言い訳ですか?」

ニコォっとしてるけど、絶対怒ってるよ、あの人。

「まぁいいでしょう。それよりも」

健人ちゃんを解放して、私に向き直る。

「はじめまして、春川凜々さん」

「あ、はい。はじめまして」

深々とお辞儀を受けて私もオウム返しする。

「あの、どうして私の名前を?」

「あなたのことはよく知ってますよ。私があなたをこの世に留めていたので」

「何度も自殺を試みてもその前に戻されたのは、あなたの仕業ですか?」

「ええ、なぜならあなたが願ったからです」

「私が願った?」

何を?

まったく身に覚えがない。

「覚えてませんか?全てを取り戻したいと」

「!?」

そうだ、あいつに全てを奪われた。それでも取り戻したいものがあった。

「それを取り戻したくありませんか?」

「私の心読まないで貰えます?」

「全知全能の神なので、呼吸をするように心を読んでしまうんです」

「はぁ、それは迷惑な能力ですね」

「ふふ、ええ」

くすくすと微笑む神様。

神様、神様……?

「えぇ!?神様!?」

「はい、気楽に全ちゃんとお呼びください」

「それじゃあ、全能ちゃん様で」

「あらあら、ふふ」

微笑を浮かべる。

「あの、ところでここは……?」

「ここは生と死の狭間です」

「ということは私、死んだんですか?ようやくあの地獄から解放されたんですか!?」

「ずいぶんと嬉しそうだな」

「だって、死にたくとも死ねなかったんだよ!?ようやく楽になれると思うと嬉しくならない!?」

「その気持ちは理解出来ないなぁ」

「春川凜々さん、あなたをこのままあの世に送るのは簡単です。ですが、本当によろしいのですか?あなたは今、全てを取り戻すチャンスなんですよ」

「どういうことですか?」

キョトンとしてしまう。

言ってる意味が分からず首を傾げる。

「では、叢雲健人さん、説明お願いします」

「えー……」

「えー……ではありません」

「はぁ……」

あからさまに、めんどくさいと言いたげなため息をこぼす彼。

「俺はお前を助けるために未来から記憶を持ってタイムリープしたんだ。んで、アドベンチャーゲーム形式で時々選択肢が出て、間違えると即バットエンド」

「待って、あの時まるで私が飛び降り自殺を見たかのような発言って……!」

「そう。1度お前は死んでる」

本当は1度だけでは無い。

「でも、どうして健人ちゃんは私を助けてくれるの?私、あなたのこと……」

「はぁ……」

ガリガリと強めに、自身の後頭部を掻く健人ちゃん。

「本当は俺はお前を助けたくない。けど、この神様はお前を助けろって強制的に働かせるんだ」

そっか、まだ思い出せてないんだ……。

「理由を聞いても本人から聞いてくださいの一点張り。なぁ、どうしてなんだ?」

あの時の記憶が甦る。

あの時、プロポーズされた記憶だ。

「それは……」

「おぉーっと!それを語るのはまだ早い!」

「あら作者(上司)様」

天からの声。

「えぇーっと、作者様って?」

「私の上司です。人使い、いえ神使いが荒い人です」

「だって全さん、ほっとくと暴走するんだもん。どこかでブレーキかけてあげないと」

「今は私ではなく春川凜々さんのことでは?」

「おっと、そうだ。じゃあ僕はこれで」

「二度と出てこないでくださーい」

ボソッと呟く神様。

「さて、叢雲健人さん」

「なんすか?」

「あなたは春川凜々さんと関わって感じたことはありますか?」

「なんというか、すごい懐かしい感じがしました。まるで昔から仲が良かったんじゃないかって思えるほど」

「いい傾向です」

「あの、そろそろ教えてください。俺と春川はどういう関係なんでs」

「そろそろこの空間を維持できなくなりますので、お二人が仲良く食器洗ってるところに戻しまーす」

「え!?はっ!?ちょ!?」

ぶわーと視界が光に包まれた。


ピコーン!と電源が入ったような音がした、気がする。

気がつくと俺は春川とともに食器を洗っている最中だった。

「なぁ、春川」

「健人ちゃん、覚えてる?」

「お、おう」

どうやら春川にもあの生と死の狭間なる空間の記憶があるようだ。

「………………」

「………………」

2人で無言で食器を洗っていく。

ガチャガチャ

ジャー

食器と食器が重なる音と、水道から流れ出る水の音がこの空間を支配する。

「私、先に帰る」

冬子の声がした。


待てと制止する

そのまま帰す


「待てよ、冬子」

「何?」

「お前もご馳走になったんだから後片付け手伝ってくれ」

「わかった」

渋々と言った感じに了承を得た。

「これを、こうすればいいんでしょ?」

「おう、洗った食器を吹いてもらえると助かる」

ジャー

ガチャガチャ

完全に油断していた。

俺は冬子のことを一切見ていなかった。

その結果……。

ぶしゃああああ!と鮮血が吹き出したことに気づいたのは、春川の血が俺の顔面を襲った時だった。

「春川っ!?」

「健人ちゃん……ごめ……ん……ね……」

包丁を手にした冬子。

吹き出す血液とともに倒れる春川。

頸動脈が刺されたようだ。

びちゃっと文字通り血の海と化したフローリングが倒れた彼女の衝撃で、どす黒い紅い血が、辺りに跳ねた。

「冬子……!なんで……!?」

「うるさい!お前も死ね!」

一瞬、本当に一瞬だった。

流れるような動作で、俺の心臓が冬子の手にしたそれで刺されたのだ。

吹き出す鮮血。

鋭い痛みが胸から襲い、俺は意識を失った。

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