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6話

「冬子、これはなんだ?」

「カレーだよっ♪」

「なんで具材は切られてないんだ?」

「うーん、勝手にカットされると思ったけど、されなかったみたい♪」

「さいですか……」

 現在俺たち3人は春川が住んでる児童養護施設敷地内にある彼女の仮屋にいた。

 最初、この施設の門をくぐった時はびっくりした。

 緑黄(りょくおう)子ども病院という、この辺ではそこそこ有名な小児科メインの病院だ。

 春川曰く、病院と施設を兼ね備えているそうだ。

 そして現在、2人の少女が俺のために夕飯を用意してくれたのだが、先に出てきた冬子のカレーが問題だ。

 確かにカレーなのだが、具材は何一つカットされずに、ルーと白米の上にドカッと並べられている。

 唯一まともなのは、予め1口サイズにされた牛肉のみだ。

「どうしたの?早く食べて♪」

「一応訊くけど、野菜は火通ってる?」

「……うーん……通ってると思うよ♪」

 笑顔を崩さず返答。

 この間、絶対通ってない。

「隣で見ててびっくりしたけど、本当にこのまんま出したのね」

 呆れたようにつぶやく春川が大皿を手にやってきた。

 ゴトっとそれがテーブルに置かれる。

 そこには千切りにされたキャベツとソースのかかったコロッケが用意されていた。

「サラダとご飯とお味噌汁もあるからまだ食べないでね」

 そう言い残し、再びキッチンへ。

 美味そうだなぁ。早く食べたい。

 美味そうな料理の前に食欲が湧いてくる。

 犬が待てって指示されて待ちきれないようにハッハッハと息を荒くし、「よし!」というサインを待つのはこんな感じだろうか?

「ナンデコンナ……!」

 ボソッと隣から呪詛のような呟きが聞こえた。

 ありえない。上手く言葉で表現出来ないが、劣等感を感じる声音と表情だ。

「冬子?」

「あっ、何?健人」

 俺の言葉で我に帰ったのか、冬子は明るい顔に戻った。

「はい、まずはこれ」

 おぼんに3つの小皿を乗せて春川が戻ってくる。

 小皿の上にはレタスと輪切りにされたトマト。

 再び春川はキッチンへ。

「もしかしてまだあるのか?」

 ちょいと大きめな声で質問する。

「さっきも言ったけど、ご飯と味噌汁があるよ」

「手伝おうか?」

「いいのー?じゃあ、おぼんがもう1個あるから味噌汁運んでくれる?」

「おう」

 そう受け答えして、春川の元へ。三人分のご飯を茶碗に乗せて、リビングへ持っていく春川を横目にしつつ、味噌汁をお椀に入れる。

 豆腐とネギとわかめだ。やった。

 こぼさないように注意しつつ、春川と冬子が待つ場所へと向かう。

「おまたへ」

「ありがとう」

「…………」

 冬子の元気がない。

 自分の料理が喜ばれていないのがわかっているのだろう。

 さすがに野菜切らない・火を通さないは予想外だった。

「いただきます」

「……いただきます……」

「どうぞ」

 さて、まずは味噌汁から。

 ズズっ。

「どう?」

「美味いけど、個人的にはもうちょっと味濃い方が好み」

「そっかー」

 こういうことは正直に言わないとな。

 続いてコロッケ。

 パクっ。

「美味い」

 サクッとした衣の中にはホクホクのじゃがいもが、口の中で現れる。

 これは箸が進むなぁ。

 パクパクとどんどん食べ進める。

 気がつくともう完食していた。

「ごちそうさまでした」

「……ごちそうさま……」

「お粗末さまです」

 3人で手を合わせて食べ終わった挨拶をする。

「あんたなんでこんなに料理できるの?」

「そりゃあ、4割くらい一人暮らしだし、それ以前にも調理実習させて貰ってたのよ。あなたはなんでも出来るけど、さすがに今回は経験の差がありすぎたわね」

「そう……」

 すっかり意気消沈してしまった冬子。

 そしてちょっと勝ち誇った春川。

 自信あったのに認められなかったのはショックだよなぁ。

 だからといってあれは食えん。

「まぁでも、冬子ならすぐ覚えられるんじゃないか?」

 冬子は俺から見ると天才。

 スポーツ万能、勉強も授業受けるだけで、いい結果を出す。

 ゲームなんかも一緒にやってもすぐに上手くなる。

 料理もその気になればすぐできるようになるだろう。

 そのくらい順応性が高いのだ。

 一方春川は、冬子がグズでノロマと言った評価でしか知らない。それが本当として、料理ができるようになるまで頑張って来たのだろう。

 春川と2人で食器を洗う。

「本当に美味かった。ありがとう」

「どういたしまして。手間かけたかいがあったよ」

 2人で会話しながらどんどん洗っていく。

「私、先に帰る」

 その途中で冬子が帰り支度をする。


 待てと制止する。

 そのまま帰す。


 まぁここはこのまんま返して問題ないだろ。

「おう、またな!」

 冬子を見送る余裕は無いので、キッチンから別れの挨拶をする。

「うん、また」

 すっかり落ち込んでしまっている。

 大丈夫か?



「今日はありがとう。ごちそうさま」

「どういたしまして、また明日ね」

 約1時間後、俺は無事帰宅してチャットアプリで改めてお礼を送った。

 ちょっと仲良くなれた気がする。

 案外悪い奴ではないのかもな。

 でもなんで俺を殺そうとしたんだ?

 その疑問が残る。

 まぁいいや

 深く考えずに、その日は風呂に入ってから睡眠を取った。


 次の日、朝食用に買っておいた菓子パンを頬張りながら何気なくテレビの電源を入れる。

「次のニュースです。今朝、緑黄子ども病院と併設している緑黄児童支援学園内の仮屋にて春川凜々さんが殺害された姿で発見されました」


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