5話
「春川は施設育ちじゃなかったか?」
「そうだけど、今は卒業した後に備えて半一人暮らしだよ」
「なんじゃそりゃ」
「施設の敷地内に仮屋があって、そこで1人で生活してるの」
「へぇ、なんか大変そうだな」
「そういう健人ちゃんは?」
「俺?俺も一人暮らしだから夕飯の買い出しだよ」
「カップ麺とお惣菜で済ませるの?」
「そうだけど?」
「はぁ……」
俺たちは揃って買い物をしていた。
春川は俺の買い物かごの中身を見てため息ついた。
「いつもそうなの?」
「そうだけど」
「それじゃあ栄養偏るよ?」
「て言っても料理なんてほとんどやったことないし」
「一人暮らしなのに?」
「一人暮らしなのに」
「はぁ……」
またしてもため息。
こいつは俺の母ちゃんか?
「夕飯一緒に用意してあげようか?」
「毒盛らない?」
「盛らないわよ」
殺人鬼(未遂犯)に飯誘われると身構えてしまう。
「まぁ、このまま家に1人でいるのも怖いしなぁ」
「何かあるの?」
「恋人に殺される可能性がある」
「恋人って天野冬子?」
「そうだけど、お前ら知り合いか?」
「あいつの事はよく知ってる」
ボソッとつぶやく。
なんと言ったか聞き取れなかった。
「なんて?」
「私はあいつが嫌いって言ったの」
あいつ呼ばわり。
こいつらの関係なんなんだ?
「それで、夕飯どうするの?」
ご馳走になる
ご馳走にならない
1人でいるのが不安なのも事実。
それじゃあと口を開く。
「お邪魔していいっすか?」
「いいわよ。それじゃあ2人分用意しないとね。何かリクエストある?」
「コロッケ!」
「また面倒くさいものを……」
「え?じゃがいも揚げるだけだろ?」
「これこのまま揚げて出してあげようか?」
じゃがいも片手にそう訊かれる。
「それ食えないだろ……」
「その食えないのを提案したのはあなた。コロッケって手間なんだよ?まず芋は熱湯か電子レンジでふやかしてそこから潰す。そして軽く炒めたひき肉と混ぜて衣をつけて揚げる」
「簡単そうじゃん」
「はぁ……」
またまたため息。
わかってないなぁ……。と追撃。
「そこまで言うなら俺にやらせてくれよ」
「いいわよ。じゃあコロッケは決定。あとは付け合せに……」
「ちょっと健人!」
春川と会話をしつつ夕飯を決めていると背後から聞きなれた声がした。
そこには別れたはずの冬子が立っていた。
「冬子!?なんでここに!?」
「健人を驚かせようとしてスーパーから出てくるの待ってたら、よりにもよってこいつと一緒に仲良く談笑しながら買い物してたら腹立つわよ!」
「こいつとは何よ?私はただたまたま会ったクラスメイトと一緒に夕飯の買い出ししてただけよ?」
「たまたま会ったクラスメイトと夕飯って色々ツッコミどころ多いわよ!」
「まぁまぁ冬子落ち着け……」
「フーッ!フーッ!」
犬のように息が荒い。
冬子がここまで興奮するのは珍しい。
ほんとこいつらどういう関係なんだ?
「夕飯ってあんたが作るの?」
まだ息の荒い冬子が興奮気味に春川に聞く。
「そうよ」
「グズでノロマなあんたが料理ねぇ?ちゃんと人が食べられるもの出せるの?」
煽るな煽るな。
「少なくとも、親の用意したものしか口にしない人よりは出来るわよ」
「カッチーン」
カッチーンって自分で言うなよ……。
「そこまで言うなら勝負よ!」
「勝負?」
「どちらが健人の腹を満たせられるかッ!」
なんか勝手に審査員にされてるんですが……。
「ふっ……いいわよ」
乗ったー!
これで殺人料理出されて殺されるってことないよな?
俺の心配を他所に、冬子が買い物かごに手を取り、食材を次々と入れていく。
「人参にじゃがいもに玉ねぎ、カレーか?」
「そうよ、健人楽しみにしててね♪」
この時も俺は油断していた。
この後本当に殺人料理が出されると思わなんだ。