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2話

 




『大きくなったら結婚しよう』

 保育園児か小学生になったばかりか位の男児が両手で抱えきれないほどの----の花を女児に差し出し、プロポーズをする。

 その相手の顔は、影がかかったかのようにおぼろげだ。

 かろうじてわかるのは「嬉しい」そう返事をした女児の口元と、嬉し涙を流したのか頬を伝う水玉だけだ。

 こいつは誰に告白したんだ?

 そしてこの記憶はなんだ?



 俺の意識は再び覚醒した。

 気がつくと、学校の廊下に突っ立っていた。視界に映ったのは、先程の女子生徒達だ。

 1人は怯えているのが遠目でもわかるくらいガチガチに緊張している歩調だ。

 そしてそれを囲むように3人の女子がそいつをどこかへと連れていく


 春川凜々を助ける

 無視する


 再びの選択肢。

 気は進まないが、助けるを選ぶ。

「おい、お前ら」

「あん?」

 俺の静止に4人は一斉に足を止めた。

「こいつをどうするつもりだ?」

「んなの決まってるだろ、調教だよ」

「調教?」

「ああ、こいつは未遂だけど殺人犯だ。だから同じことを繰り返さないために、あたしらが体を張って教えてやるんだ」

「その結果、そいつが飛び降り自殺をすることになってもか?」

 ハッとなった春川が俺を凝視する。

 その視線に気づいたが、その意図までは分からないのでスルーして続ける。

「飛び降り自殺ぅ!?」

「まるで見てきたかのような言い草だな!」

 ギャハハと笑い飛ばす女生徒たち。

 まぁ、実際にこいつの血がぶちまけられて頭の骨は砕けて、潰れた脳みそが飛び出てたのを目の当たりにしたからな。

「あたしらを止める権利は、実際こいつに殺されかけた奴だけだよ!」

「じゃあ、やめろ」

「は?」

「被害者は俺だ」

「証拠はあんのか?」

「証拠はないが記憶はあるぞ」

「へぇ、訊かせろよ」

「夕暮れの公園から家に帰ろうとした時、こいつに背中を押された。道路に飛び出てしまった俺を「この瞬間を待っていたんだぁ!」と言わんばかりにこいつの祖母が運転する車に跳ねられた」

「ここまで聞くと即死してそうだけどな」

「ところがどっこい、こうして生きてる。医者にも奇跡だって言われたよ」

「ふぅん、まぁでも」

「作り話にしては60点ってところか?」

「あぁ!?」

 俺の実体験を作り話?こいつら言わせておけば……!

 ぎりっと両の拳に力が入る。

 春川凜々を助ける義理はないが、ここまで言われ放題なのは腹が立つ。

「嘘つくならもうちょっとマシな嘘つきな!」

 しっしと、立ち去れと手を払われる。

「……と」

「あん?」

「ほんと。この人が言ってることはほんと。私が殺そうとしたのは彼……!」

 シーン。

 静寂が生まれた。

 時間にしては一瞬だった。

 リーダ格の生徒が後頭部を掻き、それを潰す。

「興が冷めた」

 それだけ言い残し、踵を返す。

「おいっ、いいのかよ!」

「姐さぁん!」

 それを追いかける舎弟。

 その背中を俺と春川は見送る。

「どうして助けてくれたの?」

「ただの気まぐれだよ」

 神に半強制的にって言っても信じるはずがないので、言い訳で返す。

「ありがとう、健人ちゃん」

 ボソッとつぶやくかのようなお礼。

 それはいい。

 それはいいが、「健人ちゃん」彼女にそう呼ばれたのが、どこか懐かしくムズ痒かった。

 なぜ懐かしんだかはその時の俺は分からなかった。





 side凜々

「おばあちゃん、今日ね。健人ちゃんが助けてくれたの」

「本当かい!?」

 留置所にておばあちゃんと面会。

 開口一番、私は今朝あったことを私の育ての親に報告した。

「うん、あいつの手下に絡まれた時にね。無理やり逃げて飛び降り自殺しようと考えてたんだけど、助けてくれたの」

「そっかー。凜々ちゃんがまた死ななくて助かったよ」

「また」とは?

 と頭を悩ませる人に説明すると、私は何度も自殺している。

 未遂ではなく本当に死ぬはずだった。

 さっき健人ちゃんが言ってた飛び降り自殺も実際に遂行している。しているはずだが、何故か私の意識は自殺を図る前に戻ってしまう。

 それは終わりのない悪夢で、私はこの世界から立ち去りたいのに、まるで神がそれを許してくれないかのように。けど私はそれに抗い続け、何度も何度も命を自ら絶って来た。

 前回で99回目。

 今回で100回目になるはずだった。

 けど、彼が健人ちゃんが助けてくれたのだ。

 あの頃、あいつに支配されていた私を唯一救ってくれる光だったはず。

 けどそれは、あいつによって失われた。

「あたすが、毎日神様に祈っていた成果が出たのかもねぇ」

 おばあちゃんには、私が何度も死んでいる記憶は無い。

 私が何かある度におばあちゃんに報告していた。

 今回も死ねなかったと。

 その度におばあちゃんは悲しそうに「そんなことをしちゃいかん」と涙を流して叱ってくれていた。

「あの子は記憶戻ったのかい?」

「そんな感じはなかったよ」

「そうかい……」

 悲しそうに眉をひそめる。

「おばあちゃん」

「なんだい?」

「もしおばあちゃんの罪が晴れたら何したい?」

「そうだねぇ、あたすは曾孫の姿が見たいよ」

「叶えられるかな?」

「もし、凜々ちゃんをこの世に留めておこうとするのが神様の意思であるなら、可能性はあるかもね」

「そっか」

「時間だ」

「それじゃあ、あたすは帰るよ」

「うん、また」

 おばあちゃんは優しい笑みを浮かべて留置所内へと戻された。

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