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異界戦記~異世界からの侵略が始まったけど、俺は生き延びる~  作者: もっさり白ブリーフ
トーキョー侵攻
4/20

閃火の刃、紅蓮の咆哮

爆炎が街を飲み込んでいく…

「誰だ、お前は?」


 赤毛の男が低く問いかける。


 俺は地面に倒れたまま、その様子を必死に見上げた。


 ――あの女……。


 どこかで見たことがある。そう思った瞬間、記憶が結びつく。


 カフェの列で、スーツの女と一緒にいたフードの女――。


 顔ははっきりとは見えない。だが、その黒いフード、静かな佇まい、そして――どこか冷ややかな紅緋の瞳。


 「弱者のあなたには関係ないことよ。」


 女が、もったいつけるような間を置いて言った。


 赤毛の男がわずかに眉をひそめる。


 「どうせこれから――私に殺されるんだから。」


 その言葉が落ちると同時に、女の手元で銀の光が閃いた。


 シュッ――


 細い刃が、赤毛の男の首元を狙い、一閃する。


 ぽた、ぽた……


 血が垂れる音が響く。


 赤毛の男の鼻のあたりに、うっすらと傷が刻まれていた。

 切っ先が掠めただけだろうが、鮮やかな赤がだらだらと流れ、口元へと滴る。


 それを確認し、女は口元をわずかに吊り上げた。


 「避けたのね。やるじゃない」


 女は、わずかに口元を吊り上げた。

 まるで、弱者にしては上出来だとでも言いたげに、侮るような声音で。


 赤毛の男は、それを聞いて 「面白ぇ」 というように笑う。

 喉の奥で笑いながら、女の全身を品定めするように眺める。


「へぇ……やっと骨がありそうな奴が現れたか」


 ゆっくりと、まるで味わうように言った。

 そして、目を細めると、舌先でゆっくりと唇をなぞる。


「それに女かよ」


 ニタリと嗤う。

 その口ぶりは、これからじっくりと食らう獲物を見定める獣のそれだった。


「フードなんざ取っちまえよ。見せろよ、そのツラ」


 興味を引かれたように、男が問いかける。

 女はそれに対し、フードの奥で微笑を深めた。


 「見る意味ある?」


 肩をすくめながら、からかうように言う。


 「これから殺されるだけなのに。それとも――冥途の土産ってこと?」


 言葉の刃を突きつけるように、冷たく囁く。


 ――次の瞬間。


 「ハハッ!!」


 赤毛の男が、大きな声で笑い出した。


 「生意気な女は嫌いじゃねぇ!!」


 肩を震わせながら、荒々しく嗤う。


 「すぐに泣いて詫びさせてやるよ!!」


 その目は、獲物を捕えた肉食獣のように、ぎらついていた。


 キィン――!


 鋭い金属音が響いた。


 フードの女が踏み込み、細身の剣を一閃する。

 赤毛の男は、それを腰元の剣で受け止めた。


 火花が散る。


 刃と刃が擦れ合い、微かな火花が闇に瞬いた。


 「女が、男の俺と力比べってかぁ?」


 剣を押し返しながら、男が嗤う。

 見下すような、歪んだ愉悦を含んだ声音で。


 「その女を見下した感じ――気に食わないわね」


 女は忌々しげに言い、低く身をかがめる。

 細剣を構え直し、鋭く息を吐いた。


 「そういう態度は、今の時代――炎上するわよ?」


 冷たい声が、熱を帯びた空気に紛れる。


 次の瞬間――


 女は踏み込んだ。


 細剣の切っ先が閃く。

 一直線に、男の心臓を狙う一撃。


 だが――


 ギィンッ!!


 寸でのところで、男の剣がそれを弾く。

 火花が散り、鋭い音が辺りに響いた。


 「女ってのは、男には勝てねぇもんだ」


 赤毛の男は、剣を押し返しながら嗤う。

 見下すような、嗜虐的な笑みを浮かべて。


 「どれだけ強がっても、最後は膝をつく――決まりだろ?」


 さらに力を込める。

 女の足元の瓦礫が、ピシリと音を立てた。


 「でもな――」


 男は舌なめずりし、獲物を前にした肉食獣のような目で女を見下ろす。


 「強がる女ほど、跪かせる瞬間がたまんねぇんだよ」


 その言葉と同時に――


 男の左手に、紅い光の球が生まれた。

 陽炎のように揺らめきながら、禍々しく輝く。


 「すぐに泣いて詫びさせてやるよ!!」


 轟音。


 紅い閃光が弾けた。


 ドォォォン!!


 眩い光とともに、爆風が辺りを飲み込む。

 俺の体に熱波が叩きつけられ、意識が揺らぐ。


 「くっ……!」


 咄嗟に腕で顔を庇うが、肌を刺すような熱が容赦なく襲いかかる。

 鼓膜を突き破らんばかりの爆音が響き、耳鳴りが止まらない。


 ――あの女は?


 霞む視界の中で、俺は必死に目を凝らした。


 至近距離で爆発を受けた。

 無事なわけが――


 「流石に、こんなんじゃ死んでねぇよなぁ?」


 赤毛の男が愉快そうに言う。

 煙が少しずつ薄れ、ゆらめくシルエットが浮かび上がる。


 「へっ! あんな啖呵を切ったんだ。こんな程度で死んでもらっちゃ、つまらねぇ!」


 男は舌なめずりし、満足げに笑った。


 やがて、煙が完全に晴れる。


 そこに立っていたのは――


 フードが焼け焦げ、剥がれ落ちた女。


 腰近くまで流れる長い黒髪。

 爆風に煽られ、さらりと揺れるその髪は、闇夜のように深く艶やかだった。


 わずかに吊り上がった瞳は、勝気さと鋭さを宿しながらも、どこか挑発的な光を放っている。

 小さな顔立ちはどこか幼さを残しつつも、端正に整っており――可愛さと美しさの狭間にある。


 女は煙と熱気を鬱陶しそうに目を細める。

 その鋭い瞳が、揺らめく空気の中で光った。


 俺は――既視感を覚えながらも、彼女から目を離せなかった。


 「へぇ……こりゃまたいい顔してんじゃねぇか」


 赤毛の男がにやりと笑う。

 まるで品定めするように、じっくりと女の顔を眺めた。


 「好みだぜ。お前みたいな顔。」


 軽薄な声音。

 どこか、獲物を見つけた肉食獣のような眼つき。


 しかし――


 「全然嬉しくない告白ありがとう」


 女は冷たく言い放つ。


 「あなたみたいにギラついた目の男、嫌いよ」


 瞬間、赤毛の男の表情が歪む。


 「はっ! 減らず口を!!」


 怒りとも興奮ともつかない声を上げながら、男の両手に紅い光球が生まれる。

 爆炎を孕んだ光が脈打ち、まるで生き物のように揺らめいた。


 女は、それを見据えながら静かに構える。


 そして――


 「そこの。」


 男を睨んだまま、女が短く声を飛ばす。


 「そこにいるのは邪魔よ。さっさと逃げなさい。」


 ビシッとした命令口調。

 振り向くこともなく、ただ俺に向けて告げられたその言葉に――ハッとする。


 このままここにいたら、巻き込まれる。


 俺は痛む体を引きずるようにして、なんとか立ち上がり、その場を離れた。


「逃がすかよ!!」


 赤毛の男が叫び、手元の紅い光球を勢いよく握り潰すように圧縮する。

 光が脈打つように膨れ上がり――次の瞬間、俺の背中目掛けて放たれようとしていた。


 しかし――


 「ふっ!」


 鋭い風切り音。


 女の細剣が、一直線に閃く。


 紅い光球が解き放たれる刹那、その軌道を断ち切るように一閃。

 放たれる前の光球が掻き消され、霧散する。


 「私だけじゃ、物足りないかしら?」


 女が静かに問いかける。


 声音はどこまでも冷静。

 しかし、その言葉には確かな鋭さがあった。

 どこか艶めいた響きを含みながら、男を嘲るように。


 「……いいや!!」


 一瞬の間の後――赤毛の男は楽しげに笑った。


 「充分だ!!」


 言うが早いか、手元に再び紅い光球を生み出し――


 そのまま、爆発させた。




 俺は痛む足に鞭を打ち、カフェの方へと向かう。

 背後では、金属が交わる鋭い音と、爆音が交互に響いていた。


 ――生存者を探さなければ。


 今すぐここを離れなければならないのは分かっている。

 だが、生き残りがいると知っている以上、見過ごすわけにはいかなかった。


 崩れた店内に足を踏み入れる。

 足元に広がる赤黒い染みが、じわりと靴裏に張り付くような感覚を生じさせる。

 何かを踏みつけた感触に、眉をひそめる。


 ――声は、確かこのあたりから……。


 慎重に進みながら、壊れかけたテーブルの裏を覗き込む。


 そこには、うずくまって震える男の姿があった。


 「ひぃぃっ! お助けをぉぉ! 命だけはぁ!」


 男は頭を抱え、恐怖に震えながら叫ぶ。

 まるで、俺が殺しに来たかのように。


 「おいっ! 早く逃げるぞ!」


 急かすように声をかける。

 だが、男はうずくまったまま動かない。


 ――ラチが明かない。


 俺はそう判断し、男の腕を掴んで強引に引っ張った。


 「ひぃぃっ! 誰だよぉ!」


 男の顔を見ると、覇気のない――いや、全体的にどこか薄い中年の男だった。

 恐怖に顔をこわばらせ、俺の手を振り払おうとする。


 「正気になれって!」

 「お、俺を殺す気だろう!? あの化け物の仲間か!?」


 血走った目が俺を疑い、必死に身をよじる。

 ――ダメだ、このままじゃ埒が明かない。


 俺は男の肩を掴み、その目を真っ直ぐに見据えた。


 「俺はアンタを殺す奴じゃねぇって!!」


 怒鳴るように言い、無理やり正気を引き戻そうとする。


 すると、男の瞳にようやく焦点が合った。

 その顔に張り付いていた恐怖の色が、ほんのわずかに薄れていく。


 「き、君は……店内にいた……?」

 「ああ、そうだよ! やっと落ち着いたか?」


 落ち着きを取り戻した中年の男は、涙を浮かべながら震える声で言った。


 「す、すまない……ありがとう……!」


 「礼はいい、早くここを離れるぞ!」


 そう促し、俺たちは店内を飛び出した。


 外の惨状は、さらに酷くなっていた。


 街は、炎と破壊の渦に飲み込まれている。

 ビルは崩れ、あちこちで黒煙が立ち上る。

 地面にはクレーターが刻まれ、瓦礫と――血の跡が散乱していた。


 だが、立ち止まっている余裕はない。

 すぐにここを離れなければ――!


 そう思い、男の腕を引いて歩みを進めた、その時だった。


 「――ッ!?」


 横から、何かが飛んでくる。


 飛んできたのは、炎を纏った自動車――それも、猛スピードで回転しながら。


 「くそっ……!」


 咄嗟に身をかがめる。


 次の瞬間――


 ドォォォン!!!


 空中で、車が爆発した。

 凄まじい爆音が鼓膜を揺さぶり、熱波が容赦なく肌を刺し、爆風が背中を押しつける。


 「ぐっ……!!」


 思わず目を閉じ、腕で顔を覆う。


 すぐ横で、鈍い衝突音が響いた。


 中年の男が、尻もちをついていた。


 衝撃で息が上がり、呆然としたまま動けずにいる。


 「おっさん、立て! こんなとこで止まるな!」


 急いで男の腕を掴み、引き起こす。

 爆発の余韻が響く中、俺たちは再び走り出した――。





 黒煙が立ち込め、灼熱の空気が揺らめく中、二人の男女が戦っていた。


 「さっきの威勢のわりに、ずいぶん消極的じゃねぇのぉ?」


 赤毛の男がニヤリと笑い、立て続けに紅い光球を放つ。

 放たれた光球は、轟音と爆炎を巻き起こしながら、周囲の建物や地面を容赦なく破壊していく。


 しかし――


 女は、その猛攻を、紙一重の動きで次々と躱していた。

 華奢な体が炎の中を舞うように滑り抜け、爆炎の合間にその姿がちらつく。


 「チョロチョロと……!」


 赤毛の男の視線が、その動きを追い続ける――が。


 一瞬。


 視界から、女の姿が掻き消えた。


 「……ッ!?」


 瞬きすらしていない。

 だというのに、次の瞬間にはどこにもいない。


 「……そっちかぁ!!」


 咄嗟に、視界の隅に映った影へと紅球を投げつける。

 しかし――


 また消えた。


 爆風が弾け、炎が渦巻く。だが、その中に女の影はない。


 「妙な技を使いやがるぜ……」


 赤毛の男が舌打ちし、低く呟く。


 ――瞬間移動の類か?


 だが、それにしちゃあ、次に姿を現すまでの「間」が長すぎる。

 それに、現れる位置も、その間の長さに比例している気がする……。


 赤毛の男は考える。


 ――だが、ごちゃごちゃ考えても仕方ねぇな。


 一瞬で姿を消す瞬間移動なら避け続けることもできるが、そうでないなら話は早い。


 仮に瞬間移動の類だとしても、移動のたびに隙が生まれる。

 ならば――移動範囲ごと吹き飛ばせば、それで終わりだ。


 「めんどくせぇことはやめだ!!」


 男の掌に、これまでとは明らかに違うサイズの紅球が生まれる。

 周囲の空気が歪むほどの熱量を孕み、脈打つように不規則に揺らめく。


 「ここら一帯、全部まとめて吹き飛ばしゃいいだけだろうがァ!!」


 その瞬間――


 「させないっ!!」


 急に視界が揺れ、女の姿が目の前に現れた。

 紅い瞳が鋭く光る。


 細剣が閃く。


 「はっ!!」


 男は舌打ち混じりに身を翻し、その一撃を紙一重で避ける。

 しかし、女は止まらない。


 ひるまず間合いを詰め、連撃を仕掛ける。

 その動きは一切の無駄がなく、まるで流れるような剣戟。


 だが――


 「その動きは見飽きたぜぇ!!」


 赤毛の男は、すべての攻撃を見切り、紙一重で躱し続ける。

 刃が頬をかすめ、数本の赤い髪が宙を舞う。


 男はにやりと笑った。


 「ほぉら、もう終わりかぁ?」


 挑発するように言いながら、ゆっくりと息を吐く。

 その瞬間――


 赤毛の男の手が、わずかに紅く光った。


 ――ドンッ!!


 至近距離で、唐突に発生する爆発。

 閃光と衝撃が弾け、女の体が吹き飛ばされた。


 「ぐっ……!」


 身を翻しながらなんとか体勢を立て直すが、完全に崩れた体勢では、次の攻撃を防ぐのは難しい。

 男にとっては、十分すぎる隙だった。


 「ははっ! これで終いにしようぜ!!」


 男はにやりと笑いながら、手元の巨大な紅球を、ゆっくりと女へと向ける。


 光球が、異様な脈動を始める。


 熱を帯びた空気が震え、周囲の瓦礫が微かに浮かび上がるほどの異常なエネルギー。

 まるで獲物を飲み込む直前の猛獣のように、唸りを上げながら膨張していく。


 「イラプション!!」

 

 男が叫ぶと同時に、新宿の街を紅蓮の閃光が裂き、爆炎がすべてを飲み込んでいった。

読んでいただきありがとうございました。続きが気になる、面白かったって方はブックマークと下の方にある星マークを付けてください。ものすごく励みになりますので。それでは、次の話でお会いしましょう。

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