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異界戦記~異世界からの侵略が始まったけど、俺は生き延びる~  作者: もっさり白ブリーフ
トーキョー侵攻
2/20

人生で一番不幸な一日②

上京したい。

 朝から予期せぬ災難に巻き込まれたが、気持ちを切り替えて学校へ向かうことにした。


「まさか生のレオ様を見れるなんて!みんなに自慢しなきゃ!」


 俺がまだ気分を引きずっているというのに、一華は妙に浮かれている。


皇玲央(すめらぎ れお)……E.S.T.A(エスタ)序列5位(ナンバーファイブ)だっけ?」


 確かに助かったのはありがたい。だが、あのきざったらしい態度と無駄に距離感が近い感じが、どうも苦手だ。


「まあ、イケメンで強いし、そりゃあ人気も出るだろうな。」


 正直、世間ではカリスマ扱いされているが、俺にとっては単なる「実力もあるうえに顔までいいリア充」でしかない。


「おお?これは嫉妬ですかな?」


「ちげぇわ!」


 なぜか得意げににやにやしている一華に、つい声を荒げる。

 こいつはこうやって俺をからかうのが趣味なのか?


「ふふっ、やっぱり可愛いなぁ、有紀くんは。」


「だからその“可愛い”ってやつやめろ!」


 一華はますます楽しそうに笑う。


 はぁ……。

 俺のため息は、さらに深くなった。



 ――気を取り直して。


「それより、さっき刃物持ったやつに突っ込んでいっただろ?なんで危ないことしたんだよ。」


 少し真面目な口調になると、一華はピタッと表情を改め、軽く肩をすくめる。


「心配してくれてるの?大丈夫だってば。有紀くんだって知ってるでしょ?素人相手に負けるわけないんだから。」


 確かに、一華は剣道の有段者だ。

 実力は俺もよく知っている。何度も竹刀でボコボコにされてるからな。


 ……それでも、危険な目に遭ってほしくはない。


「……あんな約束、まだ守ってるのかよ……」


 つい小さく呟いてしまった。


「ん?何か言った?」


「なんでもねぇよ。それより、急ぐぞ。」


「うん!」


 一華は軽く頷き、俺たちは足早に学校へ向かった。



 駅から歩いて10分ほどで学校に到着する。

 今日は朝からいろいろありすぎて、もうすでにエネルギーを使い果たした気分だ。


 ……正直、帰りたい。


 教室に入ると、すでに何人かのクラスメイトが席について、教科書やノートを開きながらテスト勉強に励んでいた。


 その中で、一際眉間にしわを寄せて教科書を睨みつける、体育会系のガタイのいい男子生徒が目に留まった。


「有紀ーーー!!遅いじゃないかぁぁぁ!!」


 俺を見つけるや否や、結城勝也(ゆうきかつや)が、全力で駆け寄ってくる。


「ううぅ……誰も来ないから、みんなして俺を見捨てたのかと思ったぜ。来てくれてありがとぉぉぉ!」


「ちょっ、勝也……離れろって……。」


 勢いよく俺の腰にしがみついてくる勝也。

 ……正直、不快だ。


「そんな冷たいこと言うなよぉ!俺たちの仲だろ?」


 いや、男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。


「結城くん、遅くなってごめんね。勉強するんでしょ?早くしないとテスト始まっちゃうよ。」


 一華がさらりと助け舟を出す。


「あっ、そうだった!早く教えてくれよ!土日めっちゃ勉強したのに、全然分からなくてさ!」


 ようやく解放された俺は、席に着き、朝から早めに登校した本来の目的を果たすべく、テスト勉強を始める。


 今日の科目は、物理・化学・数学。


 よりによって最終日に、一番厳しい3科目を持ってくるなんて、まさに鬼畜スケジュールとしか言いようがない。


「学年一位、二位様の力を貸してください!」


 勝也が泣きついてくるが、俺と一華は慣れた様子で教材を広げる。


「ハイハイ……。じゃあまずはこの問題な。ここは……」


「おっ、なるほど……!」


 短い時間しかないが、付け焼刃でもやらないよりはマシ。

 一華と二人がかりで、勝也に詰め込み講座を開始する。



 要点をざっと復習し、最低限の準備を整える。本当に最低限ではあるが、まあ簡単な問題なら何とかなるだろう。


「そういえば、詩音はまだ来てないのか? あいつも補修かかってたはずだよな?」


「あ! 確かに詩音ちゃん、見てないね。」


 朝のホームルームが始まろうとしているのに、まだ姿が見えない。気になって勝也に聞くと、彼は肩をすくめた。


「俺も見てねぇよ。あれじゃね? 寝坊とか。」


「あー……あり得るな。」


 あいつなら十分あり得る。寝坊、もしくはそもそも早めに登校するって話を忘れていた可能性も高い。


 そんな話をしていると、教室のドアがガラッと開いた。


 入ってきたのは――茜詩音(あかねしおん)


 小柄な身長に、つり目気味の愛らしい顔立ち。その表情には何か覚悟を決めたような、それでいてやけに晴れやかな雰囲気があった。


 ……なんか、嫌な予感がする。


「ふっふっふ……おはよう。朝から勉強なんて君たちは偉いね。」


 仁王立ち。

 両手を腰に当て、なぜかやたら偉そうにこちらを見下ろしている。


「……なんか、いつもとテンション違わないか?」


「ふっふっふ……。」


 不審な笑みしか返ってこない。

 こいつ、ついに追い詰められておかしくなったのか……?


「詩音ちゃん、大丈夫? 勉強しなくていいの?」


「大丈夫だよ、一華たん! 心配してくれてありがとう! 優しい! かわいい! 天使!」


 詩音は満面の笑みで一華に抱きつき、頬ずりを始めた。


 (……いつも通りに見えるけど、やっぱり違和感がすごい。)


「おい詩音、お前なんでそんな余裕そうなんだ? 今日の科目、お前が一番苦手なやつだろ? もしかして、この土日しっかり勉強してきたとか?」


 勝也が率直に疑問をぶつける。


「ふっ……まさかそんな地道なことするわけないだろう。このバ勝也が。」


「誰がバ勝也だ! じゃあ、どうしてそんなに余裕なんだよ?」


「そうだよ。詩音ちゃん、このままだと補修になっちゃうよ?」


「ふっふっふ……。」


 詩音は得意げに笑みを浮かべ、一拍置いてから堂々と宣言した。


「私の能力――<念写(サイコグラフィー)>を使うのさ!」


「なっ!?」


 その場が凍りつく。


(こいつ……なんてことを……)


 学力試験で超能力を使用することは、厳重に禁止されている。

 バレたら、生徒指導や停学どころか、最悪、退学だ。


「絶対ダメだよ! 今からでも遅くないから、一緒に勉強しよう?」


「いーや! 私は覚悟を決めたの! 一華たんでも、この意志は変えられない!」


「……バカすぎる……」


「アッハッハッハ! こいつ、本当にバカすぎるだろ!」


「バ勝也だけには言われたくない!」


 一華の説得も、勝也の嘲笑も意に介さない詩音。

 その頑なさに、もう呆れを通り越して笑えてきた。


「でも、本当にバレたらヤバいんだよ? この前だって、上級生が能力を使ってカンニングしたのがバレて、2週間の停学になったんだから!」


「大丈夫だって、一華たん! 中間テストのときも使ったけど、バレなかったし!」


「なにっ!? そういうことだったのか……。珍しく赤点がなかった理由はそれか! 卑怯だぞ!」


 勝也が驚きの声を上げる。

 詩音は勝ち誇ったような表情で鼻を鳴らした。


「悔しかったら、私みたいに能力使ってみれば?」


 ――その瞬間。


「そうか。能力を使ったんだな、|茜詩音。」


「びゃっ!?」


 教室が静まり返る。

 振り返ると、そこには眼鏡をかけた担任の高橋先生。


 その表情は、氷のように冷たい。


「たかはしせんせ♡ おはようございます♡」


 猫なで声で取り繕おうとする詩音。


 しかし――高橋先生の表情は、一ミリも変わらない。


「ホームルームが終わったら俺のところに来い。お前は別室受験だ。」


「……はい。」


 詩音、補修確定。


 その横で、勝也が「ざまあみろ!」とばかりに爆笑していたが、一華に怒られ、すぐにしょげてしまった。


 本当に、こいつらは愉快な連中だ。



 チャイムが鳴り響き、試験終了。


 俺は席で大きく伸びをしながら、今回の出来を振り返る。


 ――うん、手応えは十分。今回も上位に入れる自信がある。


 周囲を見渡すと、テストの出来に満足そうな顔の生徒もいれば、撃沈して魂が抜けたような顔の生徒もいる。

 勝也は完全に後者だ。


「……俺、マジで終わった……補修確定……」


 机に突っ伏し、完全に屍と化している。朝の付け焼き刃では、やはりどうにもならなかったか。


 そして、もう一人。


 帰りのホームルームが始まると、高橋先生に伴われて詩音が教室に戻ってきた。

 彼女もまた、真っ白に燃え尽きたような顔 をしている。


 (……これに懲りて、少しは真面目に勉強する気になってくれればいいんだが)


 ――まあ、無理だろうな。



 ホームルームが終わり、帰り支度をしていると、勝也と詩音が俺の席に押し寄せてきた。


「有紀ぃーー!! 俺、絶対補修だよ! もう最悪だぁ!!」


「……終わった……一華たん!! 慰めてぇ!」


「はいはい、詩音ちゃん、よしよし。」


 詩音が一華に抱きつくのを見ながら、俺はため息をつく。


 ……騒がしい。

 というか、お前ら自業自得だろうが。


「ほら! テストも終わったんだし、気持ちを切り替えよ! 今日は東京インフィニティ・タワーに行くんだから!」


「あ! そうだった!」


「うおおお!! やべぇ、すっかり忘れてた!! でも、テンション上がってきたぜ!」


 一華の言葉で、俺もテスト期間中にすっかり忘れていた約束を思い出した。


 東京インフィニティ・タワー。

 東京タワーやスカイツリーを超える、高さ888メートルの超高層電波塔。

「世界一の建造物」として建設され、プレオープンが始まったばかりの最新観光スポットだ。


「テスト明けのお祝いだ! 行こうぜ!」


「おー!!」


 補修確定の悲劇を忘れ、勝也と詩音は目を輝かせる。

 一華と目を合わせて苦笑しながらも、その無邪気さが少しだけ微笑ましく思えた。



「……でっか。」


 新宿駅から歩いて10分。


 超高層ビルが立ち並ぶこのエリアにおいても、東京インフィニティ・タワーの存在感は異質だった。


 まるで空を貫くかのような直線的なデザイン。

 その外装は鏡面加工が施されており、都市の景色を淡く反射している。

 見上げると、塔の上部は空に溶け込むように霞んでいた。


「……これ、てっぺん見えなくない?」


「でけぇよな! なんかめっちゃワクワクしてきた!」


「すごい……!」


「よし、じゃあ中に入ろう!」


 一華が元気よく声をかけ、一行は意気揚々とタワーの入り口へと向かう。



『ご提示いただいたQRコードの日付が有効期限外です。正しい日付のチケットをご確認ください。』


「……は?」


 チケットをスキャンした瞬間、俺のスマホ画面にエラーメッセージが表示された。


 嫌な予感がして、チケットの詳細を確認する。


 ――日付が、明日になっていた。


「……もしかして、日付間違えた?」


 痛恨のミスである。


「えぇぇ!? 有紀ぃ! しっかりしてくれよぉ!」


「有紀がいない分、一華たんは私が独り占めしておくね。」


「有紀くん……残念だね。」


 俺のミスに、悲しそうな顔を見せる一華と勝也。

 一方で、詩音は「チャンス!」と言わんばかりに一華に抱きついている。


 ……今日、運悪すぎないか?


 俺自身、この日を楽しみにしていただけに、テンションは大きく下がる。


(……まあ、こういう日もあるか)


 せっかく新宿まで来たのに、すぐ帰るのはもったいない。

 少し歩いて、カフェでも寄ることにした。



 新宿の雑踏を抜け、適当に検索したカフェへ向かう。


 辿り着いたのは、ガラス張りの外観に、シンプルなロゴが掲げられたカフェ。

 店の中には行列ができ、カウンター越しに店員が手際よくドリンクを作っているのが見える。

 メニューのボードには、期間限定のシーズナルドリンクが目立つように書かれていた。


(結構並んでるな……)


 少し面倒だったが、今日は甘いものでも飲んで気分を変えたい。

 俺は列の最後尾に並び、スマホでメニューをチェックする。


 ――目に留まったのは、「濃厚マンゴー&ホワイトチョコシェイク」。


(今日はこれでいいか)


 なんとなく周囲を見渡すと、前に並んでいる二人組が目に入る。


「この後、たくさん各局で仕事が入ってるんですよ? こんなところにいる時間は……」


「うるさいわねぇ。あたしが何をしてようが、あたしの勝手でしょ?」


 スーツ姿の女性が、明らかに焦った様子で話している。

 一方で、もう一人のフードを深く被った若い女は、カウンターを睨んでいた。


 フードの影から覗く横顔は、驚くほど整っていて、どこか既視感を感じる。


(……芸能関係か?)


 話の内容からして、スーツの女はマネージャー、フードの女はタレント――もしくはそれに近い存在なのだろうか。


「そんなこと……」


「第一、あたしにとってその仕事は趣味とか遊びみたいなものなの。本業優先。わかったら黙ってなさい。」


「そんなぁ……」


 バッサリと切り捨てられ、スーツの女はがっくりとうなだれる。

 その態度はわがままとも取れるが、どこか「そういうものだ」と思わせる不思議な迫力があった。


(まあ、関係ないけどな)


 俺は適当にスマホをいじりながら、順番を待つ。


 ふと、店の外からざわめきが聞こえた。


 ――いや、違う。


 これはただのざわめきじゃない。

「困惑」や「動揺」が混じった、不安定な騒ぎ方。


(……事故か?)


 そう思い、店のガラス越しに外を覗く。

 人混みの向こう、駅の方に人が集まっているのが見えた。


 しかし、何が起こっているのかはわからない。


(最近、超能力絡みの事件も増えてるしな……)


 とはいえ、今のところ大きな混乱にはなっていない。

 大したことじゃないだろう、と考えた矢先――


「お待たせしました。お客様、シェイクのご注文ですね?」


 ちょうど自分の番号が呼ばれた。


「あ、はい。」


 俺はカウンターへ向かい、シェイクを受け取る。

 ストローを刺そうとした、その瞬間――


 店の自動ドアが開く音ともに、「何か」が店内へ飛び込んできた。


(……え?)


 入り口付近の床に、赤い光の球体が転がる。


 ――まずい。


 店内の客が、一瞬息をのんだ。


「な……」


 誰かが何かを言いかけた、その瞬間――赤い閃光が炸裂した。


 世界が、一瞬で赤に染まった。



 

読んでいただきありがとうございました。続きが気になる、面白かったって方はブックマークと下の方にある星マークを付けてください。ものすごく励みになりますので。それでは、次の話でお会いしましょう。

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