やつらが夜な夜な家に来る
認知症の父とその介護をする母の気持ちを考えながら書きました。
現在連載中の作品とは全く別の作風ですが、よろしくお願いします。
まただ。昨夜もやつらが家に来た。
俺は気が気ではなく、ベッドには入らずにリビングのソファで夜を明かした。
彼らは高校生くらいだろう。男子も女子もいるみたいだ。夜な夜な徒党を組んで俺の家まで来て、二階まで上がって何か悪さをしている。彼らが来るようになってもう何日にもなる。
明くる朝、妻に預金通帳を全て出してもらい、預金残高を確認。電卓を使って合計額を計算する。
やつらが通帳に悪さをしてもすぐわかるように。
家を守るのは家長たる俺の役目だ。
少年少女たちが、俺の仕事のせいで我が家まで押しかけてきていると思うと尚更だ。全ては俺の責任なんだ。
「おはよう。コーヒー淹れようか」
妻の良子だ。昨夜の騒ぎには特に何も触れてこない。俺が責任を感じると思って触れないでいてくれるんだろう。
「ああ、ありがとう。もらうよ」
「それからバナナもね。食前食後のお薬も置いておきますね」
「ああ、うん」
そうだ。朝は食前と食後の薬があるんだった。
まずは食前の薬を飲み、バナナを頬張りながら朝刊を読む。良子が淹れてくれたミルクと砂糖たっぷりのコーヒーも飲む。
以前は朝食は食べなかったが、いまは薬を飲まなくてはならないから、いつの間にかバナナを一本食べるようになった。
「ゴミ出しに行ってくるね」
テレビが八時を過ぎたことを告げると同時に、良子がゴミ袋を持って出かけてゆく。
「昨夜もあまり眠れなかったから調子が悪いな。今日は休もうかな」
帰宅した良子に告げると、にっこりと笑って答える。
「そうだね。休んだらいいよ」
「うん。もう一度寝てきてもいいか?」
「うんうん、寝ておいで」
◆◇◆◇◆◇◆◇
夫が起きてきた。寝ぼけ眼で目を擦っている。大きめに声をかける。
「おはよう。もう起きるの?」
「うん…あまり調子が良くないな。今日は休もうかな」
「そっか。休んだらいいんじゃない」
「そうだな。もう少し寝てきていいか?」
こうして夫は四度寝をしにベッドへと戻っていった。
今朝は少し落ち着いているみたい。やはり先週処方してもらった安定剤が効いてきたのかな。
季節の変わり目のせいなのか、ケアマネージャーとの面談が刺激となったのか、今月はずっと夫の妄想と不穏がすごかった。どうか、今日は一日安穏と過ごせますように。変なことを言い出しませんように。
良子は大リーグの野球中継を流すテレビの音量をぐっと絞った。