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イモータル 7

「え? ――あれからどなったかと――あ、はい。大丈夫です」


 春野は家で電話を受け、雨の中を指定された近くのファミレスへと向かった。

 駐車場には、ピンキーが雨を玉のように弾きながら止まっている。

 中に入ると、隅の席に大柄な男が座っているのを見つけ、胸の前で小さく手を振った。男は、少し腰を浮かせて会釈する。


「金堂さん」

「ああ、どうもわざわざご足労頂いて」

「いえ、構いません。ファミレスで会うのもなんか……懐かしいわ」

「ああ、そうか。申し訳ない」

「ちょっと……雰囲気違うね。少し落ち着いちゃった?」

「いや、どうだろうな」


 可愛い制服を着たウエイトレスが注文を聞きに来る。春野はコーヒーと言おうとしてそれを飲み込み、ジンジャーエールとチーズケーキを頼んだ。ウエイトレスは、はきはきと復唱すると、去って行った。


「コーヒーじゃないんですね」

「実は飲みたいんだけど……」


 黒スーツに地味なネクタイをした金堂は、少しだけ首を傾げる。


「お腹に、その」

「あ、そうですか。 それはおめでとうございます」


 少し頬を赤らめて、春野が下を向くと、金堂はキーをテーブルに置いた。


「車、助かりました。お返しするのに時間が掛かってすいませんでした。思ったより修理に手間取りまして」

「古い車ですし。あの、人見さんは……」

「さあ、どうしたんでしょうね」

「さあ、って」

「すいません、あの人はほら」

「そうか。……機密」

「まあ、そんなところです。――失礼じゃなかったら、お相手を教えてよ」


 少しだけ視線を泳がせた春野は、恥ずかしそうに言った。


「実は庄野さんと一緒に住んでて。あの、二郎さんの甥の」

「え! じゃあもしかしてあの夜?」

「沢山亡くなった夜なのにね。国崎君も」

「それは関係ない。関連付けちゃだめだ。いや、本当によかった。お幸せに。――ではこの辺で、以後も秘密でお願い致します」


 そういって席を立とうする金堂に驚き、春野は声を大きくした。


「もう?」


 すると金堂は、立ったままニヤリと笑う。


「あたしはね、忙しいのよ。幸せバカに付き合ってる暇なんか無いの」


 金堂は、口を開けて硬直する春野のおでこを指で突く。


「そんな……こと、って」

「ちょっと早すぎんじゃないの? 妊娠発覚なんてさ」

「いえ……いや、具合が悪くて病院行ったらその……え? 冗談なの?」

「あっそ。まあどうでもいいけど」


「金堂」は春野の質問を無視して、その鋭い笑顔を春野の顔に寄せる。金堂の低い声で語られる人見の意思は、春野の内部にまで簡単に染みわたる。嫌悪感と懐かしさ、逃げたしたくなる切迫感ともっと話を聞かないといけないという義務感のようなものが同時に湧きあがり、みぞおちの辺りが熱くなる。

 金堂は、複雑な表情を見せる春野に、目をすこし細めて言う。


「情けないくららちゃんも、おかあさんか。時代は巡るってやつだ」


 春野の表情は、徐々に確信と決意のそれに変わって行く。


「ひとつだけ教えて。瞳ちゃんと美月ちゃん、琴美さんは、どうなったの?」

「サービスだよ? 琴美はちゃんと死んだし美月は消えた、心配するな。ぐっすり眠ってもかまわない」

「そうなのね」

「瞳とか名乗ってたらしいアレは、恨みつらみとは無縁の別物だ。美月のように暴れることもない。それはなんとなくわかってるだろ?」

「ええ、まあ」

「しかし、アレは自由だから、またお前の前に現れるかもしれない。でも、お前が瞳と認識することはないと思うよ」

「あなたは?」

「私はいつだって正義の味方だ。後はお前達次第」

「そう……全然信じられないけど、覚えておくわ」


 金堂は少しだけ口角を上げると、一瞬考える素振りをする。


「ちょっと問題があってね。あたしと金堂の記憶はもう少しで消去されることになる。多分事故かなんかでね。だからもうあんたを罵ることも助けることも出来ない。でもいい? この先状況は大きく転がる。あれを見たあんたには十分わかってるはずよね」


 人見さん、と口にしそうになって咳払いで誤魔化すと、差し出される金堂の大きな手を取り無言で頷いた。


「あんたには一応礼を言っとくわ。槍、ありがと。じゃあねママ。精々幸せに暮らしな。死んじまった奴らの分まで。――あ、当然この会話も秘密だ」


 そう言うと、金堂はポケットからロリポップを取り出して咥えた。二人の視線が再び合わさると、彼の片目が一瞬閉じ少し笑う。それに春野は力を込めた目線だけで応じた。


 金堂は伝票立てから伝票を取ると、代わりにロリポップを一本立てる。

 そして、少しだけ背中を丸め大股でレジへと向かった。


  


 ~明市事件編~  終わり

長いものを、チラ見して頂いた方から全部読んで頂いた素晴らしい読者の皆様。お付き合いありがとうございました。

このような「一旦」の終わりになりましたが、引き続き書いてまいりまして、なるべく早めの投稿開始を目指したいと思います。その時にまた、ちょっと見て頂けると幸いに存じます。

重ねてではありますが、感謝感謝!


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