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イモータル 6

「変わりには、金堂をあてる……か」


『三番』とだけ呼ばれる高層ビルの最上階で、上田は「下」の世界を眺めていた。

 灰色の雲から降り注ぐ灰色の光は、ガラスを伝う雨粒と共に、下界へと降り注ぐ。踵を返し重厚なウオールナットの机に就いた上田は、書類に「極秘」の判を押すと、茶封筒にそれを入れ、引き出しに投げ込む。


「人見。ご苦労だった」


 呟きとほぼ同時にドアがノックされ、肩幅の広い痩せ気味の男が一人部屋へと入ってくる。上田は立ち上がると大げさなゼスチャーでソファーを勧め、自らはデスクの席ににつく。


「官房副長官殿。お待ちしておりました」

「白々しいな、今更」


 男はふふっと笑うと、三人掛けに身を沈めた。


「穴だらけの死体の処理は大変だったぞ。第一空挺の説得も骨が折れた。特に桜田門は、まだ――」

「私が骨を折らなかったとでも仰るのかな? 何人やられたか報告はしたはずだが」

「ああ、わかっている。特に、彼女は惜しかったな」


 上田は無表情のまま書類を揃え、それを机の隅に置くとやっと立ち上がり男に歩み寄った。


「金も人材も天下の回り物、と言いたいところだがね。ラングレーも震え上がらせるような個人は。――まあ、それでもうちには優秀な人材が集まってる。心配は要らんさ。それにあれは少々優秀過ぎた」

「本当にそうだったんだな」

「ああ、タイの紛争地帯であれを見つけた時から、文字どうり規格外なのはわかっていた」

「それでも使い続けた」

「人間は原爆だって使っちまうんだ。都合さえ良ければ、中身は結局どうでもいい。違うか?」


 男は膝に腕を置いて少し笑うと上田に視線を送る。

 薄い頭を小指で掻きながら上田は面倒そうに唸った。


「明市事件とは、何だったのか。か?」

「そうだ。資料には残さずとも、せめて俺の頭の中で言語化しておきたい。どうしようもなくなった時の説得材料としてもな」

「わからんよ。あれから一月で、生き残った部下四名のうち三名が死んだ。三名だ。自殺、突然死、交通事故、とはなってるが、どれも不可解。そして、残ったのは人見と仲良しだった金堂のみだ」

「それは……金堂が? それとも、明市に関する何かか? それとも……」

「試してみたいか? 見栄やらおかしな責任感で金堂を問いただしてみたいか? ある夜、人けの無い路地で、黒ずくめのチビが前に立ちはだかるのを見たいか? 俺は御免だ。お前だってそんなことより、今度の党首選に集中したほうが良いに決まってるのさ。我々の本来の目的のためにも」

「人見が生きてるっていうのか?」

「声がでかいぞ。――生きちゃいないよ。死体の報告書も見ただろう? だがな、自分の信じたいことよりは、現実に起きてることを基に思考を進めるのが利口ってもんだろう。まあそれがいつも難しいんだが」


 広い背中を少し丸め男は黙り込んだ。上田は席を立ちその肩を叩くと、笑いながら葉巻を勧めた。


「たかだか二百年だ」


 葉巻に火を点けながら、そういう上田は、空笑いを立てる。


「産業革命が興ってからさ。たったそれだけの間に、起こらなかった事だから、この世に無い事だと言えるか?」

「狼男や吸血鬼と……まさか、そう思っているのか?」

「わからん。例えば江戸時代の人間を現代に連れてきたら、魔法の国にきてしまったと感じるのじゃないか」

「そうかもしれんが」

「琴美や美月を目の前にして目を瞑り、論理的な説明の枠に勝手に押し込んで、ほっと一息ついていいのか。俺はそれほど楽観的では居られないし、そんなことを他の誰かと議論もしたくない。しかし……出来る限り準備はしておくべきだろう」

「地球の支配者が、人間じゃない可能性……」

「なるほど。そうだな、王は他に居るのかもしれん」


 上田は長い息と共に葉巻の煙を吐き出し続けた。

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