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イモータル 5

 少女を覆う爆煙が風に乗り、徐々に移動した時、そこに見える人影に二人は驚いた。


「立っ スイッチを放り出して金堂も様子を伺う。

てやがる。立ってますよ! 中尉」

「うっせえ。みりゃわかる……」


 目を見開いた人見は、薄くなる煙の向こうに立つその姿に更に驚愕する。

 その右腹部は殆どの肉がそげ、右腕は消し飛び、顔も半分が無くなっているが、傷や出血も無い。ただ黒曜石が欠けたような破壊痕があるだけだった。ソレは歩みを止めない。


「バケモノがああ!」


 人見はソレに向かって、銃を放ちつつ塀の陰に隠した槍へと走りだした。

 その時、あのサイレンが響きだす。音源は間違いなく少女周辺だった。ただのサイレンではない、精神を直接攻撃してくるようなその音に、耳を塞いでその場にうずくまりたい欲求に抗って走り続ける。

 一瞬振り返ると、音圧で揺れる視界の中、金堂達が耳を抑えて苦しんでいるのが見える。

 少女に目をやると、欠けた部分が少しずつ元の形を取り戻しつつあった。


「うるっせえな! もう!」


 構わず走り続ける人見の後姿を、少女は残った左目で追う。

 不意に恐ろしいサイレンが止むと、少女の頭上に拳ほどの黒い球が瞬時に現れた。それから帯状の光が差し、人見の足元でアスファルトが発火する。


「飛び道具!」


 市役所側の歩道まで達した人見は左足を踏ん張り跳躍する。右手奥にあった街路樹が爆裂し、更に奥の車が発火する。そのままコンクリートブロックを一気に飛び越えると、身を縮めて槍へと走った。それを察知した少女もそちらに歩みを進める。

 ブンという振動音をたて、電磁場の中を瞬時に移動しては実体化する連続した動きで、ソレは急速に人見へと迫ってゆく。


「権田……援護だ」


 金堂の呻きで、権田は隠れていた路地に伏せるとライフルを構える。スコープはその頭を捉えるが、その小ささに一瞬発射を躊躇した。人見の足元で、沸騰した水溜りが爆発音を上げる。


「ヒミ!」


 思わず金堂が叫んだ。少女の首は金堂達の方へ回り、その目が権田を捉える。短い悲鳴と共に権田の頭は、緑色の炎に包まれ、ほぼ同時に内部から破裂した。その熱い肉片を浴びた金堂は、背中を壁に押し付けて、首の無くなった権田を見下ろす。そして奥に目をやると、そこに居た三人も腹や胸に四角い穴を開けられ絶命していた。


 権田達の犠牲で僅かに動きが止まったその隙を突いて、人見は腕を伸ばし全力で槍に向かう。

 生き残った数名が銃撃を浴びせたが、その悉くがビーム状のものによる逆襲を受け頭を消し飛ばされた。

 唸り声を上げ槍へと走る人見に少女の顔が向くが、一瞬早く人見の手が槍に掛かった。

 転げながら左手で太ももの銃を抜き、膝打ちで弾倉全てを一気に浴びせる。二〇を越える弾丸が蒸気となって消滅し、少女をその濃厚な煙が一瞬覆う。

 そのまま銃を捨て槍を握って立ち上がると、15mほどに迫った相手に向かう。


「この世に『王』は二人もいらネエんだよ。王は私だ」


 後ろで手を叩く白髪の少女をわずかに首を動かし確認すると、それは晴れやかな顔で言う。


「そうそう! 上手」


 人見は全身の力を込め、槍投げのフォームで、槍を放つ。

 一瞬の後、それは少女の胸に突き立っていた。


 電磁場で白く熱せられたその穂先は、殆ど溶けていたが、僅かに残った部分がその胸に到達した。穂先はその体を貫通し、柄の三分の一ほどが背中から出ている。


 体から白い炎が上がり始める。

 少女は残った片手で槍を握るが、その足は脆い岩のように崩れ体勢を崩す。 やがて、全身から炎を上げ、徐々に力が抜けてゆく。

 体を支えていた槍の柄が燃え落ちると、前のめりに路面へと倒れこんだ。


 瞬きもせず、その姿を見据えながら人見はコートと帽子を脱ぎ捨てそれに歩み寄る。ゆっくりスライドを引き弾がチャージされているのを確認すると、その頭部へ銃弾を打ち込む。電磁場は既に消え、弾丸は直接その頭へと到達し、陶器のようなそれを砕き散らした。


「お前かよ。婆さん」

――なによ、ご挨拶ね。10年以上ぶりでしょうが。ちゃんとお手伝いしたし。まあ、とりあえずおつかれさま。

「性悪が。何が瞳ちゃんだよ」

――性悪はどっちよ。次はもっと素直になってよね

「記憶が戻ったってことは」

――そういうこと

「消えろ、金堂が来る」

――はいはい、じゃあ後で


 独り言を言っている人見に躊躇しながらも歩み寄り、肩に手を掛ける金堂に構わず、人見はその燃え続ける炎を見ていた。


「終りってことで……良いんですよね?」

「ああ、とりあずは」


 金堂が頷いた瞬間、車が路地から急発進してくる。

 人見の腕が金堂の体を押し、数メートル一気に飛ばされる。アスファルトにしこたま背中を打ちつけ、呻きながら顔を上げると、人見へ向けて突っ込んでくる車が金堂の目に映った。


「人見さん! 国崎が!」


 金堂は叫びと同時に拳銃を抜き、立て膝で構えると十発をフロントガラスに向けて立て続けに叩き込んだ。

 車の中で人影が揺らめき、車は方向を変えて建物へと突っ込む。

 その衝突音に紛れ、一発の重い銃声が道路の向こう側から轟いた。


 金堂は発砲した少年へと銃口を向ける。その目に映る幼い顔は狂気と喜びに満ちていた。ゆっくりその銃口を金堂へと向ける。

 ドサリと人見の体が崩れ落ちる音がする。

 

「やりやがった! 当てやがったな! 銃を捨てろこのガキが!」


 銃を握り締め少年を睨みなら唸る金堂をアスファルトから見上げ、人見はふっと笑う。


「復讐か。仕方ない」

「人見さん!」

「お前もやれよ。あたしの復讐だ」


 金堂は、重い引き金に掛かる指をやっとの思いで絞り込んだ。三発がその体に食い込み、少年はビルの壁に背中を擦りながら、崩れ落ちる。歯を食いしばってそれを見届けた金堂は人見に飛びつき傷を押さえる。だが内臓まで深く抉られた脇腹は明らかに致命傷だった。人見は目を開け、少し笑う。


「それでいい」

「そんなはずがない! エクリプスの盾には弾なんか当たらないんだ!」

「しくじったなあ。四五口径だろ? 中身色々やられてんな。すごく痛てえ」

「ホントですよ。あんなガキに……国崎の野郎! 仕組みやがったな」

「仕方ない……琴美を殺したしな。あれは多分やくざの子供……だろ」

「しゃべらないで、今応急処置を」

「今日はさ。いっぱい殺したな。化け物まで仕留めたしな。……な、金堂……だからもう今日はお仕舞いにしようよ」

「はい、もういいです」


 人見の手が胸のポケットを弄る。金堂はそこからシガレッポの箱を取り出すと、それを咥えさせた。人見は嬉しそうな顔を作ると、へへっと笑う。


「車のカギも出せ。春野に……」

「はい」


 瞳孔が開いた目で、人見はしばらく金堂を見ていた。もう一度処置をと言って車に向かおうとする金堂を、人見は右手でがっしりと抑える。


「お前……人見のことが好きか?」

「好きですよ。大好きですよ。だから頑張って」

「やっぱり、最後は女と……して、死にたいようだ」

「女ですよ、中尉は完璧な女です!」

「キス……を」


 金堂は、傷口を抑えていた手を見ると、視線を落として息を吐く。

 これで二度目だと思いつつ人見の頬に涙を落とすと、咥えられたシガレッポを静かに摘まみ上げ、唇をその口に近づけた。


 それに触れたとたんに頭の中に抽象画のようなイメージが鮮明に湧きあがる。同時に金堂は身体の隅々まで届くエネルギーとデータを『感じ』取っていった。

 あらゆる時代の空気、あらゆる生物の息づかい、理と法、生と死。そして人見の小さい身体がはっきりと胸の奥底でイメージされ、それがウインクする。

 金堂は頷き、その小さな肩を抱きしめた。そして「バイバイ」と呟くと、屍を静かに濡れたアスファルトに横たえ立ち上がる。


 上空を旋回していたヘリは、ゆっくりと機首を南に向けると爆音を残し去って行った。

 金堂は人見の指をグロックのグリップから一本ずつ丁寧に外し、それをベルトへ突っ込むと車へ走った。


 ――もうすぐ上田が明神ダムを放水させるだろう。全部水に流すつもりだ。春野のクラウンを使うといい。速いからね。南の峠に登れ。


 頭に湧き上がる言葉通り、金堂はピンクのクラウンの運転席に乗り込むと、生き残っていた三名の部下を呼んだ。


「できるだけ持ち込んだ装備をバンに詰め込め。回収班になるべく回収させる。急げよ! ここは水浸しになる」


 上部が焼けた権田のライフルと、奥の二人のマシンガンを取り上げ、敬礼すると金堂は人見の遺体横をすり抜け、もう一丁のグロッグを拾い上げる。

 武器が放り込まれたバンのGPSを確認すると、天上にスブレーでバツの字を書く。


「よし、大体こんなものか。引くぞ」


 部下が乗り込むと金堂は人見の遺体まで車を走らせ、それを抱え上げようとする。


 ――いいんだ。これはここに置いておく。


「どうしてですか?」


 思わず声を上げた金堂は、その表情を徐々に崩していく。


 ――ね? そのほうが面白いだろ。



 その時、煙のようなものが、人型に固まりだす。それは瞬時に、白髪翠眼の少女を模った。


――なんてことしたの! ルール違反よ。金堂を乗っ取るの?


 少女から瞬時に、恐ろしい眼力の女武者へと変化したそれが、金堂を睨む。


――いや、後始末しないと、物語が続かないだろう?


――しょうがないわね。少しの間だけよ? 記憶も消しなさいよ?


 何かを確信したように、遂に表情を崩しきった金堂は、急に姿勢を正して人見の器に敬礼すると運転席に戻った。


「さて諸君、短くて残念だか、ドライブだ」

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