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モンスターズ 3

 人見は、車内で装備を取り出していた機動隊分隊長に向かって、視線を送ると、催涙弾と言いながら親指でやくざの集団を指した。


「なにものだ!」

「群馬県警……いや、あんたにはもう言っちゃってもいいだろう。公安内務課だ」

「内務課……」


 人見はゆっくりと拳銃を上に上げる。


「グロッグ……”盾”か!」

「久しぶりだね、ちゃんと偉くなったじゃんか、倉橋」


 分隊長は一瞬体を固くし呆気にとられたが、頷きと共に窓から首をだし命令する。


 数本の発射筒から一斉に催涙弾が発射され、同時に人見の射撃と言う声が飛ぶ。大量の銃が水平射撃された。視界を奪われたやくざ達は、でたらめな方向に銃を撃ちながら次々に倒れていく。そこへ事務所ビルの裏側から急加速して躍り出る車が人見の目に止まった。


「ヤバイ! 伏せろ!」


 人見はそう叫ぶとマイクを捨て、車に向けてフルオート射撃をした。弾丸はフロントガラスを砕き運転手に当たる。が、それと同時に、車から棒切れのようなものが数本こちらへ投げ込まれた。

 近くに落ちた一本を、素早く敵方に蹴り込んだが、一本がバスの下に転がり込んだのを見た瞬間、落ちていた機動隊の盾へと体を伸ばす。


「榴弾!」


 数箇所から叫び声が上がった途端にそれは炸裂した。人見は一瞬早く盾を地面につき立て身を潜めるが、爆発の閃光に続き吹き荒れた爆風で数メートル吹き飛ばされる。


「やられたあ。クソ!」


 左肩を掠った破片で切られた傷を押さえながら立ち上がる。破れたコートとブレザーをみて舌打ちすると視線を上げる。

 敵も味方も立ち上がってる者は無かった。バスには火の手が上がっている。手榴弾を投げ込んだ車も街灯に突っ込み煙を上げていた。


「倉橋……ダメか」


 十数メートル離れた事務所の前には、十数人の男達が地面に転がっている。人見は弾倉を差し替えると、そちらへゆっくりと歩いて行く。

 呻きながらも、まだ銃を持ち上げようとする者達に残らず弾丸を打ち込み、事務所の玄関へと顔を上げると、そこには更に十あまりの人影があった。


「まーだいんのかよ」 


 その全員が銃を抜き、瞬く間に人見を取り囲む。周りの死体を蹴飛ばし足場を作る人見に、スーツを着たサングラスの男が首を左右にふりゴキゴキと音を立てながら歩み出る。


「その銃。――お前さん、警官かい?」


 人見は右の口角をぐっと上げて、その男のサングラスを睨む。


「どうかな。通りすがりのかわいい女の子だと思ってくれてもいいんだけど」

「それはちょっと難しいんじゃないか? この国じゃ、女の子がそういう物騒なものを持って、俺の部下を殺したりしないんでね」

「そうなんだ。ごめんなさい」


 そういうと、人見は両手の拳銃をゆっくりと上げる。


「ほら、怖い。二丁拳銃だぜ。やっぱ遊ぼうや」


 男達は一斉に銃を人見に向ける。人見も二丁の拳銃をスーツの男に向けた。


「おいおい部下の配置がおかしいぞ? これじゃあ外れた弾が向かいの奴に当たっちまう」

「俺ら、何かおかしいんだよ。元々そうだが、何故か今宵は凶暴さが増してるように思う。俺が殺されようと、誰が倒れようと、こいつらは笑ってお前を殺すと思うぜ」


 周囲から下品な笑い声があがる。男も周りを見回して歯を輝かせた。


「そうね。今夜はなんかおかしい。でも、お前らは元々気合入ってるからか、一般人ほどおかしくはないな、見た目」

「そういうお前さんやサツ共はどうなんだ?」

「どうなんだろ? お互い様ってところかな」


 人見はゆっくりと足を広げて踏ん張り、突然スーツの男に向けていた二丁の銃を掌を上にして寝かせると、引き金を絞った。二つの銃は発射の反動で地面と平行に走りながら弾と薬莢を吐き出す。

 一瞬のうちに前方の男達が薙ぎ払らわれるのを見た者達は、慌てて引き金を引く。

 が、百八十度にまで両腕を広げた人見の体は、一連の動作でその時既に宙を舞っていた。空しく銃弾が空気だけを切り裂き地面に当たった直後、空中で体を捻った人見は残りの男達を正面に捉えて着地する。体操の技のように美しい姿勢で人見は銃を構えた。頭の上を飛び、足を掠める銃弾には構わず、二丁の銃は再び火を噴く。

 再び、十文字の美しい姿勢をとった時、全ては終わっていた。


「ご清聴ありがとう、みなさん! なーんてね」


 煙る硝煙の中でそう呟くと、意図的に急所を外したスーツの男に歩み寄る。


「痛いか? 兄ちゃん」


 拳銃を持ったままの手で膝を抱えしゃがみ込んだ人見は、サングラスを銃の先で弾き飛ばす。男はその比較的可愛い目で必死に睨みながら言った。


「このバケモノが……」

「ほめてんだろうな? それは」

「そこら中の奴らが発狂して誰彼構わずに殺しまくってんのに……こんなとこで遊んでていいのか?」

「マジそんな感じだね、どうなってんだろうね」

「あの子供が通った後には、おかしくなった奴しか残らねえ。あれもバケモンだ。――もうこの街も終わりだ。お前もな」

「まだ居るだろ? 残りの組のもん、どこいった?」

「言わねえ。正直どうでもいい、どうせもう終わりだ」

「ふーん。まあこっちもどうでもいいけど」


 それだけ言うと人見は男の頭にゴツンと銃を押しつけ撃ち抜いた。反動で頭が一瞬跳ね上がり、瞬時に飛び散る肉片、骨片に続いて大量の血が路面にドロドロと流れ落ちる。

 銃口から立ち上る煙が消え去ると、脳をアスファルトにぶちまけた「終わったモノ」を彼女は凝視した。


「簡単だ、事務所壊滅だ! 見てるか? 土居琴美。くだらねえ手品なんか必要ねえんだよ。弾ぶち込んで殺せばいいだけだ。あたしに逆らうクズ共は、誰だってこうなるんだよ。誰ひとり赦しゃしねえ。誰一人だ!」


 自分を中心にして円を作る新たな死体を見回しながら、人見は狂気の叫び声を上げる。その声は辺り全ての物を震わせ、湿った闇を戦慄させた。

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