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エンゲージ 1

 琴美のアパートの裏手、三百メートル程の所には、アパートを障害物無く見下ろせる丘があった。それを登る坂道の中腹に止めたレクサスの中で、人見、高見沢、奥田、の三人は土居当主殺害の報告をする無線に聞き入る。


 機動隊の包囲をすり抜け建物へと侵入、ガス状の物で組員を次々と失神させ四階まで上がりそこに居た土居妙泉とその部下十二名を殺害、との報に奥田が乾いた笑い声を立てる。


「あーあ……」


 じっと琴美の部屋の明かりを見ながら聞いていた高見沢も、腑抜けた声を上げた。


「タネがあるんじゃ……なかったのお?」


 後部座席で双眼鏡を覗いていた人見が上の空で返事をする。


「井出組の本部ですよ? ガスって。――警備が災害出動で薄くなってたってのも、一応土井の一族だってのも、なくはないけど、山ほど武器を持ち込んであった組の事務所に一人でって……それは無いでしょう」

「本気出して魔法使ったんだろうね。怖いわあ」

「えー。それだけ?」


 三角巾で吊った腕をさすりながら、高見沢が溜息をつく。


「なんか、撃たれて萎んじゃったみたいね、高見沢さーん」

「いえ! こんなかすり傷。腕一本あれば銃も撃てます。大丈夫です。――しかし、来ますかね? 奴は」

「ここまでの琴美の行動原理を思い出してみなさいよ。清子はやったかどうかわからない……いや多分やってるだろうけど。二郎にしても妙泉にしても、その方法は極めて残忍。目的は、復讐ですって言いふらしてるようなもの」

「捨て身で動く憎悪の塊、しかもなんらかの異常な手段を持っている……か。最高に厄介だな」

「そゆこと。オマケにどうも勘が効く、損得度外視の無敵の人よ。当然これが罠だと知った上で、いや、あからさまに罠だとアピールすればするほど、感情に任せて乗り込んで来たくなるでしょう。わだすのカレシになにするだ! ってね。奥の手もあるわけだし」

「……今度しくじったら、やべえか」

「殺されるでしょうね。『魔法』で」


 人見は双眼鏡をバックに仕舞うとバックミラーに向かいニンマリとする。不満げな顔で黙っていた奥田が後ろを振り返るが、口を開く前に人見がその

顔に指をさす。

「あんた達『スーパー佐藤』に行って社長に協力要請――っていうか、引っ張ってきてよ」

「感情があるならそこを突く、か。琴美の雇い主。国崎の次くらいには効きそうですね」

「そういうこと。泣き落とし宜しく! って湿り気たっぷりで頼んできて。高見沢、そういうの得意でしょ? あたしは残るから」

「了解です。すぐ連れてきます」


 傘の下でテールランプを見送った人見は、新しいロリポップを咥え直し百メートルほど離れたところに止まっている指揮車へとゆっくり歩き出した。木立が途切れ、アパートの建物に一つだけ輝いている部屋の窓が良く見える場所で立ち止まると、携帯を取り出す。


「金堂? まだ2139、暇だろう? ――うん、百万円のライフルと、一応ガスマスクを担いで遊びに来てよ。――大尉によろしく」


 部屋の光を目で捉えたままで、人見は携帯をポケットに仕舞うとまた歩き出す。


――マジで訳のわからないモノなら。


 一瞬背中を虫が走ったような感覚で身震いする。


「訳のわからないモノなら……それはそれは楽しいショーになるわよね」


 コートの裾から交互に飛び出てはまた引っ込んでいく自分のつま先を見下ろしながら、人見は呟いた。


 指揮車のバンに乗り込んだ人見は、中の四人を見回す。


「異常なしです」


 ヘッドホンをかけカメラからの映像を見ている一人が言うと、人見は頷いた。


「配置はどおです? 犬井いぬい副署長」

「こちら側に六名、玄関、駐車場は四。バックアップに車三台とその乗員二名づつ。抜かりは無いと思いたいですが」


 犬井と呼ばれた男の顔には明らかに不安の色が見えた。人見はマイクを取って回線を開く。


「皆さん指揮車、人見です。まあ、組の本部を潰しちゃうような奴だからね。状況に合わせて臨機応変にいきましょう。とり合えず、身内が居ないも同然の琴美に対して説得力を持つであろう人物を呼びにやりました。その前に国崎が上手く説得してくれれば良し、失敗した場合、彼が人質に取られることも想定して、前衛は慎重に対処してください。それと、最後の手段として裏の丘にスナイパーを配置します。射線に入らないように注意してください」


 スイッチを切って得意げに鼻を鳴らす人見に、指揮車の雰囲気も緩む。二人が同時に缶コーヒーへ手を伸ばした。犬井は立ち上がって彼女に席を譲り、大きく伸びをする。


「さすがは内務課、人見さん。段取りが良い」

「いえ。先輩にも早く戻って頂きたいですねえ」

「上田さんはこっちに入ってるんだろう?」

「ええ。兵隊を、狙撃ですが、一人あちらから借りました。バレットをもって向かってます」

「五十口径を住宅街で使うのか……」

「あの大砲みたいな発射音もこの雨で消えるでしょうし、事後の問題も出ないように工作します。あくまで最後の手段です、妙なトリックを派手に使われてこちらに被害が出ては困りますのでね」


 犬井は何も言わず苦笑いだけを残して別の席に着く。人見はその背中に小さく舌を出し国崎へ取り付けたマイクが繋がるヘッドセットを付ける。


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