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レジスター 2

 一瞬だけ春野の後ろ姿や、琴美の笑顔が脳裏を走る。

 運転手をやれば自分も死ぬかも、という自分の声も確かに聞こえた。だが、もはや表面に露出した殺人衝動は未来への希望すらも跳ねのける。こんなガキみたいな女なんか一捻りで殺せる。

 ふざけやがって、俺も琴美も殺させるものかよ! と体の内側が吼える。


 なんでそんなことを考えるんだ、と怯えて立ち尽くしている自分もはっきり認識できた。警官、というか、あの集団の一員を殺してこの先どうなるんだ、ともう一人に自分は叫ぶ。

 だがもう遅かった。もう一度琴美をこの腕で抱きたいという願望が叶えば、後はどうでもいいと思えた。


 国崎は一気に腰を浮かし、人見の首に右の手首を引っ掛ける。素早くその手を左手でがっちりと繋ぎ、力一杯後ろに引いた。


「ぐえ!」


 でかい帽子ののった小さい頭から、気味の悪い音が出る。見栄や体裁の一切混じらない単純な反応。急所を攻撃された生物の発する音がした。

 しかし、車は全く通常の動きで路肩へと寄り、静かに止まる。


「なんで!」


 歯を食いしばり更に力を込めるその右手に、細い指が添えられると、電流のような痛みが走った。


「はい、殺人未遂ね。現行犯」


 万力で潰されるような痛みが、摘み上げられた右手を痺れさせた。全身の力で掴まれた右手を掴み引き抜こうとするが、人見の三本の指は、それを許さなかった。


「やばいよー、警官を殺そうなんて。大変なことになったよー? 国崎くーん」

「痛い! 離せ! ババア!」

「ババアだ? このクソガキが! 腕引っこ抜いてやろうか!」


 舌打ちと同時に、国崎の視界に星が散った。人見が勢いよく背もたれを倒しヘッドレストが顔に当たったのだ、と気がついた時には、既に人見は彼の隣に座っていた。


「忍者みたいだとか思った? ねえ? ねえ!」


 鼻から出血しているのを見て、人見はポケットからティッシュを取り出し三回引き出すと国崎の鼻を押さえる。


「ごめん、ちょっとキレたもんだから。服汚さないで」


 国崎はそれを奪い取ると、人見からほんの少しでもと離れる。


「そんなにびびんないでよ。もうしないから」

「うるせえよ、殺せばいいだろう? 俺も琴美も殺せよ!」

「悪かったって。興奮しないで。あんたを殺しはしないよ。それに極力、琴美だって」

「ウソだ! あいつらみたいに、撃ち殺すんだろう。あんた、あいつらの仲間だって言ってたじゃないか」

「仲間は仲間なんだけどね。うーんどういえばいいかな? ――そう、仕事の分担だよ。あいつらがやってるのは、カルト教団を潰したり、革命を起こすぞなんていう危ないやつらをやっつける仕事。で、わたしが今やってるのは、普通に殺人事件の捜査なの。うーんわかるかな?」

「土居家が?」

「そうよ。栃姫教団みたいなものでしょ。あそこの襲撃はずっと前から計画されてたものなの。見たでしょ? 武器の山。たまたま親子失踪と殺人が起こちゃっただけなのよ。あたしにしても金堂にしても、あの計画のために東京からこっちに出向してたんだから」

「春野さんは美月ちゃんもお前が殺したんだって言ってたぞ」

「それは嘘だよ。あのヘボ記者の妄想」

「じゃあ……」 

「そう、本来ならわたしも突入終わって、今頃一息ついてたとこだったんだから」

「そうなんですか。じゃあ、本当に?」

「あんたの協力を得て、琴美を逮捕し、裁判にかける。もちろん、逮捕できれば、だけど」


 丸い大きな目を瞬かせながら、人見は真顔で語りかける。国崎の攻撃本能は理性にすっかりと置き換わり、元のひ弱な青年へとその態度を戻していった。従順に頷く国崎に、人見は微笑みを返した。


「なんかやっぱり、俺、おかしいんです。あの事故と女の子、美月ちゃんを見てから……すみません」

「そうねー、琴美も何か影響うけてるのかもね。変な手品使うし。さっきの殺人未遂もチャラにしちゃってもいいよ。大人しく協力してくれるならね」


 国崎は、痙攣するように数回頷いた。人見もうんと答え運転席へと這い戻る。それきり人見は言葉を発さず、車を走らせた。バイパスに入り、ファミレスの前を通り過ぎた辺りで国崎は気がつく。


「まさか、琴美ちゃんの家へ?」


 五分程しか経ってはいなかったが、人見の声は知らない人物の言葉のように低く響いた。


「そう、釣りでもしようかと思って」

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