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人見 1

 警察学校の武道館で、長い髪を振り回しながら怪鳥のような気合を発する、百五十センチほどしかない女性を見ながら、奥田は溜息をつく。


「あのお、人見警部はいったい何をされているんですか。高見沢さん」

「お前、本部に来たばかりだからなあ。まあ出陣式ってとこらしい。ここで気合を入れてから俺ら下っ端のケツを蹴り上げるのがあの人のスタイルだ。威嚇だよ。――あのズラ落ちねえのかな」

「あの突き……凄まじいの一言ですね。って、ウイッグって言ってくださいよ」


 奥田は思わず顔を引きつらせながら、片眉を上げておどける高見沢に突っ込んだ。確かに紺のブレザーとパンツに白ブラウスといういかにもな役人スタイルに髪の量の多い緩いソバージュは、気にはなる。


「まあ、変装ってとこか、な。大方どこかのレンジャーなんだろうが。ここ二年くらい、明市が騒がしくなってから出向してきた本庁ファイブの一人だから」

「なんすかそれ」

「明署の副署長、人見さん、後は警備部の三人。まあ、相手が大物代議士やらいきり立った地元の名士だ。その方が俺らとしても助かるってもんさ」

「へえ。――ねえ、高見沢さんなら、警部に勝てます?」

「組み手でか? 遠慮するよ。県警の男全部集めてきたって、いい勝負出来る奴すら殆ど居ねえだろ。ありゃ逮捕術なんてもんじゃねえ、殺しにいってる」


 そうなのかな、と奥田はぼんやり思う。空手の「型」は詳しくないが、野蛮な感じは伝わってこず、どちらかと言えば美しいとか洗練とかいう言葉が適当な気がした。


「お前は、腕っ節より女って方だな」

「いやあそれほどでも」

「馬鹿。女を落とせば大概の事件はケリが付く。精々日焼け止めでも塗っとけよ」

「人見警部も、ひょっとしたらそういう感じなのか、な? 歳だってまだ三十そこそこだろうし。そういう任務もあって、普段はあんな」

「可愛いといえば可愛いんだろうが……あれはああいうキャラなんじゃねえか? おっと、歳とか聞くなよ?」


 人見は、後ろに高々と飛び上がると、着地し再び壮絶な奇声を発した。


「あの公安の人ならいい勝負するんじゃないかな。知ってます? たまーに来てる」

「ああ。あの体はすげえ。でもどうかな。警備部内でも奴らにはあんまり口聞くなってお達しでてるから、よくわからねえ。『エクリプス』とかだったりしてな」

「アンタッチャブルですか。――映画みたいですね」


 神棚に深々と礼をし、紺のブレザーを拾い上げると、彼女は小さい背を更に少し丸め、大股で武道館を後にする。触れば切れてしまいそうなほどの気合を発散したままの人見に、部下達は慌てて追従した。


「いや、切れが違いますな。警部」

「そう? 今度組み手しようか」


 姿に似合わず、少し太い声が言う。


「あはは、光栄ですがもう少し生きていたいんで」

「そうだね、高見沢さんには明市での仕事が終わるまでは生きててもらわないと」


 高見沢は角ばった顔を静かにほころばせ少しだけ後ろに下がる。


「奥田。私のシガレッポは?」


 人見が畳に上がる前、咥えていた禁煙用のパイプを渡されたことを思い出した奥田は、慌ててポケットから取り出した。それをじっと見た後、彼女は首を上げて奥田を睨む。


「口んとこばっちくしてないだろな?」

「はい! ティッシュで包んでおきました」

「よーし。じゃあ準備は出来てる?」


 そう言いながら、人見はシガレッポを奥田の手から取り上げ咥えると、また歩き出す。


「はい。なにせあの原田代議士絡みですから、情報は入念にとったつもりですが」

「ですが、何よ?」

「肝心の事件のほうはまだわからないことが多くて、ですね」

「事前の保険みたいなもんだかんね、あたし達が出向くのは。そこは仕方無いわ」

「はい。現在わかっているのは、親子が行方不明であること、何者かが清子の車の事故を通報したこと、車には血痕、清子の外出から約十四時間が経過していること、携帯を含め一切の連絡が取れないこと。以上です」

「よーし。状況が暗転したら、すぐ特別捜査本部を立ち上げんだから。それまではただのお客さんよ。余計なことは一切しないように。行きましょう」


 二人の男は姿勢を正し「は」と短く返答した。


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