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切り裂く能力者

「‥‥‥‥不死身の能力者の情報はまだ手に入らないのか!?」

PRDとはうって変わり建物内のようだけどそこはうす暗い、場所がわかりそうなものはないようだ。唯一の明かりは小さい。でも、ここに誰がいるのかは確認できる。

五人の男と一人子供が立っている。

「P、PRDの警戒が厳重すぎて能力で侵入することは難しいです‥‥‥そ、それにぼ、僕の能力は物を消す能力(・・・・・・)。デ、データを盗み出すことなんて不可能です」

「通常者め!なめたマネしやがって通常者は通常者らしく、俺ら能力者の下で這いつくばっていればいいんだ!」

暗くて男の顔を確認することはできないけど通常者を見下す言い方と“通常者”という呼び方、この男が切り裂く能力者で間違いないようだ。

戦闘能力者はたいてい自分の能力を誇示する。

「ちっ、使えない情報能力者だな。情報を盗み出せる能力者いたろ?あいつはどうした?」

「壊れたよ(・・・・)。ひと月前に‥‥うまくいかないな。能力者を製造するのも」

壊れた(・・・)というのはつまり死んだということだ。

“壊れた”という言葉に情報能力者の子供が体を縮みこませた。この子供も成功した少ない例、そしてこの男たちが不要とすればこの後、待ち受けているのは処分(死)のみだ。

体を縮こませているというのは壊れた実験体をこれまで見てきたことと、実験体として苦痛を覚えているからだ。能力者は皆、実験で行われてきた苦痛をすべて覚えている。なんでも覚えている。そのように創られているからだ。

覚醒者になるとそれは変わる。もちろん能力者までの苦痛は覚えている。しかし覚醒者になるとこれまでの痛みがなかったように痛覚がなくなるのだ。

これは通常者の間では解明できていない。通常者が解明できた能力者についてのものはほとんどない。

「‥‥情報能力者(こいつ)はいいとして‥‥問題はお前だ。PRDが手薄になったところに侵入して情報を盗み出す計画だ。手薄にするため通常者(弱者)を殺す。それがお前の仕事だ。しかしやり方を変えろ!証拠を残さないように後始末をするのにどれだけの労力と時間がかかっていると思っている?俺たちがお前を創ったことを忘れるな!」

「なめた口をきくな!弱者が!お前らなんか俺の能力で簡単に殺せることを忘れるな!今ここで全員殺すことだってできるんだぞ!」

ガシャン!

機械のようなものが真っ二つに切れ大きな音を立てて倒れた。

喧嘩腰だった男も怯えている。確かに切り裂く能力者を創り出したのはここにいる研究者だ。しかし今となっては能力者となって生まれ変わった切り裂く能力者は研究者など他の弱者と変わりないのだから。今まで従っていた方がおかしなくらいだ。

「‥‥やめろ。お前は好き勝手に暴れていればいい。後始末は我々がする」

もう一人研究者の追加だ。この男の話し方だと他の研究者の上司のようで言い争いが収まった。

「お前の仕事は路地裏を使って通常者を殺し、世界会議まで暴れていれば何の問題もない。終わり次第私たちに連絡すればそれでいい」

「(けっ!いつまでこいつらの言いなりになっていなければならないんだ!?)」

能力者が反乱を起こしたのは弱者である通常者の命令を聞くのが嫌だったためだ。切り裂く能力者程度こんな研究者など造作もないことなのだろうがなぜ研究者の命令を聞いているのだろうか。不要と思えば殺してしまえばいいのに。

「(だが、弱者を殺すのは気分がいい。アリをつぶすような感覚だ。もっともっと殺したい。しかしもう少し骨のある奴と殺しあいたいものだ。PRDの連中は殺しがいがあるのだろうか?ぜひ殺してみたいものだ!こいつらに従っているのも癪だ。そろそろこいつらを殺して自由に‥‥自由に殺しを楽しみたい!)」

「不死身の能力者をなんとしても探し出せ!絶対に情報をつかんでやる!」

「(不死身の能力者か‥‥一戦交えてみたいものだ。俺は完成品の能力者だ。今度こそ殺しを楽しんでやる!)」

これは切り裂く能力者の反乱といってもいいだろう。



真桜は再び殺人現場に足を運んだ。すでに鑑識捜査班現場急行係は撤収していて現場に死体は肉片もきれいに回収されているが血はいまだに床や壁にべっとりしみついているし、血の匂いも取れていない。

そんなところにまだ真桜は用があるのだろうか。

「‥‥証拠ねぇ」

どうやらブライアンのいっていた証拠を見に来たようだ。しかしすでにPRDが全部証拠になりそうなものは完璧なPRDが見逃すことはないと思う。

真桜は大きな爪痕のある壁に近づき、爪痕のところに手を置おいて目を閉じた。

ザ————————ザザ——————。

真桜はゆっくりと目を開けた。

「‥‥‥やっぱりダメか‥‥‥使えねぇな‥‥数があるだけじゃ力も弱いか‥‥」

爪痕から手を放しあたりを見渡す。

「二回と言っていたがこことはまた別の事件か?ブライアン?」

真桜は空を見上げてここにはいないブライアンの名前を呼ぶ。今も真桜のことを見ているだろう。彼は千里眼の能力者で真桜を使ってゲームを楽しんでいるのだから。

「次、証拠がなかったら八つ裂きにするぞ」

『やめろ!来るなぁ!』

『た、助けてくれ!命だけは!』

『し、死にたくない!』

目をつむりバラバラに切り裂かれていくのを思い浮かべる。

能力者に怯え逃げているさまを、能力者によって殺されるさま、それを笑って通常者を殺していく能力者のさまを。

「‥‥‥うらやましいね。自由に殺しができるのは‥‥うらやましいよ‥‥切り裂く能力者」

情報の手に入らない現場には用はない。真桜はアレックスが事件の詳細をまとめ終えているだろうとPRDに向かった。



真桜は徒歩二時間かけてPRDに戻った。

「おかえりなさい。リーダー」

「ああ」

「‥‥ど‥‥どこに行っていたんですか?」

あれほどアレックスに止められていたのに好奇心には勝てなかったようだ。

我に返ったレイナーは口に手をやり、やってしまったという顔をしている。アレックスはやはりかと溜息を吐いた。

「‥‥今回の事件は情報が少ない上にタイムリミットがある。だから独断で捜査していたんだ。無能で使えない(・・・・・・・)ルーキーにこれ以上足を引っ張られたくないんでな」

「ぐっ‥‥」

無能で使えない(・・・・・・・)ルーキーと言われ自分の犯した失敗を思い出しうつむいた。

「リーダー。報告書の作成終わりました」

「ああ。確認しとく」

真桜はスーツのジャケットをハンガーにかけ、銃の入ったホルスターと腰につけていたボウイナイフを外しデスクの上に置いた。

レイナーがジッと真桜を見ていたので真桜はレイナーの方に目をやる。

「なんだ?ルーキー」

「あ、あの真桜さん。どこか怪我していませんか?」

「なぜそんなことを聞く?」

「‥‥眼帯に血痕がついているので‥‥」

真桜は眼帯に手をやる。確認しようと端末をカメラモードにしてみると、微量ではあるが血痕が付いていた。

「‥‥‥あの野郎、気づいていて何も言わなかったな」

どうやらごみ溜めの巣でチンピラどもを殺したときについてしまったようだ。しかしなぜブライアンは何も言わなかったのだろうか。

ブライアンのことだから部下やルーキーの反応を見てみたいという彼の遊び(・・)()なのだろう。

「能力者と戦闘があったのですか!?」

「‥‥チンピラどもに絡まれただけだ。その姿だからな。調子に乗ってくる奴だっているんだよ」

「そ、そうですか‥‥‥」

これ以上無駄なことを言わないようにレイナーは口を閉じた。

「お前ら今日はもう上がっていいぞ」

室内にある時計を見てみると一八時を回っていた。

レイナーはどうしていいのかわからずにいたが、アレックスは帰り支度をしている。

PRDの定時は班にもよるが一八時が基本だ。ただでさせ人手不足のPRDであるのだ。捜査官が過労によって倒れられても困る。そのため自分での体調管理のほかAIが体調や精神状態をきちんとチェックしている。

少しでも何かあると専門医に診てもらうように申請が来るようになっているのだ。

今回の事件はタイムリミットがある。忙しい日は徹夜や、泊まり込みも珍しくはない。他の班や能力犯罪捜査班だってやることだ。それが必要ない時は一八時に上りとなっている。もちろん家に帰っても緊急出動命令が発生することもないわけではない。気を抜けないのが大変だ。

「それでは、お疲れ様でした」

「お、お疲れ様でした‥‥」

真桜は基本的にPRDにいることが多い。本人曰く面倒くさいからPRDに泊まっているようだ。

真桜はアレックスが作成した資料を手に取り見ようとしたがレイナーはまだ帰らず、真桜のことをボケっと見ている。

「お前もさっさと帰れ」

「真桜さんは?」なんて口を開いたら今度は殺されるかもしれない。レイナーはその言葉を抑えて急いで帰り支度をして部屋を出る。

「お、お疲れ様でした!」

ゆっくりと閉まる扉に目を向けると真桜は他のビルから反射して見える夕日の光を見ている。真桜の姿は見えないが眼帯をゴミ箱に捨てているのはわかった。

レイナーは真桜の眼帯の奥に何が隠されているのか気になったが扉は完全に閉じてしまった。少しだけ扉の前に立ち尽くしていたがレイナーは溜息を吐き帰っていくのだった。

「‥‥汚いな」

血で汚れた眼帯はごみ箱に捨て、新しい眼帯をデスクの引き出しから取り出す。しかし眼帯は付けずにアレックスの報告書に目を通した。

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