危険な好奇心
真桜の命令でPRDに戻ったアレックスは情報捜査班、鑑識捜査班から随時送られてくる司法解剖、死亡推定時刻、大通りの監視カメラ、現場の写真、遺留品、バラバラ死体の身元、検査結果など大量の情報量をアレックス一人で確認をして冷静に情報処理を行っていた。
レイナーはというと、真桜に仕事を与えられずただただ死亡した能力者や現在逃亡しわかっている能力者の情報資料を眺めていた。
PRDでは能力者についてなどの資料を情報捜査班から持ち出すことはできない。しかし能力犯罪捜査班だけは特別で、情報捜査班から持ち出すことも重要機密書類でもコピーをとれる。
レイナーはその紙ベースのコピーを見ているのだ。
読んでいる資料は細かく情報が記入されている物もいれば、情報の少ない物もいる。
死亡や生きている能力者を含めた資料はとてつもない量だ。レイナーはずっと眺めていて疲れたのだろう。目を休めるため能力犯罪捜査班の部屋を改めてゆっくり眺め始めた。
他の捜査班に比べると狭いが二人では十分な広さをしており、自分たちのデスク側の壁には棚がありびっしりと研究者、研究所、能力者、犯罪、PRDの資料が紙ベースで置かれていて、その横にはコーヒーメーカーもある。
「(あ、レコードがある。珍しい‥‥真桜さんが聴くのかな?イメージがわかない‥‥)」
珍しいレコードが置いてある。レコードなんて今では生産されていなくて希少価値のあるものだ。今の時代ではレコードなんて知らない者がほとんどだろう。能力犯罪捜査班を出入りする扉、隣には真桜しか入れない会議室。
「(あの扉は何だろ?)」
ここにはもう一つ扉があるのだ。デスクの反対側、ガラス製の透明なテーブルに向かい合う三人掛けの革製ソファー、その奥にパスワードを押すパネルと扉がある。アレックスに聞くのが早いだろうがなぜかレイナーはその扉の奥を聞くことはなかった。
レイナーとアレックスが使っているデスクとは別に真新しいデスクが四つ、合わせて六つが向かい合わせに置かれている。レイナーのデスクには携帯端末と真桜に読んでいろといわれた資料しか置かれていない。レイナーは能力犯罪捜査班のルーキーになってまた一日経っていないのだから。
アレックスのデスクを見てみるとデスクの両端にはファイリングされた資料が置かれ、今は真桜に渡す報告書作成のためコンピュータを起動しているため真ん中あたりにモニターが映し出されよく見ると随時資料が送られている。
真桜のデスクにも目を向けるとレイナーたちとのデスクとは少し離れたところに設置され、またレイナーたちのデスクより高級感もあり、木製のオフィスデスクに黒革製の肱置き付きチェア、デスクの上は整頓されていて、銃を手入れする道具があり、真桜の確認が必要な資料が置かれている。
捜査官の話だと能力犯罪捜査班はPRDの本拠地ができてからつくられた部署、しかしなぜ変わり者・訳アリの部署と呼ばれているのだろうか。
真桜は変わり者に見えるかもしれないが、アレックスはそうは見えないとレイナーは疑問に思っているようだ。確かに年齢制限のないPRDで真桜のような子供がいても不思議じゃない。しかし階級がリーダーとなると驚くことなのだろう。
「(捜査班なのに二人だけって少なすぎるし‥‥なんでここだけ他のところのようにガラス張りではなく見えないようになっているんだろ?それに他の捜査官は変わり者・訳アリとか言っていたけど‥‥そうは見えないし‥‥戦闘捜査班より多くの能力者を殺している‥‥普通に見えるけど本当は違う?)」
情報捜査班にも能力犯罪捜査班二人のデータはアクセス権がなく見ることができない。
「(能力犯罪捜査班リーダーには何か隠されている‥‥‥‥真桜さんの左目ってなんで眼帯をしているんだろ?能力者との戦闘で負傷した?能力犯罪捜査班はPRDが正式に能力者専門の警察組織になってからできた‥‥じゃあ真桜さんやアレックスさんはいつから能力犯罪捜査班の捜査官になったんだろ?噂もあったけどすべて事実だったりするのかな?)」
次々と疑問であふれていく。それだけ能力犯罪捜査班が謎に包まれているってことだ。
部署内での探り、詮索はご法度なのだが、レイナーは真実を知りたいようだ。
「‥‥‥‥‥あ‥‥‥あの‥‥アレックスさんいくつか質問してもいいですか?」
「何?いいわよ」
真桜に見せる報告書を作成しながらレイナーの方は向かずに答えた。
「ア、アレックスさんと真桜さんはいつから能力犯罪捜査班に所属しているんですか?」
「私はもともとボス直属の部下なの‥‥だから私はPRDが正式に認定される前からボスの下で働いていたわ」
たった五人しかいないボス直属の部下、鑑識捜査班現場急行係リーダーデイブ・スミスが直属の部下であることは誰でも知っている。
しかしまさかアレックスもボスの直属の部下であったなんて誰が予想していただろうか。
よくみるとアレックスのスーツ、フラワーホールにはバッチが銀星三つだ。
「リーダーは孤児で能力者専門の殺し屋で、ボスがリーダーをスカウトしてPRDが正式になった時に捜査官になった。ボスがリーダー用にここ能力犯罪捜査班をつくったのよ」
「じゃ、じゃあ真桜さんもボス直属の部下の一人ってことですか!?」
「‥‥リーダーは直属の部下でありそうでない時もある‥‥‥つまり‥‥どちらでもないってことね」
「ど、どういうことですか?」
直属の部下であり直属の部下ではない困惑する言い方だ。
「リーダーはね。気まぐれなの。自分で部下を名乗るときもあればそうでない時もある‥‥でも命令には忠実だけどね‥‥私もリーダーについて詳しくはわからないの」
「なぜここは変わり者・訳アリの部署と呼ばれているんですか?ボスの命令で法に触れることもしているって本当ですか?真桜さんに何か隠されているっていうのはいったい何ですか?」
弾丸のように質問をアレックスに攻めていくさすがのアレックスも作業の手が止まった。
「はぁ。あなたって子は本当に懲りないのね。捜査官を勘ぐることもご法度なの優秀な(・・・)あなたならわかるわよね?ルーキー。またリーダーや能力犯罪捜査班を探ろうとするのならば私はリーダーやボスに報告してあなたを処罰せざる負えなくなるわ」
レイナーはまだルーキーだがれっきとしたPRDの捜査官(仮)(ルーキー)、捜査官の追求それがたとえ同じ部署の人間でもここでは違法、許されることではないのだ。
「‥‥すいません。アレックスさん‥‥今の発言は許されないものでした」
いくたの困難、試験を乗り越えやっとの思いでPRDに入ることができたのに自分勝手な好奇心で処分されるなんて馬鹿がする行為だ。
「さっきの発言は、聞かなかったことにするわ。次は気を付けることね」
アレックスは再び作業に戻り、レイナーも自分が馬鹿なことをしたと理解したのか又は疑問を取り払いたいのかまた資料を見始めた。
資料には顔写真、能力者名、目撃情報、犯罪歴など能力犯罪捜査班や情報捜査班、鑑識捜査班が集めた情報が記載されている。
多くは顔写真に赤ペンで×が書かれ、それに小さくだが処分した班の名前が書かれている。
この資料を見るとどうやら能力者は個体名をほとんど持っていない。
最初の能力者は、この写真は死体になってから撮られてものだ。名前というより実験番号。
実験番号はD-50。能力は戦闘能力者金属を操る能力。目撃情報、二一五一年七月二三日リカルミの監視カメラに記録された。リカルミから離れたごみ溜めの巣を住みかとしている。犯罪歴二一五一年七月二〇日~二五日の間で通常者二一人を殺害。能力犯罪捜査班により処分。
年齢や昔の名前などは記載されない。物には必要ないことだからだ。
実験体となり能力者となった物は人間ではない。物同然となり、その物は壊れるまで使い続けられる。
今度は監視カメラの映像だ。容姿はまだ子供。子供でも強力な能力を持っているから侮れない。大人より子供を警戒したほうが良いのだ。なんていったって能力者製造の成功例は大人より子供の方がはるかに高確率で、それにより子供の能力者が八割を占めている。
能力者戦争の前だって人手が足りなくて子供を洗脳していた国だってあったのだ。
どうやら子供と大人に違いがあり、子供の能力者の方が多く、大人になってから能力者になることもある。
希に遺伝子を引き継いで生まれた時からすでに能力を持っている物もいた。
PRDでも解明できていないのだ。どういう論理で、どういう仕組みで能力者が創り上げられているか。わかるのはいまだに生きている研究者くらいだ。なぜ能力者になると現れる黒いあざ、これも解明されていない。
能力者番号はC-102。能力は情報能力者透視能力。目撃情報、パンジミナルで目撃され戦闘捜査班により確保。のちにPRD内にて戦闘捜査班により処分。
PRDでは能力者の解明のために自分たちの危険が及ばない情報能力者を使って解明をしようとする。だから一旦確保してPRD内の留置所で生かす時があるのだ。もちろんそこは厳重な警戒で捜査官も一部の者にしかいることを許されていない。しかし確保、解明といっても長々と能力者を生かしても無駄なことだ。だから決まりがある。解明ができなくとも三日以内には処分をする。これがPRDの決まりだ。
ちなみに研究者の使用期限は特に決まっているわけじゃない。使えなくなったり、失態を犯したり、執行期間がある者は処分だが研究者の中でも上の立場にいた者ほど長生きする。しかしあくまで長生き(・・・)だ。殺されないとは言っていない。PRDに貢献したからといって釈放されるわけでもない。研究者は能力者同様排除しなくてはならない存在なのだから。
次は顔写真には×が書かれていない。ということはつまりまだ生きていることを意味する。番号はS-132。能力は覚醒型戦闘能力者電気を操る能力。首元に能力者の印あり。目撃情報、アシンタルトで目撃され戦闘能力者と戦闘になったが逃亡、消息不明。犯罪歴、二一六一年五月一九日~二一六一年六月二日に通常者一〇〇人、戦闘捜査班五〇人を殺害。現在情報捜査班が捜索中。
覚醒者はとても厄介だ。知能が低下しただけではなく誰も見境なしに殺す。
たとえそれが生みの親である研究者でも殺されないという保証はどこにもない。
戦争ではそれが重宝されたが今になっては厄介な物となっている。
「(あれ?このページ)」
次のページをめくってみると他の能力者と比べて情報が少なかった。
顔写真、なし。能力は覚醒型戦闘能力者不死身、その他複数の能力。目撃情報、目撃情報なし。目撃した可能性のある者は全員死亡したとみられる。左目に能力者の印。犯罪歴二一五一年一二月一七日、日本研究所及び特殊部隊壊滅二〇〇人死亡。一〇〇〇人以上殺害したとみられる。正確な人数は不明。戦闘能力者最強。情報捜査班が捜索中。
次のページも同じように書かれている情報が少ない。
顔写真、なし。能力は千里眼の能力。顔に能力者の印。目撃情報、なし。死亡している可能性あり。情報能力者最強。
この二つ、能力者最強の文字。
「アレックスさん。この不死身の能力者と千里眼の能力者って‥‥‥どうしてこんなにも情報が少ないんですか?」
レイナーの質問にアレックスの作業の手が止まった。
「‥‥‥‥不死身の能力者と千里眼の能力者ね‥‥‥‥不死身の能力者は日本で製造された。戦闘特化型で覚醒者でもある。不死身の能力者に会ったものは全員殺され情報が少ない。同様千里眼の能力者に関しては噂すらなく、すでに寿命を終えて死んでいるんじゃないかとされているわ」
「‥‥‥‥‥不死身の能力者‥‥‥‥‥」
レイナーは不死身の能力者について疑問に思っているようだ。
「(不死身の能力者‥‥なんか不思議‥‥まるで‥‥真桜さん?)」
何という想像をしてしまったのかとレイナーは大きく首を振る。自分の上司を能力者と疑うなんてあってはならないことだからだ。
「(そんなことあるはずない!真桜さんが能力者?能力者なはずない!真桜さんは能力犯罪捜査班のリーダーだ。能力者がここで働いているわけない………でも何だろう?妙にしっくりくる)」
普通の子供では出せない冷静さ、殺気、おかしなことばかりだと誰もが思うだろう。真桜は異常なほど子供らしくなく恐ろしい。