ごみ溜めの巣
真桜はだんだんと都心であるルニエクスタから離れていっている。雰囲気がガラリと変わり、この先にあるのはごみ溜めの巣だけだ。
人気のない街、フェンスで囲われ立ち入り禁止の看板が錆びてボロボロだ。壁や置き去りにされた車の外壁は剥がれ、都市部のようなハイテクビルとは違いレンガ造りの建物や上半分が崩れ倒れているビルや家なんかもある。空気がよどみ、霧もかかっている。
ルニエクスタまた違いまるで別世界のようだ。
ここは犯罪者や能力者が隠れ住む見捨てられた街“ごみ溜めの巣”。
ここも通常者大虐殺事件がなければ良い街だった。今になってはさびついてしまっている。ごみ溜めの巣は世界中に存在しているのだ。
世界中で世界会議でも能力者や研究者の次にごみ溜めの巣は問題視されている。しかし世界人口はわずか八一〇〇万人、住む面積としては二〇〇億人いた時より必要なく都市部だけで済んでしまう。金や人員、機械を使って更地にしてもかまわないが、ごみ溜めの巣には犯罪者や能力者が隠れ住んでいる。ごみ溜めの巣すべてを更地になって住処を失った犯罪者や能力者は都市部に姿を消すだろう。それでは安全な都市部に能力者を招くことになってしまう。それを恐れてあえて更地にしないといった理由もあるが、これは難しい問題だ。通常者の犯罪者ならPRDは関係がない。しかしこれが能力者関連だとしたら、ごみ溜めの巣を一掃できないのは通常者の場合、PRDではない警察組織の出番、能力者になるとPRDの出番だ。一掃してしまってもかまわない。だがどれだけの数、どれだけの強さを持った能力者が隠れているかは不明。PRDの捜査官だって四〇〇人しかいないのだ。だから各国の代表だって頭を抱えている。
監視カメラもない犯罪のはびこる街、無法地帯だ。ごみ溜めの巣はまた別の国のようになっている。
真桜は立ち入り禁止のフェンスを越えてごみ溜めの巣に入って行った。
電話の相手と会うためごみ溜めの巣中心に行こうと歩き進める。
すると————。
「‥‥子供がこんなところにいるなんて危ないよ?犯罪者なら別だけど‥‥良いスーツだね。どこのブランド?」
どうやらごみ溜めの巣にはびこる犯罪者のようだ。
真桜を囲むように男たち一五人が不穏な笑みを浮かべている。
「‥‥そこ、どいてくれるか?邪魔なんだが?」
真桜は目もくれず通り過ぎようとしている。しかしリーダー格の男は真桜を逃がすつもりはないようだ。真桜と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「おいおいおい。ガキが‥‥大人を怒らせないほうが身のためだぞ?」
リーダー格は真桜のスーツを見る。すると驚いていた。
「なんでお前‥‥PRDのバッチを付けているんだ?」
真桜のフラワーホールにあるPRDのバッチをみて驚いているのだ。
PRDのシンボルマークはユニコーンであるためバッチを見ればすぐにPRDの捜査官だとわかってしまう。
「僕が捜査官だからだ‥‥そんなこともわからないのか?」
「なんでPRDの捜査官がここにいる!?」
「なにって用があってここにいるだけだが?お前らに用はない‥‥それとも僕の遊び相手になってくれるのか?」
男一五人もいるのに臆せない余裕があり堂々としている。
「ガキが!調子に乗るんじゃないぞ!」
男たちリーダー格の男はリーダー格、他一四人はA~Nとでもいおう。
銃やナイフを見せれば真桜が臆するとでも思ったのか、リーダー格は真桜と同じ視線のまま合図をして銃やナイフを見せびらかす。しかし真桜は平然と立っている。
表情のない真桜を見てなぜかリーダー格は汗をかく。
「痛い目見ないとわからないようだな!」
リーダー格が真桜の額に銃を突きつけた。
その時—————————————。
バン!
「‥‥え?」
そんな拍子抜けした声を出したのは誰だろうか。
リーダー格はひどい耳鳴りと激痛に襲われる。
「が!?なんだこれ!?」
左耳を手で押さえながら視線を耳元に向く。するといつ抜いたかわからない。真桜が銃を軽々しく右手で持っていた。
どうやら発砲したのは真桜のようだ。こんな至近距離で撃ったのならリーダー格の鼓膜が破れてもおかしくはない。それに真桜がもっている銃はPRDの専用銃キリカではなく、自作の銃。真桜らしい殺傷能力も高くて大口径の銃。全長一八㎝、重さは五㎏、装弾数一〇発。そんな重量のある銃を真桜は子供なのに片手で持っている。
真桜がそんな銃を使うのには理由があり、近代技術の銃が嫌いなことと、自分の加減により一瞬で殺すこともじわじわ殺すことができるからだ。
Aが殺され、リーダー格は恐れて尻もちを突きながら後退りをした。
「ひぃ」
そこには真桜に撃たれて死んだAが転がっている。きれいに額に一発、鮮やかだ。
真桜の瞳は空っぽだがそれが恐ろしいのか、殺気が恐ろしいのか集団は冷や汗をかいている。
「(こんな子供が?ありえない!ありえない!相手はPRDの捜査官だが子供だ‥‥この人数なら殺れる‥‥俺たちは多くの人を脅し殺してきたんだ!)相手はガキ一人だ!殺せ!」
「‥‥‥‥まったくここに来ると必ず誰かは突っかかってくるな‥‥‥迷惑だが通常者を殺せてなおかつ楽しめればそれでいい」
銃を持ったリーダー格、B~Gは真桜に向かって銃を乱射、真桜は避けるように後ろに飛びあった廃車に隠れた。
「んー。まぁまぁってところか‥‥こいつを使うまでもないな」
真桜は右胸に手を置いた。
真桜は気長に乱射がやむのを待つ。今の銃の弾数が、性能が、殺傷力が高まったとしても真桜は動じずにいる。
乱射していた数が減ってきた。真桜は前線に出て、いつ当たってしまってもおかしくないこの状況で驚くことに真桜の体には一発も当たることがない。
真桜は標準を合わせてB、C、Dを殺した。あれだけ乱射していても真桜には一発も当たらないが、真桜はたった一発で大人一人を殺してしまう。これが真桜の実力なのだろう。
集団は銃と入れ替わるように今度はナイフを持ったH~Nが襲い掛かってきた。
しかしこれに真桜は驚きもしない。冷静に対応していく。
「死ね!」
ナイフを振りかざすHだが真桜は大人顔負けの力で振りかざす手を片手で止め右手に持っていた銃を使いHを殺した。Hのナイフを奪った真桜は自らI、Jに近づきナイフで喉元を切断した。
「カハッ‥‥カハッ」
真桜は残酷だ。わざわざ急所を外して長く苦しめて殺すのだから。
「安物のナイフだな‥‥」
ナイフの切り口を見てひとりごと。独り言を言える余裕もあるようだ。
「この野郎!」
Kは背後に回り真桜に奇襲をかけた。しかし真桜はそれを読んでいたのだろう。一八〇㎝はある大男Kの肩までジャンプし、腰に隠してあった真桜のボウイナイフを取り出して左手に持ちなんと頭を両断した。
「ほう、このくらいなら両断できるのか‥‥良いことを知った」
生き残りはE、F、G、M、Nとリーダー格、完全なる真桜の圧勝に固まってしまっている。
「なんだ?もう終わりなのか?」
「(ありえない!ありえない!ありえない!俺たちがこんなガキに簡単に殺されるはずがない‥‥)」
真桜はどうやら残り者が襲ってくるのを待っているようだ。しかし残り者の動きはない。
「‥‥‥‥つまらん‥‥‥‥」
真桜の冷たい一言。その言葉で何を思ったのか、殺されたとでも思ったのか、リーダー格は胸に手を当てている。どうやら心臓が動いているか確認をしているようだ。
そんな確認をするなら、真桜がPRDの捜査官と分かった時点で手を引けばよかったと思うが——。
「‥‥‥‥‥終わりにするか‥‥‥‥‥」
「(なんだ‥‥これは‥‥俺は今死刑を宣告されたのか?間違いだった‥‥こんなガキに声をかけるんじゃなかった‥‥)」
リーダー格はもう戦意喪失状態のようでカチカチと歯を鳴らしてる。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
死への恐怖でパニックになり冷静さを失ったL。真桜に突っ込んでいくように走っていくが間抜けなやつだな。途中で転んでしまった。
「隙だらけだぞ?」
真桜は自分のナイフをLの額に突き刺しナイフを抜く血しぶきが上がり真桜の顔にかかってしまう。
「お、お前ら!何をしている!?相手はガキ一人なんだぞ!」
リーダー格は怒鳴り声をあげる。
「相手はガキってPRDの捜査官だろ!?はなから勝てるわけねぇんだ!化け物を相手にしている奴を殺せるか!?」
どうやらすでに残っているEは戦意喪失をしているようだ。F、Gは何としても真桜を殺そうとあがき発砲した。
「遅い」
カキン。
真桜は持っていたボウイナイフでなんと弾丸を両断してしまった。
「ば、化け物」
どうやらあんな芸当を見せられて、F、Gも戦意喪失だのようだ。
真桜は自分のボウイナイフと地面に落ちていたナイフを二本とり戦意喪失しているE、F、Gの額めがけて投げた。動いている相手に突き刺すなんて簡単だが、戦力にならない奴に突き刺すのはもっと簡単な的だ。
なんと集団の残るはリーダー格のみとなった。
「なんなんだよ‥‥なんなんだよ!お前は!」
いまだに尻もちをつき震えながら銃口を向ける。震えた手で銃を撃ったって当たるはずはない。
バン!バン!バン!
「は?」
通り過ぎるタイミングに合わせて真桜は手を振りかざした。なんと真桜は弾丸を左手でキャッチしてしまったのだ。
「銃のスピードさえわかってしまえばこんな芸当だってできるんだよ」
しかし弾丸は高温だ。真桜は弾丸を握りしめると小さい音だがジュッっという焼ける音がした。
カラン。カラン。カラン。
真桜の手の平には案の定、赤くなり軽いやけどを負った。
「ハ‥‥ハハ。化け物‥‥PRDはどいつもこいつも化け物じみているのか?」
「さぁな?僕は殺し以外興味がないんでね‥‥しかし骨のある通常者はいないのか?こうも弱くては遊びようがない‥‥もっと殺したいものだが‥‥」
「PRDが快楽殺人者とは‥‥」
「残念だが僕は快楽殺人者ではない‥‥もともと壊れた‥‥いいや‥‥そうプログラムされているおもちゃだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。確かに壊れてはいるかもしれないけどな」
どこかでこういったセリフを聞いたことがあるのか、リーダー格の顔色が青くなる。
「お、お前そのセリフ‥‥ま、まさか‥‥」
「気づいたか?まぁもう遅いがな。お前が声をかけてきた時点でもう結末は決まっていたんだ」
「お願いします!誰にも言いません!もう脅しも殺しも盗みもしません!どうか!どうか命だけは助けてください!」
最後の最後までリーダー格というのはお飾りのようだ。戦闘には参加せず部下にやらせて全員殺され、自分も殺されるとわかると涙、鼻水を垂らして命乞いをする臆病者。
「残念だな‥‥やっぱり殺しはやめられない」
バン!
一五人の死体が転がっている。全員死んだのだ。誰も勝てず、誰も真桜に傷一つつけることはできなかった。
「つまらなかったのにこんなに派手に汚すとは」
胸ポケットにしまっていた白いハンカチで顔をぬぐう。白いハンカチは鮮血に染まっていった。
「汚いな」
顔は綺麗になりボウイナイフも拭き取って血で染まったハンカチをポイ捨てした。ハンカチは風によって飛ばされ見えなくなっていった。
「グルルルルルゥゥゥゥ」
邪魔者がいなくなって中央部に進もうとするとそこには牙をむいたドーベルマンと複数の犬がいる。威嚇なのか歯をむき出しにし、よだれを垂らしていた。
真桜はドーベルマンの目をじっと見つめる。
しばらくするとドーベルマンは真桜の後ろにある死体へと群がった。次々と野犬は死体に群がり始める。
グチャグチャゴリッバキッグチャッグチャッ‥‥。
不気味な音が響く。
ごみ溜めの巣には死体が一体も残らない。
通常者大虐殺事件により通常者の勝手な理由で飼い犬はごみ溜めの巣に置いて行かれた。食べるものがない犬、動物たちは飢えで苦しんだ。しかし食糧はあったのだ。それも身近に。ここは犯罪者や能力者が隠れ犯罪がはびこる街で殺し合いが当たり前の街、転がった死体はきれいに野犬たちが食べてくれる。通常者に飼われていた時とは全く別物、血に飢え肉に飢えた狂犬と化した。ここでは死体は残らない狂犬たちが食ってくれる。ここでは当たり前の光景。
犯罪がはびこる街ここではなんでも(・・・・)許されるのだ。
真桜は左手をズボンのポケットに入れ右手には銃を持って、中心部にあるビルに向かった。中心部にはこの街で一番高いビルだ。
目的地に着いた真桜は空っぽだったマガジンを弾の入ったマガジンと変え、銃はしまわずに右手に持っていた。これが真桜の癖なのだ。いつでも敵を殺せるように、より多くの能力者や犯罪者を殺せるように、真桜はさっき一五人を殺してもなお、殺し足りないのだ。
「‥‥‥‥‥君はもう少しことを穏便に済ませることはできないのか?」
真桜が寄りかかっているビルと隣の建物には人が入れるくらいの隙間があった。
真桜ではない声の主はその間にあぐらをかいて座っている。フード付きマントでどのくらいの身長で顔すらもフードで見ることができない。
「やっぱり見ていたか‥‥お前のその千里眼の能力‥‥もう少しマシな使い方はないのか?来るたび来るたび同じこと言いやがって他に言うことがないのか?ブライアン?」
「僕みたいな情報能力者はこんなことしかできないのだよ」
千里眼——千里先など遠い地の出来事を感知できる能力——つまり真桜がさっきまでやっていた殺しも筒抜けなのだ。
彼の名前はブライアン・ライト。真桜の言った通り千里眼の能力者だ。
なぜPRDの捜査官である真桜が能力者を殺さずに会いに来ているか。ブライアンはこの千里眼の能力を使って情報屋をやっているのだ。真桜もブライアンが能力者とわかっていて情報料と引き換えに生かし情報をもらっている。
「それにしても君はここに来るたびに誰かを殺しているよね?殺しもほどほどにしたらどうだい?」
「通常者は世界中のどこにだっているんだ。少しくらい減った方がいいんだよ‥‥それに子供だからって吹っ掛けてくるのは向こうだ。僕は邪魔だから殺したまで‥‥‥ブライアン近くに能力者でもいないか?」
「まだ殺したりないのかい?残念ながら君が来てから能力者はいないよ‥‥君は自分の力をちゃんと理解していないのかい?」
残念とばかりに真桜はブラブラと銃を持っている右手を揺らした。
「それに右胸のホルスターにあるもう一つの銃を使っていない時点で、今の殺しを楽しめていない(・・・・・・・・・・・・)だろ?」
どうやらさっき右胸に手を当てていたのはもう一つの銃を指していたようだ。それにしても真桜はいったい何人を殺せば満足するのだろう。
「‥‥‥気づいていたのか?」
「当り前さ!それが君にとって思い出の品だってこともね」
「なんでもお見通しだな」
真桜は右手に持っていた銃をホルスターにしまった。ここでもう殺しができないのなら持っていても無駄だからだ。
「通常者は情報能力者(僕ら)にとって強者に変わりないんだけど‥‥‥君はやっぱり最強だね!」
「お前だって最強の文字を持っているだろ?」
「情報を取り入れることしかできない僕と、戦闘を好み殺しの兵器に創られた君とは大きな差があるんだよ」
「‥‥さて本題に入ろうじゃないか。わざわざ世間話のために連絡をよこしたんじゃないだろ?それなりの情報でないと殺すぞ」
真桜はブライアンに敵意、殺気をむき出しにした。
「おーこれは怖い!怖い!君もきっと気に入るよ!今回の情報は紛れもなく君たちPRDが追っている切り裂く能力者についての情報だ!」
真桜の殺気に臆することなく、フードからでもわかる笑みを浮かべているブライアン。この殺気に臆さないのはブライアンくらいだろう。
ブライアンは楽しそうに事件のことを話し始めた。まるでその会話はブライアンも現場に行っていたかのように。
これが千里眼の能力だ。どんなに慎重に警戒をしていても彼にかかれば無駄なこと、すべて筒抜けなのだ。
「ここで真桜に質問だ。真桜はこの事件をどう見ている?」
「‥‥‥‥切り裂く能力者をリーダーにした複数の能力者集団の犯行‥‥それも世界会議を狙った‥‥‥‥と僕は見ているが」
「アハハハハハ!残念不正解だ!これだけ証拠もないと真桜も山を外すときがあるんだね。珍しいものが見られたよ!」
「すべてわかったうえで聞いたな?早く答えをよこせ。僕は暇じゃないんだ」
「ああ知っているとも世界会議だろ?それともあのかわいいルーキーの指導をするためかい?それとも‥‥‥‥殺す?」
真桜はまたブライアンを睨みつける。無駄なことだと思ってもやってしまう真桜の悪い癖だ。
「‥‥あいつを事故に見せかけて殺すのは可能か?」
「残念ながら良い未来は見えないよ‥‥それにまた(・・)殺しては他の部署やウォリックに勘付かれないかい?彼は知らないんだろ?前のルーキーを真桜が殺したってことは‥‥」
「そうか‥‥‥すまない話が脱線したな」
「構わないさ!」
ブライアンは楽しそうにしている。
前は残念ながら名前呼びになる前に殉職してしまったが能力犯罪捜査班にもルーキーがいたのだ。
「質問の答えだけど、僕ら能力者についてPRDより詳しい‥‥そう、僕らの生みの親が関係しているんだよ」
「研究者が?最近こっちじゃ奴らの情報はなかったぞ」
「研究者はね。ある情報をつかんだ。絶対不可能といわれた能力者の存在を‥‥‥‥彼らは探しているんだよ。能力者を使ってまで探し出したい物を‥‥‥‥」
“絶対不可能といわれた能力者”といわれ真桜の目がピクリと動いた。真桜にも覚えがあるのだ。
この能力者を知らないPRDの捜査官は居ない。
「‥‥‥不死身の能力者か‥‥‥」
「大正解!いったいどこで生きていると情報を得たんだろうね?」
「予想外の結果だよ。まさか研究者が絡んでいて、さらには不死身の能力者か‥‥‥奴ら世界会議が行われるこの時を狙ったな」
「ククク。今回の事件僕は楽しめそうだね。さて真桜、情報料はいつも通り頼むよ」
「お前から呼んでおいて金とるのかよ」
ブライアンをまた睨むが全く効果がない。ブライアンはいつも真桜の前でヘラヘラしている。
「今どき現金を要求するなんてお前くらいだぞ」
今の時代は仮想通貨やクレジットが主流で、まだ扱っている銀行もあるが現金は廃れ今では珍しいくらいだ。
真桜は財布から五〇〇ドルを出しブライアンに渡す。
「仕方ないだろ?ここ(ごみ溜めの巣)では機械化なんてされていないんだから生きていくため必要なんだよ」
ここは見捨てられた街。必要な生活用品や食糧は現金や物々交換などで取引されている。生きていくためには大変な街だ。
「残りは仕事が終わったら渡す。それと切り裂く能力者と研究者の居場所は?」
「それは教えられないね‥‥‥今回の情報は僕自ら提供したものだ。それ以外は教えられないね。それにすべて教えてしまってはゲームがつまらなくなってしまうだろ?」
「お前もゲームを楽しむのもほどほどにしたらどうだ?研究者が現れたということはお前も狙われることになるんだぞ?」
「そこは問題ないよ。僕にはすべてみえているし、今の連中(研究者)は不死身の能力者で頭がいっぱいだ。それに僕は一応死亡扱いになっているんだろ?」
ブライアンと真桜は長い付き合いだ。だから真桜はわかっている。
ブライアンはいつもゲームを楽しみたくて真桜に情報を中途半端に与えていることを————。
「確かに死亡扱いにはなっているが生きているとバレたらPRDよりたちの悪い研究者に狙われるんだぞ?」
「その時は真桜が助けてくれる。そういう契約だ」
「‥‥‥‥そうだったな」
中途半端ではあるが情報を手に入れた真桜はごみ溜めの巣から離れようとした。
「でも気を付けることに越したことはないね‥‥‥でも真桜も気を付けた方がいいんじゃないかい?」
真桜の足が止まる。
「PRDがあのウォリックがいつまでも君を生かしておくとは到底思わない。いつ殺されてもおかしくはないんだよ?どうして真桜はPRDに居続ける?なぜ敵である通常者に従っている?君を物としか見ていないのに‥‥」
「‥‥‥どうしてだろうな?実際僕自身もわからないんだよ‥‥‥いや、違うな。僕は通常者ばかり殺していてもつまらないんだ。共喰い(・・・)を繰り返せば少しは楽しめると思ってな‥‥お前と同じゲームを楽しんでいるのかもしれない。だがはっきり言えること‥‥僕は殺されないさ。たとえPRDがセメクトを完成させても負けやしない。死ぬときは寿命を迎えるとき‥‥なんていったって‥‥俺は‥‥最強の能力者だ。お前だってわかるだろ?」
「クククッ‥‥‥‥アハハハハハハハ!やっぱり君は面白い!面白いよ!さすがは真桜だ!面白いことも聞けたしヒントをあげよう。研究者たちも完璧じゃない‥‥しつけがなってないんだ。切り裂く能力者はボロを出すよ。その猶予は二回‥‥真桜なら完璧なタイミングで会える!」
「それだけ聞ければ十分だ‥‥‥‥‥さていったい何人だろうな?僕に殺される弱者は‥‥‥」
真桜は左手をポケットから出し、歩いて行った。左手には弾丸をつかんだため火傷を負っていたがきれいに完治していた。
「あ!そうだ真桜。PRDの駅前にできたドーナツも買ってきておくれ!」
真桜はことばを発さずに左手を上げて合図をした。
「ククク‥‥やっぱり面白いね。真桜は‥‥君が捜査官をやっているから僕は情報屋をやっているのだよ」