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事件

真桜たちはAIが運転する車で現場に向かっていた。

「今回の能力は切り裂く能力、性別、名前ともに不明。情報捜査班による追尾なし。通常者大虐殺事件後に製造されたと推測する‥‥他に手掛かりはない‥‥現場に死体以外の痕跡が見つけられないらしく僕の勘では能力者集団の犯行とみている。なぜ隠すのか理由は不明だがな」

「‥‥手掛かりなし‥‥難しい捜査になりそうですね‥‥」

「まったくだ。不慣れなルーキーがいて、四日後には世界会議がルニエクスタリアで行われる。ボスはそれまでに事件を解決しろとの命令だ」

「猶予は四日‥‥時間があるませんね」

「ああ」

真桜はルーキーに現場急行係から送られた写真を見せなかった。レイナーも写真を見ようとせずに二人の邪魔しないようにと大人しく会話を聞いている。

「‥‥‥‥‥ルーキー。仕事の邪魔だけはするなよ。邪魔した場合は‥‥‥‥殺す」

普通の捜査官たちはこんな物騒なこと言わないだろう。

「‥‥‥‥‥わかりました‥‥‥‥‥」

これは脅しにも聞こえる。レイナーはどうやらこの先の危険があることを教えてくれているのだと勘違いしているようだ。

これは本気の脅しだ。真桜は本当にルーキーが邪魔をしたら殺そうと考えているのだ。



PRDを出発して二〇分、目的地にたどり着いた。現場には立ち入り禁止と書かれたホログラムがこの奥を閉ざし、一人の捜査官が立っている。

「能力犯罪捜査班だ」

真桜は立っている捜査官に電子手帳を見せる。

「ご苦労様です」

捜査官は真桜たちに敬礼をして、立ち入り禁止のホログラムが一瞬消え真桜はさらに奥へと入って行った。

「(これが本当の現場‥‥)」

レイナーには初めての事件、初めての現場だ。能力者による殺人事件だということにひどく緊張しているようだ。緊張のせいか震えていて唾をのんでいる。

真桜とアレックスは流石に現場慣れしているようで何事もなく歩いていく。この二人は多くの現場を見てきたからだ。

現場は都市部から少し離れた場所、雨の匂いや汚水の汚れや臭いが漂う路地裏。都市部から離れているからただでさえ人は少ないのになぜ通常者たちはこんな路地裏に入ってしまったのだろうか。


能力者事件は密かに捜査される。だからマスコミも来ることはない。時折、能力者やPRDを取材したいオカルト部署はあるがそのくらいだろう。

誰にも知られず捜査できることはPRDにとって好都合だ。

「ご苦労様です!今回も能力犯罪捜査班‥‥真桜さんたちの出動なんですね!」

ベリーショートの黒髪に力みなぎる強い黒の瞳、少しぽっちゃり系と顔立ちは真桜と同じアジア系、PRDとユニコーンが描かれたジャケットを羽織っている。

レイナーはこの男を知っている。いや知っていないとおかしいのだ。それはジャケットを見ればわかる。ジャケットにはPRDのバッチがつけられている。バッチは捜査官による不利な理由がなければ外してはならない。

その男のバッチは銀星三つが彫られている。そう彼はウォリック直属の部下であり、監察捜査班現場急行係リーダーデイブ・スミスだ。

「デイブか‥‥死体の状態はどうなっている?」

「会議で見たかと思いますがすべてバラバラに切り裂かれています‥‥こちらです」

デイブが指す方には死体があるのだろう。シートがかけられている。

真桜は現場慣れしていないルーキーがいるのを忘れているのかしゃがみ込み躊躇なくシートをとった。

「う、うわぁ」

目で見るだけを数えても一〇体以上はあるだろう。頭や体がバラバラになっており誰がどの体の一部がわからなくなっているものもある。ここは狭い路地裏、真ん中には死体の山、壁には大きな爪でひっかいたような傷跡、壁についている肉片、血。地面は血の海で真っ赤に染まっていた。

「‥‥‥‥う‥‥‥‥うぇぇ‥‥‥‥」

ようやく現場を理解したのだろう。死臭に血の匂い、バラバラの死体、普通の人間じゃ気絶するような光景だ。

吐き気を催したレイナーは口元を手で覆い後退りをした。しかしそれがいけなかった。

後ろはまさに現場検証をしている最中だったのだ。

ガシャン!

肉片を踏まなかっただけマシかもしれない。しかし鑑識道具をぶちまけ散乱してしまった。

「おい!邪魔をするな!」

現場検証をしていた捜査官が怒鳴った。仕事をしていたのに急に邪魔をされては誰だって怒るだろう。

「ルーキー!おま‥‥」

デイブ率いる現場急行係は一つのチームだけではない。係でも三、四の人数に分かれ効率よく捜査ができるようなシステムになっているのだ。今年鑑識捜査班に所属したルーキーは七人。その中の一人が現場急行係にいる。

捜査官は自分の現場急行係のルーキーだと思い大声を上げた。しかしそのルーキーではなかった。そう、能力犯罪捜査班のルーキー、つまり責任は真桜にあるということだ。

捜査官もわかったのだろう。怒鳴ろうと思ったが能力犯罪捜査班のルーキーと知って青ざめている。

「悪いな。僕のところのルーキーだ。アレックス、ルーキーを外へ連れていけくれぐれも現場で吐かせるな」

「了解です‥‥‥ルーキー。行きましょう」

アレックスは優しくレイナーの背中を押して現場から離れていった。

「‥‥すいません。真桜さん」

「なぜお前が謝る?捜査の邪魔だけはするなと言っておいたんだがな‥‥こっちの配慮がなかった。お前らもすまなかったな」

「いいえ!いいえ!大丈夫です!道具が散乱しただけですので!」

この捜査官の怯え方、どれだけ真桜が恐れられているかわかってしまう。


「‥‥‥う‥‥‥うえぇぇぇ」

現場の路地裏を離れた場所。

ビチャビチャ。

食べたものがすべて吐き出されていく。何度も吐くのをやめようとしてもあの死体の山を思い出してしまい吐き気が収まらないようだ。

「ふぅ」

レイナーの吐く姿を横目で見て、溜息を吐く。ルーキーなのだから仕方のないことだと思ったが捜査の邪魔をしたのは確かだ。

「(リーダーにあれだけ念を押されていたのに‥‥リーダーの本性を知らない?本当にボスの推薦でここに来たのかしら?)」

アレックスや真桜はレイナーが能力犯罪捜査班(ここ)の本当の姿を知っていてここに来たと思っているようだ。しかしそれは違う。レイナーは本当に何も知らないで能力犯罪捜査班に来た。理由は不明だがウォリックはレイナーに何も教えずに能力犯罪捜査班に推薦をしたのだ。

「‥‥‥‥‥すいません‥‥‥‥‥アレックスさん‥‥私‥‥捜査の邪魔をしてしまって‥‥‥」

ハンカチを取り出して口を拭く。ようやく胃にあったものすべてを吐き切ったようだ。

「んー。仕方のないことだわ。初めての捜査でバラバラ死体(あんなの)じゃ‥‥でもね‥‥あなたはもうPRDのルーキー‥‥そして能力犯罪捜査班ルーキー‥‥ここに来たのならあのくらい(・・・・・)は慣れてもらわないとPRDではやっていけないわよ。捜査の失敗は許されない。今回は四日間というタイムリミットがある。足を引っ張れば引っ張るほど事件の解決が遅れる‥‥それはルーキーでも絶対にやってはいけないことなの‥‥わかったわね?ルーキー」

「わかりました‥‥本当に申し訳ありません」

PRDではこれが日常。能力者による殺人が減ることはなく多くの通常者が死んでいっている。それを許さないのがPRDだ。能力者という異物を取り除かなくてはならず、そしてPRD捜査官は弱音を吐くことは許されていない。

なぜなら能力者を殺すことを許されているのはPRDだけなのだから。

「(人の役に立ちたいと思ったけど‥‥学校とは全然違う‥‥これが現実‥‥)」



「会議の時は何の痕跡も見つからないと報告していたが‥‥現在の手掛かりはどうなっている?」

死体の山を隠していたビニールをそのままにし、真桜はデイブの方に顔を向けた。

「残念ながら何も‥‥しかし‥‥」

「誰かが証拠の隠ぺいをしていると?」

「気づいていたんですね?」

「まぁな。戦闘能力者がここまですることはこれまでなかった‥‥僕たちに挑戦状を送り込んだ馬鹿はいたが、自分たちが殺したものをわざわざ隠す必要がある?」

確かによく見ると死体も形あるものは山にされていて引きずった跡もある。どうみても通常者が生きて這った様子ではない。足や腕だけが歩くわけがないからだ。

戦闘能力者は通常者をより多く殺すために証拠を隠滅するようなことはしない。能力者はあえて死体を残し通常者にPRDに挑戦状として送り付けている。

「デイブ。この壁の跡は切り裂く能力者のもので間違いないか?」

「Aチーム!」

壁の爪痕のような大きな傷を調べていた捜査官が一人立って真桜に敬礼をした。

「はっ!このコンクリートは簡単な力で傷をつけるのは困難です。傷の全長は二m、幅五㎝となっております。よって能力者によるもので間違いないと思われます!」

再び敬礼をして作業に戻った。こんだけ、洗礼されているとすがすがしい。デイブが厳しく教育をしているのがわかる。

「指紋は見つかったか?」

「Bチーム!」

BチームもAチーム同様一人が真桜に敬礼をして報告をする。

「はっ!指紋は複数発見されました。しかし能力者の指紋かは不明であります。死体と照合するにも、死体がすべてバラバラなのでひとつひとつ組み合わせなければいけません。至急死体を持ち帰り解剖係に引き継ぎを行い、指紋のデータは情報捜査班に送り照合を行ってもらいます!」

「‥‥この切り裂く能力者は通常者大虐殺事件後に製造された可能性がある。能力情報係には現在データベースにある切り裂く能力者の情報はヒットしなかった‥‥」

真桜は手を顎にかけ考える。今回の事件はいつもの事件よりあまりにも情報が少なすぎる。

「死亡推定時刻は?」

再びBチームが立ち質問に答える。

「推定時刻は夜中の一時~二時までの間と思われます」

「‥‥他の者がいた痕跡は?」

「残念ながら見つかっておりません。これだけの血だまり‥‥足跡がつきそうですが、うえから血をかけて痕跡を消しているようで‥‥」

今度はデイブが答えた。

流石に一〇体以上の死体があるからか血は固まっていない。血を集めてもDNA鑑定は難しいだろう。捜査官たちもなるべく血を踏まないように対策をしているが苦戦しているようにもみえる。

「監視カメラの映像とかはあったか?」

「Dチームがすでに調べていますが、残念ながら大通りにしかカメラはなくここら辺一帯には設置されていません‥‥ここは都市から少し離れていますから‥‥カメラの数が少なすぎます‥‥」

「‥‥‥‥‥」

真桜は何やら考え事をしているようだ。

「真桜さん?何か気になる点でもあるのですか?」

「デイブ。今までの戦闘能力者による殺人事件は全部殺した後、無造作に死体を放棄するよな?」

「はい。ここまできれに片付けられている事件は初めてです」

なぜ切り裂く能力者は証拠を残すまいと片づけをしてまで通常者を殺している。何のメリットがあるのだろうか。

「デイブ‥‥細かいことでもいい‥‥お前から見て何か不思議に思ったこととかあるか?」

「残念ながら‥‥不思議と思うのは真桜さんもおっしゃったようにあまりに証拠がないというところです」

「お前が苦戦するなんて珍しいな」

「申し訳ありません」

デイブは真桜に向かって頭を下げた。でも、他の仕事でも一緒になるからか、デイブはボス直属の部下だからか真桜が怖いという感情はなさそうだ。他の捜査官なんて質問を答えているときも真桜と目を合わせていないし、なんなら冷や汗をかいているくらいだ。

「お前が謝る必要はないだろ?しかしここまで証拠も追跡もできないとは‥‥僕はこれを複数物の能力者集団とみているんだが‥‥戦闘能力者がここまで証拠、痕跡を消すメリットが見当たらない‥‥」

「真桜さんも今回の事件は難しそうですか?」

「事件がどうあれ僕は能力者を見つけ出し処分するだけだ‥‥どんな結果になろうともな‥‥デイブ‥‥現場急行係は現場検証後、撤退し鑑識鑑定が済み次第能力犯罪捜査班にデータを送れ‥‥後は僕ら能力犯罪捜査班に任せろ」

「了解しました!」

デイブが敬礼をして真桜は現場を後にした。

PRDはどんなことがあっても能力者を探し出し処分する。それがPRDの仕事だ。


「リーダー」

止めてあった車のそばで待機していたアレックスとレイナー。現場から出てきた真桜を見てそばへ駆け寄る。

「‥‥あ、あの‥‥真桜さん‥‥」

「ルーキー。言ったよな?邪魔をするなって」

「ひぃ」

レイナーが思わず声が出てしまうほどの殺気の鋭さだ。しかし捜査の邪魔をされては怒るのは当然の行為だ。レイナーは一応能力犯罪捜査班のルーキー、先ほどの失態は能力犯罪捜査班全体の失態といっても過言じゃない。

ピピピ‥‥ピピピ‥‥。

タイミングが良いのか、悪いのか。この音は真桜がもっている端末の着信音だ。真桜の殺気が薄れていく。端末を見るとなんとこれまた珍しい非通知だ。

今はコンピュータ技術も進歩し、向こうがどんなに電話番号を暗号化しても端末に入っているセキュリティソフトで番号や人物を特定できてしまうのだ。

真桜の場合はこんな芸当ができる人物を知っているようで迷うことなく出る。

「‥‥横島‥‥」

「真桜。久しぶりだね」

真桜を呼び捨てで呼べるのは限られている。いったい電話の相手は誰なのだろうか。

「お前から連絡をよこすなんて珍しいな‥‥で、いったい何の用だ?」

「今回の事件だいぶ証拠がないだろ?困っているんじゃないかと思ってね」

どうやら相手は事件の発生、真桜が現場にいることがわかっている。しかしなぜ詳細までわかっているのだろう。

「電話じゃ危険だから会って話をしよう」

「ああ。わかった。いつものところだな?」

「待っているよ」

真桜は電話を切り端末を胸の内ポケットにしまった。

「アレックス。ルーキーと一緒にPRDに戻れ。情報捜査班と鑑識捜査班から資料が随時届くだろうから僕が戻るまでに報告書をまとめとけ」

「わかりました‥‥ルーキーはどうしますか?」

真桜がレイナーの方を向くとレイナーは大きく肩をビクつかせた。普通の子供では出せないあの殺気をもろに受けては怯えても仕方のないことなのかもしれない。

「‥‥‥‥‥ルーキーには能力者のデータ資料でも見せていろ。こいつにやらせる仕事はない」

「了解です」

真桜はPRDのある方向とは逆を歩いて行った。

「(どこに行くんだろ?)真桜さ‥‥」

真桜にどこに行くか聞こうとしたらアレックスに止められた。

「ルーキー‥‥これ以上リーダーに失望されたいの?」

「‥‥でも!アレックスさんは気になったりしないんですか?」

真桜にこれ以上失望させればルーキーの命はない。どうやらわかっていないようだ。

能力犯罪捜査班がいったいどんなところか、横島真桜がどんな人物なのか。

「リーダーは事件の情報収集に行ったのよ。今回のようなタイムリミットがある事件はわかれて捜査することがあるの‥‥リーダーは情報収集、私は事件の情報結果や鑑識結果をまとめ報告書を書く‥‥情報収集で帰ってきたリーダーが読めるようにしておくの‥‥それが私の仕事、これが能力犯罪捜査班のやり方‥‥あなたも能力犯罪捜査班のルーキーなのだからこのことは覚えてちょうだい」

「‥‥‥わかりました‥‥‥」

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