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ようこそ!能力犯罪捜査班へ!

「う‥‥嘘だろ‥‥」

PRD捜査官の出勤時間は基本七時。今日からルーキーの出勤日で顔合わせだ。捜査官の見るモニターにはルーキーがどの班に、どの係に何人行ったかが記載されている。

知っているのは自分の班だけで、たとえ三〇人でも知る権利はある。だからこうして当日モニターに人数だけだが映し出されているのだ。

ちなみに三〇人の打ち分けはこうなっている。

【情報捜査班九名、鑑識捜査班七名、戦闘捜査班一〇名、潜入捜査班三名——そして————————————————————————————————————————————————————能力犯罪捜査班一名】

ちゃんとウォリック直筆のサインとPRDのシンボルマーク書かれている。

捜査官たちがこんなにも驚いているのは変わり者・訳アリの部署といわれ、噂されている能力犯罪捜査班に一人のルーキーの所属が決定していることだ。

「どうせボスが目をつけていたルーキーだろ?本当に馬鹿な奴だよな」

「そうだな。まさか自分から死を選ぶなんて‥‥あのリーダーが認めたのも驚きだがな‥‥」

「確かに、あのリーダーがどう動くか‥‥それだけでルーキーの命運は握られている」


時刻は九時‥‥三〇人のルーキーは時間通りエントランスホールに集まっていた。

「ルーキーはこれから自分の確定した部署に行き顔合わせを行う。現在をもってルーキーはPRDの仲間となり名前呼び、腕章を外した時こそ捜査官として認められる。最終試験を忘れず十分に励め!」

「「「「「はっ!」」」」」

これから本格的な仕事が始まるためルーキーたちは気合を入れる。

「それでは情報捜査班のルーキーはここに集まって」

「鑑識捜査班はこっち‥‥」

「戦闘捜査班‥‥気合を入れて訓練だ!」

「潜入捜査班は説明があるので一度会議室に行きます。ついてきてください」

捜査官の声によってルーキーたちは自分の部署の捜査官の元に集まっていく。

ただ一人を除いて。

レイナーは自分の所属する部署である能力犯罪捜査班の捜査官を探したが、それらしい人物は見当たらない。

「(やっぱりいない‥‥どうすればいいんだろう?)」

困っているレイナーをみかねた潜入捜査班の捜査官が近づいてきた。

「能力犯罪捜査班捜査官はここには来ない‥‥場所は分かるな?わかるなら一人で行け」

「‥‥え?で、でも‥‥」

周りを見ると他の捜査官にも見られていた。そのまなざしはまるで腫物を見ているような感じだ。

捜査官の態度でどれだけ能力犯罪捜査班が毛嫌いされているかがわかる。

早くどっかに行ってほしい。捜査官の顔に書かれているような態度、表情をしている。

「で、でも捜査官がいないとPRDに入れないと聞いたのですが‥‥」

「能力犯罪捜査班の電子手帳は特別(・・)だからルーキーのみでも入ることができる‥‥早くいけ」

刺々しい言い方と、捜査官のまなざしの耐え切れず逃げるように能力犯罪捜査班がある一三階へと向かった。

顔合わせは部署によって様々だ。快く歓迎されひとりひとり丁寧に紹介をされ仕事に取り組む者、顔合わせとは名ばかりですぐさま仕事や訓練に取り組まされる者、そして腫れ物扱いされ誰にも案内されず一人で部署に向かう者もいる。



「困ったなぁ」

レイナーは一三階にある能力犯罪捜査班にたどり着いたのは良いが困ったことがあった。

能力犯罪捜査班に入るのには電子手帳とパスワードが必要なのだ。

レイナーは電子手帳を持っていてもパスワードは知らない。だからこの中に入ることができないのだ。

「どうしよう‥‥パスワード知らないし、またエントランスホールに戻っても捜査官たちはどうせ答えてはくれないだろうし‥‥」

能力犯罪捜査班の捜査官以外がパスワードを知っているわけがない。ここは能力犯罪捜査班の捜査官、ウォリックの直属の部下しか入れないのだから。

「あら?ここに人が来るなんて珍しいわね」

声がする方を見てみるとそこには美しいバストでスレンダーな女性が立っていた。緑色の穏やかな美しい瞳、茶髪のロングストレートで髪は結ばずおろし、白のブラウスにグレーのフレアスカートタイプのスーツを着て、黒の前あきパンプスを履き、左腕にはシンプルではあるが高級感のある時計、首にはプラチナのネックレス、そしてフラワーホールにはバッチがついている。

「あ、あなたは?」

「あらまだ紹介していなかったわね。私は能力犯罪捜査班特別捜査官、アレックス・ペルツ‥‥あなたは‥‥確か‥‥」

「きょ、今日から能力犯罪捜査班のルーキーになりました。レイナー・レッドメインです!能力犯罪捜査班の捜査官とは知らずに‥‥し、失礼しました!」

レイナーは敬礼をして深々と頭を下げた。

「ごめんなさい。本当はエントランスホールに迎えに行かなくちゃいけなかったのだけれど‥‥先日の事件を片付けていたら時間が過ぎちゃったのね‥‥ごめんなさい‥‥他の捜査官に嫌なこと言われなかった?」

『能力犯罪捜査班捜査官はここには来ない‥‥場所は分かるな?分かるなら一人で行け』

『能力犯罪捜査班の電子手帳は特別(・・)だからルーキーのみでもはいることができる‥‥早くいけ』

レイナーはこんな優しそうな人が能力犯罪捜査班の捜査官で変わり者・訳アリの部署と呼ばれている理由に疑問をもった。

「‥‥大丈夫です」

レイナーは胸の痛みをアレックスにいうことはなかった。

「‥‥何か気を使わせちゃったみたいね‥‥ごめんなさい‥‥でも、よろしくね。ルーキー」

「よ、よろしくお願いします!」

「もっと肩の力を抜いて‥‥そういえばここのパスワードを知らないのよね?今教えるわ‥‥ルーキーでも能力犯罪捜査班は特別だから電子手帳をかざしてパスワードを打ち込めば入れるから」

能力犯罪捜査班にはいるためのパスワードは“二一二五”そして電子手帳をかざすと開く。簡単だがこのパスワードは能力犯罪捜査班の捜査官とウォリックの直属の部下しか知らない。

〈能力犯罪捜査班特別捜査官アレックス・ペルツ確認しました。おかえりなさい〉

AIがアレックスを認識し能力犯罪捜査班の扉が自動でゆっくりと開く。

「このパスワードは絶対に誰にも教えてはいけないわよ」

「わかりました」

ここからはレイナーも入ったことのない領域である能力犯罪捜査班だ。

いったいここはどういった部署なのか。

噂は?

謎は?

リーダーはどんな人なのか?

レイナーには多くの疑問があった。

頑丈な扉に入って少し歩くと扉がそこにはあった。そうここが能力犯罪捜査班の執務室となる。

「ここよ。この扉を開けると執務室になるわ‥‥さぁ入って」

レイナーはここに来て怖気づいたのかドアノブの手をかけようとする手が止まり、震えている。

「‥‥怖くて入れないの?」

「い、いいえ!そういうわけでは!」

「あなたはボスの推薦でここに来たのよ?もう少し誇っていいわ‥‥さぁ早くリーダーが待っているわよ」

アレックスがレイナーの代わりにドアを開けた。

「リーダー。ルーキーが来ましたよ!」

姿が見えないが奥にある革製の椅子に座っているのだろう。姿が見えなくてもレイナーは敬礼をした。

「本日から能力犯罪捜査班ルーキーとなった。レイナー・レッドメインです‥‥よ、よろしくお願いいたします!」

声はかからない。しかし椅子がゆっくりとこちらに向いている。

そして————————。

「僕が能力犯罪捜査班のリーダー、横島真桜だ」

レイナーの表情は目をまん丸くさせている。

リーダーと名乗るものはなんと子供だったのだ。

年齢は一四歳くらいの黒く子供とは思えない光のない、感情の読み取れない瞳、黒のショートヘアで左髪はワックスで固めている。今はジャケットを脱いでいるが黒のスリーピースに、黒のYシャツ、黒のネクタイ、黒の革靴に黒手袋。そして左目には白い眼帯を付け歯は吸血鬼のような鋭い八重歯になっている。その姿は堂々としていて子供とは思えないほどだ。

ルセミルア警察学校に年齢制限はない。今までいなかったが、真桜のように子供がいてもおかしくはないのだ。

「リーダーはこう見えて、小さくて子供だけど成績や実績、戦闘能力は私たち大人よりとても優れているわ」

「小さい子供で悪かったな」

「悪い意味ではないのですよ?」

真桜は人間であるのも関わらず表情はポーカーフェイス。この歳ならばニコニコと笑っているだろうに真桜にはそれが全くない。目は鋭く、目が合っただけで喰われそうな恐怖にレイナーは襲われる。

「ルーキー、大丈夫?」

レイナーは子供の姿である真桜に釘付け状態のようだ。

「だ、大丈夫です」

「それじゃルーキーのデスクは私の向かい側を使ってちょうだい」

「わかりました」

デスクにバッグを置き、タブレット端末など必要なものを取り出した。いってもまだ初日のため必要なものなんてほとんどない。

「「「‥‥‥‥‥」」」

会話のない空間がレイナーにより気まずさを強くさせていく。他の部署もこんなに話さない状態があるのだろうかと、初めて会ったばかりの上司二人に気まずくなる。こんな状態では仕方ない。

何をしろとも指示がないためにレイナーはデスクを重視しているしかなかった。噂通り、本当に捜査官が二人しかおらず誰も使われていないデスクが四つ置かれている。

「(き、気まずい‥‥こんなにも会話ってないのかな?)」

何もしない‥‥静かな時間が一〇分は過ぎただろうか。

プルルルル。プルルルル。

そんな空間に真桜のデスクに置かれていた固定電話の電話音が鳴り響く。

固定電話は今の時代では珍しく、今はPRDでしか使用していないだろう。

理由は能力者から情報を守るためも一つではあるがもう一つある。それは他の組織からのハッキングを防ぐためだ。他の組織はPRDの中身はすべてハイテクノロジーで管理されていると思っている。もちろんPRDのセキュリティは突破不可能とされているが、何重にも対策をとっていればさらに確率は下がるのだ。この固定電話は履歴も残らない。現在では使われていないものを使っていればこれを解析するなんて無理な話だからだ。

「はい。能力犯罪捜査班‥‥‥わかりました。すぐ向かいます」

電話を切ると真桜はスーツのジャケットを羽織ってどこかへ行こうとしている。

「‥‥事件ですか?」

「恐らくそうだろう」

出入口の隣にはもう一つの扉があった。その扉に備え付けてある網膜スキャン機まで台を使って上る。

〈横島真桜、確認しました〉

網膜スキャンをすると扉が開かれた。

「(なんの部屋?)」

レイナーは気になって部屋の中を見ると何も見えず真っ暗な部屋だった。そんな部屋に真桜は躊躇せずに入っていき扉は固く閉じられた。

「アレックスさん。あの部屋って?」

「あの部屋は、リーダーしか入れない部屋よ。能力者による事件が発生した際、ボス、各班監察課‥‥そしてリーダーが集まりどのチームが出動するかを決めるの。でもリーダーが呼ばれるときはだいたい能力犯罪捜査班が出動することになっているわ‥‥‥先日の事件を終えたばかりなんだけど‥‥‥ルーキーもいるときに限って事件‥‥運がないわねぇ‥‥」



「‥‥で、今回の事件はどういったもので?」

外から見ると何もなく真っ暗な部屋だったが、中に入ってみるとすでにウォリックと各班監察課は座っていた。もちろんここにいるのは本物ではなくホログラムだ。

一番奥の上座にいるのがウォリック、左側に情報捜査班、鑑識捜査班、右側に戦闘捜査班、潜入捜査班、そして下座に真桜が立っている。

「今回の事件‥‥能力は切り裂く能力‥‥死体はすべてきれいに切り裂かれていた」

円卓の中心にはすでに出動している鑑識捜査班現場急行係が撮影した現場の写真が数枚浮かび上がっていた。真桜は一枚を手繰り寄せスライドさせる。写真のすべては腕や足、胴体、首といったものが刃物のような鋭いもので切られているようで断面がきれいだ。

「今回の事件は切り裂く能力者の事件で間違いないだろう‥‥‥しかし少し困ったことがあってね」

「なんです?ボス」

「死体以外の痕跡が見当たらないとスミスから報告を受けている。極めて困難な捜査となるだろう‥‥それに四日後には世界会議がここルニエクスタリアで行われる。今後のPRDの存続のため、なんとしても世界会議までに事件を解決したい‥‥今回も能力犯罪捜査班に捜査してもらう」

三日前、ルーキーに部署案内をしていた優しいウォリックの面影はない。今はPRD長官として、ボスとしての職務を全うしている。

「異論はないか?」

「異論ではないのですがよろしいですか?」

何か気になる事でもあるのか言葉を発したのは真桜だ。

「どうした?真桜」

「デイブの報告で死体以外の痕跡が見当たらないとなると戦闘能力者(切り裂く能力者)単独の行動とは思えないんです」

真桜は手繰り寄せていた写真を中央に戻す仕草をして、ウォリックや各班監察課、上官の前というのにも関わらず立っている体制を少し崩し腕組をした。

しかしこれがいつもの真桜の光景なのだろう。誰もそれを正そうとはしない。

「どうしてそう思う?」

「戦闘能力者はただただ弱者‥‥つまり通常者を殺すといった行動しかとりません。しかし今回は僕らPRDに証拠を残すまいと何やら動いているようです‥‥普通なら戦闘能力者はこんなことをしません。詳しくは現場に行ってみないとわかりませんが戦闘能力者を筆頭とした能力者集団の可能性も高いと思われます‥‥‥あくまで僕の憶測ですが‥‥‥」

「んー。そうなると、戦闘能力者だけでなく情報能力者もいる可能性もあるか‥‥ではPRDの警戒レベル上げ、情報捜査班は情報管理の対策‥‥複数物の能力者がいた場合は戦闘捜査班にも出動してもらうことになるね」

戦闘能力者とは切り裂く能力者といった戦闘、つまり人間を殺すことに特化した能力者のことをいい、情報能力者は人を殺すことができない。しかし情報といったもの、例えば能力を使ってPRDの情報を痕跡も残さずに目的のものを盗み出す、人に触れるだけでその者の情報を手に入れられるなど、情報収集に特化した物を情報能力者という。

「情報捜査班、了解しました。警戒レベルを上げ対策をとります」

「戦闘捜査班、了解しました。いつでも出動できるように準備をします」

「‥‥こちらでできるのはこれくらいだろう‥‥後は真桜‥‥やれるな?」

真桜は再び背筋を伸ばした姿勢になり敬礼をした。

「もちろんです。迅速な解決を試みます」

「では、今回の会議は以上だ」

各班監察課のホログラムは消え、残りはウォリックだけとなった。

「ああ、それと真桜‥‥今回はルーキーもいることだ‥‥気を付けたまえ(・・・・・・・)」

「ルーキーだけではなく僕にも試験ですか?」

「‥‥‥‥‥」

ウォリックは何も言わない。いやあえて(・・・)何も言わないのかもしれない。

「わかりました。それでは失礼します」

もう一度敬礼をして会議室を後にした。

扉のロックが解除され真桜が会議室から出てきた。

「出動だ。ルーキーもついてこい」

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