決定
特例の部署案内が行われた次の日。レイナーたちは捜査官情報係の捜査官たちに案内されて一六階の会議室に集められた。
特例の部署案内で一日遅れてしまったが、これから部署選びを行う。一階で部署を見ていたのはこれを行うためだったのだ。
ウォリックが現れなければあの後部署の決定が行われていた。会議室で自分の行きたい部署を決定する。とてもシンプルだ。
「ではこれより部署決定の説明を行います!一度しか言いませんのでよく聞くように」
別の捜査官と入れ替わり説明が始まる。
「向かい側の会議室に二人の捜査官がいます」
ルーキー全員が向かい側の会議室を見る。向かい側には二人の捜査官が控えており、会議室は外からスモークになって見えない。
「えー、これから向かい側の部屋にルーキー一人で入っていただきます。中に入るとモニターがあり名前を言い、指紋認証を行ってください。するとモニターが切り替わりますので情報を確認し、進んでいただくと部署選びの項目が現れます。自身の行きたい部署を選び決定を押すと完了となります。終わったのを確認してまたここへ戻ってきてください。わからない場合はAIが指示しますので安心して部署選びを行ってください」
捜査官が入れ替わり端末を持った者へと変わる。
「では、始めていきます‥‥ケイリー・アルバート」
「はい!」
緊張した様子で向かいの側の部屋に入って行く。
会議室に入ると暗闇で唯一の光はモニターだけだった。
〈名前を述べてください〉
「ケ、ケイリー・アルバート」
捜査官の説明通りに名前を述べ、モニターに親指を近づける。そうするとモニターが切り替わりケイリー・アルバートの情報がすべて出現した。ルセミルア警察学校の成績、家族構成、経歴などだ。
確認を終えスライドさせるとケイリー・アルバートの行ける部署名が浮かび上がった。
ケイリー・アルバートは迷うことなく部署を選び決定を押す。
〈完了いたしました。待機室にお戻りください〉
AIに指示されケイリー・アルバートは元の会議室に戻ってくる。
「‥‥なんか俺、緊張してきた‥‥」
「俺も‥‥でも、ボス直々に部署を案内してもらったおかげでどんな部署なのかとか雰囲気とかわかったから迷わずに済みそうだ」
「そうだな‥‥資料だけで部署を選べと言われたときはわからなかったが‥‥今ははっきりと行きたい部署がわかる」
部署によってはどんなところか雰囲気がわからない。ウォリックによる異例の部署案内はルーキーにとってとても良かったのだろう。
「次‥‥‥カレン・パーセル」
「‥‥‥はい!」
「クラーク・テイラー」
「はい!」
「ノア・トレイラー」
「はい!」
「エリーサ・サロマ―」
「は、はい!」
次、次と部屋に入って行きルーキーたちは部署を決定していく。
「最後‥‥‥レイナー・レッドメイン」
「はい!」
他のルーキーと同様部屋に入って行く。
〈名前を述べてください〉
「レイナー・レッドメイン」
モニターに親指を近づける。流石歴代成績を塗り替えただけあって成績項目にはたくさん書かれている。
「え?」
レイナーは驚愕した。本来書かれていない能力犯罪捜査班の名前が項目にあったからだ。
ウォリックが権限を使いアクセスして部署選びに能力犯罪捜査班を加えたのだろう。
「(やりがいのある部署‥‥なによりボスの推薦)」
レイナーは部署選び決定した。
「これで部署選びは終了です。お疲れ様でした。二日後に部署決定された通知が行くので必ず確認してください‥‥それと確実に自分の決定した部署に行けると思わないでください。最終の決定権はボスにあります。ボスが変更した場合これが決定になりますのでご了承ください」
確実に選んだ部署に行けるわけではない。定員オーバーやもっと適した場所がある場合、ウォリックが変更を行う。変更された者は不満には思わない。思っていたとしても最初だけで以外に馴染んでしまうようだ。
「最後に二日後は我々PRDの一員となります‥‥いいえ、この時点でPRDのルーキーです。つまりご自身の身分やPRDについて他に口外すると‥‥‥‥どうなるかルセミルア警察学校を卒業している者ならば‥‥‥‥わかりますね?」
話をしている捜査官だけではなく他の捜査官もルーキーに向かって殺気を放っている。ルーキーたちの表情は恐怖により一気に青ざめていく。捜査官たちもルーキーの時代はあったはずだ。しかし捜査官たちは厳しく、殺気を緩めることはしない。
パン!
その音にルーキーの何名かは体をビクつかせた。どうやら捜査官の一人が手を叩いたようだ。
「では、二日後顔合わせでお会いしましょう‥‥解散!」
捜査官たちが一斉に敬礼をして、慌ててルーキーたちも敬礼をした。そう、これからは危険が多いPRDの捜査官になるのだ。
PRDでは内定式が行われない。部署が決定次第、仕事に取り掛かる。部署を決めるのは自分だが最終的にはウォリックが決定をして監察課との会議で正式にその部署のルーキーとなる。
決定後捜査官とルーキーが集まって初めての顔合わせとなり、それが内定式のようなものとなるのだ。
長官室には政府や支援者から送られたトロフィーや感謝状などの表彰状が飾られている。これを見るだけでPRDの功績はすごいものだとわかるくらいだ。
窓辺には重要な資料が紙ベースでファイルに収まられている。さらにこの後ろには緊急事態が起こった時に避難経路となる隠し扉があるのだ。
真ん中にはウォリックが使うデスクは高級感があり、天板には大理石が使われている。そしてデスクの後ろの壁には大きく描かれたPRDのシンボルマークの旗が貼られ、他には捜査官が来た時に使われるであろう木製テーブル、黒革製の二人掛けと三人掛けの椅子がテーブルを挟んでおかれている。
ルーキーの部署選びを終えた翌日、長官室にいるウォリックは自分のデスクで部署選びの決定を行っていた。
「さて、今年のルーキーたちはどんな感じになったかね?」
キーボードを出現させルーキーのデータにアクセスする。三〇人のルーキーの名簿が重なり合うことなくモニターに映し出された。
名簿にはルーキーの名前、顔写真、経歴、ルセミルア警察学校の成績、所属したい部署などが記載されている。ウォリックはひとりひとり丁寧に確認をしていく。
最初はケイリー・アルバート。鑑識捜査班解剖係希望。運動神経E。体力がなく動体視力も低い。
「んー。最初から困ったね。現在解剖係は人員が足りている‥‥変えないとダメだね‥‥ではどこにしようか」
さらに操作をしてケイリー・アルバートがどんな部署を選択できたかを見る。そうすると情報捜査班の部署が多く書かれていた。
「これと、経歴をみるとどうやらコンピュータ技術にはたけているようだ。彼には我慢してもらうほかないね」
情報捜査班データ管理係と打ち換えてケイリー・アルバートは部署が決定した。決まったルーキーの画面は消えていく、三〇人すべて確認を終えればあとは監察課との会議で正式に確定するのみだ。
「次はカレン・パーセル‥‥希望部署は情報捜査班紙式データファイリング係‥‥」
瞬時にデータを記憶できるサヴァン症候群、過去に能力者と疑われ検査経験あり。
「おっと、この子来てくれたのか!良かった!オファーした甲斐があった。こんな才能のある子が能力者と間違えられるなんて馬鹿な奴もいたもんだ‥‥部外者にとられなくてよかったよ」
カレン・パーセル、情報捜査班紙式データファイリング係決定。変更することなく情報捜査班紙式データファイリング係となった。
次はクラーク・テイラー。希望部署戦闘捜査班特攻戦闘係、格闘技、柔道などの武闘経験あり、家族を能力者に殺された。体力、動体視力ともにたけている。
「うん。文句なしだね」
クラーク・テイラー戦闘捜査班特攻戦闘係ルーキー決定。
次は、モーリス・バーンズ。潜入捜査班情報入手係希望。万引き、窃盗の前科あり、隠密、変装を得意とし、指名手配になったほどの変装の腕前、警察機関に逮捕されたが、隠密や変装の技術を買われ、取引で監視のもとPRDのルーキーとしてルセミルア警察学校を卒業現在に至る。
「いいね。こういう子は潜入捜査班がお似合いだ」
PRDは信用が命ではあるが、前科者でも捜査官になれる。PRDは能力者を殲滅するには人手不足だ。だからこうして逮捕された通常者を司法取引で捜査官として働いてもらっているのだ。もちろん現在も裏社会でつながっている者はPRDに入ることは許されない。それと犯罪者とわかるように研究者と同様首にはチョーカー型の発信機がつけられて小型爆弾もついている。逃げられないようにはなっているのだ。こういった者は使い捨てに使われることが多い特にウォリックは裏社会の人間とつながっている者を一番嫌う。
「‥‥次はノア・トレイラー戦闘捜査班前線特攻係希望‥‥おっと親子で戦闘捜査班になるのは初めての事例だね」
ノア・トレイラーの父親、レイフ・トレイラーは戦闘捜査班前線特攻係第一チームの捜査官だ。
なぜ父親と同じ道を選んだか、それは過去にある。ノア・トレイラーの母親は能力者で最も強い覚醒者によって殺害された家族を殺された二人は復讐のためPRDに入り能力者を処分できる最も危険な戦闘捜査班を選んだのだ。
覚醒者は、能力者がより強い能力者とした物のことをいい、覚醒者となるのは普通の能力者となるよりさらに確率が低くなる。
それに強くなっても扱いづらさが増し、覚醒者はさらに強くなる代償に知能が著しく低下し、能力者と比べて使える時間も少ない。覚醒者は能力者、通常者を見境なく殺し、命令も聞かなければ、言葉を話すこともできなくなる。ただの殺人兵器と化すのだ。
PRDでは覚醒者についても調べてはいるが、PRDにとっても覚醒者は厄介な物で処分できているのはとても少ない。
「親子で戦闘捜査班所属とは良いじゃないか‥‥それに彼の息子なら多くの能力者を処分してくれるだろう」
ノア・トレイラー戦闘捜査班前線特攻係ルーキー決定。
ウォリックはひとりひとり丁寧に見ていきルーキーたちの所属場所が決まっていった。
「ふぅ、三〇人だけでも一人ずつ見ていくのも肩がこるな‥‥私も年をとったものだ」
首や肩をくるくる回しコリをほぐす。
「さて次の子で最後だ‥‥最後は‥‥フフ」
ウォリックは思わず笑みがこぼれてしまった。最後のルーキーはウォリックが目をつけていたルーキーといってもいいだろう。
「レイナー・レッドメイン‥‥‥‥‥能力犯罪捜査班希望‥‥‥‥‥」
ウォリックは喜びを隠すことができなかった。ウォリックは思わずすぐ決定を行おうとしたがそれでは仕事をしたことにならない。レイナーの実績、成績などを見ていく。
ルセミルア警察学校例題成績を塗り替え、体力、動体視力、洞察力など様々な項目で優れている。
「‥‥‥いうまでもないね‥‥‥」
レイナー・レッドメイン能力犯罪捜査班ルーキー決定。
これで三〇人全員の所属場所が決まった。残るは監察課との打ち合わせが残っている。打ち合わせといっても監察課とルーキーの配置を確認するのみなのだが、これも監察課とウォリックの仕事である。
ウォリックの決定後にルーキーの配属が変更になったことはない。しかし内定式が行われないPRDで監察課はほとんど表には出ないため、これが監察課にとって部下を知ることになるのだ。
「‥‥あの子はなんて言うだろうね?後で連絡をしないと‥‥」
さらに翌日、ウォリックによる特例部署案内が終わって二日後。
今日はウォリックと各班監察課の打ち合わせだ。一八階の長官と監察課の専用会議室、木製の円卓に五人の革製の椅子が置かれている。
「全員そろったようだね」
ウォリックは手を組んで座っていた。
まるで会議室にいるように思えるが、AIが姿をスキャンして会議室にいるように見せているのだ。本物は自室にいる。この会議室には人はいない。自室ではホログラムでまさに会議室にいるようになっているのだ。
「昨日、私が三〇名のルーキー所属場所を決定した。確認をしてくれ」
モニターを操作して三〇人のルーキーのデータが出現させた。
手を払う仕草をするとデータは移動しそれぞれの監察課の者に行き届く。
監察課はひとりひとり丁寧に見ていく。
そして——。
「情報捜査班。確認しました」
「鑑識捜査班。確認しました」
「戦闘捜査班。確認しました」
「潜入捜査班。確認しました」
すべてのルーキー所属の確認を終え、ウォリックに報告をした。これで正式な決定となる。
「異論がある者は発言したまえ」
「異論ではないのですが‥‥質問よろしいでしょうか?」
発言したのは潜入捜査班監察課だ。
「何かね?」
「ボスの前にあるルーキーのデータは何ですか?確かそのルーキーはルセミルア警察学校の歴代成績を塗り替えた者では?」
流石は監察課だ。レイナーのことはすでに知っていたようだ。なんていったってウォリックの直属の部下の成績を塗り替えた。もしかしたら欲しかったのかもしれない。
「ああ、これかね?これは能力犯罪捜査班に所属するルーキーだよ」
四人の監察課は驚きを隠せてない。
「(馬鹿なルーキーだ。自ら死ぬ選択をするなんて‥‥)」
「(いつまでもつのやら‥‥?)」
「(なぜ一番優秀な人材が能力犯罪捜査班に!?)」
「(欲しかったが‥‥ボス直轄部隊では何も言えないな‥‥)」
それぞれ思っていることは違うようだ。
「人手不足だったんでね。一人でも見つかって良かったよ」
笑顔でいるのはウォリックのみだ。他の者の顔は少しひきつっている。
「‥‥そうですか‥‥これで人手不足が解消するといいですね‥‥」
「まったくだよ。以前のルーキーは殉職してしまったからね‥‥本当に残念だよ」
「ボス。我々に異論はございません」
情報捜査班が異論はないと言うと他の鑑識捜査班、戦闘捜査班、潜入捜査班の監察課も首を縦に振った。
「それじゃ、捜査官に各自伝達を怠らないように‥‥明日から本格的な最終試験だ。各自顔合わせの準備をしておけ」
微笑んでいた顔とは打って変わって糸目だった目からは瞳が見えた。その瞳は透明感のある青色をしているがその瞳には正義感のある強い目をしている。
「「「「了解です。ボス」」」」
「それじゃ私は次の仕事があるから先に戻るとするよ」
会議室からウォリックのホログラムが消えた。
「‥‥‥‥‥ふぅ‥‥‥‥‥」
一息ついたのは誰だろう。
ウォリックがいなくなり会議は終了したのに四人の監察課のホログラムは消えることはなかった。
「‥‥能力犯罪捜査班にルーキーだと?いったいボスはどんな手を使ったんだ?」
「なんでもボス直々に部署案内を行ったそうだ‥‥」
「なるほど最初からボスはそのルーキーに目をつけていたということか‥‥」
「それで、何日持つと思う?」
「「「‥‥‥‥‥」」」
何日持つ。という鑑識捜査班の言葉に三人は黙り込んでしまった。
「あそこのリーダーは問題がありすぎる‥‥もって一週間‥‥か‥‥」
「事件が起こらなければ生き延びるだろう‥‥」
「あのリーダーのことだ‥‥ルーキーが逃げ出すに決まっている」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
能力犯罪捜査班はボス直轄部隊ではあるがどうやらリーダーが問題とされているようだ。
「さて、我々も仕事に戻るとしよう。明日は捜査官とルーキーの顔合わせだ」
三人は同意しホログラムが消えていった。
明日はついにルーキーと捜査官の顔合わせだ。それまでにすべての捜査官に通達を行わなければならない。ルーキーはPRDの一員となり最終試験を終え名前呼び、腕章が外れればはれて捜査官となれる。しかし命を落とさないとも限らない。
これからどうなるかは捜査官、ルーキー、そして事件次第だ。
景色は変わってレイナーのマンション、レイナーは部署が確定するのを家で待っていた。ソワソワと落ち着きがなく、ベッドで転げたり、部屋を行ったり来たりしている。
「あー!どうしよう‥‥怖いところだったらいやだなぁ」
どうやらウォリックの推薦でもあるため能力犯罪捜査班にしたことで緊張しているようだ。
今はキリッとしたスーツ姿ではなく、ゆるりとした部屋着、ジャージ生地のズボンに薄めのTシャツにカーデガンを着ている。レイナーの住んでいるマンションはPRDまで徒歩三〇分の1K、家具はすべて白を基調として最低限のものしか置かず非常にシンプルだ。スーツはしわにならないようにハンガーにかけられている。
テーブルを見るとノートが置かれ、ノートにはルセミルア警察学校で学んだこと、銃の使い方、自分の弱点など事細かく書かれていた。
「はぁー」
再びベッドに寝ころび時計を確認すると一四時をまわっている。そろそろPRDから部署決定の連絡がきてもおかしくない時間だ。
「(どうしよう‥‥どうしよう‥‥いよいよだ‥‥本当に自分は能力犯罪捜査班になれるのだろうか?怖いところだったらどうしよう‥‥心配になってきた‥‥でもこれは自分の意志で決めたこと‥‥駄々をこねても意味がない‥‥‥‥よし!)」
ベッドから勢いよく起き上がる。
すると——。
ピピピピピッ!ピピピピピッ!
「うわぁ!」
メールが来た通知音のようだ。
レイナーはその音に驚き体が大きくはねた。
「びっくりしたぁぁ」
テーブルに置いてあった端末を持ち、メールを確認すると、項目にはPRDと書かれている。
恐る恐るフォルダを開く。
【レイナー・レッドメイン。PRD能力犯罪捜査班ルーキーとして認める。明日九時までにPRDエントランスホール集合。職務を全うするように。PRD長官ウォリック・バード】
シンボルマークが透かしマークがありウォリック直筆のサインもあった。これでレイナーははれてPRD、そして能力犯罪捜査班ルーキーとなった。
「‥‥やった!明日からPRDで働ける。頑張らないと!」
本格的にPRDで働くことを喜んでいる。夢ではないことを確認し、気合を入れて明日の準備をし始めた。
夜のPRDは日中とは違って静かなものだ。夜勤の捜査官しかいない。周りのビルもPRDのビル明かりも転々としているがこのネオンが途切れることはない。
この部屋も真っ暗、唯一の明かりは月明りだけ、確認できたのは六つのデスクがあり、窓側には他のデスクより大きめだ。
そのデスクに一人が座っている。
ピピピ‥‥ピピピ‥‥。
デスクに置いてあった端末を操作し起動させた。端末から光が放たれ浮かび上がってきたのはウォリックのホログラムだ。
『‥‥良かった。まだ起きていたみたいだね。君に報告をしておこうと思って‥‥』
ホログラムはこれまた精密で口や頭が動き表情もわかりやすい。本物が目の前にいるかのようだ。
「報告とは?事件ですか?それとも“おつかい”ですか?」
姿かたちは見えないが返答するものの声は少し高めで幼げがあった。
『いいや。違うとも‥‥おめでとう!新しいルーキーが能力犯罪捜査班に来る。歓迎してあげてくれ』
「‥‥‥‥‥僕は捜査官情報係(情報捜査班)にルーキーの募集はしないと報告したはずですが‥‥‥‥‥」
『君はね‥‥私は違うよ?二人だけだと君に“おつかい”を頼むとき彼女は一人だろ?効率を考えたまでだよ』
人影は椅子に大きく寄りかかり腕を組んだ。
ウォリックには相手の姿もバッチリ見えている。それなのにこんなにも大きな態度をとれるいったい何者なのだろうか?
「‥‥使えるんですか?それとも僕の新しいおもちゃ(・・・・・・・)‥‥ですか?」
『んー。残念ながらおもちゃではないよ。彼女は君の部下の成績を塗り替えた子だ‥‥それに私が推薦した‥‥使えるとは思うよ』
「‥‥‥‥‥」
どうやら納得していないようだ。
『不服かね?では命令しよう‥‥‥‥彼女を能力犯罪捜査班ルーキーとして向かい入れろ』
「‥‥‥‥わかりました。ルーキーを受け入れます‥‥もう一人には?」
『伝えてあるよ。詳しいデータはすでに送ってある。確認しとくように‥‥頑張りたまえ』
通話が切れウォリックのホログラムは消えた。部屋に再び静寂が訪れる。
「‥‥‥‥‥ルーキーか‥‥‥‥‥邪魔なら‥‥‥殺すか‥‥‥‥‥」