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特例!部署案内!

「やぁどうだね?今年のルーキーたちは?」

声がしたので向いてみるとそこには白髪のオールバック、白のYシャツ、茶色のダブルスーツにそれに合った茶色の革靴、赤ネクタイを着ている。目は糸目で瞳が見えないが、眼鏡をかけており右目には眉毛からほほにかけて大きな傷があり、フラワーホールにはシンボルマークのユニコーンが描かれたPRDのバッジが輝いている。

「ボ、ボス!いらしていたのですか!?」

彼はPRD並びにルセミルア警察学校の創設者であり長官であるウォリック・バードだ。

身に着けているバッチにはシンボルマークであるユニコーンと下には銀星六つが彫られている。

バッチはPRDの捜査官を示すだけではなく階級も記されている。バッチは主に銅が使用され階級により星がつけられる。直属の部下を示すのはウォリックと同じ銀星となるのだ。

銀星六つは長官を現し、銀星三つはウォリックの直属の部下を、副長官は銅星五つ、監察課四つ、能力者対策部部長三つ、班長二つ、リーダー一つ、捜査官星なしとなっている。

ボスと聞いたルーキー、周りにいた捜査官はウォリックに向かって慌てて敬礼をした。もちろん目の前にいるレイナーもだ。

誰もが予想していなかった。なぜならウォリックがルーキーや捜査官たちの前にめったに顔を出さないからである。それも一階のエントランスホールに。

「うん。まぁね。仕事もひと段落してルーキーたちを見に来たんだよ」

糸目が笑っているようにも見えて、口調も優しく温厚な長官なイメージだ。政府からもウォリックは“春風(しゅんぷう)駘蕩(たいとう)の長官”と呼ばれている。

本当にこの人物が能力者殲滅を宣言し、PRDを率いている長官なのかと驚くほどだ。

「おや?君は私の直属である部下の成績を塗り替えた子だね‥‥確か名前は‥‥」

「レイナーです。レイナー・レッドメインと申します!」

レイナーはあまりの緊張に大声を出してしまった。まさか、目の前に長官が現れるなんて誰が予想できただろうか。

「そうだったね。すまない。年を取ると名前を覚えるのも一苦労だよ‥‥」

ウォリックの年齢は八四歳。昔とは違い医療や科学の発展で通常者の平均年齢は一二三.六歳となっている。これが戦争を始めたきっかけともいわれている。

「で、君の行きたい部署は決まったかね?」

「え!?わ、私ですか?す、すいません‥‥まだどの部署にしようか迷ってしまって決まっていないんです‥‥」

「そうか。そうか。他のルーキーにも聞く、部署が決まっていない者は挙手してくれ!」

挙手した者は三〇人中二二人。どうやら他のルーキーたちも行く部署を迷っているらしい。

仕方のないことだ。ここで決まっている者は最初から決めていたか、あまりにも行く場所の選択肢がない者だけ。

多くの部署が存在するため名前だけでは想像しにくい部署もあるのだ。

「んー。まぁ想定内ってところか‥‥」

ウォリックがなにやら考えているとレイナーの隣にいた捜査官がウォリックに声をかけた。

「あ、あの‥‥ボス、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「構わないとも‥‥なんだね?」

「なぜ、能力犯罪捜査班の名前がモニターにあるのでしょう?今年もルーキーの募集は行わないと聞いたもので‥‥」

対策部を除くPRDの総動員は四〇〇人。どの部署もルーキーを欲しがると思うだろうがそうではない。能力犯罪捜査班の理由はわからないが、満員といった理由もあるのだ。

「確かにあの(・・・)は募集する気はなかったんだけどね‥‥さすがに二人だけだと人手不足で‥‥だから私自ら募集を行ったんだ。あの子に聞いたらいらないというだろうけど‥‥効率を考えたまでだよ」

「そうだったんですね」

「さて!部署も決まっていない者が多いことだし、私が部署案内をしようではないか」

「‥‥ボ、ボス直々に‥‥ですか!?」

「ああ、だから君たちは仕事に戻りなさい‥‥見物している君たちもだ!」

なんとウォリック自らルーキーに部署案内をすると言った。これは異例中の異例だ。

やはり周りの捜査官も、ウォリックの目の前にいる捜査官も驚いている。無理もないルーキーの前に一切現れたことのなかったウォリックが部署案内を行うといったのだから。

目の前にいた捜査官は何かを言おうとしたが何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。ウォリックの命令は絶対であり口答えは許されない。その捜査官は監察課や班長、リーダーでさえないのだから。

「‥‥わかりました」

「よし!それじゃあルーキー諸君、私についてきたまえ!」

ルーキーたちも最初どうしていいかわからなそうだったが一人がウォリックについて行くと戸惑いながらも後から皆、後について行った。

ウォリックとルーキーたちが二階へと上がり、部署案内が始まった。姿が見えなくなったのを確認して見物していた捜査官の一人が口を開いた。

「まさかボス直々による部署案内とは‥‥あの感じだと変わり者のところに部下が欲しいんだろ?」

「驚いたよ。まさか本当に来るとは‥‥いつかは予想していたけど、あの感じだと一人が犠牲になりそうだな」

これから部下や仲間になるというのに犠牲という言葉。案内係であった捜査官情報係の捜査官が言った通りに能力犯罪捜査班は嫌われているようだ。

「俺が思うに声をかけたあの主席ルーキーを狙っているかもな‥‥他のルーキーには目もくれていなかったし‥‥」

「まぁ結果がどうあれ俺たちには関係ないことだ。あの変わり者のことなどな‥‥」

「だな、俺らには関係のないことだ」



最初に来たのは階段を上がって二階の情報捜査班だ。情報捜査班はさっき案内をしていた捜査官の捜査官情報係や能力者、研究者などの情報が管理されている。

案内といっても部署の中に入ることはできない。人口AIが電子手帳と顔認証で情報捜査班の捜査官でなければ入ることはできないようになっているのだ。PRDの中でも情報を持ち歩くことは難しい。情報漏洩を避けるためだ。

しかし見ることは可能だ。一部を除いて部署は特殊効果ガラス張りになっており外から見えるようになっている。これならどの部署がどんな仕事をしているかわかりやすい。

こうして見られる構造なら部署選びの時に気になっている部署を見に行けばよかったと思うだろう。しかしルーキーとは呼ばれているがまだ捜査官(仮)PRDのデータベースには登録されていない。それにまだルーキーは電子手帳を持っていない。二階にPRD内にはいることができるのは電子手帳と人口AIの二段階認証でパスできた者だけが入れる。つまり登録もされていない電子手帳を持っていないルーキーはPRDの一階にしか入れないのだ。

しかし今はそれが可能、それができるのは案内しているのはウォリックの力だ。長官という権限で一時的だがパスできるようにしているのだ。

「ここは情報捜査班。能力者、研究者、研究所、捜査官についての情報を管理、保存されている。能力者や研究者を追うために我々の傘下に入っている国のすべての監視カメラの映像もここで処理をしているのだ。不審な物‥‥つまり能力者や研究者を見つけたら戦闘捜査班や対策部が出動するようになっているんだよ」

情報捜査班の人数は一〇〇人。

デスクはひとりひとりにあてられそこでは多くの文字や、映像を操作している。常に、能力者や研究者の情報が入るので休む暇もない一番多忙な部署だ。

奥の壁には大きいモニターが設置されている。そのモニターでは監視カメラの映像で顔認証が行われ、何度も画面や顔写真が切り替わっていく。

これは、指名手配になっている研究者や顔が割れている能力者を監視カメラで行方を追っているのだ。ほとんどは人口AIが処理をしているがそれでも追いつかない。有能なAIだとしてもすべては無理なので捜査官が監視カメラと顔の照合を行っている。

それだけ能力者や研究者の行方や数がわからないといったところだ。

「PRDのセキュリティは突破不可能のシステムになっている。しかし情報能力者によってはセキュリティに入り込み情報を盗んだり、情報を消去したりする物もいる。そのためデジタル化が当たり前の今でも最重要情報は紙ベースで保管されているんだ」

PRDのセキュリティは通常者の技術では突破不可能とされている。ある一人の技術者がつくりだしたシステムで、誰もが真似することができない完璧で突破不可能なセキュリティだ。

しかしその完璧なシステムも能力者には通用しない。

どんな警戒厳重なシステムでも簡単に入り込んでしまうのが能力者だ。

敵国の情報を盗み出すために創られたのだから造作もないこと。そのため今では珍しい紙ベースを使って情報を保管しているのだ。

「警察学校でも習っただろうけど、各国の警察組織には能力対策部を設置し、我々PRDの傘下に入ってもらっている。稀に私たちに報告、協力せず情報をもみ消そうとする輩もいるがね‥‥そうならないように対策部は警察組織の監視という役割も果たしているのだよ。能力対策部は各班の捜査官がチームとなって世界各国の警察組織に在籍しているんだ‥‥まぁ頭の固い連中もいる。傘下に入らない国や能力対策部を設置しない組織なども‥‥ルーキーに問題だ。傘下に入らない国や組織たちを私たちは何と呼ぶ?」

エレベータの反対側にはエスカレータがあり、紙ベースの資料室を見せるために移動をしていた。

そこでウォリックはルーキーたちに問題を出した。どうやらウォリックはルーキーたちの緊張をほぐそうとしているらしいがルーキーたちはこれも最終試験の入るのではないかと皆、挙手するのを戸惑っている。

無理もない長官であるボスと顔を合わせるなんて監察課や班長、直属の部下くらいで捜査官が簡単に姿を見ることはない。見られたとしてもここまで近い距離ではないのだ。

「はい!」

挙手をしたのはレイナーだ。

「では君」

「はい!PRDの傘下に入っていない国、組織は部外者(・・・)と呼ばれ能力者による事件が発生した際は情報共有をせず我々PRDだけで捜査を行います。捜査妨害をしてきた際は世界法律【第六九条PRDの捜査に協力する。これを拒む者は反逆者とみなし重い罰則が与えられる】に入ります。傘下に入っていない国は一つ、組織は複数あるとされています!」

「正解だ。能力対策部の人間は一つの組織に四人のチーム制を原則としている。能力者を対処するときは数が少なくては勝率も少ない‥‥もちろん多いから良いというわけでもない。ここのところは難しいところだね‥‥対策部だけで対処しきれない時は私と監察課で会議をし、チームを選別してPRDから出動してもらっている」

PRDの傘下に入る際に必ず設置するのが能力対策部。傘下に入るのは強制というわけではないが、ほとんどの国——一つの国と複数の組織を除いて——傘下に入っている。

傘下に入らないのはPRDに見つかってはいけない何か(・・)を隠すためとされている。だから部外者と呼ぶのだ。そして独断で捜査を行う。

「そしてここ三階には最重要機密などの情報が紙ベースで保管されている。奥にあるものほど重要度が上がる。PRDにある情報は紙でデータを保管しているから数は多いね。今どき紙で扱っているのはうちくらいだろう」

「す、すごい‥‥」

ルーキーの一人がそう言った。エスカレータを上がって見えたものは全体を見渡すとすべて丁寧にファイリングされ棚に納められている資料館だ。十数人の捜査官が資料を確認し新たにファイリングを行っている。

この量を見るとPRDの情報網はとんでもないかもしれない。数千万、数億の情報がここで眠っている。

「ここは情報捜査班紙式データファイリング係‥‥捜査官たちは全部の資料を保存場所、内容をすべて把握している。もちろん覚えるのは大変だよ。だからここは多忙だけどなかなか捜査官が来なくてね‥‥人手不足って感じかな‥‥ここにいる捜査官はみんな“特別”なんだ‥‥そんな特別がゆえに能力者と疑われた者がほとんどだ。さて次に行こうか」

ひとつひとつの情報を覚えていては能力者と疑われても仕方ない。こういった才能を持っている者をウォリックは個人的にオファーをしている。オファーしていてもルセミルア警察学校に入学し、卒業しなくてはならないが、他の捜査官とは少し特別な扱いを受けられる。


エスカレータを降りて再び二階へと戻り、エレベータに乗って四階へと向かう。

PRD内の構造はとても複雑だが、班を分けるためとセキュリティ強化のためだ。

つまり情報捜査班の階であったら二階~三階にはエスカレータがある。しかし四階に行けるエスカレータはない四階は他の班、鑑識捜査班なのだ。

こうして構造が厄介なのは襲撃の時、道をわからなくするためと、他の班の捜査官を入れなくさせないためなのだ。班の中には重要機密を管理していたり、機密事件を捜査していたりするからだ。



次にやってきたのは四階~七階、捜査官一一〇人の鑑識捜査班だ。

四階は捜査官全員のデスクが設置されている。ここで仕事する者、ほとんどデスクにいない者もいるが、報告書や次の係へと引き継ぎを行うのに使われるため全員分あるのだ。

「ここは鑑識捜査班。殺人事件が発生した際、能力者による犯行かそうでないかを現場に行って確認する。それで能力者の犯行だった場合はPRDが捜査し、そうでなかった場合鑑識捜査班は撤退し、他の警察組織に引き継ぐようになっているのだ」

PRD本拠地ではなく、他国で能力者事件が発生した場合、鑑識捜査班海外派遣係が出動し情報収集をする。事件解決、能力者の処分は別の班が行う。鑑識捜査班はあくまで事件現場の鑑識を行う部署だ。

「鑑識捜査班現場急行係のリーダーは私の数少ない直属の部下でね。鑑識の捜査以外に仕事を頼むときがある。そのこともあって能力犯罪捜査班と協力することが多い」

ウォリックの直属の部下はPRDが正式に能力者処分を公認する前からいた捜査官たちのこと直属の部下はリーダー、捜査官と監察課のように重要な立場——権力のある階級にいるわけではない——なぜこのようにしたのかはウォリックに身が知ること。

直属の部下はもし普通の捜査官だったとしても班長並みの地位はある。

鑑識捜査班現場急行係のリーダーが直属の部下だとは誰もが知っている。しかし残りの四人は誰だか知らないのだ。

「五階からは部署によって部屋がわかれている。解剖に血液分析、証拠分析、現場分析、データ分析などひとつひとつを専門の部署にしている。能力者を処分するのが我々の仕事だがそれだけではない。ではここでもう一つルーキーに問題だ。まとめてしまえば楽であるのになぜひとつひとつ部署にわかれさせ、専門の係を作ったか‥‥わかるかな?」

最初にレイナーが答えたからか今度は他のルーキーも挙手をしている。ここでウォリックにポイントをもらえれば捜査官になるのも近くなると皆考えたのだろう。

「では君」

「はい!」

レイナーはさっき答えたからか別のルーキーにあてられてしまった。レイナーは悔しそうな顔をしている。

「PRDの職務は能力者の殲滅ですが‥‥能力者についても知らなくてはなりません。能力者の弱点、我々の強みになるものを探し出すためひとつひとつを専門の部署にすることによって一つの分析に集中して捜査、研究、発見をできるシステムになっています!」

「正解だ。今年のルーキーは優秀な者ばかりだね!そう、殲滅だけが仕事ではない。能力者のことを知ることでセメクトが強化できればさらに処分することができる‥‥しかし‥‥もちろんそれを好ましくない者もいる。ここは能力者を恨む者がほとんどだ。能力者を殺すことができればいい‥‥なんて者も‥‥そういった捜査官に限って早死にしてしまう‥‥私はもっと自分の命を大切にしてもらいたいよ‥‥ここにいる者たちは家族同然なんだ」

ウォリックはPRDの捜査官をとても大事にしている。捜査官の死にとても悲しみ、殺した能力者を許すことはない。

これはウォリックの過去とも関係していると言われているがそれを知る者はほとんどいない。

階数をエスカレータで上がっていくと分析を行っている捜査官ばかりだ。機材や精密機械がたくさんある。能力者による殺人で犠牲になる通常者は複数人、同時に何件も事件の捜査をすることがあり、早期解決のために機械は同じものも多くある。



「ここは戦闘捜査班‥‥能力者の処分を行う‥‥能力者との接触が多く一番危険な部署でもある」

八階~一一階は戦闘捜査班のエリアになる。捜査官は九〇人、ウォリックの言った通り命を落とす確率の高い部署だ。能力者との戦闘があるため捜査官の入れ替えは激しい。PRDが設立されて間もないころは多くの捜査官が殉職していった。しかしやっと研究にこぎつけた能力者の能力を一時的(・・・)に無効化、一時的(・・・)に能力を使用不可能にするセメクトによって殉職する捜査官は激減したのだ。あくまで激減だが。

七階は監察捜査班のようにひとりひとりにデスクがあてがわれている。ウォリックたちは立ち止まらずそのまま八階へと向かった。七階は情報捜査班や鑑識捜査班と同じだからだ。

「戦闘捜査班は出動がない時のほとんどを九階~一一階の訓練室で過ごしている。七階にいる捜査官はほとんどいない‥‥より強‥‥強くと、皆が頑張っている」

戦闘捜査班は数チームに分かれて訓練を行っている。訓練はAIがつくりだしたホログラム‥‥しかし捜査官が訓練で扱っているのは本物の銃だ。PRDには専用弾である“セメクト”PRDの専用銃“キリカ”があるのだ。

キリカは専用弾セメクトと普通の弾丸がマガジンに込められている。それを自在に切り替えが可能で、二種の弾丸が入っているのにとても軽く、扱いやすい。悪用されないように銃には認証システムがあり指紋認証と顔認証がある。誰かに銃を盗まれて使用されることや技術漏洩を防ぐためだ。セメクトの技術はPRDにしか持ち合わせていない。部外者にこの技術を共有してはならないのだ。

これは世界法律でも定められている。

【世界法律第七十条 PRDは能力者専門の警察組織である。能力者を殲滅し世界に貢献せよ】

【世界法律第七十一条 PRDの技術は共有してはならない】

世界会議により能力者殲滅を許されているのはPRDだけなのだ。

そしてキリカは自分用にカスタマイズもできる優れものだ。他の銃と外見に違いはほとんどない。これがセメクトの次にPRDが努力で造り上げたものだ。

訓練している捜査官は貴重なセメクトは使っていないがキリカを使って訓練をしているが、銃を発砲しているのに廊下側にはまったく銃声が聞こえない。この強化ガラスは戦争中にも使われその強度、防音力はおりがみ付きだ。

AIがホログラムでこれまで処分した能力者やAIの計算でより強力な能力を予想した能力者を映し出し、捜査官はそれをどんな状況、場所でいかに犠牲者を出さないかを訓練している。処分した能力者で訓練してもそれより強い能力者が現れたら対策もできずにおしまいだ。だからAIに計算させてレベルを上げている。

「そうそう!説明し忘れたけど情報捜査班に大きなモニターがあっただろ?他の班では別室になっているから見えなかったけど他の部署にもあるのだよ。鑑識捜査班、戦闘捜査班にコンピュータを置いた部屋があったと思うけどその奥には通信指令室があるんだ。そこには情報捜査班から能力者の情報、資料が配信され、出動チームの連絡もそこで行われている」

他の部署に能力者や研究者の資料を持ち出すことは禁止されている。必要な書類は通信指令室で配布される。理由はこのまま情報を持ち出す者がいるかもしれないからだ。

捜査官を信頼し温厚そうなウォリックが疑いそうにないように思えるだろう。もちろんウォリックは捜査官を家族同然に思っている。しかしそれは裏切り者になると話は別だ。裏社会では能力者や研究者、捜査官の情報、PRDの構造の情報は高額で取引されているのだ。まだ裏切り者が出たことはないが、もし金に目がくらんで盗み出す馬鹿が現れたら、ウォリックは許さないだろう。

PRDは多くの支援者や政府から厚い信頼を得ている。それを裏切る行為は全世界を敵に回すのと同じこと。PRDには信用が命なのだ。

しかし例外が一つある。能力犯罪捜査班だ。

能力犯罪捜査班に通信指令室はなく、資料も持ち出し可能‥‥それだけではない普通の捜査官は自分の所属する班にしか出入りできないのに能力犯罪捜査班はどの班にも出入り可能。

なぜ能力犯罪捜査班だけが特別扱いなのか。他にもいろいろと理由はあるが誰もが思っているのはボス直轄の部隊だから。これも他の捜査官から嫌われている理由でもある。しかしボスの命令であればだれも文句は言えない。だから文句の言えない分、能力犯罪捜査班捜査班を陰で八つ当たりをするのだ。

「最近、能力者による犯罪が後を絶たない。戦闘捜査班だけではなく、能力犯罪捜査班にも出動してもらっている」

能力者による犯罪が昨年より四倍になり、PRDがそれを見逃すことはない。ウォリックは自分の直轄部隊を本気で動かし始めているのだ。

能力者殲滅のために——。

だから独断で能力犯罪捜査班のルーキー募集を行ったということだ。



班は最後、潜入捜査班だ。階数は一三階~一四階で捜査官は九〇人。

「ここは潜入捜査班。主な仕事は未だに能力者の研究や製造を行っている研究所への潜入捜査や能力者事件に関する内密捜査を行っている」

一三階はどこの班とも変わらず、ひとりひとりにデスクが置かれている。今部屋にいる人数が少ない。ここは潜入捜査班だ。ここに捜査官全員がいたら研究所や研究者は存在していない。

奥には大きなモニターがあり、潜入している捜査官のバイタルサインと世界地図が映し出されている。地図には赤い点で研究所が記されている。

「研究者はあらゆることを使って我々に気付かれないように能力者を製造している。通報や匿名、対策部からの連絡により研究所を探し出し潜入し、そこが能力者の実験、製造を行われていた場合、戦闘捜査班に仕事を引き継ぎ摘発、処分を行う。ここに所属している捜査官は研究所で働いていた元研究者たちもいてね‥‥なぜ研究者がいるのか‥‥研究者は我々PRDに非常に敏感なのだ。潜入捜査をするとPRDの人間とばれてしまう時がある。だから逮捕した研究者と取引をして協力させているんだ。その方が部下の犠牲も出さなくて済むからね」

研究者はここから逃げ出さないかと疑問に思うだろう。もちろんそんな考えをする馬鹿だっている。生き残りの研究者にとってPRDは監獄でもあるのだ。

よく見ると捜査官と研究者の違いが判るだろう。首を見ると、チョーカーしている者としていない者がいる。チョーカーは特殊な装置だ。それが逃げ出すことのできないものといってもいい。このチョーカーは監視だけではなく、抵抗した場合、逃げ出した場合すぐに処分できるように小型爆弾がついているのだ。チョーカーで爆弾には見えないだろう。しかし頭を消し炭にできるくらいの威力があるのだ。潜入捜査班が全員研究者というわけではないが、相手は研究者、つまりは敵なのだ。だからいくら取引をしたからといって裏切りをしないとは限らないだろう。

割合的には四割が研究者で六割がルセミルア警察学校を卒業した捜査官、全員が研究者ではない。

「さて、これで部署案内は終わりだ。行きたい部署は決まったかね?」

部署案内は終了し三階に戻ろうとしていたところだ。

「あ、あの‥‥すいません‥‥あそこの扉の向こうには何があるんですか?」

エレベータのある方に歩いているところルーキーの一人が立ち止まっていた。全員が振り返りそのルーキーが指をさしているほうを向く。立ち止まっているほうは何も見えないようになっていて頑丈の扉でパスワードを打ち込まないと入れないような部屋になっている。

「ああ、そこを説明していなかったね。その奥はさっきも話した能力犯罪捜査班があるんだよ。能力犯罪捜査班へ入れるのは能力犯罪捜査班の捜査官と私の直属の部下だけ、普通の班にはいくつもの部署‥‥係があるけど能力犯罪捜査班は違う。他の係はなく一つの部署だ。難航な事件や早急な事件解決が必要な時出動してもらっていることが多い。最近は能力者による犯罪が多発してきたために能力犯罪捜査班にも協力してもらっているよ」

潜入捜査班と少し距離はあるけど同じ階にあるのに捜査官が通ることはなく、ウォリックとルーキー三〇人しかいない。普通の捜査官が入ることができないうえ、変わり者・訳アリの部署と呼ばれ良くない噂があるから誰も来ようとしないのだ。

「ちょっと大変だけどやりがいのある部署が良いって子はここをお勧めするよ。私が推薦してあげる」

「(え!?)」

“やりがいのある”という言葉にレイナーが驚く。ウォリック笑っているが明らかにレイナーの方を見ている。

「行きたいところは決まったかい?」

ウォリックが話しかけたルーキーはもちろんレイナーだ。ウォリックはレイナーことを余程気に入ったようだ。

「無理には言わないけど君には能力犯罪捜査班を推薦するよ」

「‥‥‥‥‥私にむいているでしょうか?」

「向いているか。向いていないかは君が決めるんだよ?もし向いていなかったら私が別の部署を用意しよう‥‥まぁ君にはその必要はないと思うけど‥‥」

ウォリックはレイナーに笑顔を見せる。ルーキーにも笑顔を見せる優しい長官だ。

「(私は‥‥やりがいのある仕事をしたい‥‥)」

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