ルーキー
アメリカの首都、ルニエクスタリア。人口約二六万人。能力者数不明。最もテクノロジーが発展し世界会議同盟の中では最先端の都市。PRDの本拠地があり、IT会社が多く建ち並ぶ。世界で最も安全といわれるほど護衛システム、コンピュータ技術が発展している。
——世界会議四日前——三月三〇日——
PRDの本拠地はルニエクスタリアの中心部にビルを構えている。政府や権力者によって多額の支援金をもらい、この本拠地である四〇階建てのビルも支援としてもらった一つだ。
周りにある他のビルと比べると多少小さめではあるが、存在感を放っており、ビルは最新鋭のシステムや技術が使われ、PRDのビルがルニエクスタリアで誇る最新鋭技術だろう。
PRDのシンボルマークである長い角を掲げ、前足を上げたユニコーンが描かれているものがビルの中付近と頂点に掲げられている。
このユニコーンの由来は、極めて獰猛で、力強く、勇敢で相手が何であろうと恐れずに向かっていく。角には水を浄化し毒を中和させる力があるといわれている伝説の生き物であり、相手が誰であろうと恐れずに向かっていくのはPRDの捜査官、世界を浄化し、能力者という毒を中和させる。PRDは能力者を処分し、世界の秩序を正す。という意味を持っている。
PRDの主な仕事は研究所の摘発、能力者製造の阻止、研究者並びに能力者の処分を三年前から行っている。
ウォリックを筆頭とした五人はその前から密かに能力者の殲滅を行っていた。
始めは、PRDの捜査官はたったの五人、そこから三年で四〇〇人と捜査官も増えていった。この最初の五人は現在もウォリックの直属の部下としてPRDに在籍している。
そんなPRDに新たな捜査官が加わった。
PRDに入る条件はPRDの専門学校であるルセミルア警察学校に入学し、能力者についての知識、一般以上な学習能力、必要な戦闘スキルなどを学び卒業試験に合格すればはれてPRDに入ることができる。
ルセミルア警察学校には年齢制限はなく、学力、学歴問わず誰でも入学が可能、能力者を恨む者であればたとえ学校にいていなくとも子供でも構わない。
しかしPRDは世間ではこういわれている。
PRDに入ることは“狭き門”だと——。
ルセミルア警察学校を入学してからは過酷な訓練や授業が待っている。
今年は一〇〇〇人がルセミルア警察学校に入学したが、厳しい訓練、厳しい指導、難しい座学についていけず脱落者が相次ぐ、そして最難関なのは卒業試験。ホログラムでの能力者との戦闘、一週間に及ぶ出張サバイバル訓練、筆記試験、面接などなど‥‥合格できたのはたったの三〇人だけだ。
こんなにも難しいのには理由がある。
この試験は卒業できるか否かだけではなく合格できた時に自分が入れる部署も決まってくるのだ。成績が良ければ良いほど部署選びは豊富であり、悪ければ悪いほど選択肢は少なく、最悪の場合不合格になる。
合格基準が高い理由はこれだけではない。PRDは政府などの権力者から多くの支援をもらっている。つまり厚い信頼を得ているのだ。その厚い信頼を裏切らない為にもこのように厳しくされている。
PRDは極秘事項が多くあるため、家族であろうと自分がPRDの捜査官だということを明かすことは許されない。
政府や多くの支援者、一般市民の信頼を裏切らない為でもあるが、それはPRDの技術にもある。
PRDは未完成ではあるが能力者の攻撃を一時的無効化、能力を一時的使用不可能にさせる弾丸を開発に成功し創りだせる技術を持っている。その弾丸には名前がありその名も“セメクト”という。戦闘の神であるセメクトから名前をとったのだ。
このセメクトの技術は他の組織に流用させてはならないのだ。
PRD以外にも能力者や研究者の処分、逮捕を行っている組織がある。FBIやCIA、MI6、IMFにICPO、余り名の知られてない小規模で個人的な組織もある。
他の組織もPRDと同じように能力者を殲滅しようと動いている。他の組織も加われば能力者の殲滅も早まるはずなのにそれを行わないか。
能力者処分を政府から公認を受けているのはPRDだけなのだ。
PRDにある資料やデータ、捜査業況、ビル内の構造などを外部に漏らそうとするなら、その捜査官と情報を受け取った者はこの世から抹殺される。
これが“PRDにはいることは狭き門”といわれ少人数である理由だ。裏社会と繋がりのある者を入社させるわけにはいかない。
PRDの一階はエントランスホールになっている。シンプルではあるが高級感もあり、広々としたホール。中央には二階へと続く階段に一階エントランスは一般人も入ることが可能で、一般市民からの情報提供や能力者関係の依頼などを受け付ける窓口があるのだ。もちろん二階は一般市民進入禁止。階段入り口にはゲートがあり捜査官でないと開かない構造になっている。PRDが誇る人工AIが捜査官の顔をスキャンし、捜査官はゲートで電子手帳をかざす二段階認証となっているのだ。
入口から見て左手に受付があり、待合室、奥には情報や依頼を聞く会議室もある。大きな電光掲示板がありそこにはニュースや天気情報、他には解決した能力者事件の公表がされている。
ニュースなどでは能力者による犯罪を取り上げることはない。一般人がパニックになってしまうからあえて情報は流さないようにしているのだ。
もちろん事件が発生し、一般人に情報を聞き込みする場合には事件があったことを個人的に伝える。
誰かが部外者に情報を話してしまった時は能力者事件も明るみになり市民がパニックに陥りかねない。
その辺はPRDだってわきまえている。もし事件が発生し一般市民に情報提供を求める時は事件について話すが、一般市民はこれを公表してはならない。
それは世界法律で定められているのだ。世界法律とは二〇九九年戦争終結の際に定められた法律だ。
法律の一部にこう記載されている。
【世界法律第六十九条 PRDの捜査に一般市民は協力をする。これを拒む者は反逆者とみなし重い罰則が与えられる】
【世界法律第六十九条の一 PRDが情報を求め事件の詳細を聞いた話した際他の一般市民又はSNSで公表してはならない】
世界法律は戦争や能力者についての法律が多いがPRDに関しての法律も多くある。
〈ルーキーは速やかにエントランスホールにお集まりください‥‥繰り返します‥‥ルーキーは速やかにエントランスホールにお集まりください。部署選びを開始します〉
どうやら新米捜査官の部署選びの最中のようだ。
エントランスホール右側、一般受付の反対側には捜査官専用の電光掲示板が設置されている。
その捜査官専用モニターには出動チーム、能力者事件の情報、一般人相談件数といったものが記載されているが、今はそのモニターにはPRD全部署が掲載されている。
部署は大きく情報捜査班、鑑識捜査班、戦闘捜査班、潜入捜査班の四つがあり、そこから部署が細かく枝分かれされている。
「今年のルーキーは若いのが多いな」
中央階段を上がりエントランスホールを見渡せるところに暇そうな捜査官がルーキーを観察している。
「誰がどの部署に入るか楽しみだな」
「そうだな‥‥あっ!そういえばルーキーにルセミルア警察学校の歴代成績を塗り替えたルーキーがいるらしいぞ」
「おいおい。それってボスの直属の部下の残した成績じゃなかったか?」
「今回はヤバいのもいるわけだ」
「おい!そのルーキーの顔知っているんだろ?早く教えろよ!」
ルーキーのことが気になる捜査官も多いようだ。二階から見下ろしている者だけではなく、エントランスホールでコーヒー片手に様子をうかがう者、談笑しながらもルーキーの方を見ている者もいる。
ルーキーが入ると必ず行われる。恒例の部署選び、誰がどの部署に所属し誰の部下になるのか、捜査官たちは毎年楽しみなのだ。
新米捜査官は必ず“ルーキー”と呼ばれる。部署に何人もルーキーがいても決して名前で呼ぶことはない。
それは最終試験のためだからだ。
最終試験の内容は簡単、この腕章をとり正式なPRD捜査官となることだ。
捜査官の服装は基本スーツだが、捜査官とルーキーを区別するため、ルーキーは腕章を着けている。腕章にはPRDのシンボルであるユニコーンが刺繍されているだけのシンプルな作りだ。
腕章を早く外し捜査官になるためには、上司の指示に従い、訓練、事件捜査、仕事の成果で決まってくる。
名前で呼ばれたとき、正式なPRDの捜査官になる。いってしまえば今のルーキーは捜査官(仮)ということだ。
捜査官となるには早い者で一ヶ月、長い者で一年、個人差があるのだ。最終的には長官であるボス、ウォリックが決めることになっており、各部署のリーダーが報告書を書き、班長、監察課が読みボスの手に報告書が渡ればはれて試験合格となる。
部署によっては腕章が外れる前に能力者との戦闘で殉職する者もいる。
腕章が外れ、名前呼びになる最終試験はほとんどの捜査官が経験したことだ。この辛い経験は誰もがしていることだが、捜査官たちはルーキーを決して甘やかすことはしない。
「どうしよう‥‥やりがいのある部署が良いな」
そこには誰よりもモニターに食いついている者がいた。
金色のロングヘアをポニーテールにし、目は緑色で、ネイビーのパンツスーツに胸にはフリルのついている薄いピンク色のブラウスに黒いパンプスを乱れなく着こなしている。真面目という言葉がお似合いな子だ。首には十字架のネックレスをしていて左手にはブラウスに合わせたピンク色でかわいらしい時計をしていた。
彼女の名はレイナー・レッドメイン。若きルーキーの一人であり、ルセミルア警察学校の歴代成績を塗り替えた者だ。
レイナーは自分の行ける部署とモニターに映し出されている部署を確認している。どうやら書かれていない部署がないかを見ているようだ。
「どの部署が良いか決まりましたか?」
声をかけてきたのはルーキーとは違い、腕章もつけていない捜査官がレイナーに話しかけた。ネームタグには“案内係”と書かれている。
「いいえ!どの部署が良いか迷ってしまって‥‥‥」
「主席の者は選択肢がたくさんあって羨ましいですねぇ」
少々嫌味な言い方だ。レイナーに断りを入れず部署選択肢の資料を覗き見る。あまり感じの良い捜査官ではない。
「あれだな」
「よくわかったな」
二階から見下ろす捜査官が言った。
「ふーん。見た感じ超真面目ちゃんってところか」
「じゃなきゃ主席にならないだろし、歴代成績も塗り替えられないだろ?」
「確かにな」
「それにあいつに付きまとわれているんだから‥‥わかりやすいものだな」
どうやら案内係の捜査官とは顔見知りのようだ。
「あいつPRD来るまでにルセミルア警察学校の試験を四回落ちているんだろ?それに部署選びも今の捜査官情報係しか選べず、名前で呼ばれるようになったのも新しいルーキーが来るギリギリじゃなかったか?」
「新しくルーキーが入るから仕方なく合格‥‥名前呼びにしたって噂もあるぜ」
「なんでそんなむいていないやつが来るかね?」
「根性だけはあったんだな」
「今だって、主席のルーキー相手に皮肉言っているんだろ?きっと」
「かもな」
「本当に羨ましい限りです。私なんて四回試験に落ちているんですよ。頭のいい方はやはり違うんですねぇ」
「‥‥ア、アハハ‥‥」
レイナー迷惑そうにしている。捜査官を無視して再びモニターを観るレイナー。
「あれ?ここ‥‥」
レイナーが目にした部署は資料にも書かれていない部署のようだ。
その部署の名は“能力犯罪捜査班”。
「‥‥あ、あなたの選択肢には‥‥こ、ここの部署も記載されているんですか!?」
案内係はとても驚いている。なぜ驚いているかレイナーには理解できない。
そしてなぜ能力犯罪捜査班の名前だけで驚いているか疑問にも思った。名前からすればごく普通の部署にも聞こえる。
「え?いいえ記載されてはいません。唯一記載されていない部署だったので少し気になっただけです」
「そうなんですね。驚きました‥‥しかし今年もルーキーの募集はしないと聞いていたんだが‥‥おかしいな‥‥入力ミスか?」
ブツブツと捜査官は独り言を言っている。
能力犯罪捜査班は他の部署と違ってモニターの端に書かれていてよく見ていなければ気づかないくらいだ。
「あの‥‥ここっていったいどんな部署なんですか?」
捜査官は少し悩んだあと、レイナーに近づき耳元で小さく話し始めた。
「‥‥ここは能力者による犯罪の処理、処分、研究摘発を行っている部署です。もちろんこれらは他の部署も行っています。PRDは大きく四つの班にわかれそこから細かく部署が枝わかれされています。私のいる部署は情報捜査班の一つで捜査官情報係です。しかしここ能力犯罪捜査班は一つの部署として成り立っています」
PRDの階級はボスであるウォリック・バードから始まり、各班監察課、各班班長、各係リーダー、捜査官という順番になっている。
ボスであるウォリック・バードはPRD、そしてルセミルア警察学校の創設者でもある。ボスが行う業務は能力者による犯罪事件が発生した時や政府、一般人から能力者の処分を依頼されると各班監察課を収集し会議を行う。会議というのはどの班、どの係を出動させるかを話し合うのだ。
監察課は情報捜査班、鑑識捜査班、戦闘捜査班、潜入捜査班のどれにも監察課はあり部署、捜査官の不正がないかを監視する役割となっている。他にも事件が発生した際に、ボスと会議に出席しどの部署、どの部隊を出動させるかを明確に決める。
班長は班内の情報を収集し、監察課に報告、事件が発生した場合も出動した係から報告書を受け取り、確認、それを監察課に提出する。班長は、階級は上だが出動するわけでもなく捜査官より働く仕事があまりない。一見班長は必要ないと思うだろうが監察課より班長の方が捜査官との間が近いから、指示しやすいし、異変にも気づきやすい。必要な階級なのだ。
リーダーはその班に多く存在する。階級は他と比べて低いが係の中に存在する数十のチームをまとめ上げなくてはならない。出動する回数も多く、能力者との接触も多い、危険で多忙だ。
「能力犯罪捜査班はPRDが政府から本格的に認められた時と同時に設置された部署で、変わり者・訳アリの部署と呼ばれています。特にここでは班しか存在しないのに班長ではなくリーダーと呼ばれ、そのリーダーには何か秘密が隠されているとされおり、部下はたった一人。ボスによって構成された直轄部隊でボスの命令であれば法に触れることもするとか‥‥ほとんど噂でしかありませんが真実を知っている者も能力犯罪捜査班をつくったボスしか知りません。能力犯罪捜査班は事件解決だけではなく戦闘捜査班より多くの能力者を処分しています‥‥私の所属する情報捜査班捜査官情報係捜査係では能力犯罪捜査班二名の捜査官データはなく、情報捜査班の捜査官でもアクセス権はありません」
捜査官情報係とは、捜査官の情報を管理する部署だ。捜査官のバイタルサインや健康状態を随時確認することができる。それだけではなく捜査官の経歴やこれまでの成績、家族構成などの個人情報も保管されている。
しかし、捜査官の情報を管理する情報捜査班ですら権限はないのだ。
レイナーにしか聞こえないように耳元で話している。これは情報漏洩になる可能性があるのだ。
情報を漏洩した者、それを聞いた者は処罰の対象となる。それは厳しく待っているのは死だ。
「あいつ、あんなにルーキーに近づいて何しているんだ?」
「さぁ、わからん。あいつがなにをしでかすかわからないからな‥‥まさか新人いじめか?あんなのが俺たちの同期なんて参るよな‥‥お前もそう思うだろ?」
隣にいる捜査官から声がかからない。どうしたものかと隣を見ると捜査官はとても驚いていた。
「おい、どうしたんだ?」
「あ、あれ見てみろ!」
「!!」