七話 その名はーー|幻竜大剣《グラム》
「うぉぉぉおお!!」
鎧熊目掛けて、雄叫びを上げながら突撃する。
そんな単純な戦法が通じる程、鎧熊は甘くはない。
すぐさま、凄まじい速度で鋭い鉤爪が振り下ろされる。
ジークは鉤爪が首に届く寸前、鎧熊の股下を潜り抜け短剣を突き刺す。
しかし、短剣は鎧熊の強靭な筋肉によって突き刺さらず弾かれる。
鎧熊の後ろ脚がジークの顔面目掛けて放たれる。
咄嗟に防御するが、その衝撃によって吹き飛ばされる。
圧倒的な攻撃力。
まともに受ければ腕の骨は粉々に砕け散ってしまう。
かと言って、この短剣では鎧熊に数一つ付ける事が叶わない。
「…ッ!?」
息を吐く間も無く鎧熊の攻撃が放たれる。
鋭い鉤爪の斬撃。
角による突進攻撃。
辛うじて受け続けて来たが、次第に装備していた鎧が砕け散り擦り傷も増えて来た。
更に不幸な事に、短剣も刀身にヒビが入り限界を迎えて来た。
だが、地道な攻撃によって鎧熊の纏っていた鎧部分に僅かなヒビが入っているのに気が付いた。
俺は、その部分に狙いを定める。
鎧熊の攻撃を何とか掻い潜り、ヒビの入った部分に向けて渾身の力を込めて刺突する。
ビキ、バキン!!
と言う、崩壊音が鳴り響く。
そして、鎧熊を守っていた鎧が一気に砕け落ちる。
短剣もまた、限界を超え砕け散った。
鎧は割った。
しかし、奴は依然無傷。
此方は、擦り傷を身体の至る所に負い出血多量に加えて武器すら失った。
完全に手詰まり。
悔しいが、ここまでだ。
やれるだけの事はやった。
手も足も出ないと思っていたあの魔物の鎧を砕いてやった…あの時の自分では奴に触れる事すら叶わなかった筈だ。
師匠は、うん。
どうやら無事に逃げ切れたらしい…なら悪くない。
後は、あの人が冒険者達が何とかしてくれる筈だ。
でも悔しいなぁ…俺に力が有れば、英雄みたいにこんな不利な状況だって覆したはずだ。
《クヤシイカ?》
ーーなんだ?
聞こえるはずの無い、誰かの声が聞こえる。
《アキラメルノカ?》
どうしろってんだ、武器はもうないんだぞ。
《ナラバアガケバイイ》
お前は一体、誰なんだ?
《イズレワカル》
意味が分からん。
だが、そうだ…俺は最後まで足掻き続けてやる。
ボロボロの身体に鞭を打ち、立ち上がる。
戦意はまだ消えちゃいない!
「ジーク!」
ふと、背後の物陰から師匠の声が聞こえた。
慌てて振り返る…其処には師匠が居た。
逃げた筈なのにどうして!?
「師匠!?どうしてーー「私も覚悟を決めたんだよジーク。」
ジークの言葉を遮り、アテナスは決意と覚悟に満ち溢れた目でジークを見据える。
「受け取れジーク!」
アテナスが布に包まれた何かをジークに向けて投げ渡す。
空中で布は解け、その姿が顕となる。
ジークはソレを落とさないようにキャッチする。
「これは…」
…剣か?
とても美しく、綺麗だ。
剣身は美しい翡翠色。
長い鍔には、幾つもの宝石。
柄頭には、龍の頭部が装飾された立派な剣だ。
「お前の新たな剣だ。決して折れる事なく、壊れる事もなく。
その剣は、生きていてお前と共に成長して行く剣…」
ーー数日前。
「コレが…」
「ええ。それが彼の相棒となる剣よ。かつての持ち主・"竜殺し《ジグルド》"ジグムンドが生涯持ち続けた生きる魔剣。」
「感謝する。」
「私が言った事、守ってね。」
「それで、この剣の名前は?」
「それはーー」
ーー
「その名はーー幻竜大剣だ。」
「幻竜大剣…」
何故だろうか…この剣の名を聞き、何故だかしっくりと来た。
身体に馴染む…まるで初めから自分の持つべき物だったかのように…
今なら、何でも成し遂げられる…不思議とそんな気分にさえ陥ってしまう。
《この時を待ち侘びていた》
剣が、そう喋った気がした。
幻竜大剣と呼ばれた剣を構える。
鎧熊がニタリと嗤う。
「おぉぉぉおおお!!」
地面を大きく蹴る。
身体が軽く感じる。
まるで自分の身体じゃないようだ。
鎧熊の動きが手に取るように分かる…あれほど、苦戦していた鉤爪の速攻に身体が追いつく。
鎧熊の身体に幻竜大剣の一撃が命中する。
鎧の様に固かった鎧熊の強靭な皮膚に初めて大きな斬り傷が付く。
赤黒い血が噴水の様に吹き出し、鎧熊が悲痛の叫びを上げる。
「うぉぉぉおお!!」
ああ…タノシイ
もっと血を寄越せと、幻竜大剣が叫んでいる。
今俺は、どんな表情をしているのだろうか?
師匠には、絶対に見せては行けない…俺の顔はひどく楽しそうに嗤っていた。
鎧熊も負けじと、攻撃を繰り返す。
互いの血潮が、互いに降り掛かる。
斬って。
斬られて。
斬って。
また、斬られて。
聞こえるのは、お互いの咆哮。
鎧熊とジークは、もはやお互いしか見えていない。
彼等の周りにはいつの間にか、多くの観衆が集まっているのさ気付かない。
「るあぁ!」
ジークの放った斬撃が、鎧熊の太い右手を斬り飛ばした。
引き換えに、ジークの右肩は鉤爪の薙ぎによって引き裂かれる。
互いに距離を取る。
誰もが確信した、決着が来る。
ジークは、幻竜大剣を構え眼を閉じる。
その時ーー不思議な事が起こる。
ーー唄が聞こえた。
ーー美しく、儚く、懐かしいような唄が聞こえる。
それは多くの者の耳に響く。
それはまるで、これから旅立つ英雄の出陣を祝うような。
それはまるで、死地より凱旋した英雄へ捧げるような凱歌。
「ーー『劉雄凱歌』…」
「行くぞ… 鎧熊!」
満を持し、ジークが目を見開く。
同時、地面を大きく踏み込んだ。
己の出せる限界を超えた速度で駆ける。
幻竜大剣の剣身より放たれる光が更に大きく膨れ上がる。
危険を察知した鎧熊がジークへ向けて飛び掛かる。
だが…ジークの速度はこの時、鎧熊の速さを大きく上回っていた。
「ーーこの一撃を汝に捧ぐ!
ーー『幻竜大剣』ッ!!」
膨大な魔力を纏った剣が鎧熊目掛けて振り下ろされる。
その圧倒的な質量攻撃によって鎧熊の身体は姿形もなく消え去った。
勝った…ジークは無意識にそう呟き倒れそうになるが、アテナスがその身体を優しく抱き支える。
「よく頑張ったなジーク。」
最後に聞こえたのは、そんな優しい声だった。
この場で観衆達は、確かに目にした。
数日前まで、ーー"最弱英雄"と呼ばれていた少年が己よりも強大な魔物に討ち勝った。
その偉業を…
その勇姿を…
ずっと、馬鹿にし続けて来た自分達の方が馬鹿だったと思わせられるような。
それ程までに、彼の戦いは美しく…格好良かった。
もはや、この場に…もう2度と"彼"と言う一人の少年を…いや、冒険者を馬鹿にする者は居ないだろう。
英雄の卵が、胎動を始めたと。
誰もが、そう確信した。
「君の慧眼は正しかったようだねアルレイヤ…」
「ああ…」
彼女もまた、嬉しそうに微笑んだ。
「み〜つけた♡居るじゃない…私が求めた雄が。」
女神は咲う。
この日ーー"最弱英雄"は"最弱"の名を剥奪した。
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ジーク 性別:男
AGE;15歳
【ランク0】
《ステータス》
筋力:F(98)→E(158)
耐久:E(115)→D(205)
敏捷:E(120)→D(210)
魔力:F(0)
幸運:F(70)→F(100)
《派生ステータス》
根性F、執念F、勇気F
《魔法》
該当なし
《スキル》
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NEW→【■雄凱歌】:効果は不明