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弍話 動き出す歯車

一階層の迷宮ダンジョンで命を助けられた俺は、彼女に礼を言い後にした。


迷宮都市クノソスの街は今日も多くの冒険者や街人で賑わっている。

武器屋、酒場、市場など数多くの店舗が何十、何百も建っている。

ジークは冒険者ギルドに向かう為に街中を歩く。


街を歩く度に、冒険者や街人がジークに注目する。

その理由は、風貌にあるだろう。

彼の容姿は、この迷宮都市では滅多に居ない黒目黒髪の風貌。

エルフやドワーフなどの亜人や純人族の中にも彼の様な容姿は全く居ないので初めて目にする者は必ず彼を見て驚いてしまう。


ただ彼を見慣れている街人や冒険者は、違う。

彼に付けられた名を知らぬ者は殆ど居ないだろう。

"最弱英雄"ジーク。

この迷宮都市に於いては、皮肉にも最も有名と言っても過言ではない。

偉大なる両親や師匠を持ちながらも彼にの才能は一切受け継がれる事がなかった。

冒険者史上初のランク"0"に加えて全てのステータスがFの1と言うある意味伝説を残した15歳の少年。


最弱の英雄。

これが、彼に与えられた称号の真実。

無論、皆からそう呼ばれている事を彼が知らない訳がない。

それでも何も言い返せないのはソレが事実だからだ。

現に自分は、冒険者となってからこの数ヶ月…未だにゴブリンやスライムしか倒せない。

それもギリギリだ、一体ならともかく。

数十体の集団で襲われれば、苦戦は免れられない。


自分の弱さは自分が一番よく分かっている。

自分の情けなさに日々、絶望するだけ。

いつの日にか、憧れは既に諦めた。

今はただ、少ない報酬金でその日を凌ぐだけの日々。

このままずっと、こんな日々を過ごして人生を終えるのだろう。


そう思っていた…筈だった。


今日、あの人に命を救われた事で諦め忘れ去ろうとしていた夢を思い出してしまった。

彼女に言われた言葉がまだ、脳裏に焼き付いて離れない。

そうだ…良いじゃ無いか。

諦めない…いつかこの世界に名を残す最高の冒険者になる為に…

いつの日か、彼女の隣に立てるようなそんな立派な冒険者になって見せる。


明日からも頑張ろう。

不思議とそう思えた。



ーーー


それから暫くして、ようやく冒険者ギルドに辿り着いた。


"冒険者ギルド"

迷宮都市クノソスの中心部に大きく聳え立つ巨大な組織。

迷宮ダンジョンを攻略する冒険者が得た魔石や素材、資源などを鑑定し換金したり、冒険者達から聞き入れた魔物や迷宮の各階層の情報を纏めてサポートする。

冒険者にとって彼らギルドの存在は無くてはならないものであり、ギルドもまた冒険者の存在は非常に大きく無くてはならない。

持ちつ持たれつと言った関係で成り立っている。


そんな冒険者ギルドへと続く扉を開く。


「ジーク君!おかえりなさい!」


そう言ってジークを迎えてくれたのは、この冒険者ギルドで受付嬢として働くミリーナだった。

ジークが冒険者となり数ヶ月、彼が如何なる扱いを受けようと真摯に向き合いサポートしてくれる恩人でもある。


「ただいま。ミリーナさん。」


そして俺は早速、彼女に自分を助けてくれた恩人の情報を聞くことにした。

こんな広場で話し込む訳には行くまいと、ミリーナさんは僕を応接間に案内してくれた。

応接間に入ると、机を挟み対面で座った。

ミリーナさんの側には束になった資料が積まれていた。


その前に、ミリーナさんは迷宮ダンジョンで何があったのかを教えるようにと言ってきた。


「そう…そんな事があったんだね…命があって良かった。君は無茶する癖があるから心配だよ…」


また彼女に心配を掛けてしまった。

彼女がジークの専属受付嬢になって以降、迷宮ダンジョンに潜っては怪我をして帰ってくる彼をミリーナは何度も看病し心配をしてきた。

ミリーナさんには顔が上がらないな。


「それにしても…アルレイヤさんには感謝だね。それでそれで、命を救われた彼女に恋をしちゃったのかな?」

「どう、なんでしょう…ただ一つ言えるなら、憧れですかね…とにかく、彼女の事を知りたい…そしていつか、彼女の隣に立っても恥ずかしく無いような冒険者になりたいんです。」


それはもう恋をしているのでは?と思うミリーナだったが心に留めておく。

それにしても随分と大物の名前が上がった。

彼女は手元にある資料を開く。


「"正義と秩序の剣秤(アストレア)"所属。

アルレイヤ・ウェールズ…年齢は24歳。

現在のランクは7。

その圧倒的な剣才で数々の功績を立て付けられた名は"竜殺し"或いは"神剣王アーサー"9歳の頃に冒険者となりその半年後に史上最年少でランク2に到達。その後も、その持ち前の実力と成長速度でランク6へ至った神童。

こんな所かな?」


改めて知ると凄い経歴だ。

自分とは比べ物にならない程の才能…今こうしている間にも彼女はその実力をどんどんと伸ばして行くのだろう。

やはり、凄いな…そして同時に羨ましい。


「まだ何か聞きたい事ある?」

「いえ、ありがとうございます!それで、迷宮ダンジョンでゴブリンやスライムを狩って得た魔石や素材を換金して欲しいです!」

「おっけー!」


俺は、隣に置いていた皮袋からゴブリンの角や魔石を取り出してミリーナさんに差し出す。

彼女は換金してくるね!と言って応接間を出て行った。

部屋の中はシーンと静まり帰る。


数分後ーー素材と魔石の換金が終わり報酬金が手渡された。

合計で5000ミダス。

今までで一番の稼ぎだ。


「ジーク君。今更、君に言っても無駄だろうけど無茶だけはしないでね?私は本当に君が心配なんだよ…例え他の人が何を言おうと私だけは貴方の味方でいるから!

今は実らなくても、君なら必ず立派な冒険者になれるって信じてる!」

「…!ありがとうございます!」


こんな自分を信じてくれる人がいる。

なら尚更、諦めきれなくなってしまった。

彼女の想いに応える為にも、俺は俺のやり方で最高の冒険者になってみせる。


ーー


冒険者ギルドを後にし、帰路に着く。


早く帰らないと師匠が痺れを切らしてしまう。

今日は結構、稼いだから奮発してしまった。

これからの為に節約もしなければ行けないが、今日は特別って事にしておこう。


道中、師匠の言葉を思い出す。


《冒険者なら格好良さを追求しなくて良い。醜くても良い、憐れでも良い。どんなに惨めでも這いつくばって、必死に足掻けば必ず結果は付いてくる。そうすればお前は最高の冒険者なり、お前が求めたモノは向こうから寄ってくる。

運も、才能も、そして女も…だから足掻け、這いつくばれ…例え多くの者に貶されようとも諦めるな。》


そうだ。

こんな大事な事、どうして忘れていたんだ。

醜くて良い、惨めでも構わない…必死に足掻いて努力して、誰もが認める冒険者になってみせる。


何度目か分からない決意を固めながら歩いていると、師匠と俺が暮らす拠点に辿り着いた。

拠点と言ってもそんな立派なものでは無い。

むしろ、廃墟。


ボロボロに朽ちた扉を開ける。

ギシギシと軋む階段を登る。


「おう、やっと帰ってきたのかジーク!」


部屋の前で仁王立ちで待ち構える人物が居た。

腰辺りまで伸びたヴェーブが掛かった紅い髪に紅瞳。

美しく妖艶な美貌。

口には煙草を咥え、組んだ腕の上には巨大なメロンが二つ乗っている。

露出の激しい衣服。黒ニーハイ。


彼女の名は、アテナス。


俺の師匠でもあり、育ての親でもある。

こんな格好だが元々は実の両親と共に冒険者をやっており、"黄金世代"と呼ばれる伝説の冒険者時代の中心にいた英雄でもある。

そして、俺が所属する"自由なる戦戯団(アテナイ)"のリーダーでもある。


「それでどうして遅かったんだ?」


カンカンに怒っている師匠に今日起きた出来事を報告する。


「ほう。そんな事があったのか…あの小娘に命を救われ、そして惚れたのか?」

「惚れたって胸を張って言えるかと聞かれたら、難しいな…ただ彼女の勇姿に憧れ、見惚れてしまったんだ。そして、忘れかけていた事を思い出させてくれたんだ。」


師匠はそうか。と嬉しそうに微笑む。


「ま、お前が無事ならそれで良い。飯を食べたら、アレをやるぞ。」

「ああ。」


飯を食べたらって、作るのは俺なんだけどな。

今日のメニューは、ポークビッグの丸焼きとニンガリとモシヤの野菜炒め。

師匠は美味そうにポークビッグの丸焼きを頬張る。


暫く食事を楽しみ、例の時間がやってきた。


俺はベッドの上で脚を組み目を閉じる。


師匠は、俺の右手を両手で包み込むつぶやく。


「かの者に、神たる汝の奇跡を示せ。」


その唄に呼応するかのようにジークの身体は淡い光を纏いその背中より数値と文字が浮かび上がる。


================================


ジーク 性別:男

AGE;15歳

【ランク0】

《ステータス》

筋力:F(1)→F(10)

耐久:F(1)→F(8)

敏捷:F(1)→F(15)

魔力:F(0)

幸運:F(1)→F(10)

《派生ステータス》

該当なし

《魔法》

該当なし

《スキル》

【ーーーーーー】・【ーーーー】


================================


ジークのステータスを見てアテナスは驚愕する。

これまで何度も女神の加護ステータスを確認して来たが変化はなかった。

遂に…ジークのステータスに変化が起きている。

たが、彼女が驚いていたのは其処ではない。

《スキル》はこれまで空欄だった…しかし、確かに《スキル》が発現していた。


(ふっ…良かったなジーク…遂にお前の努力が実り出したよ。)


だが、念には念を。


「ジークおめでとう。ステータスに変動があった。」

「ほ、本当だ!魔力以外のステータスが変化してる…!よ、ようやく動き出したんだ…」


自分のステータスが刻まれた羊皮紙を握りしめてジークは涙を流す。


「良かったな…ジーク、明日も早いんだろ?今日はもう寝るんだ。」

「ああ…師匠。貴女が言ってくれた通り、俺頑張るよ。醜く足掻いて、必死に這いつくばって最高の冒険者になってみせる。富も名声も女も!欲しい物は全部手に入れる。俺は俺の欲望のままに。」

「フッ、期待してるぞ。」



ジークが眠りについた事を確認したアテナスはベッドから起き上がり外に出るととある場所に向かう。

其処は誰も寄り付かないような静かな場所。

その中心には、小さく盛り上がった砂山に剣が2本突き刺さっていた。

煙草に火を付け、煙を吐く。


「此処に来るのも久しぶりだな…なぁ、イアソン…メディス。遂にお前達の遺した宝が光を放ち始めたよ…スキルも発現した。

その2つは…聞いた事も見た事もないモノだった…それにアレから色んな手段を使って調べたがやはり見つからなかったよ。

一体、ジークは…()()()なんだろうな…いや違うか。

ジークは紛れもなくお前とメディスの子だな、そして私の子供でもある。」


答えるはずもない墓に向かって彼女は言葉を交わし続ける。

その顔は何処か悲しく淋しそうだった。


「私は、奴がどんな道に進もうとこれからも支え続けるよ。

どんなに醜く惨めであろうとずっと見守り続ける…奴が最高の冒険者になるその日まで…もしジークが女を侍たらメディスは怒るだろうな。

まぁともかく、私から伝えたかったのはそれだけだ。また来るよ。」


一輪の花を墓に添え、彼女は立ち去る。


ジークに発現した《権能スキル》は、二つ。

その二つは、文字化けして読めなかったが交換は辛うじて読めた。


羨嫉の罪■(リ■ァイ■サン)】:己よりも優れた者に憧れや懸想或いは嫉妬や羨望を抱けば抱く程に早熟する。

その効果は、その心が続く限り永遠に持続する。


【■血覚醒】:■の血を受け継いだ者にのみ与えられる権能。その効果は、ーーーーーーーーーーー。

強力な異性特攻。


この2つだ。


全くもって前例のない権能スキルだ。

だが、間違いなくジークに相応しい…不思議とそう思える。

私はただ、ジークを信じる。


お前達と約束したあの日から。

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