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壱話 最弱英雄と迷宮都市

迷宮都市クノソス。


はるか神話の時代、地上に突如として現れた巨大な大穴。

そこには、人智を遥かに超えた魔物や神秘が数多く眠る未知の世界。

"神の加護"と呼ばれる恩恵を授けられた者達は迷宮ダンジョンに身を投じ、まだ見ぬ未知を求めて冒険をする。


現代、冒険者が本格的に職業として確立した事によって迷宮都市ハーデスは数万を超える冒険者で賑わっていた。

数多の冒険者達が己の欲望や信念の為に、迷宮に潜り名声を得る。

迷宮には未だ、人類が解明できない謎が数え切れない程に存在する。

魔物は一体、何の為に存在するのか。

迷宮の階層に存在する神秘的な光景は誰が創り出したのか、はたまた自然の産物なのか。

これまで多くの冒険者が迷宮を幾度となく潜るが、未だ迷宮の全貌は計り知れない。

彼等は皆。

未踏の迷宮を攻略する為に、冒険者達は日々命を賭して潜り続ける。


そんな冒険者の中でも、特に戦績や功績を上げた選ばれし者は意図せずとも迷宮都市クノソスでは必ず全ての者達の間で憧れられ、噂される。

だが、現実はそんな甘いようで酷く厳しいものでもある。

"光"を浴びる者が居れば勿論、その逆"闇"を浴びる者も居る。


"彼"は、ある意味ならばこの迷宮都市で最も有名なのかも知れない。

無論、それは彼の本意ではない…寧ろ、憧れよりも程遠いソレは彼にとってこれ以上表しようのない屈辱でもあるだろう。


迷宮都市の冒険者の中でも、誰が一番強いのか?

その候補に上がるのは、意外にも多く存在する。

例えば、かの美しく気高き"愛美神"と呼ばれる女神が誇る使徒"美神の至宝"

例えば、誰よりも誇り高く誰よりも正義に忠実な彼女が愛する使徒"神剣王"

或いは、誰よりも胡散臭く誰よりも他者を信じない男が唯一信頼する使徒"狂浪王"

或いは、誰よりも鍛治に優れ誰よりも情熱に燃えた彼女が信ずる"単眼巨匠"に"神速の戦車"

などなど、上げ出したらキリがない。


その一方で…迷宮都市の冒険者で誰が一番弱いのか?

その候補に上がるのは、満場一致でこの名が上がる。

ジーク。

彼は、凡ゆる意味で有名だ。


まず、彼の両親は冒険者だった。

"黄金世代"と呼ばれる伝説の時代で歴代最強と謳われた実力の持ち主で、数々の偉業を成して来た傑物。

そして、彼の師匠はそんな両親と共に数々の死線を潜ってきた最強の冒険者の一人であり生き残り。

そんな、大英雄達の息子であり弟子である彼の未来は約束されているだろう…そう誰もが思っていた。


しかし、現実は空想よりも厳しいものだった。

彼には、そんな大英雄達の様な才覚は一切なかった。

冒険者ならば誰しもが持つ"神の加護ステータス"は全てが1。

更には、"権能スキル"すら持っていなかった。

迷宮に潜れば、1階層の中でも最弱であるゴブリンにすら敵わない。


惨めで憐れな彼に与えられた称号はーー"最弱英雄"


そんな不名誉であり屈辱的な名を与えられながらも、彼は今日もまた迷宮ダンジョンに潜り続けていた。



ーー


「はあっ、はあっ、はあっ!?」


広い洞窟内を一人の人物が息を切らしながら駆け抜ける。

その顔は、恐怖に染まり。

身体中をガクガクと震わせながら、何かから逃げるようにして走る。

小石に躓き、体勢を崩しながら必死に。


ズン、ズンズン!

と、轟音が必死に逃げる人物を追うようにして迫ってくる。

ソレは、洞窟内の全てを破壊しながら凄まじい速度で疾る。

荒々しい鼻息と雄叫びを上げながら必死に獲物を追う。


「くそ、くそっ!」


何故、こんな1階層にあんな怪物が存在しているんだ!?

とにかく、早く逃げなければ…今の俺では、手も足も出ずに瞬殺される。

背後をチラッと確認する…ヤツはすぐ目の前まで迫っている。


全力疾走。

しかし、小石に躓く。

しまった…そう思った時には既に身体は横たわっていた。

慌てて背後を振り返る、もう既に遅い。


「ギャルぃさぁあー!」


頭に生えた二本の角。

3メートルを超える体躯。

巨大な手足に鋭い鉤爪。

鋭利な尻尾。


その怪物の名は、地鬼竜(アスドモス)


普段ならば、第七階層より上に出現する凶暴な魔物。

その巨大な手足に備わった鉤爪と刃のような尻尾を自由自在に操り獲物の命を奪う。

ランク1の上位冒険者でも油断すれば容易く命を落としてしまう。


そんな化け物が、ゴブリンやスライムしか出現しない一階層を駆け回ってる事自体が異常なのだ。

一階層全体を震わせる程の咆哮が響き渡る。

その余りの迫力と殺意に気圧され、腰を抜かしてしまう。


ここまでか…これでも結構、頑張って来たんだけどな。

結局、その努力は無駄だった…何を為せなかった。

名も顔も知らない偉大な父や母、自分を信じ支えて来てくれた師匠に報いたかった。

最弱英雄と蔑まされ見下してきた奴等を見返してやりたい…そう思ってこれまで頑張ってきた。

なのに、世界は何処までも残酷だ。


俺の命も夢も野望も此処で潰える。


アスドモスの巨大な鉤爪が、俺の首目掛けて振り下ろされる。

スパッと言う音と共に、大量の血飛沫が飛び散り魔物の両腕が宙を舞う。


何が、起こった?


何が起きたのか理解出来なかった…ただ分かるのは、あれほど俺を殺せる事を愉しそうにしていた魔物が両手を失い悶え苦しんでいる状況だけ。


「終わりだ。」


そんな、言葉と共に魔物が一瞬で斬り刻まれる。

ドスンと音を立てて地面に倒れ、消滅する。


そして、一人の人物が俺の前に立っていた。


「大丈夫か少年。」


美しく、低い声が聞こえる。

顔を上げる。

俺を救った人物の全貌が顕になる。


それは何処までも妖艶で端麗な雰囲気を醸し出す女性。

白を基調とした軍帽を深く被っても尚、隠しきれない美貌。

顔は綺麗で凛々しく、正に美人。銀髪銀眼。

白を基調とした軍服の上着、短いミニスカートに黒タイツ。

白の手袋。

大きく膨らんだ胸。スラリとした身体。


とても美しい…自然とそう思った。


手を差し伸べられたのにも関わらず、俺は少しの間その場から動く事が出来なかった。

きっと、見惚れてしまったんだと思う。


それと同時に、自分がどうしようもなく嫌になる。


俺は、彼女を知っている。


いや、この迷宮都市なら知らない者は居ないだろう。


選ばれし者…羨ましい。


俺に、彼女の様な力が有ればどんなに良かっただろうか…と。

醜い負の感情が、溢れ出てしまう。

ほんと、自分が嫌になる。


目の前で自分よりも遥かに光り輝く"才能"に嫉妬してしまう…同時に好意や憧憬の想いが溢れ出る。


いや、今はただ助けられた事に感謝しなければ。


「立てるか少年。」

「はい…ありがとうございます。」


これが、俺と彼女の初めての出会いだった。


今思えば、この出会いこそが俺の人生の出発点だったのかも知れない…

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