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十四話 ある少女の人生

《ある少女の独白》


私は臆病者だ。


私は無力だ。


彼等の差し伸べた手が悪意に満ち溢れていることさえ気付かずに手を取り、悪意に翻弄された愚者だ。

母を目の前で奪われ、父を殺した張本人に騙された。

生きる為に、少しでも自分が痛い思いをしない為にそれが悪だと分かっていても私は従った。


彼等の指示のままに、右も左も分からない新人冒険者に荷物持ちとして雇ってもらい人気のないポイントまで誘導して彼等の餌食にする。

邪魔だと判断した他のパーティーに偽の情報を流し、魔物の群れを襲わせて排除する。


騙し易いようにと彼等が闇取引で手にした、身体を成人前に巻き戻す薬を使って。


そんな、非人道的な行為を私は何度も何度もやって来た。


心の中で勝手に贖罪し、心を無にして実行した。


それでも付き纏う、彼等の怨みの聲。


私は間違っていない。


そう思わないと心がおかしくなってしまいそうな日々を私は過ごしている。

いつか、この地獄の日々から救い出してくれる英雄が現れる事を信じて。


最近、無法都市で悪虐の限りを尽くしていたニュクス・パーティーが迷宮都市の冒険者連合によって壊滅させられたと私達のリーダーが話していたのを聞いた。


私達の神であるネメシス様は、神罰を受けたニュクスの娘に当たる存在。

当然、その事に酷く憤怒し私達への当たりも強くなった。

そして、これまで以上にその悪意が大きくもなった。


この調子で続けば、私達の悪虐はいずれ他の冒険者達の間に漏れニュクス・パーティーと同じ運命を辿ってしまうだろう。

そうなれば、私に待っているのは"死"…死を免れても、奴隷堕ちが良いところだろう。

そんなの、ごめんだ。


自分で言うのもなんだが、私はかなりの上玉だ。

身体が幼くなったと言っても、胸は平均より大きく、体付きは幼児とは思えない程に発達している。

顔も、整っている。

何せ、半分とはいえエルフの血が入っているのだから。

そしてオマケに、処女。


奴隷堕ちとなった場合、私は汚い権力者に買われ死ぬまで性奴隷として使われるのだろう。


いや、私にはお似合いの末路なのかも知れない。


「おい、ーーー!仕事だぞ。」


そして今日も、私に仕事が舞い込んできた。


仕事と言ってもただの仕事ではない。


迷宮へと続く巨大な門タルタロスで、獲物にちょうど良さそうな冒険者を選別する仕事だ。

私達もただ無闇に人を騙している訳ではない、彼等は慎重に観察し最も奪いやすそうな冒険者を見定める事から始めるのだ。


そして私の仕事は、彼等が狙いを定めた冒険者と接触を測る事だ。

偶然を装い、獲物の元に現れ何かしらの役割を担ってパーティーに溶け込む。

ある程度の信頼関係を得た丁度いい頃合いを見計らって、彼等の武器や貴重品を奪い逃げる。


自慢でも何でもないが、私はこの仕事を失敗した事は一度もない。

だから、今回も同じようにやれば良いだけ…


私達、義憤に導かれし者(ネメシス・パーティー)のリーダーであるスミュルより今回の標的が書かれた紙を手渡される。


「これは…」


その標的を見て、私は失礼にも楽な仕事だと思ってしまった。



ーー


「よし、行くぞ!」


迷宮ダンジョンへと続く大穴を覆う巨大な門タルタロスの前でジークは深呼吸をして気合いを入れる。

3日振りの迷宮ダンジョン探索に少しばかり緊張している。


新たに仲間に加わったディオメデスは、先日の一件をただ無罪放免になった訳ではない。

数週間の迷宮ダンジョン探索の禁止を命じられているので、今回はいつも通りジーク一人で向かう。


タルタロスの広場には、多くの冒険者で賑わっている。

此処は、早朝でもお構いなしに冒険者が出入りを繰り返している。


さっそく、迷宮に潜ろうと歩みを進めると目の前に一人の少女が門の前で立ち尽くしている姿が見えた。


どうしたんだろう?

そんな疑問を思い浮かべながら、声を掛ける。


「あの、どうしたんですか?」


少女は、振り返った。


鼠色のゆるふわヘアにクリクリとした瞳。

可愛らしいオーバーオール型の鎧、背中には大きな荷物袋。

少女とはお前ない程の、身体付きに驚いてしまう。

なんといっても、綺麗で整いすぎた美貌。


可愛らしさも残った顔立ちは、やはり幼い少女なのだろう。

歳的には、ジークよりももう少し歳下だと推測出来る。

こんな成人にも満たない少女が何故、こんな所にいるのだろうか。


「あ、えっと、その…私を荷物持ちとして雇ってくれる冒険者さんを探しているのです…」

「なるほど…」


ジークは少し考える。

荷物持ちか…今まで一人で、倒した魔物の素材などを回収していた事に慣れていて忘れていたが…荷物持ちが居てくれれば、荷物を預けられるし、回収に取る時間を短縮できる。

それに、今回ばかりの雇用なら問題ないはずだ。


「なら、俺が雇うよ。」

「本当ですか!?」


少女は、キラキラした瞳で此方を見てくる。


「うん、よろしく頼むよ。」

「はい!よろしくお願いします!」


ーー


それにしても、2人で潜る迷宮ダンジョンは初めてだな。

ディオメデスさんが謹慎解除を解かれるまでは一人で迷宮探索のつもりだったけど…


「はぁ!」


剣を横に薙ぎ、コボルトの首を刎ねる。


迷宮に潜ってから数時間。

探索は順調に進み3階層まで辿り着くことが出来た。

あの日からステータスは徐々に上がり続け、1階層から2階層はもう苦戦すらせずに突破できる。

ランクは0のままだが、ゴブリンやスライムはもう相手ではない。


それに、荷物持ちをしてくれるペネロペさんのお陰で素材を自分で回収する必要がないので効率も跳ね上がる。

結果的に彼女を雇ったのは正解だった。

このまま、アテナス・パーティーのメンバーになってくれないかな。


「ジークさん。まだ、探索を続けますか?」

「そろそろ、帰りましょう。」


怪我は治ったとはいえ、あまり無茶するのも良くないと2人に言われたし。

素材も充分に回収できたから退散でいいだろう。

2人の夕ご飯の買い物もあるからな。


そんなこんなで帰路に着く。


ギルドに訪れて、魔物の素材を換金した。


「それじゃ、また機会があったら宜しくお願いします。」

「こちらこそ、ありがとうございます!私を雇って下さって嬉しかったです!」


そんな感じで、俺達は解散した。


ーー


ある裏路地では、数人の男女が何やら話し合いを行っていた。

その中には、ジークが荷物持ちとして雇った少女ペネロペの姿もあった。


「それで、どうだった?」

「はい。やはり、チョロいですね。あと数回程、一緒に探索をすれば完全に信用を得られると思います。」


そう言って笑ってみせる彼女の笑みは、何処か苦しそうだった。

それもそうだろう、彼女は好き好んでこんな仕事をしている訳ではない。

生きる為に、自分の身を守る為にやっている。


たった数時間、共に探索をしただけだが彼の人柄はとても穏やかで一緒にいて落ち着けた。

そんな彼を騙す事になるのは、少しだけ心が痛く苦しい。

これまで騙して来たどんな人よりもそう感じる。


「そういやぁ、あの小僧とあの女神の所にもう一人メンバーが加入したとか言ってたな。」

「ああ、そうそう。名前は忘れちまったが、まぁいいだろう。いちいち、騙され殺される奴等の名前なんざ覚える必要もねぇさ。」


外道が…と、心の中で吐き捨てる。

まぁ、人の事は言えないのだが…


「今回は凄惨に行こうぜ、例えば…」

「ああ、良いじゃねぇか。」

「その話、私も混ぜてくれるかしらぁ。」


ふと、誰も居ないはずの通路から一人の人物が現れた。

ローブを深く来ている為、顔は確認できないが…


「私から提案があるのだけれど…」


女が、話し始める。


「そいつは面白そうだ。乗ってやるよ。」


リーダーであるスミュルが悪辣な笑みを浮かべて、そう言った。


「うふふ、なら当日の事は貴方達に任せるわね?しくじったら…わかってるわね?」


ズン。と、空気が重くのしかかる。

その場にいた誰もが理解した、失敗したら"死"が待っていると。


「ああ、任せな。」


その言葉を背を向けて聞いた女は、遥か闇へと消えていった。


結局、私達はすぐに解散した。


帰路に着く途中、チャイナドレス風のメイド服を来た女性とすれ違った。


「待て。」


低く敵意の籠った声で、呼び止められる。


「今朝、貴女はジークと共に居ましたね…何が目的で近付いた?」

「な、なんの事でしょうか?」


らしくない、動揺してしまった。


「とぼけなくていい。義憤に導かれし者(ネメシス・パーティー)の拠点から出入りする貴女を見掛けた覚えがある。」

「人、違いーー「2度目はない。次、またそのような真似をしたら命は無いと思え。目的はなんだ?答えによっては、殺す。」

「そ、それは…「あれ?アタランテさんにペネロペさん?こんな所でどうしたんですか?」


その聞き覚えのある声に、奇しくも二人同時に振り向く。


そこには、買い物終わりだと思われるジークが立っていた。

それよりも、今彼はこの女の事をアタランテと呼んだ?

まさか、、、いや、ありえないか。


「ジークさん、彼女がどんな人物かわかって雇ったのですか?彼女はーー「やめて!!?」


無意識に、声が出てしまった。

何故、分からない…いや、わかっている。

知られたくなかったのだ、私が行って来た悪行をこれから彼に行う悪行を…


「ペネロペさん?」

「ごめんなさい!」


この場に居るのが苦しくて、慌てて駆け出していた。


「行っちゃった。」

「ジークさん、警告しておきます。これ以上、彼女と一緒に居るのはやめなさい。」

「警告ありがとうございます。でも、僕は彼女を信じているので。」

「そう、ですか…」

「では、これで!」


ジークはぺこりと頭を下げて、その場を後にした。


「……信じる、か。……………………………下らない。」

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