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十一話 神速の戦車

「オラオラ!どうした、歯応えねぇなぁ!」


無法都市の中心部に響き渡る怒号と破壊音。

一人、いや1匹の竜が無法都市で暴れ回る。

邪神派閥と迷宮都市の冒険者達による紛争。


アストレア・パーティーとアレス・パーティーの精鋭達で構成された部隊による圧倒的な制圧力に邪神派閥それぞれの使徒達はまるで赤子のように捕縛され或いは成敗される。


「イレアナ!前に出過ぎだ!」


そんな制圧戦で一人、暴走する竜人。

彼女はいつにまして荒れていた。

その原因は、数日前。


ある祭りで起きた魔物脱走事件の話だ。

逃げ出した鎧熊を仕留めた功労者。

以前、己が馬鹿にしたあの最弱英雄が、自分よりも遥かに強い魔物を撃ち倒した。


自分よりも弱い雑魚が、その屈辱の泥を洗い落としてみせた。

腹が立つ。

これじゃあ、あの酒場で馬鹿にしていた俺様が道化じゃねぇか。


雑魚に殴られた頬、あの時は痛くも痒くもなかった。

なのに、今になって響く鈍痛。

ああ、腹が立つ。


アイツらも毎日の様に、酒の席で話しやがる。

面白愉快に、英雄譚の様に話す。

何が英雄だ…あんなの、ただの通過点に過ぎない。

冒険者なら、誰しもが通る困難だ。

それなのに何故、俺もアイツらの様に心が踊った?


気に入らねぇ…弱者は、弱者のまま野垂れ死ぬ。

それが、世界によって定められた宿命だ。

だが、ごく稀にその定めから逃れ殻を破る例外もある。

アイツのように…。


これは単なる八つ当たりだ。

嫉妬だ。

俺様が憧れた景色を、アイツ《雑魚》が見た。

俺が知らない感情を、アイツ《雑魚》が体験した。

本当にくだらない、嫉妬心だ。


否定するつもりはない。

むしろ肯定しよう。

それでも、この感情はしまえない。


だから、俺様の憂さ晴らしに付き合ってもらう。


「喜べカスども。この俺様の憂さ晴らしの相手になれんだからよ!」


イレアナの両腕が変形する。

竜の鉤爪が、有象無象に向かって振り下ろされる。

一方的な、殺戮。


「あぁ?」


ふと、イレアナが異様な気配を察知し立ち止まる。

視線の先には、巨大な塊がいた。


三つの腕鋏。

漆黒の体躯。

2つに別れた尻尾。


巨大な蠍が、雄叫びをあげる。


「んだぁコイツは?ニュクスの野郎、こんなもん飼ってたのか?」


「イレアナ前に出過ぎだ、、、コレは!」


追い付いたアストレアのメンバー達が驚いた様子で目を見開く。


その蠍は一体ではない。

深い闇奥より無限に湧き上がる巨大な蠍の群れ。

その数は、計り知れない。

おそらく、先の見えない闇夜にも潜んでいるのだろう。


「やっと楽しめそうな相手が来やがったなぁ!!」


だから、彼女は吠える。

己の未熟さに。

己の弱さに。

怒りのままに魔物を蹂躙する。

殺戮する。



ーー


もう一方、ニュクス拠点の大広場ではアキレウスがたった一人で敵を制圧していた。

縦横無尽に駆け回る彗星の化身が、止まることなく目の前の敵を轢き潰していく。

その夙すぎるアキレウスの姿は見えず、唯一あるのは地面や崩壊した建物に残る轍の跡。


必死に迎撃しようと試みるも、その高速をゆうに超える神速の戦車には決して当たらない。

いや、反撃すら不可能だ。


彼が一度、奔り出せば全ての敵を轢き殺すまで止まることはない。

ただの疾走は、それだけで万物を粉砕する彗星。

神速の速度から放たれる槍は、ただ一突きで流星群へと成り替わる。


有象無象が幾ら、彼に群がろうとソレを止めれる者は唯の一人も居ない。


アキレウスに命じられた事は、ただ一つ。


仲間《家族》を殺した敵《ニュクス達》を蹂躙する事のみ。

奴らが背を向けようと。

許しを乞おうと。

決して、その歩みは止めない。


無感情に、無慈悲に。

己は、心を持たぬ女神の戦車たらんと。


刹那、一筋の黄金の光が空を飛来する。


凄まじい速度で彗星アキレウス目掛けて放たれた黄金の光が彗星の動きを確かに止めた。

黄金の光を打ち払い、アキレウスは地に着陸し目を注ぐ。

己を止めた何者かに向けて、槍の穂先を向ける。


「何者だ。」


その声と共に、黄金の光の正体が建物の扉から姿を表した。


暗闇でも目立つ赤茶色のミディアムヘアの髪。

顔と身体に装着された、灼熱を彷彿とさせるメカニックな黄金鎧と黄金の槍。

顔は隠れても、その身体から成る二つの立派な山。

背丈は高く、推定190cmの大柄な女性。


他の有象無象とは違う、明確な強者。

兜から覗く瞳は、闇に光って此方を睨む。


「お前は…」


アキレウスは、目の前に現れた予想外の人物に少し驚いた様子を見せる。


「ーー赤星鎧槍(シリウス)。」


そう呼ばれた女は、静かに黄金の槍を構える。


「チッ!」


おそらく今の彼女には言葉を掛けても聞き届くまい。

そう判断したアキレウスは、自身も槍を構える。

"赤星鎧槍(シリウス)"ディオメデス…冒険者ギルドの調査によるとランクは1と記載されている。

が、それはニュクスによる虚偽申告である可能性が高く高く見積もって4、低く見積もって3はあると仮定するべきだ。


こうなった以上、実力行使で説得する。


素早く勝負を決めなければ、ジークが危ない。


そして、ディオメデスが地面を大きく蹴り勝負を仕掛ける。


「穿てーー黄金の槍(グラウコス)


黄金の槍が光を放つ。

鍛え抜かれた腕力から放たれる槍の刺突は、光速の速さでアキレウスに向けて穿たれる。

が、アキレウスには届かない。


()()()()では、彼には届かない。

が、その槍は初めてアキレウスの顔に擦り傷を付ける。

彼女としては殺すつもりで放った一撃。

しかし、アキレウスにとっては容易い一撃。


刺突の応酬を軽々と躱し、神速には微かに届かない速度で彼女の腹部へ蹴りを放つ。

ディオメデスは辛うじて槍の腹で蹴りを防ぐが、あり得ない速度から放たれた蹴りによって生じた衝撃は鋭く重い。


190を超える巨体はいとも簡単に後方へと吹き飛ばされる。


アキレウスの追撃。


彗星の如く、建物から建物を駆け回る。

目で追う隙もなく、彗星がディオメデスへと降り注ぐ。


「ッ!」


かつて、ここまで自分が手も足も出なかった相手は居ただろうか。

いや、居ない。

これは最早、戦いですらない。


わたしは、負ける。


ならばせめて、一矢報いる。


地を踏みつけ、地面を隆起させる。


彼の進行方向を制限し、速度を少し殺させる。


そのまま後方へと下がり、部下でも仲間でもないニュクスの駒達を囮にする。


「ーー私は此処に、赤星の鎧(シリウス)黄金の槍(グラウコス)!汝らの姿を解放する

ーー我が奪いしは 都市すら滅ぼす守護神像(パラディオン) 神々を護りし汝は、我が手によって破滅と絶望へと成り替わる。

ーー破城、その導火が散り行く時 その神威をも穿つ槍となれ! ーー『破城の女像よ(パラディオン)神をも穿て(グラウコス)』!」


彼女の纏った鎧が槍が変形し、巨大な大砲が彼女の腕に装着される。

凄まじい力の奔流と共に、大砲より全てを穿ち滅ぼすビーム砲が放出される。


彼女の立っている地面は大きく抉ぐれ、瓦礫が粉微塵となって台風を起こす。

荒々しい轟音を立てて、あらゆるものを呑み込みながらアキレウスへと襲い掛かる。


「馬鹿野郎…

ーー我が神愛なる戦車ともよ 此処に顕現せよ!

ーー不死なる神馬(バリオス) 不死たる神馬(クサントス) 都市壊しの駿馬(ペーダソス)!」


アキレウスの呼び掛けに応えるように、3匹の神々しく荒々しい馬が一つの牛車を引き現れる。

アキレウスが、その牛車へ脚を踏み入れる。


「「「ぶるぉぉおお!」」」


3馬が咆哮を上げ、奔り出す。


高速、否。

光速、否。


それは、世界すら置き去りにする神速となりて。


魔法と成す。


「ーーさぁ、征くぞ 

  ーー数多を蹂躙し 数多を轢き潰し 数多を擦り潰し、駆け抜けろ

ーー止まることなく、四肢が砕け 頭が潰れようと この命が尽きるその時まで

 ーー我等の體は流星 我らの命は彗星の如く!

ーー『不死戦車、(アウトメド)彗星の如く(トロイアス)』」


ただ、奔る。


あらゆる全てを蹂躙し、本能のままに奔る。


音を、世界をも置き去りにして。


神速の戦車すいせいは、その凄まじい勢いのままディオメデスの魔法へと突撃する。


豪快な音と衝撃波。


砂埃が散り、そこには無傷で倒れているディオメデスを見下すアキレウス。


「頭ぁ、冷えたか?」

「ああ…冷えすぎる程にな。」

「なら急いで拠点に戻りな、アンタの大切な仲間が死ぬ前にな。」

「?…っ!?」


最初は言葉の意味を理解出来なかった彼女だが、何かに気付き起き上がる。


「まさか、居るのか?」


アキレウスは、それ以上語らなかった。


彼女は、駆け出した。


彼を、救う為に

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